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1-3. 意匠権
 意匠権はある製品の一部・全体の外観に関し適用され平面、立体の意匠を含む。しかし意匠権は物品そのものでなく、その意匠に適用される。英国及び欧州共同体域内における意匠権の保護方法は、登録、無登録を含め数種あり、それぞれの意匠権は以下に説明する通りである。
 
1-3-1. 英国登録意匠権
 英国登録意匠権制度により英国内における意匠は保護される。意匠とは製品の一部・全体の外観と定義され、その特性(輪郭、形状や模様、色彩、風合い、素材等)や装飾により構成される。製品とはコンピューター・プログラム以外の全ての工業、手工芸品を含む。従って、意匠権の応用範囲は広く、パッケージ・デザイン、装い、グラフィック・シンボル、また、二次元、三次元のロゴや形状を含む。
 英国の意匠権保護制度で登録可能となる意匠には新規性、固有性が必要条件である。
○新規性
 申請時点に同一の意匠が公開されていない場合、または既存意匠との共通点が重要でない細部のみに見られる場合、その意匠は新規であると見なされる。
○固有性
 申請時点で全体的印象が、既存のいかなる意匠が与える印象とも異なる場合、その意匠は固有性があると認められる。
 
 意匠権法は意匠図案家が意匠を公開し、市場に売り出すまで、12ヶ月の猶予期間を与えている。従って、申請時点を遡りその12ヶ月以前までに公開された意匠も新規性の基準対象となる。従って、意匠が公開済みであっても、英国の意匠権保護制度への登録から除外されるわけではない。
 意匠の作者が意匠権の保有者である。意匠図案家が被雇用者で、雇用期間中に意匠が創造された場合、意匠権の保有者は雇用主となる。保護が有効であるのは英国国内のみで、権利期間は登録意匠権の申請の提出日から25年間である。意匠権は所有者に意匠の使用に関する独占権を与え、その権利はその意匠を盛り込んだ、またはその意匠を応用した製品の製造、提供、使用、市場への導入、輸出入に及ぶ。
 
1-3-2. 英国無登録意匠権
 英国無登録意匠権制度で保護される意匠とは「ある物品の一部・全体の内・外部に存在するあらゆる形や構造の特徴」とされる。その物品が新規性を保有していることが条件であり、創造時点において該当分野で普及している意匠であってはならない。
英国無登録意匠権制度が保護しないものは:
○構成方法と構成原理
○他の物品の外観の一部を構成する物品の特徴(“一致が不可欠”な物品に関する除外)
○その物品が機能を果たすため、他の物品と接続、もしくはその周囲、内部に位置させる、もしくは立てかけるために必要な形や構造の特徴
○単に表面を装飾する意匠
 
 英国無登録意匠権の第一所有者は、以下のいずれかとなる:意匠図案家、依頼人、もしくは図案家が被雇用者であった場合は雇用主となる。原意匠が設計文書に登録された時点、または意匠に基づき物品が製造された時点で無登録意匠権は有効となる。保護期間は、意匠に基づいた物品が、発売、または借用可能となった時点から10年、もしくは初めてその物品が製造された年から15年のいずれか短い期間となる。権利は英国全域で有効である。
 英国の無登録意匠権所有者は、商業目的にその意匠を利用する占有的権利を保有する。
 
1-3-3. EC登録意匠権
 EC(欧州共同体)登録意匠権は、2003年1月に設定され、“OHIM”(Office for Harmonization in the Internal Market共同体域内市場調査庁)を通じて登録される。EC登録意匠として登録するには、その意匠が新規性、固有性を保有していることが必要である。これらの基準は英国登録意匠権と同じである。
 EC登録意匠権の第一所有者は、意匠の作者、被雇用者である場合は、雇用主である。権利は25年間付与され、EU全域で有効である。
 この権利はその意匠の使用に関する独占権を所有権者に与える。
 
1-3-4. EC無登録意匠権
 EC無登録意匠権は2002年3月6日に設定された。EC無登録意匠権が付与されるため意匠は新規であり、固有であることが条件である。基準は英国無登録意匠権と同じである。意匠の第一所有者は、意匠の作者、被雇用者である場合は、雇用主である。EC無登録意匠権は意匠の初公開日より3年間EC全域で有効となる。権利は、EC登録意匠権と同じである。
 
1-3-5. 船舶業における意匠権の適用
 英国の特許庁には船殻のデザインについて意匠登録されたものがいくつかある。例えば1992年に英国のMarine Data International Ltd.がコンテナ船の船殻のデザインを、1996年にノルウェーのIngeniorene Lund, Mohr & Giaever-Enger AS社が海上における石油掘削リグのデザインを意匠登録している。(ケーススタディー3を参照のこと)
 これにより船殻は明らかに意匠権の対象となることがわかる。
 
