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3. 内航行船舶に関する環境基準・政策
 フィリピンは、約1万8,000キロメートルの海岸線を有し、マングローブ、サンゴ礁、魚の産卵場所、漁獲資源、沿岸の農業、海上公園及び保護地等、貴重な海や沿岸の資源が豊かであるが、これらは環境被害を受けやすい。沿岸地域の地域住民が必要とする開発もあるが、フィリピンは石油等エネルギー資源の重要な航路となっており、中東、東アジアと米国間を移動する船舶航行量が多く、これが天然資源の更なる破壊につながっている。韓国に輸入される大半の石油と同様、日本が輸入している石油の90%以上がこの地域を経由して輸送されている。また同国の海域は、中東から米国東海岸まで石油を輸送するタンカーの4つの代替ルートの内の1つとなっている。
 
 さらに、群島の数多くの港が新たな航路と結ばれ、国内の複合一貫輸送が改善されたことにより、国内の海域を航行する船舶数が増え、その結果、海運量が増加した。これは生産場所から市場へと製品が安全かつ効率的に輸送されることを示す一方、船舶による海洋汚染のリスクが増えたことを意味する。
 
 国内外からこれまで重大な海洋汚染事件は報告されていないものの、船舶による石油や他の危険物の輸送によって海洋汚染が引き起こされる可能性はあり、警戒していく必要がある。
 
3-1 海洋環境保全に関する法制度
 上述のように、フィリピンでは、船舶による海洋汚染の可能性を抑制、管理、緩和が急務である。フィリピン政府は海洋環境保全方針の礎石として、以下の法律を発表した。
 
(1)1974年大統領令600号
・表題:
1974年海洋汚染防止法令
・方針の内容:
人間の健康を害し、生物資源や海中生物を破壊、公共施設を破損、またはフィリピンの領有支配権内における海の合法的な用途を妨げる廃物等の投棄による海洋汚染を抑制、規制するもの。
・禁止項目:
(a)可航水域における廃物の廃棄−船舶、バージまたはその他の浮き船、岸、波止場、生産工場、あるいはいかなる種の工場からも、街路や下水道を流れ出て液体の状態で可航水域に流れ出たり、同じ形態で支流を可航水域まで浮きながら流されたり洗い流されるものを除き、あらゆる廃物の投げ捨て、排出、廃棄を禁止する。
(b)石油及びその他物質の廃棄禁止−いかなる人物も、フィリピン領海及び陸水において、いかなる方法、手段または方式によって石油、有害な液体物質、及び他の有害物質の廃棄したり、廃棄を許可してはならない。
(c)石油流出の責任と義務−船舶から誤ってまたは他の理由で石油あるいは油性混合物を排出した場合、船舶責任者は報告義務がある。報告を怠った場合には、罰金及び/または禁固刑に処せられるものとする。また、本規定は「汚染者負担」の原則を明確にするものである。
・特徴:
(a)規則−船舶の設計及び装置、送油手順、送油、伝達要件、送油の監視、装置の試験及び点検を含め、フィリピン沿岸警備隊の司令官が本法令遵守のための規則を定めることを認可し、その権限を付与する。
(b)拡散防止と回収システム−フィリピン沿岸警備隊は、陸水及び公海における流出油の拡散防止及び回収のための適切な設備を整備するものとする。
(2)1974年大統領令602号
・表題:
国家石油汚染指令センター(NOCOP)法令
・方針の内容:
石油汚染管理における中心的な連絡先としてフィリピン沿岸警備隊内に国家石油汚染指令センター(NOCOP)を設立することにより、その機能を高める。
・特徴:
(a)政府機関からの支援−同センターは人的資源、施設、その他の資源を必要とする場合には、同国政府の各部、局、事務所、あるいは政府機関に対し支援を要請することができる。
(b)直接交渉−フィリピン沿岸警備隊は、石油汚染浄化のため流出した石油の拡散防止及び回収設備を保有する現地会社と直接交渉を行うことができる。
(c)ASEAN連絡先−同センターは、ASEAN加盟国の同等の国家指令センターとの連絡先として機能し、石油汚染があった場合にはその拡大を防止するため、必要に応じてこれらの国々に対し直ちに支援要請を行うものとする。同センターはASEAN加盟国から支援要請があった場合には、同様にこれに応じるものとする。
(3)1976年大統領令979号
・表題:
1976年海洋汚染法令
・方針の声明:
人間の健康を害し、生物資源や海中生物を破壊、公共施設を破損、またはフィリピンの領有支配権内における海の合法的な用途を妨げる廃物等の廃棄による海洋汚染を防ぎ、規制するための国策を布告する。
・特徴:
(a)国家公害規制委員会の設立−フィリピン沿岸警備隊との協議に基づき、海洋汚染の規制に関する国策を発布することを、国家公害規制委員会の責務とする。
 
