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3-9. 日本の経済協力の可能性
 島間における貨物や旅客輸送の大部分が民間企業によって運行されているため、この地域では日本政府が大きな役割を果たせる分野は特にないと思われる。国有の船は保守点検が行き届き、この面においても特別な援助は必要とされていない。経済協力が有意義であると思われるのは以下の領域である。
 
(1)国有造船会社のSFL社への支援
 国有のSFLは、横付けで最大5,000GRTの船を取り扱える造船台を緊急に要している。同様の造船台がパプアニューギニアに設置され、その費用は約1000万米ドルであった。
 
 また、SFLは造船所内で特に溶接に関するトレーニングにおける援助を必要としており、日本にとって有益な協力プロジェクトであると思われる。
 
(2)域内海洋練習船
 2002年11月に開催された太平洋諸島海上輸送会議で、域内の海洋練習船をスバに設置し、すべての太平洋フォーラムの会員が使用できるようにすべきという提案があった。日本政府はこのプロジェクトに参加したいという意向を表明し、フィジー政府もこのプロジェクトの推進を切望している。
 
 ところが、フィジー周辺の太平洋諸国の一部の国から反対の声が上がっており、携帯できる練習船シミュレータ(ニュージーランドによる提案)による代替手段の方がより費用対効果に優れていると考える国もある。しかし、2003年5月に域内諸国を含めた海上輸送会議がフィジーで開催され、この提案に対して再度強力な支持が寄せられた。
 
 これは明らかに優れた協力プロジェクトであり、この地域の多くの国々から強力な支持が得られるものと思われる。
 
(3)ラウトカ近くの乾ドックと造船台
 また、ラウトカ近くの本島北側では、乾ドックと造船台を必要としている。観光用船舶のほとんどすべてがこの領域で運航しているが、この地域には修繕や保守点検用の施設が存在しない。これは大型プロジェクトではあるものの国有企業であるSFLと協力していく可能性が強く、またフィジーの観光用船舶や他の海運業に対するメリットは大きい。
 
4. キリバス共和国
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4-1. 概況
 太平洋の中心、ミクロネシアとポリネシアにまたがる350万km2にも及ぶ広大な経済水域を有する国で、南北の幅は800kmだが東西は3,200kmになる。キリバスはギルバート諸島、ライン諸島、及びフェニックス諸島の3つの地域に分かれているが、行政上はギルバート諸島とライン・フェニックス諸島の2つに分けられる。中心は共和国の西に位置するギルバート諸島で、総人口78,000人の94%が居住している。残りの6%は、総面積では48%を占め、かつ最大のサンゴ礁を有するクリスマス島にそのほとんどが居住している。中央に位置するフェニックス諸島には、カントン島に50人ほどが居住しているに過ぎない。キリバスの首都タラワは赤道の北約200キロにあり、オーストラリアのブリスベンとハワイのほぼ中間に位置する。
 
 1979年に英国より独立した。98年9月に総選挙が行われ、与党キリバス共同体党が勝利し、11月にはシト大統領が再選された。2002年11月に実施された総選挙では与党が苦戦し、続く2003年2月の大統領選挙ではシト大統領がかろうじて三選を果たしたものの、3月に不信任案が可決され辞任、議会は解散した。2003年5月に議会選挙が行われ、ついで7月4日には大統領にアノテ・トン議員が選出されたが、議会内では少数派に属するため、多数派工作を行い、ようやく8月中旬に組閣を完了した。基本政策としては、近隣諸国との経済関係強化や離島振興を実施している。
 
 ギルバート諸島の西に数100kmも離れた、非常に遠いバナバ島では、1979年まで大量の燐鉱石が採掘されていた。1979年の燐酸塩が枯渇してから、キリバスにとっては広大な200海里経済水域が唯一・最大の資源となっている。現在、同国経済は、コプラや魚類の輸出、遠洋漁業国(特に日本)に対する漁業許可証の発行、及び航洋船の船員として雇われたキリバス人からの送金、国際援助に依存している。しかし、コプラと魚類の収穫は、天候等の要因により大きく影響を受けるため経済状況は安定していない。政府は旧宗主国である英国からの財政援助と、燐鉱石枯渇後に備え設立していた収入均衡準備基金等により国家財政を支えてきたが、英国からの経常予算に対する財政援助が86年に打ち切られたことから、援助源の多元化を図っている。
 
 日本にとっては、キリバスが広大な200海里経済水域を有しており、日本のかつお・まぐろ漁業にとり重要な漁場になっていること、2000年2月に宇宙開発事業団とキリバス政府の間でHOPE-X(宇宙往還技術試験機)着陸実験計画のため、キリバスのクリスマス諸島の土地利用契約が締結されたこと等関係は深い。
 
一般事情
1. 面積 720km2(対馬とほぼ同じ)
2. 人口 9万4,700人(2002年世銀)
3. 首都 タラワ(2.6万人)
4. 人種 ミクロネシア系(98%)の他、若干のポリネシア系及び欧州人が居住。
5. 言語 キリバス語及び英語が公用語
6. 宗教 ローマ・カトリックとプロテスタントが主な宗派
政治体制・内政
1. 政体 共和制
2. 元首 アノテ・トン大統領(Anote Tong)
3. 議会 一院制、42議席(内2名は法務長官及びランビ島評議会代表者)、任期4年
4. 政府 (1)首相なし
(2)外相アノテ・トン(大統領職と兼任、03年8月就任)
経済
1. 主要産業 漁業、コプラの生産
2. GDP 76百万豪ドル(00年キリバス政府資料)
3. 一人当たりGDP 875豪ドル(00年キリバス政府資料)
4. 経済成長率 1.6%(01年世銀)
5. 物価上昇率 0.61%(99年キリバス統計局)
6. 総貿易額 (99年キリバス統計局)
(1)輸出 14.4百万豪ドル
(2)輸入 62百万豪ドル
7.貿易品目(96年) (1)輸出 コプラ(53%)、なまこ(21%)、観賞用魚(18%)
(2)輸入 食品(34%)、輸送機器・機械(18%)、工業製品(14%)
8. 貿易相手国(00年) (1)輸出 日本、バングラディッシュ、ブラジル
(2)輸入 豪州、日本、フィジー
9. 通貨 豪州ドル
10. 為替レート 1豪ドル=0.0674米ドル=79.99円(03年6月現在)
二国間関係
1. 政治関係 (1)1979年7月12日のキリバス独立式典に大野明衆議院議員を派遣し即日同国を国家承認。
(2)1982年11月、バイテケ初代駐日大使(移動大使)が我が国に信任状を捧呈。
(3)1983年4月、在京キリバス名誉領事館開設。
2.経済関係 (1)対日貿易(01年、大蔵省通関統計)
(イ)貿易額
 輸出 1,579百万円
 輸入 911百万円
(ロ)主要品目(%)
 輸出 魚介類(まぐろ、かつお)
 輸入 機械類、自動車
(2)我が国からの直接投資 1件 35千円(93年度)
(3)政府間漁業協定(78年発効)
3. 在留邦人数 44名(02年10月現在)
 
4-2. 政府の海上輸送に関する方針
 2003年7月4日に行われたキリバス大統領選挙で、アノテ・トン氏が大統領として選出された。新政府は、同国の持続可能な経済発展の促進をめざし、前政権の経済振興政策を維持すると思われる。これらの方針は以下の問題を克服することを目的とする。
 
(1)限られた天然資源(特に開発用地や淡水)
(2)狭小な国内市場のため、経済的生産の可能性が乏しいこと
(3)地理的に島が広く点在し、人口もまばらであること
(4)主要な国際市場への交通費が高く、手配も困難
(5)ビジネス概念や慣習に対する理解や経験に乏しい社会的、文化的システム
(6)労働者の経済発展に必要な教育や職業技能の欠如
(7)大型投資の吸収能力が乏しいこと
 
 こうした制約があるにもかかわらず、キリバスにはいくつかのユニークな利点がある。
 
(1)所得均等化準備金(RERF)には、多額でよく管理された外貨準備がある
(2)過去の健全な財政管理
(3)社会の安定と家族の幸福を促進する、根強い伝統的文化
 
 情報通信運輸省の海事部は、政府の法的政治的枠組みに従って、海事管理及び制御的機能を果たす責務がある。同省の管理下にある公的機関及び国有企業には、キリバス港湾局、キリバス・シッピング・サービス社(KSSL)、及びベシオ・シップヤード社(Betio Shipyard Limited)等がある。
 
 海事部の主な業務はキリバスで運行する登録済み外国籍船及び国内船の規制と取締まり、船員証書の発行、及び国内全島における効率的かつ安全なカヌーや船の通路の建造/浚渫/保守点検である。
 
 キリバス港湾局は同省の国家機関であり、キリバス内のすべての港湾設備の管理、運営を行っている。
 
 海洋資源はキリバスで最も経済発展が期待できる分野である。天然資源開発省(MNRD)は、この分野の経済発展の促進を担っている。キリバスの排他的経済水域(EEZ)は世界で2番目に大きい。従って、海洋資源は大規模な外為収益を生み出し、大きな産業基盤を形成する可能性を持っている。
 
 同国の海事産業は主に次の4つの分野に分かれる。
 
(1)漁業許可料
 キリバスの排他的経済水域で運航する外国漁船から納入された漁業許可料。2000年に納入された許可料は合計約1,720万豪ドル。これは「エル・ニーニョ」現象により、1998年の4,000万豪ドルから大きく減少している。これが最大かつ唯一の政府収入源であるものの、気候変動が毎年の歳入予測を困難にしている。
(2)海草生産
 1年あたりの海草生産は約1,200tで、世界市場に向けて輸出されている。生産量は過去5年間で倍増し、これに関わる企業はこの産業を多角化させ拡大していくために、他の製品化を検討している。
(3)活魚・観賞魚の輸出
 香港への活魚の輸出やハワイヘの観賞魚の輸出により、離島ではより多くの収入が確保されるとともに、日本への海洋製品の輸出価格が上昇してきている。さらに国内市場及び日本へ輸出するためのタコの捕獲がかなり増加した。
 
 また、キリバス政府は、日本の民間企業の音代漁業と合弁で、キリバス・アンド・オトシロ漁業(KAO)を設立した。このプロジェクトでは、音代漁業が巻き網船をKAOに売却、年間7〜8航海を行い、漁獲した魚を日本やフィリピン等に水揚げしている。
 
 同社の筆頭株主は同国政府であり、方針の策定及び財務実績を監視している。同社は漁業活動における組織化及び管理を管轄している。漁業活動においては、過去に一般的であったマグロ漁の形態、すなわち一本釣り漁業よりも巻き網漁法や延縄漁業が中心となってきている。
 
 海運産業の開発に関する総合的な中期政策は以下の通り。
 
(1)民間企業による海産物の捕獲・販売活動の促進
(2)商品化の可能性が高く、開発支援の対象となる海産物の特定・選定
(3)離島においても捕獲、販売が可能な商品を選定、支援
(4)キリバスにおける外国船による魚の積み替えの促進と、これらの船舶による沿岸施設の利用率を向上
(5)養殖真珠及びサバヒー(ミルクフィッシュ)加工産業開発計画の完成
 
 キリバスにおける魚介類の積み替え促進計画はその後進展がない。現在、同国には必要な施設がないため、インフラ整備への多額の投資が必要と思われる。







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