1-4. コピーライト
 コピーライトは“作品”を保護するものであって、何らかの永久的な形でアイディアや発明が具体化されていない限り、アイディア・発明を保護するものではない。コピーライトは以下のように分類される。
●著作物、戯曲、音楽作品
●芸術的作品
●映画
●録音
●放送
●印刷物、または、編集発行物
 
 最も一般的なコピーライト作品は著作物である。著作物とは音楽戯曲作品を除き、文字、音声、記号で表現されるすべての作品を意味する。従って、表、編集物、コンピューター・プログラム、コンピューター・プログラムの設計、及びデータベースを含む。コピーライト作品は無登録制で、その保護は作品を創作した時点で自動的に発生する。
 芸術品にもしばしばコピーライトが付与される。芸術的作品にはデザイン画、設計図、また、物品、製法、アイディアの図式的説明図が含まれる。
 コピーライトの保護を受けるには、作品は永久的な形を有し、オリジナルであることが条件である。オリジナルであるかどうかは作品の源を査証して判断され、その基準は作品の創作力や新規性でなく、作者が該当作品に自分の技能、労力、判断を展開したかどうかによる。
 コピーライトは作者の生存中、及び死後70年間にわたり有効である。作者が不明な場合は創作後70年、または(創作の70年以内に公開されたならば)公開後70年となる。コンピューターによって生み出された作品の権利期間は、創作後、50年となる。他のコピーライトの権利期間はコピーライトの種類により異なる。
 コピーライトの第一所有者は、作品の作者であるが、特別な合意のない限りにおいて作者が被雇用者である場合は雇用主が第一所有権者となる。コピーライト作品が依頼作品であった場合、依頼の取決められた状況及びその内容によっては、コピーライトの譲渡が伴うこともある。
 コピーライトは個人財産、動産として譲渡可能である。従って、本人または代理人による書面を介して譲渡出来るし、あるいはライセンス供与や使用料の請求等、いかなる処理も可能である。
 コピーライト保有者は、第三者がその作品の全体・一定以上の部分の複製(またはその作品に関連する他の行為)を禁じる権利がある。複製は直接的(例えばコピー機を使って複製する)、または間接的(作品の大部分を記憶により再創造する)な場合がある。コピーライトはアイディアの表現を保護するものであって、アイディア自体を保護するものではない(実際面で、この二つを明確に区別することは困難で、表現のどこまでが実質的にアイディアに関連するものなのかという判断に関しては、多くの訴訟が存在する)。コピーライトが保護するのは複製のみであり、従って第三者が同じアイディアを、複製することなしに表現した場合、コピーライト保有者は、第三者によるそのアイディア使用を禁止できない。これは、コピーライトが特許、意匠権(ある程度は商標)と異なる点である。特許、意匠権においては、保護対象となる技術を第三者が特許・意匠・商標の複製することなく独自に開発したような場合でも、権利保有者はその使用を制限することが出来る。
 
1-4-1. 作者人格権
 コピーライト保有者は該当作品に関し、コピーライト保護に付属する以下の権利を保有する:
●作品の著者であると認められる権利
●軽蔑的な扱いに対し異議を唱える権利
●誤って他人の作品とされた場合、異議を唱える権利
 
 これらは人格権と呼ばれ、作者による権利放棄は可能であるが、譲渡等の処理は認められない。
 
1-4-2. データベースのコピーライト
 欧州では、1997年にデータベースを保護する新しい制度が導入された。これにより、データベースにもコピーライトが存在すると確認され、その目的に於いてデータベースの定義が明確にされた。また、新しい種類の知的財産権(「データベースにおける権利」)が設立された。以下がその説明である。
 1997年の「著作権とデータベース法」において、データベースは以下のように定義される。
 「独立した作品、データ、または他の資料の収集物であり、
 (a)体系的、系統的に整理され、
 (b)各々の情報が電子通信、またはその他の手段でアクセス可能なもの。」
 従って、コピーライトの対象となるデータベースは、検索可能なデータの大部分を含む。これには、顧客リスト、取引先リスト、時間表、財政・技術に関するデータの編集物が含まれる。データベースのほとんどはコンピューター上で扱われるが、電子的形態をなしていることがデータベースの必要条件ではない。
 データベースのオリジナリティの基準は他の著作物と異なる。「データベースが有する情報の選択、またはその配列方法が、作者の知的創造を表している」場合、データベースはコピーライトによる保護を受けるのに十分なオリジナリティを有すると認められる。
 「作者の知的創造」という概念が導入されていることによって、この条件が他の著作物に求められる基準より高いかどうかは疑問である。ほとんどの場合データベースは特定目的を果たすための選択的な基準に沿って制作される。従って必要条件であるオリジナリティは本来的に満たされるはずである。しかし別の作業を行うなかで付随的にデータベースが制作された場合、「知的創造」が存在するかどうかは議論の対象となりうる。
 データベースにおける第一コピーライト保有者は、データベースの作者、すなわち、データベースを制作した人物である。被雇用者が勤務内にデータベースを作成した場合は雇用主がデータベースの第一コピーライト保有者である。ただし、データベースの作成が依頼された場合、第一保有権者は依頼者ではなく制作にあたった当事者となる。従って、データベースの作成、または、メンテナンスを第三者に依頼する際、第三者から、データベースのコピーライトに関する明確な譲渡証書を取得することが必須である。
 
1-4-3. 船舶業に於けるコピーライトの適用
 船舶に関連する設計図や資料は、コピーライトの対象である可能性が高く、コピーライトは、造船業に関する知的財産権保護のなかで、最も重要なものであろう。コピーライト作品、及び、コピーライト保護の例を、当レポートの2-2章において示した。
 
1-5. データベース権
 データベース権は、欧州のみで存在する知的財産権であり、EUデータベース指令96/9/ECにより設立された。
 データベース権は「データベースの内容の収集、確認、及び表示」にあてられた投資を保護するものである。データベース権の保有者は第三者がデータベース(もしくはその主要部)から、データを複製、抜粋することを禁じる権利がある。ここでも複製に焦点が合わされているため、第三者が自分のデータベースを独立して編成する場合、データベース権保有者に制限されることなく、そのデータベースを自由に使用できる。データベース権は創造性を含まないので、同権を得る条件は、コピーライトを得る条件ほど厳しくない。しかし、データベースの内容を収集、確認、表示するため、大量の投資(質、量ともに)が払われたことは証明する必要がある。
 データベースの制作者がデータベース権の第一保有者である。制作者とは、データベースの内容を収集、確認、表示するための投資のリスクを担い、イニシアチブを取った人物である。被雇用者であった場合、雇用主が制作のイニシアチブと投資のリスクを担った人物である可能性が高いため、大抵の場合、雇用主が制作者であると判断される。データベース制作を第三者に依頼したが、依頼人が投資し、イニシアチブを取った場合、第三者ではなく、依頼人がデータベースの“制作者”となり、従って第一保有権者となる。これはコピーライトの場合とは異なる。
 また、データベース権はその“制作者”が該当資格者である場合のみ存在する権利である。すなわちEEA(European Economic Area欧州経済領域)の国民、もしくはEEA内の居住者であることが条件で、法人の場合は、その活動がEEA内に組み込まれ、かつ、その運営の中心、事業の主要地域がEEA内である法人に限定される。これは注記すべき点である。
 
1-5-1. データベースの内容
 データベースに認められる権利には、データベースを構成する各々のエントリーに認められる権利は含まれない。エントリーが単語、数字のみで構成されている場合、コピーライトの保護対象として認められるに十分なオリジナリティに欠けるとみなされる可能性は高い。しかし文字による技術情報や調査報告の場合、各々のエントリーが別個のコピーライトを持つ可能性は高い。データベースの扱い方はそれを構成する各々の要素が有する権利によって異なる。従ってデータベースに付与される権利は、そのデータベースを構成する各々のエントリーに付与された権利に左右される。
 同様に、データベース内のデータが個人情報であった場合(すなわちそのデータによって現存人物を特定できるデータであった場合)、関連人物は適用可能なプライバシー保護法、データ保護法に沿った権利を有する場合がある。これによりデータをプロセスする方法が影響される可能性がある。EEA内で処理される個人データは、間違いなくこれに相当する。
 
1-5-2. 船舶業に於けるデータベース権の適用
 データベースは造船工程自体に物質的な面で直接影響を及ぼすことはないかもしれない。しかしデータベース権は造船所が保有するデータのうち、船舶性能データや取引先または顧客データその他のデータベース情報に関し適用される。またデータベース権はEU内のみで適用される権利であることも忘れてはならない。しかしコピーライトの項目で記載されたとおり、データベースはコピーライトによって保護されることも可能である。またデータベースの内容は秘密情報として保護対象となりうる。







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