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<代替ガバナンス制度とモデル>
 新しい海洋倫理よりも、海洋ガバナンス構造の大改造を求める意見が主流を占めた。なかでも海洋省の新設を求める意見が頻出した。海洋環境保護団体Ocean Conservancyのニューイングランド支部長のJohn Phillipsは、海洋資源管理を所轄する多くの連邦機関を統合して、国家海洋庁を新設することを求めた。連邦政府の意思決定構造の大幅な改革として、海洋省、米国海洋委員会、大統領海洋顧問等が提案された。比較的穏健なアプローチとしては、NOAAを海洋政策を調整するための省際メカニズムを確立するための監督省庁とすべきだという意見もあった。
 
 議会に関しては、Ocean Conservancyの理事長であるRoger Rufeが、管轄が重複する委員会の数を減らすために現在の委員会構成を修正するべきだという提案をおこなった。
 
 一方、コーディネーションを改善し、海洋または沿岸に関連した問題に対処するためには、単一の機関に権力を集中させる必要はない、との意見もあった。政府機関の間で様々な形の協力体制が可能である。沿岸及び海洋の問題に取り組むうえで、成果の測定及び監視と連結した適応性のある解決策を認め、状況に応じた行動を取ることができるような法体制を整えるべきである、というのが内務省の政策・国際問題担当のChris Kearney次官補の意見であった。
 
<協調体制の改善>
 連邦政府の海洋プログラムは州政府、学術機関、資源利用者の間に必要なコーディネーションがないまま増殖してきており、予算も不十分である、とDelaware Coastal ProgramのSarah Cookseyは断言した。連邦政府機関と州、地方自治体政府機関の間の分断、地方自治体レベルの利害関係者の不参加とコーディネーションの欠如の2点は、海洋ガバナンス及び管理に関する既存のシステムの基本的な欠陥である、と世界野生生物基金のEichbaum氏は述べた。地方、州、連邦政府の権限について、現行のシステムはひとつの目的だけのために制定され、コーディネートされていない法律の寄せ集めとして性格付けられるが、一貫した、意義のある国家海洋政策を策定するための出発点として、まずこの問題に取り組むべきである。
 
 何人かの発表者により、審議会がガバナンスについての提言を作成する際に考慮すべき、州政府または外国のプログラムの成功例が挙げられた。これに関連して、地域が果たすべき重要な役割を認識した地域ガバナンス構造、または国家ガバナンス構造を、審議会の提言における主要な要素として盛り込むべきだという意見もあった。
 
(2)沿岸域管理
 多くの発表者が沿岸資源に対する脅威について意見を述べた。沿岸域管理(CZM)プログラムは、沿岸資源に対する連続的脅威を特定し、それに対応することに焦点を当てている。沿岸域に対する脅威として、以下のものが特定されている。
 
○侵食:護岸壁や海面上昇による海岸の喪失。
○汚染:農業廃水、堆積、廃水処理の不備、都市下水。
○サンゴ礁の破壊:地球温暖化、非在来種、汚染された表流水、船舶の座礁、海洋ゴミによる漂白現象。
○土地利用計画の不備。
○天災:ハリケーン、溶岩流出、地域的洪水、津波。
 
 環境に有害な沿岸開発が行われる理由は様々である。資金不足、誤ったインセンティブ、ゆるい基準、または基準が存在しない場合もある、環境保護団体のNatural Resources Defense Councilのカリフォルニア支部長であるAnn Notthoffは次のように証言した。
 
 「沿岸について考える際に、海岸線から50、100、または1,000フィート沖までの海域に限定して考えるべきでない。はるか上流、海洋に流れ込む河川の源流まで遡って考えなければならない。」とメリーランド州天然資源局のVerna Harrison次官補は語った。「湾や海洋の運命はそこで決まるのである。」
 
