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<管理組織>
 生物海洋資源分野で最も論議をかもしたのは漁業資源管理の問題である。発表者のなかでも、漁業資源管理の分野における規制が経済にもたらす影響についての関心は特に高かった。環境保護団体のEnvironmental Defenseの上級研究員であるDr. Rod Fujitaは、現在の漁業資源管理には大きな問題があるとし、それには「誤った経済的インセンティブによって助成された過剰漁獲能力、魚種の個体数と生態系についての十分な科学的理解の不足、漁業資源を持続させる健全な生態系の保全に対する関心の低さ、安定した規制を実施する環境になっていないこと、科学的不確実性に対処するための手段不足」が含まれていると指摘した。
 
 マグナソン-スティーブンス法により連邦政府の漁業管理政策の指針が定められた。多くの発表者が同法の功罪について言及した。ジョージア州天然資源局の沿岸資源部長であるSusan Shipmanの見解は比較的バランスのとれたもののひとつであった。Shipmanは、地域によって、漁業資源管理(マグナソン-スティーブンス法)が他のオプションよりも有効である場合はあるが、成功を収めるかどうかは漁業実態がどれほど複雑かによると結論した。
 
 漁業資源の管理を州に任せてはどうかという提案に対して、何人もの発表者が消極的姿勢をとった。漁業資源管理としての主な役割を州に戻すことは建前としては可能であり、理想的であるが、現実問題としては実現は疑わしい、とメキシコ湾岸州海洋漁業審議会の事務局長であるLarry Simpsonは証言している。州管理に移行すれば実施に要するコストは連邦管理よりも低くなり、対応も早くなるだろうが、どのような管理体制でも地域という要素が事態を複雑にすることになる。超越的基準や、地域の漁業を管理する手段について、その地域のすべての州が同意する必要があるからである。
 漁業資源監督のガバナンス組織を大きく改革する可能性についても慎重な意見が出た。「漁業管理委員会(Council)19システムは今後も継続し、継続されるべきである」というのがIcicle Seafoods, Inc.の法務担当責任者であるTerry Leitzellの意見であった。同氏は米国海洋漁業局(NMFS)と漁業管理委員会との関係を調整して、漁業資源管理と保護がより健全なギブ・アンド・テイクの関係とするべきであると提案した。
 
 Leitzellは「マグナソン-スティーブンス法の漁業資源管理制度が崩壊しているわけではなく、その実施方法に、少なくとも米国の一部の地域では、欠陥があるのだ」と述べた。Leitzellをはじめとする何人かの発表者は、制度を施行する上でばらつきが出ているのは、訴訟件数が増加していることが原因だと非難した。マグナソン法により設立されて以来、過去20年間にわたって、漁業管理委員会は徐々に実地における意思決定の権限を獲得してきた。最近、複数の国内環境保護団体が漁業管理の意思決定に関心を強めており、漁業管理委員会の決定についてNMFSを相手取って訴訟を起こしている。「訴訟が多発しており、その数は全米で100件を超えている。これが、NMFSと漁業管理委員会のパートナーシップに多大なプレッシャーをかけており、一部の地域ではパートナーシップがほとんど完全に崩壊している」とLeitzellは証言した。
 
 一方、多くの代表が自分の地元の組織を効果的なガバナンスのモデルとして挙げた。Leitzellにしても「北太平洋漁業管理委員会と米国海洋漁業局アラスカ地域局は協力的関係を維持しており、2つの組織がパートナーとして機能できることを実証している。北太平洋漁業管理委員会は、効果的で透明な政府のモデルである」と自賛している。
 
 Leitzellの視点と対照的に、環境資源保護には大掛かりな法規の改正が必要だという意見もあった。「マグナソン・スティーブンス法を廃止し、新しい全国的な生物海洋資源保護・管理法を制定する必要がある」と環境保護団体であるHawaii Audubon Societyの水系動植物担当ディレクターのLinda Paulは証言した。
 
<海洋利用計画>
 生物海洋資源分野における議論の大きな焦点は、海洋保護区(Marine Protected Area: MPA)に関するものである。MPAという言葉が実際に何を意味するのか、そしてどのようにMPAを指定すべきかについて、活発な議論があった。米国海洋大気局(NOAA)の漁業担当局長補佐のDr. William Hogarthによれば、MPAという用語は何らかの形で特別な保護を与えられている具体的な海洋区域を説明する場合に広く使用されており、様々なタイプのMPAとその管理手法が存在する。また米国の排他的経済水域において現在海洋保護区(MPA)として保護を受けている海域は0.5%未満である。
 
 Environmental DefenseのDr. Fujitaは、複数の問題を解決し、複数の目標を達成するために、MPAは有効かつ柔軟性のある手段であり、また海洋保護区は海洋生物の多様性の保護に役立ち、漁業を持続するために十分な生物資源を保護するという漁業管理の第一の目標の達成に貢献するものである、と証言した。
 
