日本財団 図書館


5. 審議会の検討内容
 本審議会の提言の章案はまだ公開されていないが、これまで検討された事項を公開討議資料から抽出し、公表された目次草案の大項目に沿って整理した内容を以下に記載する。
 
 なお、これは公開討議に提出された段階の資料をもとに作成したものであり、提言に取り入れられることが前提となっているわけではないことに留意されたい。
 
5-1. 国家海洋政策の目標
 現在の海洋に関する法規制は個別の問題や資源に対応するものであって、国の海洋政策全体を統括するような原則を含んだ法律はない。海洋政策全体を統括する「海洋政策法(Ocean Policy ACT)」といった法律を作成することが重要であると審議会は考えている。この法律の中には次のような原則が含まれるべきと考えている。
 
a)スチュワードシップ
 海洋と資源が公共の財産であることから、国民に対して国家は義務を持つべきで、公共の利益を守るという観点で政府の責任がある。国民は沿岸と海洋の重要性を理解し、自己の行動が海洋に影響を与えることを理解し、海洋を管理する必要性を認識するべきである。
☆持続性
 海洋政策は今日の要求に適合するように作成するが、将来に悪影響を与えないようにする。
☆利用可能な最高の科学的知見
 自然界と社会が海洋環境に与える影響を十分に理解したうえで、政策決定を行うことが重要である。
☆参加型ガバナンス
 沿岸、海洋生態系は、国にとってこれらの資源が重要であることを鑑み、すべての利害関係者が決定プロセスに参加するような形態で統治することが必要。
☆透明性
 決定及びその根拠は明解かつ誰もがアクセスできることが必要。
☆適時性
 統治システムは効果があり、効率的良く、予見可能なものとして、かつ迅速な対応が可能であるよう運用されなければならない。
☆説明責任
 活動とタスクに対する責任は明確で曖昧さがないことが必要。意思決定と実施に関わる者は行動に責任を伴う。
☆適合マネジメント
 マネジメントシステムは明確な目標に適合するよう設定され、将来のマネジメントのため常に根拠とする科学的知見を更新していくべきである。目標及びマネジメント手段の有効性の再評価と、マネジメントの改定実施のために新しい情報を追加することが、不可欠。
☆複合的活用
 海洋は経済活動、保護、レクリエーション他、人類の活動に幅広い現在と将来の機会を提供する。管理を行う際には複合的利用、目的を理解し、競合する利益のバランスを取ることが必要。
☆予防的アプローチ
 予防的アプローチとは健全な科学的知見と分析に基づく思慮のある責任を伴ったマネジメントの手法であり、現世代のみならず将来の世代の利益を考慮して生態系の持続性を確保する積極的なものである。深刻かつ回復不能なダメージの脅威がある場合には、科学的知見が十分にないことをもって環境破壊を防ぐ対策を先送りしてはならない。
 すべてのマネジメントの計画は予防的アプローチで環境リスクを減少させるための科学的評価、監視が必要であり、予防的制限を実施するため定期的な科学的見地に基づく見直しが必要。
 
5-2. 包括的かつ協調的アプローチ
☆生態系をもとにした管理
 生態系をもとにした管理とは人間の行動とその行動の結果、種と資源に与える影響を、種同士の相互関係と物理的環境という背景をもとに管理することであり、管理の枠組みは多様性と横断的物理環境である。
 生態系をもとにした管理手法は、海洋生物を分離して管理することが可能との認識で、それぞれ独立な種として管理する手法と根本的に異なる。
 生態系をもとにした管理を行うためには段階的に移行する必要がある。
 政策決定過程において地域的生態系の枠組みを含むことが必要である。
☆フェーズアプローチ
 審議会の提言は速やかに実行されることが望ましいが、法律等の改正も含むことから、段階的導入をすることが現実的である。
☆国家海洋政策の枠組み
○大統領は命令により海洋政策局、海洋委員会、諮問委員会を設置する。
○海洋政策局には大統領が任命した補佐官と必要なスタッフを配置。
○海洋委員会は大統領補佐官が議長となり、海洋関連機関の閣僚と独立海洋機関のディレクターで構成される。
○諮問委員会は沿岸州の知事、その他地方、民間部門、研究者、NGO、水系管理組織の代表により構成される。
☆国家海洋委員会の機能
 国家海洋委員会は次のような機能を含む。ただしここに記載したものがすべてではない。
1)政策策定、プログラムの実施、報告
(1)国家全体についてのガイダンス、原則に関する審議会の提言の実施の指導、継続的な改良、また新政策が必要になればこれを策定。
(2)審議会の提言に基づき、連邦機関の改組の提案を行う。
(3)規制の重複、矛盾、不足等を特定し解決する。新規の問題に審議会の提言を受け、対応する。
(4)国家海洋目標に向けての各連邦機関のプログラムのレビューを行う。
(5)審議会の提言を反映しての各連邦機関の海洋と沿岸に関する責任を速やかに確立し調整する。
(6)審議会の提言を反映して海洋と沿岸に関する連邦機関の広範な協力体制を確立する。
(7)海洋調査に関する諮問委員会を通じて、研究者、政策担当者から意見を聞き、国家海洋調査計画の政策部分の策定と実施を指導する。
(8)審議会の提言に沿って国家海洋データ・情報管理システムの策定と実施。
(9)短期に処理すべき、調整とハイレベルの対応を必要とする特定の海洋・沿岸問題に対応するタスクグループを設定、監視。
(10)審議会の提言にある第2世代の沿岸管理システムの策定にあたり、海洋と沿岸に関する、連邦と地方の機関が強調して活動するような仕組みの提供。
(11)重要な産物とサービスを提供する生態系のアセスメントプログラムの策定と実施の監督。
(12)国務省と協議して国際社会におけるリーダーシップをとり、海洋と沿岸の有効な国際協定に貢献する。
(13)地域の海洋ガバナンスの適切な生態系計画と管理組織を、適切な科学的標準も含め、設定する。
(14)定期的に国家の海洋と沿岸とその利用状況に関する報告を行い、酷寒海洋政策の実施状況の進展の評価を行う。
 
