5-3 フェリーボート利用の拡大
2001年に連邦ハイウエー庁が議会に報告した国家フェリー報告書によれば、年間約1億1,300万人の乗客と3,200万台の車両が、285社のフェリー・オペレーターによって輸送されている。また、DOTの統計によれば、2000年時点で旅客フェリー341隻、RO/RO326隻、客車フェリー10隻の合計677隻が稼動している。表5-1は2000年時点でのフェリーターミナル数の上位20州のランキングを示した表である。フェリーは全米43州のほかプエルトリコ等米領土全域で使用されており、大都市周辺の通勤手段として、また、米本土との重要な交通手段として利用されている。さらに数は少ないが長距離フェリーも運航されている。表5-1によれば、アラスカを除く上位3州はニューヨーク、ワシントン、カリフォルニアの諸州である。これら3州では、特にマンハッタン、シアトル、サンフランシスコ周辺での利用が多い。
(マンハッタン)
マンハッタン周辺では、第2次世界大戦後自動車及びハイウエーの普及に伴い、旅客及びRO/ROフェリーは殆ど廃止された。しかし、ハイウエーの混雑、ハイウエー/トンネル/橋を作る資金的/スペース的困難、環境問題等により30年間休止していたフェリーが1980年代に再開した。9/11テロの前、ニュージャージー州とマンハッタンの間では毎日30,000の通勤客がフェリー輸送されていたが、テロ以降その数は2倍以上に増加している。このため、ニューヨーク市が総合的なフェリー輸送プラン及びターミナル拡張プランを発表したのは前述のとおりである。
(サンフランシスコ)
サンフランシスコ湾では150年以上も30以上のルートで運航されており、近年は基本的に拡大基調であった。1999年にサンフランシスコ湾内のフェリー・サービスの新設、拡大の為にサンフランシスコ湾水上交通局(WTA)が設立されたが、同時にWTAに舶用エンジン、インターモーダル・サービスに代替燃料を用いる案を立案する使命が課され、環境負荷の小さなフェリー開発に大きな影響を与えた。WTAは、DOT等と連絡をとりながら場合によっては助成金を受けて、大豆燃料、天然ガス、燃料電池等新しい技術の開発プロジェクトを進め多くの成果を挙げている。
(ワシントン州)
ワシントン州では、フェリーが本土との唯一の交通手段として用いられている地域が多く、基本的に拡大基調であった。これは、不必要に高額な道路や橋梁の整備を行うよりも、一定の助成の下フェリー運航を行った方が公共の利益に合致するという、非常に合理的な判断が背景にある。
ワシントン州フェリーの大部分は、ワシントン州フェリー公社(WSF)によって運航されている。WSFは29隻のフェリーボート、1,700人の従業員、年間180,000回の運航により2,700万人の輸送実績を持つ米国最大のフェリー公社である。その他ピュージェットサウンドでフェリーを運航しているのは、タコマのピアス郡フェリー公社である。僅か2隻ではあるが、年間16万3,000人を運んでいる。一方、WSFと状況が似ているカナダのブリテイシュ・コロンビア州フェリー公社は34隻のフェリーを運航し、1日4,500人を運んでいるだけなので、航路によっては年間$111万の助成を受けて運航されている。
(フェリーボートの将来像)
フェリーボート業界の将来像の立案は難しく、MTS報告書もフェリーボートの利用拡大について2020像を示していない。旅客フェリー振興にはサービスの向上が不可欠であり、米国はこのところ高速フェリー(速力35ノット以上)の建造が続いている。前述の285のフェリー・オペレーターの内25社が合計70隻の高速フェリーボートを運航している。これらの高速フェリーは、アラスカ、シアトル、ワシントン、サンフランシスコ、ロングビーチ、ミシガン湖、ボストン、ニューヨーク等で運航されているが、その数は益々増えている。現在米国では約12の造船所で150人乗り以上の高速旅客フェリーの建造が可能である。例えば2001年4月時点で、これらの造船所は150人乗り以上の高速旅客フェリー10隻を総額$6,000万で建造中であったが、その中で最大のものはNichols/Incat社の37ノット400−450人乗り高速フェリーであり、建造費用は$800万であった。また、2000年アラスカ州のマリーン・ハイウエー・システム公社は、トラック15台、乗用車60台、乗客300人、37ノットの高速フェリーをコネチカット州ブリッジポートのDerecktor造船所に発注し、2003年初めに引き渡しを受けている。ちなみにこの船は米国で建造された初めての大型高速車両/乗客フェリーであり、アラスカ州が最初の採用州となった。
米国はヨーロッパに比べれば高速フェリーの採用は遅れている。TEA-21は1999年から2003年の間に$2億2,000万をフェリーの新造とターミナル整備に助成してきた。また、タイトルXIの助成を受けて建造されたフェリーボートも多い。表5-2はTEA-21の前身のISTEA及びTEA-21の下、1992−2003年の間フェリー及びターミナルに対して支出された助成の州別集計であり、上位から順にアラスカ州($5,900万)、ワシントン州($3,900万)、ニュージャージー州($2,800万)、ノースカロライナ州($2,400万)、ニューヨーク州($2,100万)、カリフォルニア州($1,500万)となっている。
連邦政府は2001年に米国フェリー産業の現状調査を実施し、全フェリー・オペレーターの90%からの回答を分析した。それによれば、米国の水上交通乗客数は少なく見積っても2億500万人に増加し、その2/3はフェリーボートによるものであるとしている。フェリーボート業界では、この乗客数はアムトラック鉄道の2,200万、航空産業の6億1,400万人の間に位置する値である一方、両者に比較して連邦助成の額が少ない旨主張している。
