5-4 マルチモード輸送の円滑化
貨物・乗客の輸送には、船舶・航空機・鉄道・道路・パイプライン等幾つかの輸送モードが使われる。各モードの間には、両者を結び付ける鉄道・道路・パイプラインの枝線、荷役機械、コミュニケーション技術が介在している。これらはマルチモード輸送円滑化の為に生産性が高く、モード間移送の時間とコストを最小とするものでなければならない。
(米国西岸ランドブリッジの現状)
アジアと米国東部或いは中西部との間の物流に関しては、現在主流の西岸諸港から鉄道による輸送が、最もコスト安で信頼性も高いという概念が変わりつつある。最近東岸諸港でパナマ運河経由の貨物が多くなっているのは、これは西岸諸港のコスト高、労働問題、鉄道の信頼性低下等が原因である。上海からパナマ運河経由東岸揚げと西岸経由を比較した場合、時間的には西岸揚げの方が5日間早い(シンガポール発だと同じである)が、コスト的にはコンテナ当たり$300も安いというプロバイダーも存在する。また、海運会社によってはパナマ運河経由を勧める為に魅力的なレートを出しているところもある。
このような状況の変化を踏まえ、Dallas Treeというチェーンストアは、西岸諸港を利用するのはカリフォルニア、オレゴン、ワシントン、ネバダ諸州のチェーン店に送る貨物のみとし、他は全て東岸諸港を利用している。また、2002秋の西岸における労働争議はこの傾向に拍車をかけ、ウオール・マート、ターゲット、ホームデポ等のチェーン店がノーフォーク港の近くにディストリビューション・センターを建設中である。
これは、ロジスティックスチェーンの選択が、その一つの構成要素の劣後化や或いは優位化によって、替わり得るという証左である。船舶輸送は、それ単独ではロジスティックスチェーンとして完結しないため、例えばコンテナ貨物であれば、鉄道やトラック、或いはその両方と組み合わせられなければならない。1990年以降鉄道貨物は高い伸びを示しているが、一方でその能力の限界からサービスの低下が深刻な問題となっており、これにより米国西岸ランドブリッジのようにMTSもまた大きな影響を受ける可能性がある。
(鉄道輸送の現状と円滑化)
1980年代、トラック産業と鉄道はともに規制緩和されたが、トラック産業は素早く質の高いサービスを顧客に提供する体制を作り上げた。製造業は部品のジャスト・イン・タイム補充、小売業は在庫のジャスト・イン・タイム補充を重視し、ドア・ツー・ドア輸送が可能であるトラックは鉄道から多くの高レート貨物を奪った。その後鉄道会社の合併と、それによる人員削減は、1990年代以降鉄道産業の見かけ上の生産性を大きく向上させたが、一方で鉄道のサービスを更に低下させた。
例えば1995年西部でSanta FeとBurlington Northernが合併し、BNSFが誕生した。この合併では、両社のコンピューター・システムの共通化が遅れたため、荷主は貨物がなかなか目的地に着かないことに不満を述べた。さらに、1997年にSouthern PacificとUnion Pacificが合併しUPが誕生したが、この合併により特にヒューストンの化学品の荷動きに大きな問題が発生し、その影響は西部全域から東部にも広がった。一方、東部では、Norfolk SouthernとCSXがConrailを分割買収し、やはりサービスは低下したといわれている。現在米国の鉄道貨物会社は、上記4社(BNSF/UP/NS/CSX)とKCSの5社となった。
レートの高い貨物を殆どトラックに奪われ、バルク・カーゴやコンテナの輸送が唯一の収入源となった鉄道には問題が山積している。鉄道の場合、輸送用機器を改善して輸送コストを下げるといっても、2段積みの60ft或いは89ft貨車を多数牽引する程度である。また、鉄道会社が所有するこれらの貨車数は減少傾向にあり、サービス向上を期待できる状況にはない。鉄道輸送を円滑化する技術で最も大切なものはPTS技術である。この技術はGPSによって列車の現在位置を正確に伝えるものであり、これにより鉄道は列車間の距離を縮め、軌道を増設すること無く輸送容量を上げ、輸送の円滑化を計ることが出来る。特に米国の鉄道は大部分が単線であり、対向列車との出会い待ちの遅れを最短とすることにより得られるメリットは大きい。PTSを全鉄道に採用すると$20億を要するといわれているが、この技術がその費用を補償する程には確立されていないため、各鉄道会社は採用に消極的ある。道路混雑が悪化する中、荷主や輸送プロバイダーの求めるレベル迄サービスレベルを向上し、新しい技術を取り入れ、管理可能なスピードでの成長に注力すれば鉄道はトラック輸送に対して対応し得るというのが一般的な見方であるが、現在の鉄道のレートは新たな資本投下を容認する程には高くなく、逆にサービスも高いレートを可能にする程良くはないという悪循環になっている。