3-2 海洋環境保全に関する規則
 大統領令600号に従い、フィリピン沿岸警備隊は通達を発行し、船舶や他の原因による海洋汚染防止のための規則を定めるものとする。これらの通達の主たる根拠は、国際海事機構(IMO)によって発布された国際条例及び規約、特に1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書(MARPOL73/78)や、1974年の海上における人命の安全のための国際条例(SOLAS74)に含まれる関連の条項であるものとする。
 
 以下は本規則の一部である。
 
(1)1980年通達 02-80号
・題目:
油水分離器、流出油の拡散防止、回収、油処理剤散布装置、及び流出油処理剤の認可
・主旨:
(a)流出油処理剤、流出油の拡散防止、回収、油処理剤散布装置、油水分離器の認可手順及びその費用と、これに関する刑罰を定める。
(b)1,000GTの船舶及びオイルターミナルに設置された油水分離器や、船上、精油所、補給処に装備された流出油処理剤、すべての精油所及び主要な石油積載港に設置された流出油の拡散防止、回収、及び油処理剤散布装置が、フィリピン沿岸警備隊の定める基準の必要条件を満たすこと。
・適用範囲:
本通達は以下の認可申請を全て網羅する。
(a)1,000GT以上の船舶及び石油及び汚れた底荷の廃棄が行われるオイルターミナルには油水分離器を設置する。
(b)自航式バージ、タンカー、潮流で走るはしけ舟の引船や、製油所及び補給所には流出油処理剤装を装備する、及び
(c)精油所及び主要な石油積載港には流出油の拡散防止、回収、油処理剤散布装置を装備する。
(2)1985年通達 05-85号
・題目:
フィリピンの登録船舶に対する国際石油汚染防止証明書の発行
・主旨:
フィリピンの登録船舶に対する国際石油汚染防止証明書(IOPPC)発行の手順を定める。
・適用範囲:
本通達は、400GTの石油タンカーを除く、全ての150GT以上の石油タンカーに適用される。
(3)1991年通達 02-91号
・題目:
ごみ及び他の有害物質の海洋投棄と廃棄
・主旨:
人間の健康を害し、生物資源や海中生物を破壊、公共施設を破損、またはフィリピンの領有支配権内における海の合法的な用途を妨げる廃棄による海洋汚染を防ぐための、ごみ及び他の有害物質の投棄に関する手順及び方針を定める。
・適用範囲:
本通達は、フィリピン共和国の領有支配権内における河川、河口域、河口、廃物、パイプラインヘ、ごみ等を投棄、廃棄することにより、海洋汚染を引き起こし得るすべての石油会社、精油所、ターミナル、補給処、船、バージ、浚渫船、及びその他の施設に適用される。
・特徴:
海洋投入処分海域は通常、全8箇所のPCG管轄地区より最も近い陸地から25海里とする。
(4)1993年通達 04-93号
・題目:
フィリピン登録船舶のための船舶石油汚染防止緊急対策
・主旨:
本通達は大統領令第979号に従い、MARPOL 73/78の付属書類Iの26条で明確に説明されている通り、船舶石油汚染防止緊急対策(SOPEP)構築のための施行ガイドラインを提供する。
・適用範囲:
本通達は、400GT以上の石油タンカーを除く、全ての150GT以上の石油タンカーに適用される。
(5)1994年通達 01-94号
・表題:
船舶からの汚物投棄による汚染防止及び、フィリピン登録船舶のための国際下水汚染防止(ISSP)証明書の発行
・主旨:
本通達は大統領令第979号に従い、MARPOL 73/78の付属書類IVの26条で明確に説明されている通り、船舶からの汚物投棄による汚染防止のための施行ガイドラインを提供する。
・適用範囲:
本通達は、以下に適用される。
(a)200GT以上の船舶、及び
(b)50人以上の乗客の輸送が認められている200GT未満の船舶
・方針:
以下の場合を除き、すべての領海における下水の排出を禁止する。
(a)粉砕した消毒/処理済み下水を、最も近い海岸線から5海里以上離れた場所で排出する場合、または、未粉砕、未消毒/未処理の下水を海岸線から12海里以上離れた場所で排出する場合。ただし、いずれの場合にも、汚物集合タンクに貯蔵された下水を同時に排出しないものとし、船の速力が4ノット以上で航行している際に、適度な流量にて排出するものとする。
(b)船舶が承認済みの汚水処理装置を有しており、排水の中に目に見える固体が浮かんだり、周辺の海水に変色を引き起こさないこと。
(6)1994年通達 02-94号
・表題:
船舶からのごみの廃棄による汚染の防止
・主旨:
本通達は大統領令第979号に従い、MARPOL 73/78の付属書類Vで明確に説明されている通り、船舶からのごみの廃棄による汚染防止のための施行ガイドラインを提供する。
・禁止項目の概要:
 
