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フィリピンにおける国内航行船舶の安全・環境基準
1. 序章
 30万平方キロメートルの国土を有するフィリピン共和国は、7,100以上の島々から構成されている。これら多数の島々では、約880島に人々が居住しており、その内462島は面積が2.6平方キロメートル以上となっている。従って群島からなる同国では必然的に、船舶輸送が旅客や商品の輸送の重要な代替手段となっている。島内の輸送は陸上輸送が大半を占めものの、長距離輸送に関しては海上交通が圧倒的である。
 
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 このように、フィリピンにとって海上交通は重要であり、海上交通の安全性を高め、また海上交通による環境汚染を防ぐことは重要な課題となっている。
 
2. 国内航行船舶の安全基準と政策
 この章では、フィリピンで国内輸送に従事する船舶を対象とした海上安全にかかわる現在の政策及び規制について概説する。安全の確保は、船舶の建造と運用、満載喫水線、荷積み、要員配置、航行、並びに規則・規制の実施に影響を与えるものである。事故の発生は、往々にして人命や資産が失われる惨事に至り、海洋環境の悪化につながる。こうした事態は、法律を施行する側の怠慢や一般社会の無関心等の要因によっても引き起こされるが、人的要素も大きな影響をもつ。
 
2-1 海上安全に関する組織
 海上安全には、造船、運転、航行、通信等の分野があるが、重要なのは要員配置と乗組員の能力という要素である。また、これは効果的な灯台施設や船舶航行・システムの利用によって強化される。さらに、海上で安全を確保する上で非常に重要なのは、既存の規則や規制の施行と実施である。
 
 海上安全と環境保護に関連する政策立案とその施行は、海運産業局(MARINA: Maritime Industry Authority)とフィリピン海上保安庁(PCG: Philippine Coast Guard)が管轄当局である。海運産業局は、主に海上安全に関する政策、規則、規制の立案を担当し、フィリピン海上保安庁は、主に策定された政策、規則、規制の実施・施行を担当する。
 
 新造船、改造、改修に先立つ計画の承認、船舶の安定性計算、喫水線、容積の監督及び承認は海運産業局の造船工学・海事工学部(NAMED: Naval Architecture and Marine Engineering Division)が行うものとし、ISM規約の実施は海上安全事務所(MSO: Maritime Safety Office)が管轄する。
 
 一方、フィリピン海上保安庁は、船舶の安全検査、及びそれに伴う安全証明書の発行、港湾状況の管理、海洋環境の保護と汚染防止を担当する。灯台の設置、監督、管理もフィリピン海上保安庁の管轄である。
 
表1 交通通信局(Department of Transport and Communications)の組織
海運産業局
(MARINA)
フィリピン海上保安庁
(PCG)
フィリピン港湾庁
(PPA)
1. 船舶登録と書類管理
2. 船舶計画の承認
3. 静的復原力及び満載喫水線の証書発行
4. 船舶割り当て
5. 港湾水先人、湾・河川水先人のライセンス発行
6. ISM/NSNコードの導入
7. 船舶取得の許可
8. 造船所の検査とライセンス供与
1. 捜索救助活動
2. 海洋環境の保護と汚染の防止
3. 航海補助の確立、監督、管理
4. Port state control
5. 船舶の検査とSOLAS証明書の発行
6. 海難事故、災害の調査
1. 港湾設備とサービスの監督、規制、管理
2. 港湾内の建造物建設についてのライセンス供与、規制及び管理
3. バース等のサービス提供
4. 水先案内及び水先案内行為の管理、規制
「出典:東南アジア海事専門家会議資料」
 
2-2 海上安全に関する規則・規制
 新しい海事協定の採用と旧協定の修正にともない、1976年に制定された「フィリピン商業海事規則及び規制(PMMRR: Philippine Merchant Marine Rules & Regulations)」の見直しが行われ、新たに、「1997年フィリピン商業海事規則及び規制」が策定された。「フィリピン商業海事規則及び規制(PMMRR)」は、安全と環境保護についての規則・規制を定めたもので、国の内外の航行に関係なく、フィリピン国に登録されているすべての船舶に適用される。ただし、1)軍用船、2)3GT以下の船舶及び平底荷船(はしけ)、3)レジャー用の船、4)帆船、5)原始的な木造船、及び6)商用に使われない政府専用船は対象外となっている。
 