 MPAを指定する際には、指定した区域で保護を円滑に実施する方法、指定の際に設定された目標を達成していることを確認する方法を同時に決めるべきであるとNOAAのHogarth氏は述べている。
 
 MPAの指定に科学がどのように関連するかについても議論が集中したが、Charles Kennel氏はMPAについて科学的知見の活用の仕方はケースバイケースであり、ある科学的知見がすべてのMPA指定に欠かせないというようなものでなく、独立したものであることを強調した。
 
 MPAの拡大を懸念する意見も出された。スポーツ・フィッシャーマンを代表するUnited Anglers of Southern California会長のTom Rafticanは、MPAが漁業資源管理のツールとして安易に利用されると、関係する人々の自由を損なう可能性がある、と証言した。
 
 メキシコ湾漁業管理委員会の事務局長であるWayne Swingleは、さらに詳細な批判を展開した。商業漁業業界と趣味の釣り業界はMPAを管理ツールとして使用することに理解があり、特に釣具の使用規制に関しては、それを受入れてきた。しかし、全面禁漁の海洋保護区というのは新しい概念であり、業界、とくに趣味の釣り業界の特定の分野にとっては、これは受入れがたいと彼は証言した。さらに、MPA指定権限を拡大することに警鐘をならし、暗にMPAの急速な拡大そのものに反対であることを表した。現在、州政府、米国海洋局(NOS)、米国魚類野生生物局(USFWS)、米国公園局(NPS)がMPAを制定する権限を保有している。Swingle氏は「審議会の枠組みが、これ以外の組織にMPAを制定する権限を認めるとすれば、業界から不満が出るだろう」と警告した。
 
 MPAに好意的な企業からの意見もあった。Ocean Prowler LLCの総代理人であるJohn Wintherは、科学的調査と漁業資源管理原則に基づいたものであるとすれば、MPAもまた漁業資源管理のひとつの手段である、とし、管理すべき魚種がその海域で一生を過ごす場合にはMPAの指定は適切であると付け加えた。
 
 USCG長官のThomas Collinsは、原因がはっきりと特定できるある種のリスクに対処するためにはMPAの指定が適切であることに同意しながらも、次の2つの点に注意を促した。第一に、危険に瀕している種または生態系が、海洋と関連しない原因により脅かされている場合にはMPA指定には効果がない。第二に、新しい規制を採用する前に、それが執行可能かどうかを検討することが鍵となる。
 
 発表者の提言は、MPAに関連した科学的問題を解決するための予算の拡大から、新たにMPA指定を求める具体的な要請まで多岐にわたった。発表者は、様々なステークホルダーのグループがMPAの指定において果たすべき様々な役割について議論した。MPAの拡大を推奨している人々の大多数は、MPAを環境上害を与える(と彼らが考えている)経済的活動またはレクリエーション活動を制限する手段としてとらえている。
 
<矛盾する法規制>
 生物海洋資源のガバナンス問題に関する議論で、多くの発表者は既存の法的規則がしばしば矛盾しており、経済的目標及び環境保護の目標の両方を妨げ、法廷闘争を助長していると訴えた。法律上特定された義務が数多く存在することから、その履行が困難になっており、政府機関は訴訟の対象となり、漁業の現状に対応しておらず、予算不足であるとNOAAのHogarthは訴えた。漁業意管理委員会プロセスは委員指名の点でも審議の点でも過度に政治的になっていると、The H. John Heinz III CenterのSenior Vice PresidentであるMary Hope Katsourosは批判した。この政治化は国家政策と地元の利害の間の、そして利用者グループの間の、また議会による監督と施政の間のバランスを崩している、と付け加えた。
 
 多くの発言者が、提携と共同プログラムを、導入する制度をより強力に執行するための、または生物海洋資源のために現在制定される目標をより効果的に達成するための手段とみなしている。NOAAのHogarthは多くの発言者の見解を要約し、法律や規則の執行が管理制度の鍵を握っていると述べた。USCGと州の連携プログラムはこの方向で成果をあげている、とHogarthは結論した。法律や規則の執行は、新たな提携関係を活用しうる分野である、とジョージア州天然資源局のShipmanは同意した。
 
 しかし、現在の法の執行制度は大きな問題を抱えている。Swingleは、人員も予算も法規を執行し、また違反者に対応するのに十分ではないと述べた。James Loy USCG長官は、9/11のおかげで漁業関係法の執行におけるUSCGの役割が減じたことを認め、「いずれかの時点でもとにもどす必要がある」と認めた。港湾保安の重要性が拡大したために、漁業及びOPAを含む関連環境法の執行は大幅に減少した、とUSCGのJames Carmichael第7管区司令官もこれに同意した。
 