(トラック輸送の現状と円滑化)
トラック業界は、既にGPSで車をトラッキングしている。また、ドライバーは社内からコントロール・センターと交信することが出来る。現在トラック業界ではインテリジェント運輸システム(ITS)の採用が話題となっている。ITSは6-2節で述べるように広範な技術であるが、トラック業界ITSは、ラジオ周波数技術とコンピューター技術を組み合わせてハイウエーの混雑を緩和し、国境の通過を早め、料金所や重量検査所での遅延を減らす技術である。ITSについては、議会が各輸送モードに国家レベルで組み込むことを要求しているが、トラックの場合は地域性が強く、これを統一するのが一つの課題となっている。
ITSでは、計量や走行料金徴収に個々に使われているトランスポンダーが一体化され、また、国境事前クリアランス・システムが統一されなければならない。しかしながら、9/11テロ対策によるコンテナへの電子シールの採用を含めた各種手続きの電子化が、これらを後押しする可能性がある。
DOTでは議会の指針に合わせて100にのぼるITS基準を示し、ITS機器製造業者も努力しているが、荷主やトラック業界の関心は必ずしも高くない。しかし会社間、州間の協力は進んでいる。西部では2社のITSプロバイダーが合意して両社の国境事前クリアランス・システムを相互に使える様にした。また、バージニア州とメリーランド州では、全てのモーター・キャリアのITS機能のシステムとネット・ワークをリンクする商業車両情報システム及びネット・ワークの為のプロトタイプ作成について共同作業を進めている。
(MTSの円滑化)
MTS報告書でMTSモード輸送の円滑化の為に注力すべき点として挙げられているのは以下の3情報システムの確立である。
(1)船舶出入港許可情報交換及び同時実施システムの確立
(2)港湾への陸上側アクセスの改善−地域の協力とITSの適用
(3)水路測量及び天候情報/貨物・乗客及び船舶のトラッキング/水路運航管理情報
上記(2)及び(3)については他節で解説しているが、(1)については若干の説明が必要である。米国諸港に入港する外国籍船はUSCG、USCS、移民局(INS)及び農務省(USDA)の検査を受けねばならない。米国内で複数港に寄港する場合でも重複検査を要求される場合がしばしばである。従来1つの官庁で入手した船舶、船員、積荷目録等の情報を官庁間或いは港間で交換し合うことはなく、貨物や乗客の流動化に大きな障害となっている。MTS報告書は、これら政府機関相互間や州及び地域政府にも同一情報を流し、検査及びその手順を合理化することを強く提案している。しかし、9/11テロ以降港湾のセキュリティ強化が叫ばれ、検査はより厳しく時間がかかる方向に向っている。
9/11テロ以前から、港湾内を含めた貨物・乗客及び船舶のトラッキング・システムをMTSに導入する必要性が指摘されていた。現在全てのMTSシステム内でリアルタイムにトラッキング情報が得られる段階ではない。トラッキング・システムの確立はMTS競争力の強化に役立つが大きな困難を含んでいる。例えば6-3節で述べるRFIDタグ・システムでは、IDコードその他のデータを盛り込んだチップを内蔵した暗号タグを使用している。このシステムの中心は読取/質問装置と呼ばれる部分であり、無線により港湾当局はコンテナの船舶荷役、ターミナル内の移動をリアルタイムに管理する。これを実現するためにはターミナル内の地面に数千個に及ぶトランスポンダーが埋め込まれなければならない。これは港湾当局にとっては大きな出費となる。
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