 また、この規則及び規制は、関連する協定の対象となっている船舶のために定められた国際海上保安協定、基準、規約(コード)にある安全基準を採用する一方で、協定の対象外となっている船舶に関する規則と規制についても規定している。海運産業局では、国際安全管理規約(ISM: Intemational Safety Management Code)の対象外である船舶のために国家安全管理規約(NSM: National Safety Management Code)を施行した。さらに同局では、船員のための訓練、資格、見張り基準(STCW: Standard of Training, Certificationand Watchkeeping for Seafarers)では定めていない国内船の乗組員を対象とする資格証検定(QDC: Qualification Document Certification)制度を導入しているところである。
 
 PMMRRの規則及び規制には、造船と装置、安定性、機械及び電気設備、火災防止及び消火、火災安全措置、救命器具、無線通信、航行の安全、喫水線の指定、乾舷、並びに特別な目的に使用される船舶の安全にかかわる規則・規制が含まれる。さらに、調査(測量)、検定、登録、及び文書作成の他、海洋汚染の防止に関する規則及び規制についても規定する。
 
 フィリピンが保有している船舶、またはフィリピンに籍をおく船舶、並びにその両方に該当する船舶で、その大きさと運用種別が国際協定の対象になっている船舶は、すべてSOLAS 1974/1978、LL 1966、STCW 1978/1995、COLREG 1972等の協定を遵守するものとし、また、安全規則・規制を作成する際には、1997年フィリピン商業海事規則の定めに従ってHSC規約を考慮するものとする。
 
 フィリピンは、安全、海洋環境の保護、及び汚染の防止に関するIMO協定をすべて批准しているわけではないが、ほとんどの規約は政府によって実施される方向にある。
 
2-3 海上安全強化のための措置・施策
2-3-1 船舶取得/国内航行業務への参入
(1)個人使用のモーターヨットを除き、直接(代金支払い終了により)またはリース販売によって獲得されすべての船、裸用船、及び国内で建造された船。木造船及び漁業船は、配備または運用に先立って、海運産業局(MARINA)が認める国際または国内の分類協会によって分類されるものとする。船舶の分類は記録され、分類調査報告書が海運産業局に提出されるものとする。
(2)船齢や大きさの制限は設けていないが、例外として、タンカー及び石油製品・石油副生品の輸送船は15年以下とし、高速船は5年以下とする。
(3)外国が保有しているか外国に籍を置く船は、船齢が15年以下であることを条件として、一時的に国内取引に使用されることを許可される場合がある。
 
2-3-2 国家安全管理(NSM)規約の施行
 政府は、2000年12月16日に海運産業局(MARINA)の委員会で承認された通達第159号に関連するものとして、船舶の安全運転、及び汚染防止に関する国家安全管理規約(NSM)を採択した。この規約はIMOのISM規約に基づくもので、船舶の安全管理と運転、並びに汚染防止に対する国家基準を定めている。国家安全管理規約(NSM)規約の適用により、国内航行業務の安全強化が周知徹底されるものと期待される。
 
 NSMは、フィリピン水域で運行している場合は、常時、以下の鋼鉄製/木製の船を対象とする:
(1)分類を必要としないすべての乗客船
(2)分類を必要としないタンカー
(3)分類を必要としないばら積み貨物船
(4)分類を必要としないその他の貨物船
(5)石油製品を輸送している推進器なしのタンカーを曳航する引き船
 
 すべての企業は・国家安全管理規約のもとで安全管理システム(SMS: Safety Management System)を開発、実施、維持するものとする。これにはISM規約で求めている機能要件と同じものが含まれる。ただし、企業は政府が起草した国家安全管理規約実施要綱に従って、安全管理システムを採用、実施、維持することもできる。企業が、政府が起草した国家安全管理規約実施要綱を使用せずに独自の安全管理システムを作成する場合は、必ず機能要件が安全管理システムに盛り込まれるようにしなくてはならない。次表に、国内の船積みにおけるISM及び国家安全管理規約の実施状況を示す。
 