 連邦政府による法執行の問題を克服するために提案されたオプションのひとつは、海洋漁業及び生息域保護法執行における州の役割を拡大することであった。ミシシッピ州海洋資源局の事務局長Glen Carpenterは、この点で2つの可能性があると提案した。第一に、米国海洋漁業局(NMFS)と州の間で進行している合同連携法規執行の合意に対する予算を増額することにより、管理への分別のある適応と資源を涸渇させることのない商業漁業及びレクリエーション漁業を可能にすることである。第二に、リモートセンシング、GIS、GPSのような技術を連邦政府から州に移転することにより、漁業資源法及び生息域保護法の執行を助することである。
 
<ガバナンス権限のスコープ>
 本セクションは海洋の統治に関する現在の管轄と責任の所在を検討するものである。この中心的質問に答える過程で、多くの発表者は既存のガバナンス体制の有用性についての意見を表明した。
 
 商務次官のSamuel Bodmanは、ガバナンス問題は最大の難問である、なぜならば現行の政策は海洋問題を個別に扱っているからだ、と述べた。USCGのLoy長官は、現在の海洋政策の欠陥は、生態系全体ではなく、政府機関の部門別という発想に基づく管理から発生していると論じた。
 
 沿岸及び海洋の資源、区域、活動に影響を及ぼす数多くのプログラムや規則が存在するにもかかわらず、海洋資源管理と海洋空間利用における権限と責任の所在を確立する基本的原理またはプロセスはほとんど存在しない。米国は、海洋資源を分野別の規制をもとにして管理している、とWorld Wildlife Fundの絶滅の危機に瀕した種担当Vice PresidentであるWillam Eichbaum博士は結論した。
 
 ほとんど全員が、審議会の提言は明確で実行可能なものでなければならないという点で合意した。Loy長官は審議会に、「提言を作成する際には、それが実施可能であることを確実にするために政府諸機関による専門的見地からの検討をするように」要請した。
 
 米国内務省の鉱物管理局の地域局長であるChris Oynesは、海洋ガバナンスの改正には決定を下すためのはっきりとした命令系統と、海洋資源を利用する者の行為を管理するための規制体制を盛り込むべきだとした。
 
 フロリダ州環境局長David Struhsは、実際の活動だけでなく業績(パフォーマンス)の測定に焦点を当てるように促し、さらに、長期的な視点が必要であると付け加えた。港湾の貨物処理能力やサンゴ礁の健康についての進捗状況を判断するためには「目標を30年先に設定」する必要がある。
 
 何人かは意思決定の際にできるだけ科学的知見を利用するように求めた。EPAが意思決定をするうえで、利用できる最高の科学的知見を使用することに積極的でない点について、厳しい指摘も出た。海洋に関する意思決定における科学知識の利用拡大を求める声が圧倒的であったが、規制における意思決定過程で科学知見の利用があいまいであることを突いた発言もあった。審議会は米国の法律が科学的知見について国民に何を義務付けているかについて注意を払うべきであり、米国法が規制プロセスにおける科学的知見に対してどのようなアプローチをとっているかについて深く検討する必要があると、Preston Gates and Ellis, LLPのEric Lasheverが証言した。
 
 産官学の連携(パートナーシップ)を求める意見が多かった。NOAAのNOS副局長代理のMargaret Davidsonは、知的な影響力を拡大するだけでなく、経済的な影響力を拡大するためにもパートナーシップの必要性が高まるであろうと述べた。
 
 Transcom SedocoのCEOであるJ. Michael Talbertは、「基本的に必要とされているのは、明確な海洋政策目標を作成、実施することである」として、新たな法制度の構築と同様に、既存の法律による統治の改善に焦点を当てるように促した。
 
 新たな「海洋倫理」の確立を求めた意見もあったが、新たな海洋政策にとってそれがどのような意味を持つかについては明確にされなかった。「海洋についてグローバルな考え方をすることを許す海洋倫理が必要である」とNational Geographic Societyの客員探検家であり、Deep Ocean Exploration and Research, Inc.の創始者であるSylvia Earle博士は述べた。「この倫理は20世紀の陸地の倫理と類似したものである必要がある」と彼女は説明した。それは「海洋の価値を新たな方法で考えるために壁を越える倫理」であるべきである。
 
 環境保護団体Surfrider FoundationのDavid Revellもまた海洋倫理を培う必要について発言した。「海洋への脅威は、海洋保護区や私有財産権に関する議論、社会の長期的福利を考慮した会話で対応する必要がある」と説明した。
 

191979年のThe Magnuson Fishery Conservation and Management Act(1996年の改正によりMagnuson-Stevens Fishery Conservation and Management Actと改名された)により、米国の排他的経済海域が制定され、この海域の生物海洋資源を管理するために8つの地域漁業管理委員会が設立された。同法は主に、外国漁船による乱獲を防ぎ、自国漁船隊の発展を促進し、漁業従事者をより直接的に管理プロセスに結びつけることを趣意として制定されたものである。







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