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1. EU法で認可されている造船・船体修理・改修援助措置のうち韓国の国家援助分類に該当するものの分析
 当調査の前半は韓国草案に分類定義されている援助措置に該当するEUの援助措置を検討する。これらは主に研究開発援助6、加盟国政府が造船契約に船価助成を提供する直接助成7、さらに「企業閉鎖とリストラ援助」にあたるEU内の助成、融資、債務免除8等の援助を含む。
 
はじめに:定義の要素
 EUにおける造船・船体修理・改修産業に対する国家援助は1998年6月29日制定の規則1540/989によって規制されているが、この規則にはEU法で認可される直接援助の全種類が列記されている。EEA協定10に基づいてこの規則はノルウェーでも適用されている。この規則は「自力推進の商業海洋船舶」を対象としているが、これは自力航海を可能とする推進力と操縦力を持ち合わせた公海用の船舶のことを指す。
 
 この定義には以下の船舶が含まれる:
・1,000gt以上の旅客または貨物の運搬用船舶
・100gt以上の特殊用途の船舶11
・365kW以上の曳航力を所有するタグボート
・100gt以上の漁業船のうちEU外への輸出用船舶
・上記船舶の未完成船体で海上に浮かび、可動性のあるもの
 なお、海軍船舶は規則の範疇に含まれない。
 
 この規則で言う「船舶の建造」とは自力推進の商業海洋船舶のEC内における建造のこと、「船舶の修理」とはこれらの船舶をEU内で修理・修復すること、そして「船舶の改造」は1,000gt以上の自力推進の商業海洋船舶の改造のことを指す。船舶の改造に関しては貨物設計、船体、推進システムまたは旅客設備の根本的な改造が行われる場合にのみこの規則が適用される。
 
 規則は以下の7種類の援助を取り上げている。
 
1-1 加盟国政府による直接的または間接的助成:EUにおける造船契約に関する船価助成
 造船契約に関する船価助成とは加盟国政府による資金の直接供与を指し、多くの場合、造船所が顧客と交わす造船契約の受注価格を下げることを目的とした助成供与の形を取る。従って、この種の援助は韓国分類の種類1(a)に該当する。しかし、以下で説明するように、この種の援助は造船助成に関するEUと韓国間の現行の争いの中で防衛メカニズムとしてWTOの規約に従って実施される以外は既にEUでは禁止されている。
 
造船契約に関する船価助成が容認されていた1990年代までの状況
 1970年代に入ると世界の造船産業の設備過剰と欧州造船産業の構造改革の必要性がEUで検討されるようになった。さまざまな指令の主な規定は新しい造船所の建設援助を禁止し、既存の造船所に対する投資援助が加盟国の造船能力を増大させるものである場合はその援助も禁止した。しかし、一方で、これらの指令は造船産業の経済的・戦略的重要性や世界経済の危機的状況を考慮して造船産業に対する援助を継続する必要のあることを認めるものであった。
 
 造船援助に関するEUの政策では1980年代末までこの路線が維持され続けた。1980年代末には船価助成に対して初めて上限規制を設けることが決定された。これによって援助政策の中でも船価助成と構造改革の支援のためには必要と判断されたリストラ援助の両者が区別されることになった。
 
 1987年1月26日制定の理事会指令87/167/EEC及び1990年12月21日制定の理事会指令90/684/EECは個別の造船契約に関する船価助成の共通上限を設定した。この上限は助成金支給前の契約価格に対するパーセンテージとして定められた12。その他の一部の助成(損失補償は含まれるが開発援助の助成は含まれない)も同じ上限規制に従うこととなった。これ以降、欧州委員会は定期的(12ヶ月に一度)に見直しを行い、船価助成が完全に廃止されるまで上限を必ず少しずつ下げる方針を取った。
 
 当時、他の援助はほとんど規制されず、船価助成の他には投資助成だけが規制の対象となっていた。投資助成に関しては1970年代以降、加盟国の造船能力を増大させる効果のある場合は禁止されていた。また、同じ時期にEUは造船所の閉鎖や研究開発に対する援助を許可するようになった。
 
 しかし、船価助成に関する規制の適用には幾つかの特例が許されていた。特定の造船契約の助成上限はその造船契約の調印日に有効な上限率を取ることが決められていた。契約が交わされてから3年を越える工期の後に納品された場合は納品から逆算して3年前の上限が適用された(上限が毎年下げられているためこの場合、助成額が減ることになる)。しかし、その造船事業が技術的に高仕様なものである場合や造船所の作業計画に予測不可能な問題があったために工期が延びた場合、欧州委員会は契約締結当初の上限の有効性を延長することができた。
 