表2 NSM規約への準拠状況(2003年11月14日現在)
船舶の種類 企業数
合計
IDOC/
完全DOCを有する
企業数
準拠
割合
(%)
船舶の
総数
ISMC/
完全SMCを有する
船舶数
準拠
割合
(%)
乗客運搬船250GT以上 39 14 35.89 83 20 24.09
乗客運搬船150GT〜249.99GT 32 7 21.87 67 14 20.89
乗客運搬船150未満GT 36 6 16.67 61 10 16.39
150GTの石油タンカー 45 19 42.22 95 38 40
150GT以下の石油タンカー 18 3 16.67 30 10 33.33
150GT以上のばら積み貨物船 3 0 0 3 0 0
150GT以上の引船 11 0 0 14 0 0
150GT以下の引船 139 2 1.44 241 4 1.66
他の貨物船 20 3 15 45 3 6.67
合計 343 52 15.16 639 99 15.49
「出典:東南アジア海事専門家会議資料」
 
2-3-3 国内取引における資格証検定制度の採用及び施行
(1)資格証検定(QDC)制度は、沿岸を航行する船で作業を行う場合に、国内船の乗組員が職務を遂行する上で適切に検定を受け、資格を認められ、能力を有し、かつ健康であることを確認するためにある。この制度は、主に国内水域で運行する100GT以上、または200KW以上のすべての船舶に適用されるが、以下の例外がある:
(a)政府が所有し、運転している軍艦、海軍補助艦船またはその他の船舶
(b)漁船
(c)レジャーボート
(d)原始的な木造船
(2)職業規制委員会(PRC: Professional Regulation Commission)、あるいは技術教育技能開発局(TESDA: Technical Education and Skills Development Authority)が発行する証明書は、国内水域を運行する船舶内で有効である。
(3)資格証検定制度は、年齢、健康状態、免許、訓練、及び海上勤務経験の観点にたち、100GT以上、または200KW以上の主力推進機によって発動する船で作業を行う上級船員及び等級に必要な最低限の資格を定めている。
 
2-3-4 国内取引における木造船の段階的廃止の実施
 政府は、海上における生命と資産の安全のさらなる強化と確保を目的とし、また国内航行を行う船舶団の近代化を加速することを目的として、2003年8月11日、国内航行での木造船の利用を段階的に廃止する規則を定める海運産業局(MARINA)通達第190号を承認した。
(1)この規則は、国内取引に使用するとしてフィリピンで登録された木造船を対象とするが、3GT未満の船、保護水域で取引を行う3〜35GTの部類に属するその他のモーターカヌー、港間の旅行時間が1時間以内で、旅行者が(巡航に限って)部分的保護水域を運転することを条件に、決められた目的地間で観光目的に限定して利用されている船、及び漁船は例外とする。
(2)既存の木造船の運転は、前項で記述している場合を除いて、段階的に3年、5年、7年以内に廃止する。木造船は、以下に挙げる追加安全要件を満たすことを条件として、引き続き運転を認められる場合がある:
 
船舶の大きさ 段階的廃止期間 航行継続のための追加安全条件
及び業務規制
100〜500GT超 発効日より3年 1.海上保安庁(PCG)が実施する再検査に合格すること。
2.船長の最低必用能力/免許は、甲板部士官として一年以上の実務経験がある二等航海士とし、資格証検定(QDC)の資格を持つ甲板部士官としてメジャー・パトロンを雇用すること。
3.日中の運転に限定する。
35〜100GT超 発効日より5年 1.海上保安庁が実施する再検査に合格すること。
2.船長の最低必用能力/免許はメジャー・パトロンとし、QDCの資格を持つ甲板部士官としてマイナー・パトロンを雇用すること。
3.保護水域または部分的保護水域内での日中に限定した運転。
3-35GT 発効日より7年 1.海上保安庁が実施する再検査に合格すること。
2.船長の最低必用能力/免許はマイナー・パトロン/小型船船長
3.保護水域または部分的保護水域での日中に限定した運転。
 
(3)鋼鉄、アルミニウム、ファイバーグラス、またはその他のあらゆる技術的改良を加えた船体素材の船が既に業務を行っている航路への木造船の参入は、今後、認められない。
 
2-4 今後の方向
 フィリピンは、引き続きIMO協定、特にフィリピンの海上安全の強化と改善に関連する協定の他、海洋汚染防止・保護及び海上警備に関連する協定を採用していく。実際に、海運産業局(MARINA)は、ISPS規約の施行に向けて通達第193号及び第194号を発行した。







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