(フェリー航路開発)
ニューヨーク地区最大のフェリー業者であるNYウオーター・ウエー社は、マンハッタンを起点とする24航路を52隻のフェリーボートで運航し、1日60,000人の乗客を輸送している。同社では、1995年以降19隻の建造にタイトルXIの助成を受けており、また、ニューヨーク水上タクシー社でも6隻の低引き波型双胴客船の建造に対し$380万のタイトルXIの助成を得、2003年夏にDerecktor造船所で引き渡しが終了している。この両社が運航するフェリーは、2003年前半ニューヨーク州が発表したマンハッタン下部輸送戦略に組み込まれている。この計画に拠れば、2005年迄にマンハッタン下部とJFK空港を結ぶフェリ航路、マンハッタン下部とラガーデイア空港を結ぶ高速フェリー航路の就航が盛り込まれている。更に現在NY/NJ港湾局が運航しているマンハッタンとスタッテン島を結ぶスタッテンフェリー航路について、利用客の少ない週末だけ民間業者に開放して小さな船で効率良く運ぶ案も検討されている。
一方、フェリー航路の新設は五大湖でも活発に行われている。2003年末から、ニューヨーク州ロチェスターとカナダのトロントを2時間15分で結び、今迄のハイウエーによる時間を105分短縮する43ノットの高速双胴船がオンタリオ湖で就航する。ミシガン湖でも、シカゴやミルウォーキーを中心に、幾つかの高速フェリー計画が練られている。
また、サンフランシスコ湾では2006年を目途にWTAが労働訓練施設等があるトレジャー・アイランドとサンフランシスコダウンタウンを結ぶ航路の開設をめざしているが、このフェリーは世界最初の燃料電池推進フェリーボートとなる予定である。
表5-1 フェリーターミナル数上位20州(2000年)
Top 20 Ranking of U.S. Ferry Terminals by State, 2000 |
State |
Number of terminals |
New York Washington Alaska California Maine Michigan Louisiana Massachusetts North
Carolina Virginia Florida Kentucky Wisconsin New Jersey Illinois Ohio Maryland Rhode Island South Carolina Texas |
51 46 41 38 33 31 30 27 27 20 19 16 16 13 11 11 10 10 9 9 |
Total top 20 |
468 |
Total overall |
578 |
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SOURCE: U.S. Department of Transportation, Federal Highway Administration, Intermodal and Statewide Programs Division, National Ferry Database, National Ferry Study, December 2000. |
表5-2
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ISTEA/TEA21のフェリー関連予算州別助成額(1992−2003合計)
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Ferry Boat Discretionary Grants & Set Asides, 1992-2003 |
State |
Amount($ in 000's) |
# of awards |
Alabama Alaska Arkansas California Connecticut Delaware Florida Georgia Hawaii Illinois Iowa Kentucky Louisiana Maine Massachusetts Michigan Mississippi Missouri Montana Nebraska New
Jersey New York North Carolina Ohio Oregon Pennsylvania Rhode Island Tennessee Texas Utah Virginia Washington West
Virginia Wisconsin Puerto Rico |
1,984 59,197 425 14,800 10,316 2,576 7,561 1,787 4,307 3,312 139 743 5,588 9,020 11,384 6,683 500 1,284 1,307 705 27,520 21,100 23,818 4,250 1,401 8,130 7,151 719 6,352 3,160 3,244 39,111 720 528 3,792 |
4 6 2 17 7 3 7 3 2 7 1 8 5 8 8 4 1 6 1 1 5 17 12 6 4 10 10 1 7 2 7 11 1 2 3 |
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図5-1 ニューヨーク州近郊フェリー航路図
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