 スペイン、ポルトガル、旧東ドイツ並びにギリシャは1990年代の初頭にこの特例の恩恵を被った。
 
 一方、EU加盟国と欧州委員会は1994年にOECDの造船援助に関する協定の締結13を支持、1995年にはEU内での船価助成の廃止を目標とする理事会規則14が制定された。しかし、OECD協定が執行されなかったため、1990年の指令で定められた規則が1998年12月31日まで引き続き適用されることになった。
 
 しかし、1998年になるとEUは根本的な改革を決定、造船に対する国家援助に関するそれ以降の基本原則を形成する新しい規則を導入した。
 
造船援助に関する新規約を制定した1998年6月29日の理事会規則(EC)No1540/98
 規則1540/98の制定を以て造船に関するEU国家援助政策は転機を迎えた。この規則の最大の特徴は船価助成中心の政策から他の援助に重点を置いた政策への切り替えを示したことにある。造船産業の援助政策を徐々にEU内の他の産業部門並みに調整することを目標としていた。1998年の規則は船舶の建造と改造(修理は含まれない)の契約に関する助成の上限を2000年12月31日までは9%15に設定した。
 
 従来通り、個々の助成の最高限度率は契約の調印当日に有効なものが適用されることになっていた。従って、工期3年を原則とすると、EUの船価助成が認められている船舶は2003年12月31日までに納入されなければならない。
 
 以前の規定同様、欧州委員会は工期3年の延長を特例的に認める場合がある。それは、「特定の造船事業が技術的に高仕様なものである」、または「外的事情に起因する予測不可能な例外的状況が造船所の作業プログラムに大きな混乱をもたらした」16ために工期が延びた場合に限る。しかし、2000年3月16日に欧州第審裁判所はこの特例許可は(造船契約の助成を完全になくすという)1998年規則の基本理念より逸脱するものであるため、「限定的に」適用されなければならないという判定17を下した。
 
各国の事例
 国家レベルでは、1998年規則に定められた、つまり1999年18から2000年12月31日まで認められた援助を、幾つかの加盟国が積極的に利用した。ギリシャ、ドイツ、フィンランド、ノルウェー及びスペインはいずれも欧州委員会による予備審査によってそれぞれの助成計画を認可され、実施している。これらの助成計画はいずれも2000年12月31日に終了した。
 
 2001年以来、EUにおける造船契約に関する造船所の船価助成は禁止されてきた。しかし欧州委員会が特例的に3年工期の延長を許可する場合がある。2001年以来、委員会は5つの案件に関して3年工期を延長することを許可している。この内訳は2002年10月にデンマーク製船舶2隻19とドイツ製船舶1隻20、2002年11月にはフィンランド製船舶1隻21、2003年1月にもやはりフィンランド製船舶1隻22、そして最後に2003年5月にはイタリア製クルーズ船1隻23となっている。
 
 しかし、2002年10月24にスペインが自国の造船所が受注した3隻の液化天然ガス運搬船の工期延長を申請したときに欧州委員会は迷いを表した。スペイン側はこれらの船舶が技術的に高仕様なものであると主張した。欧州委員会は予備審査で問題の液化天然ガス運搬船の技術仕様を検討し、他の造船所が同類の船舶を建造するのに要した時間と比較した。委員会はこの予備審査の結論として助成の延長(実質的には2004年まで)はEU法に適合しない恐れがあるとして「正式審査」を開始した。2003年7月9日25に委員会は工期を2004年まで延長することは合法的であると結論、その理由としては問題の船が技術的に高仕様なものであること、EUの他の造船所の工期も同等のもの(アジアの造船所より長い)であること、そして液化天然ガス船建造に関するスペインの造船所の未経験を挙げた。
 
 同じ日に、欧州委員会はスペインのある造船所が3隻の液化天然ガス運搬船の造船に関して顧客に約束した3件の納品保証の内容26に疑いを表した27。委員会は予備審査を開始してこれらの保証内容が国家援助の要素を含むものであるかどうか審査することを決定した。
 