2)予算について
(1)大統領補佐官は行政管理予算局(OMB)、NOCと協議して海洋・沿岸資源についての国家政策に重大な貢献をするプログラムを特定し、省庁に対し、そのようなプログラムに関するアドバイスを行う。
(2)補佐官は省庁とOMBに海洋・沿岸関連の活動にファンドの額と利用法について助言を行う。
 
3)地方の枠組みの策定
(1)州を含めた地方組織、他のNGOや民間セクタと密接に連携して、地方海洋委員会の設置を含む海洋・沿岸ガバナンスのため計画を策定する。この地方海洋委員会はNOCと連携して地域の生態系管理計画を策定する。これらの計画は州と地域の協力、公害の軽減、経済成長、優先する調査の決定等の問題に対応する。
(2)NOCは地方海洋委員会を、州を含めた地方組織が受け入れるような地域に試験的に設定することを促す。
(3)NOCは国家目標の地域での実施を支援する。
 
地域海洋委員会の機能としては以下が考えられる。
(1)地方の目標を達成するためのファンド支出の調整を円滑にする。
(2)連邦政府は、各地域海洋委員会が主催する地域管理情報プログラムを設ける。
(3)地域目標、達成すべき目標、各政府機関や州の権限と州の管理する沿岸域を一致させる方法を策定する。
(4)地域の考えを調整して、連邦の国土、水域管理の包括的計画の作成に資するよう、連邦政府に対して提供する。
 
5-3. 海洋・沿岸の利用
☆水系管理
 健全な水系管理が健全な沿岸・海洋管理に不可欠である。同様のことが生態系についても言える。
 国家調整機構(NCB)、地方調整機関と現存の水系監視委員会が連絡をとり合う。
 NCBは国家目標と戦略を策定し、定期的に見直しを行う。
 この目標を達成するため連邦機関が各地方で協力し、地方に対して技術、管理、教育についての支援を実施する。
 地方においては以下を実施する。
(1)連邦機関は共通の地方の境界を調整する。
(2)州その他地方組織が地方レベルで連邦機関と協力する。
(3)連邦のプログラム、プロジェクト、補助金は地域内での参加を促すものとする。
 資金については、
(1)利用料からのファンドの流れを作る。(2)地方補助金と技術支援を活用。
(3)現存の地方向け連邦ファンドは地方の連邦機関が調整する。
☆米国水系監視戦略
 米国の水系監視戦略は包括的なものであり、海洋、沿岸の統合観測システムとの一体化が必要である。従って、中央の調整機関が連邦政府各機関の行動を監視し、連邦機関の中で主導となった機関がオペレーション全体について責任を取る体制とする。
 国家で必要となるデータは地域の生態系分析にも必要と考えられるので運用に際して、大量の情報交換機能を設けることが必要である。この機能を用いて海洋観測データとの調整を図りかつデータ、有用な情報を配布することができる。
☆将来に向けた海上交通
 連邦政府、州政府、民間部門と運輸省(DOT)とが共同して制度化できるような、国家の運輸・輸送政策を策定。
 国家プログラムには以下のようなものとする。
(1)縦割り規制の排除。
(2)それぞれの活力ある輸送モードをインターモーダルな貨物輸送システムとして一貫したものにする。
(3)地域及び地方の企画担当組織と沿岸域のマネージャーとの協調を要請する。
(4)環境を意識しながら管理する哲学を推進。
☆海上交通の研究開発
 USDOTは短期、長期にわたる海上輸送システムに関する調査研究プログラムのファンドを設ける。
 このR&Dプログラムには以下の項目を含む。
(1)貿易と交通の増大を推定し国内の港湾、水路、輸送モード間の節点のスループットと能力の影響を判断できる。
(2)現在のボトルネックと能力の不足を認識するモデルの作成。
(3)能力と他の適用可能な事象を計測できる一貫しており、国内で受容できる定義と手続きを策定する。
(4)貿易と交通量のデータの収集作業を革新的なデータ収集技術により改善し、重要なデータの欠陥を補填する手法を調査・策定する。
(5)環境に配慮しつつもシステムの能力を向上する新しい技術の開発への助成。
(6)他の連邦が補助する沿岸と水系に関するR&Dプログラムとの統合。
 