 海洋政策を検討する際に、いかなる状況においても沿岸及び沿岸経済に関する情報は必要不可欠な要素であるが、いままでこれが欠けていた。どのプログラム、どの政策が効果的かを判断するためには、国民の行動を含め、変化を測定することができなければならない。不幸なことに、沿岸経済についてわれわれはほとんど知識を持っていない、南カリフォルニア大学の環境学部Wrigley研究所の上級研究員であるJudith Kildow博士が指摘した。
 
 Kildow博士はさらに米国海洋経済プロジェクト(National Ocean Economics Project)について説明を行った。現在、沿岸経済に関して時系列の経済データはほとんど集積されておらず、データが存在していても入手は困難である。同プロジェクトは、沿岸経済部門のGDPに対する貢献度を、国家及び沿岸州それぞれについて推定した報告書を発表することを意図している。
 
 Kildow博士の提案に続き、カリフォルニア資源局長のMary Nicholsは、全米沿岸/海洋経済評価プログラムを設立し、海洋が沿岸諸州及び国家の経済に与える影響を評価するためのデータの一貫した集積、分析、保管、検索システムを構築する必要があると提案した。
 
(3)非生物海洋資源
 沿岸堆積物管理の問題、オフショア開発及びエネルギー産業規制から沈没船の保存・管理、海底遺産までが、この分野で論じられた。EEZにおけるリース権の売却による収入の管理に関して、審議会がどのような声明を行うか、また当該歳入の環境保全・保護活動利用の義務付けを検討するかどうか、という点に審議会は重点を置いているようであった。
 
(4)研究・探査・監視
 米国政府機関−NSF、NOAA、NASA-により実施されている研究は機関の間での調整がなされず、一元化された観測計画の一部となっていない、とワシントン大学応用物理学研究所長のRobert Spindel博士は証言した。さらに、カリフォルニア大学デイビス校の常勤科学者で獣医のJoseh Gaydos博士は、海洋、野生生物、声明についてさらに科学的なリサーチの実施を支持する旨発言して、多くの科学者の見解を代弁した。
 
 米国科学財団(NSF)のディレクターであるRita Colwell博士は、米国海洋研究リーダーシップ委員会(National Ocean Research Leadership Council: NORLC)は、各政府機関が協調と協力により、共通の関心がある活動を強化することができる分野を特定することができる、と示唆した。
 
 さらなる研究を必要とする議題として北極の調査研究、五大湖、海洋と気候変動の関係、海洋と人間の健康の関係が挙げられた。
 
 どのような研究機関も、それを支援するインフラストラクチャーを必要としている。気候変動国際研究所の準研究員であるLisa Goddar博士は、永続的かつ包括的な観測ネットワークの構築を審議会が奨励するように求めた。サウス・カロライナ大学海洋生物学部Baruch研究所のDavid Bushekは、その他のタイプのインフラストラクチャーも同様に重要であると論じ、フィールド・ラボや施設のようなインフラは「重要な役割を果たし、継続的な支援を必要とする」とした。
 
 要求された計画や行動を監視し、評価することもまた研究プログラムの重要な必要条件である。「海洋保護区にせよ、内湾計画・回復にせよ、どのように進行しているかを確認するための大規模な監視スキームがなければならない」と、米国海洋漁業局の北西部漁業科学センター所長であるUsha Varanasi博士は述べた。極度にコストが高いため、既存の監視システムは十分に発達していない、とInternational Joint Commissionの法律顧問であるJames Chandlerは証言した。
 
(5)教育
 何人かの発表者がSea-Grantプログラムについて好意的な意見を述べた。Sea Grantはプライオリティに従った研究を実施し、成果を一般に移転し、小中高校から大学院までの教育機会を提供している、とサウス・カロライナのSea Grantプログラム事務局長であるRichard DeVoeが説明した。しかし、DeVoeを初めとする多くの発表者は、資金に限りがあるため、プログラムを実際に役立つ新しい分野へと拡大することができず、啓蒙することのできる学生数も限られている、と論じた。
 
 何人かの発表者が、小・中・高校における海洋の科学と管理についての教育は極めて貧困である、と指摘した。学校教育における海洋教育は非常に重要である。しかし、学校がそれぞれに持っているより広い科学教育の目的の中に埋もれてしまう可能性がある。米国科学教育基準には海洋についての言及がほどんどなく、基準作成に寄与している専門家に海洋学者は含まれていない、という指摘が米国動物園水族館協会の教育担当部長であるBruce Carr博士からあがった。
 
 マイアミ大学のRosenstiel海洋大気学部のAssistant DeanのEllen Prager博士は、審議会は、十分な教師訓練を伴う優れた海洋科学カリキュラムと活動を普及させる手段を提供するように政府に働きかけるべきである、と述べた。
 
 この他に、どのようにして一般国民を啓蒙するかに関心が集まった。
 
(6)技術と海洋オペレーション
 海洋産業支出は年間7,500億ドルにのぼる。この半分は石油・ガス産業に、3分の1は世界の海軍支援に費やされている。海洋産業の技術の大きな進展やブレークスルーは、これら2つの部門の研究開発の結果であると、Marine Technology Societyの理事長Andrew Clark博士は証言した。
 
 多くの重要な世界的科学プログラムはアプローチ、目的、目標という点で互いに孤立している。Wood Hole Oceanographic Institutionの所長であるRobert Gagosian博士によれば、研究プログラムは個々の施設の限定された目標に焦点をあてたものであり、すべての観測施設が取り組むべき広い科学的疑問や戦略的使命に焦点をあてたものではない。
 
 優先的研究事項として審議会に次のような点が提案された。
 
○海洋及び沿岸研究・観測活動で使用するための技術の継続的開発と改良。(Dr. George Sedberry, Assistant Director, Marine Resources Research Institute)
○通商を行うための新たな技術の開発を支援するための政府による継続的な努力。(Dr. Andrew Clark、Marine Technology Society理事長)
○より広い範囲の海象で、回復・貯蔵キャパシティの大きい大型の油回収船の開発を促進するための研究開発に連邦政府が優先権を与える。(Doug Hopkins、Oceans Program Manager、Environmental Defense)
○複雑なセンサー、ロボット工学プラットフォーム、観測テクニックの開発支援。(Dr. James Bellingham、Director of Engineering、Monterey Bay Aquarium Research Institute)
 
(7)投資と違邦政府組織
 本セクションでは、ガバナンスの分野で提案された海洋省その他ガバナンスの改革に関するコンセプトの多くについて、さらに詳細な議論が行われた。
 
 Environmental DefenseのFujita博士を初めとする多くの発表者は「生態系の保護を法定義務(マンデート)とする海洋省は国家の進むべき方向と一致しているとして、同省」の設立を求めた。Bodman商務次官は、海洋問題を担当する連邦政府機関と独立機関として設置することに対し、官庁としての規模の問題から生き残れるかどうか、という疑問を提示した。The Washington Advisory GroupのRobert White博士は、さらに懐疑的な見解を示し、「連邦政府のすべての機関から海洋関係の事業を集めて、一つの機関にする等ということはありえない」と断言した。
 
 大幅な組織改変をすることなく、継続的に海洋問題を取り上げる常設監視グループのようなものを設置するという提案もあった。たとえば、National Geographic SocietyのEarle氏は、漁業資源、その生息域と関連する生態系の維持、予防原則に力を入れた米国水域のコンポーネント、生態系ベースの漁業管理に関する適切な意思決定の促進、研究と管理における諸機関の間の連携の育成を監督する独立した科学監督機関の設置を求めた。
 
 ホワイト・ハウスのリーダーシップによる、省際委員会のような新しい構造の開発により、政府機関の間で、頻繁かつ効果的な意見交換が可能になるかもしれない、と世界野生生物基金の役員会会長William Reilly氏は結論づけた。







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