 また、イタリアに関する別の例では4月に欧州委員会が正式審査を開始してイタリアの造船保証基金28に国家援助が利用されている疑いを調べることとなった。この基金はまだ運用を開始していないが、イタリアの造船所における船舶の建造と改造のための融資リスクを保証することを目的としている。造船規則(1540/98)によると船舶の建造または改造のために造船所、船舶所有者、または第三者に直接支給される助成は造船産業に対する直接的または間接的援助と見なされる。従って、イタリアの基金に含まれるいかなる助成も造船活動に従事する事業に対する助成と見なされる。委員会が現在、審査しているのはこの点である。
 
韓国からの競争に対する防衛手段として最近導入された改定事項
 
造船に関する韓国とEUの対立
 韓国の造船所が不正な競争行為を利用したり助成を隠蔽しているという訴えが幾つかの欧州諸国によって提出されたのを受けてEUと韓国は2001年6月22日に世界の造船市場の設備過剰を改善する協定事項に合意、正式に調印した。欧州側の視点から見るとこの合意は韓国の赤字造船所に対して韓国政府が間接的・直接的に介入することを一切、禁ずるものである。両側とも国際的に認知されている経済・会計原則に基づいて造船所が提示する価格が実際の市場状況を反映することを保証することに合意した。また、この協定事項には両側が取り上げるいかなる問題にも対応できる臨時協議機構が盛り込まれた。
 
 しかし、この合意書の調印以来、両者の関係は実質的には前進していない。韓国の造船所が生産コストよりも低い価格を付けているという欧州委員会の疑念は晴れないままである。2000年11月には欧州の造船連合(CESA)が訴えを起こし、EUのTBR(Trade Barrier Regulation: 貿易障壁規則)29の調査が開始された。この調査の結果、コンテナ船及び化学薬品タンカーや製品タンカーの市場に関する違反が証明された。これを受けて委員会は欧州理事会の合意を得て2002年に韓国の不公正な競争行為をWTOに申し立てた。同時に、理事会は臨時の防衛メカニズムを採用したが、これは欧州の造船所に対する助成援助の一部を再導入するものであった。
 

6韓国草案の分類の支援措置no.12。
7韓国草案の分類の支援措置no.1。
8韓国草案の分類の支援措置no.1(a), (c), (d), 及び4(a)。
9造船に関する新規則を制定する1998年6月29日の理事会規則(EC)No.1540/98, OJ L202, 1998年7月18日, p.1-10。
10欧州経済地域(EEA: European Economic Area)協定。
11例えば砕氷船や浚渫船等。
12この上限は欧州委員会がEUの造船所が優位を占める市場部門を考慮しながらEU内で最も優勢な造船所の価格構造とEU外の主な競合相手の価格の差額を参考にして制定する(指令90/684/EECの条項4(2))。
13船舶製造・修繕業における正常な競争条件に関するOECD協定、1994年。
14造船援助に関する1995年12月22日制定の理事会規則(EC)No3094/95。
159%の上限は1,000万ECU以上の契約価格の場合。これ未満の契約価格の場合の上限は4.5%に設定された。
16造船援助に関する規則1540/98の条項3(2)(2)。
17判例T-72/98, アスティレロス・ザマコーナSA対欧州委員会。
181998年規則は1999年1月1日より有効となった。
19判例N99/02, OJ C 262, 2002年10月29日, p.5。
20判例N843/01, OJ C 238, 2002年10月3日, p.14。
21判例N468/2002。
22判例N468/02, OJ C 15, 2003年1月22日, p.5。
23判例N751/02, OJ C 108, 2003年5月7日, p.5。
24援助C33/2002(旧N731/01), LNGタンカーの3年工期の延長、EC条約条項88(2)に準じた意見提出の要請、OJ C 238, 2002年10月3日, p.2-6。
25IZAR社による3隻のLNG船の造船契約に関する生産助成を予定するスペインの国家援助に関する2003年7月9日の委員会決定、OJ L 252, 2003年10月4日, p.18-22。
26船の納品が契約通りに行われなかった結果として顧客側に発生するかもしれない全ての直接・間接経費を造船所が保証するという内容のもの。
27措置C47/03(旧NN 49/03)、スペイン、LNG運搬船3隻の納品保証、EC条約条項88(2)に準じた意見提出の要請、OJ C 209, 2003年9月4日, p.24-28。
28援助C28/03(旧N371/01), 造船融資の保証、EC条約条項88(2)に準じた意見提出の要請、OJ C 145, 2003年6月21日, pp.48-53。
29TBRは国際的な貿易規則違反の疑いが訴えられた場合に、欧州委員会に審査を義務付けるEUの法的手段である。







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