5-4. 海洋資源
1)生物海洋資源
☆海洋保護区(MPA)
 自然資源または文化資源を保護するために、特定の海域を海洋保護区として指定する。
 議会は自然資源または文化資源を保護するために海洋保護区に関する国内規制を策定する。この規則は国、地方、地方自治体がMPAを設定する際のガイドとするべきものである。
 海洋保護区設定にあたっては、国の主導のもとに地方との調整を行う。
 海洋保護区管理計画の標準には事前の科学的・文化的アセスメント、監視計画、保護区指定継続・変更のための見直しの規定を含む。
☆地域漁業管理委員会(RFMC)
 地域漁業管理委員会に評価モデルを利用して年間漁獲可能量の設定を行う科学統計委員会(SSC)を設置する。
 国家漁業管理委員会(NMFS)が標準的な専門見直し過程を3段階で設定。
(1)通常の年間の保持量を設定する標準手続き。
(2)3〜5年のサイクルで評価モデルそのものを見直し、委員にはその地域の漁業と関係のない者を入れる。
(3)評価の結果に対して議論が発生したとき、または通常評価の結果が著しく低かった場合の緊急手続き。
☆漁業管理の法制
 すべての漁業管理計画に1つの役所が計画作成の主導権をとる。
 回遊魚等のように複数の機関が法制上の責任機関となる場合(例:米国水域とEEZ)には事前に決めたルールに従い、主導的立場となる機関を決定する。
☆アクセス特権
 米国政府はEEZの生物海洋資源について国家利益を考慮して管理維持する責任がある。
 一時猶予しているマグナソンス・ティーブンス法の個別漁業者漁獲割り当てプログラムを漁業管理のツールとして利用できるようにする。
 地域での実施の柔軟性を認めたうえで、国内共通のアクセス特権のガイドラインを作成する。
☆漁業能力の削減
 漁業界に漁業関連の行き過ぎた投資を促進する法規制を改訂、廃止する。
 漁船数を減らし、行き過ぎた投資をする商業漁業を持続可能なレベルに保持する。このために、影響を受ける漁業者には漁業マネージャから指導を含む。
 実務的に可能な範囲で、能力削減で恩恵をこうむる残存漁業者たちからのファンドにより買い上げ資金を出す。このようなもののうち連邦が実施する買い上げプログラムは漁業に従事することのない漁業者対象のものに限定する。
☆さんご礁生態系保護
 さんご礁が人類の活動により深刻な影響を受けていることを認識して
(1)米国のさんご礁に関する包括的地図を作成する。
(2)海洋保護としてさんご礁の損傷からの回復のための法規制を設ける。
 
2)非生物海洋資源
☆オフショア石油、ガスの利用
 連邦政府が非再生型のオフショア資源のリースと採取により受け取る収入の一部を再生可能な海洋沿岸資源の保護目的に、全沿岸州への補助として支出するとともに、国家レベルで、このような保護に役立つ海洋科学の進歩のため配布する。海洋大陸棚を有する州は近隣の水域におけるエネルギー関連の活動による環境、社会経済的影響に対処するため補助金を多く受け取れるようにする。
 
 オフショアの石油・ガスの開発に関連する環境の研究の資金を増加し、統合する。
 州政府、環境関連連邦省庁、業界と協力して、メキシコ湾の長期間使用されたオフショア、オンショアの施設が海洋環境にもたらす影響を評価。
 
 メタンハイドレートが長期的エネルギー需要の解決策となるかを決定するための研究・調査に投資を実施。
 
 政府と石油ガス産業の協力で、現在の業界の調査活動とパイプライン、プラットフォーム、船舶といったインフラストラクチャーを利用するような海洋観測システムを設置し、機密に触れる情報は保護したうえで安全、環境、経済に関する非機密の情報を調査・研究機関に提供する。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION