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4.5.2 Galileo衛星プロジェクト
4.5.2.1 Galileo衛星プロジェクトの概要
 欧州連合(EU)は、欧州宇宙局(ESA)と共同で、米国のGPS(Global Positioning System: 全地球測位システム)、ロシアのGLONASS(Global Orbiting Navigation Satellite System)に続く、第三のGNSS(Global Navigation Satellite System: 全世界的衛星航法装置)となるガリレオ衛星を、2008年までのフル稼動を目標に開発を進めている。
 
 ガリレオ衛星プロジェクトは、開発・検証フェーズ(2002〜2005年)を経て、2006年から計30基の衛星(サービス用27基、スペア3基)を順次、高度2万2,316km上空に打ち上げる予定。加えて地上局を設置する。
 
 EUはプロジェクト費用を総額32億ユーロと見積もっている。これは高速道路125km分の建設費用に相当し、EUはガリレオが決して高くないプロジェクトであると主張している。あるレポートによれば、ガリレオ衛星プロジェクトは欧州内に10万人以上の雇用を創出し、年間90億ユーロのサービス及び機器ビジネスが期待できるとしている。
 
 ガリレオは、EU、ESA、欧州投資銀行、民間企業の共同出資(Joint Undertaking)プロジェクトとなる。民間企業の参加に関しては、EUは大企業の最低出資額を500万ユーロ、中小企業の出資額を25万ユーロとしている。2003年10月には、ガリレオ・プロジェクトの運用・マーケティング部門参加への公募が開始された。2004年半ばまでには、参加するコンソーシアムが選ばれる予定である。
 
図:ガリレオ・プロジェクトの組織
(出所:EU欧州委員会)
 
4.5.2.2 航海分野でのガリレオの実用方法
(1)ナビゲーション:天候に左右されない海洋、沿岸、港湾等での航行を実現。
■遠洋航海:遠洋航海においてガリレオとGPSの組み合わせは、測位の正確性を向上させ、安全航海に役立つ。また、IMO規制関連では、現在のGPSに加え、ガリレオがAISやVTSのデータ源となり、信頼性向上に寄与する。
■港湾内での操船:特に悪天候時の入港時及び港湾内での操船に役立つ。
■内陸水路での操船:幅の狭い水路、運河等、高度の正確性を要する航行に特に役立つ。
(2)サーベイ及びエンジニアリング:多くのインフラを必要とせず、海図作成、海底パイプラインやケーブルの敷設、海底地質調査に役立つ。また、ガリレオは高緯度でも使用可能であり、砕氷船は、氷の厚さを測定し、航路を決定することができる。
(3)科学調査:移動式ブイを利用した潮流調査等の科学、環境調査にも役立つ。
(4)捜索・救命活動:現行のCOSPAR-SARSATシステムには数キロの誤差があり、警報もリアルタイムで発信されない。ガリレオSAR(Search and Rescue)サービスは、ほぼリアルタイムの警報発信と誤差数メートル以内を実現する。
(5)ビジネスヘの利用:漁業、船舶管理、貨物のモニタリング等の効率化に役立つ。
 
4.5.2.3 ガリレオ衛星の利点
 EUは、ガリレオ衛星が軍事目的で開発されたGPSやGLONASSと違い、民間利用のために開発された衛星システムであることが最大の利点であると強調している。
 
 米国国防総省が管理・運用するGPSは、アフガニスタン攻撃やイラク戦争で、精密誘導爆弾投下に利用された。また、2003年春のイラク戦争時には、湾岸地域で米軍が故意にGPSの情報を操作していたとの報告が、地域を航行中の一般船舶から出されている。位置情報送信の停止やエラー・メッセージではなく、故意に間違った情報が送信されるため、航海士は十分な注意を要する。
 
 現在船舶を含む民間ユーザーは、米国防総省のGPSサービスを無料で利用しているに過ぎず、上記の例のように、国防総省は軍事上の理由でGPSをいつでも中断することができるため、サービス継続性の保証ない。完全民間運用のガリレオ衛星には、このような継続性に対する不安はなく、常に安定したサービスが期待できる。
 
 また、ガリレオにはユーザーに対してエラーを知らせる機能があり、信頼性が高い。また、GPSと違い、高緯度地域でも受信可能である。
 
4.5.2.4 GPSを補完するシステム
 GPS技術を基礎とするガリレオは、GPSと同等もしくはそれ以上の正確性を有する。EUは、ガリレオをGPSと競合するが、同時にGPSを補完するシステムであると位置付けている。
 
 EUは、現在米国政府といくつかの周波数の共有に関する交渉を行っている。将来的には、ユーザーはひとつの受信機でGPS、ガリレオ両システムの信号を受信することができるようになり、何らかの理由でひとつのシステムが利用できない場合でも、測位機能を失うことはない。もちろん現在のGPS受信機ではガリレオ信号を受信できないが、いずれにせよガリレオが稼動する2008年までには、現在のGPS受信機は旧弊化している可能性が高い。
 
 ガリレオはGPSと同様、ベーシック・ユーザーに対しては無料でサービスを提供する。また、ガリレオは、現行のGNSSシステム(GPS、GLONASS)以外にも、GSMやUMTS等の通信サービスと組み合わせることが可能である。このような付加価値サービスに関しては今後詳細が明らかになるであろう。
 
 EUは、ESA及びEurocontrol(欧州航空安全機関)と共同で、既に1993年よりGPSとGLONASSの欧州におけるサービスを改良するEGNOS(European Geostationary Navigation Overlay Service)プログラムを実施しており、GPSシグナル数増加、DGPSの利用、継続性に関するメッセージ追加等の成果をあげている。EGNOSプログラムの成果は、ガリレオ衛星にも組み込まれ、GSPを補完するサービスとなる。
 
 しかし、米国政府は欧州独自の衛星プロジェクトに危機感を持っている。ガリレオはGPS技術とGPSが開拓した市場を利用することができ、GPSとの互換性を確保する必要もない。最新の技術を持つ信頼性の高い民間用システムとしてGPSの強力な競合相手になる可能性は高い。
 
 また、ガリレオの採算性確保のために、EUが欧州や同盟国に対してガリレオの利用を義務化することを危惧しており、米国政府内には、対抗手段として自国の同盟国(日本、インド、ブラジル等)を中心にGPSを基盤とする地域システム構築を促す声もある。
 
 しかし、既にカナダ、インド等もガリレオ衛星プロジェクトヘの賛同の意思を表明している。また、2003年10月には、中国がガリレオ参加に関する契約をEUと締結し、2億ユーロ程度のプロジェクトへの出資を行う可能性がある。契約締結に先駆け、2003年9月には、北京に「China-Europe Global Navigation Satellite System Technical Training and Co-operation Centre"(CENC)」が設立され、EUと中国は衛星事業での協力関係を強化している。
 
 米国では、ガリレオ衛星プロジェクトへの民間企業参加に関して、欧州企業優先で募集が行われ、米国企業に不利になるのではないかとの声もある。この点に関するEU側からの言及はない。
 
 今後、ガリレオに対抗してゆくため、米国政府はGPSの改良、近代化計画を加速すると予想される。そのため、ガリレオ稼動が予定よりも遅れたり、性能に問題があった場合には、ガリレオの優位性は低下する可能性も残されているが、いずれの場合でも欧州主導のガリレオ衛星が米国GPSの有効な代替手段となることは確実である。
 
おわりに−システム化の方向性
 現在市場化されている航海機器システムINS、IBSは、主要各メーカーとも基本機能が出揃い、技術的には横並びの感がある。各社とも、レーダー、ECDIS、コニング表示画面等が切替可能なディスプレイを採用し、単なるモジュール機器の集合体ではなく、統合されたシステムとしての方向性を強めており、操作性も向上している。今後もシステムの自動化、機能集約化の傾向が強まり、船橋上の航海機能に加え、他の船舶内の主要機能を少人数で集中的に、また安全に管理できる総合的なシステムに発展していくことが期待される。
 
 システム化は、情報の共有化でもある。今後、現在使用されているモジュール機器の多くは、独立した機器として存在するのではなく、そのセンサー機能がシステムに統合されて行くことが予想される。現在は冗長性や安全性の確保等の規制面での制約があるが、技術的に統合は十分可能であり、追加コストなしにシステムの多機能化、小型化を実現することができる。
 
 また、今後のシステム化は、機器間の情報の共有、及び船陸間の情報の共有だけではなく、そのユーザーである人間を統合されたシステムの要素「ヒューマン・エレメント」として捉え、機器と人間の間の情報共有、交換を円滑に行うことができるシステム構築が課題である。そのためには、システム設計時に人間工学的な配慮を加え、人間の弱点や限界を考慮したシステムと人間のインターフェイス方法の実現を念頭に置くべきであろう。
 
 競合が激化する中でシステム製品の差別化を図るためには、メーカーはステークホルダー・アナリシスを行い、また規制当局と協働し、業界の需要動向及びユーザー・ニーズを迅速かつ的確に捉えることが重要である。
 
欧州の主要航海用情報機器メーカーの概要
 他産業と同様、航海機器業界でも、企業再編、また、特に欧州企業間及び欧州企業と米系企業間の国境を越えた企業提携、買収・合併が行われており、グローバル化が進んでいる。
 
 近年、欧州の伝統的な航海機器メーカーが米国資本に買収、または吸収合併され、欧州内の製造・営業拠点は残しながらも新たな米系総合航海機器企業グループとなった例もある。(Sperry Marine、Raytheon等)
 
 このため、特定の企業を純粋な欧州の航海用情報・電子機器メーカーとして位置付けることは困難になりつつあるが、本調査が対象としている欧州資本の企業で、INS、IBSを開発・製造している主要メーカー5社(グループ)の概要を以下に添付する。
 
●SAM Electronics(ドイツ)
●Kongsberg(ノルウェー)
●Kelvin Hughes(英国)
●Transas(ロシア)
●Consilium(スウェーデン)







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