フィリピンの湖、川、湾、入り江、海岸から3海里 3〜12海里 12〜25海里 25海里以上の沖合
違法投棄 違法投棄 違法投棄 違法投棄
プラスチック、ゴミ、紙、金属、ぼろ切れ、瀬戸物、ガラス、荷敷、食品。 水に浮くプラスチック、荷敷、内張り及び包装材料。また砕かれておらず1インチ以上のもの。紙、瀬戸物、ぼろ切れ、金属、ガラス、食品。 水に浮くプラスチック、荷敷、内張り及び包装材料。 プラスチック及びこれと同様のもの。
 
(7)1994年通達 03-94号
・表題:
海洋汚染の防止、拡散防止、除去、及び管理
・主旨:
本通達は大統領令第979号に従い、MARPOL 73/78で明確に説明されている通り、施行ガイドラインを提供する。
・方針:
いかなる船舶も人物も以下を行うことは不法である。
(a)残油と混ぜ合わせたりスロップタンクに送油された場合、石油あるいは油と水の混合物を石油タンカーの機関室のビルジから廃棄すること。
(b)石油タンカーの貨物ポンプ室のビルジから廃棄すること。
(c)特別地域で、船舶あるいはタンカーから石油または油と水の混合物を海に廃棄すること。
(d)環境管理局(EMB)による別段の規定がない限り、可燃性のゴミあるいは固形物の焼却は、許可及び奨励されている。指定された特別地域を除き、焼却炉からの固形廃棄物の海への廃棄は認められる。
 
3-3 国家石油流出緊急時対策
(1)緊急時対策の適用範囲と主旨
 緊急時対策の主旨は、石油流出事件が発生した際に、迅速に整然とした有効な対応を確実に行うことである。
 以下の場合にPCGの流出油回収チームを動員するものとする。
●流出の責任の所在が判明していない場合。
●流出を起こした組織が石油流出に対して適切な対応を行うための装置、及びまたは専門的技術を有さない場合。
●石油流出の規模が流出を起こした組織の対応能力を超える場合。
●何らかの理由により、PCGが政府による流出油回収により流出から引き起こされる環境損害を著しく軽減できると判断した場合。
 
 本緊急時対策は、民間部門と政府の資源を駆使して石油流出に対処する組織的な対応体制を提供することにより、石油流出による有害な影響から環境を保護しようとするものである。
 
 フィリピンの広大な水域と海岸線、及び利用可能な流出油回収設備が限られていることを考慮すると、国家の資源を活用して現実的に対処できる石油流出の規模は小、中程度のものに限定される。第3度(Tier-3)の流出の場合には、地域的及び国際的な援助が必要である。
 
(2)緊急時対策における地理的な制約
 本緊急時対策は、フィリピンの排他的経済水域を含む領有支配権内のすべての海、港、入り江、陸水及びその支流、隣接した海岸線に適用される。
 
(3)流出度の定義
 小規模あるいは局部的な流出から最悪のシナリオまで、さまざまな潜在的流出に対する対策を練るための世界共通の流出度別対応(Tiered Response)の概念が生まれた。これにより、必要に応じて補助的資源を要請することにより、対応の効率性を高めることができる。
 石油流出に必要とされる対応の内容は、流出の規模と応答センターへの近接性に従って分類される。表3に流出度別分類とそれぞれの対応要件をまとめる。
 
表3 流出度別分類と対応用件
流出度 対応
I 10立方メートルまで 個々の企業/船舶の独自の能力
II 1,000立方メートルまで 第1度の対応及び、他の業界及び/または政府の能力
III 1,000立方メートル以上 国家が有する全資源及び、外国資源
「出典:東南アジア海事専門家会議資料」
 
 第1度(Tier-1)は通常、流出が小規模で局所的であり、地域内で対応できるものである。例えば、ターミナルにおける燃料の移送や船舶への燃料積み込みに関連した流出、及び小規模の港内の流出がこれに該当する。通常、第1度の流出の場合は外部の資源に依存する必要は全くない。
 第2度(Tier-2)の流出とは、応答センターの近辺で発生したより大規模の流出、あるいは複数の資源、すなわち業界及び政府の資源による対応が必要とされる、遠方における小規模な流出である。
第3度(Tier-3)の流出とは、大型タンカー事故や沖合の噴出等の最大規模の流出である。第3度の流出の場合は通常、国内全ての流出油回収装置が必要となり、国際的な援助が必要な場合もある。
 
(4)NOSCPと関連した同国のその他の石油流出緊急時対策
 通達 01-2001号は以下に対し、個々に石油流出緊急時対策を整備することを義務付けている。
●精油所、ターミナル、及び補給所
●石油探査及び生産活動を行う組織
●発電所及びパワーバージ
●難分解性石油を使用する製造工場や他の施設
●海運業者(船舶石油汚染緊急対策)
●造船所







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