日本財団 図書館


3. MTS2020
3-1 MTS報告書の内容
 MTS報告書は、次世代MTSシステム構築の為のマスタープランである。MTS報告書は、次世代MTS構築目標年を2020年と考えているが、MTSのように構築に長年月を要する社会システムではむしろ期近であり、既に一部港湾ターミナル等ではこのマスタープランを元に個別の2020像が立案され、着手されているものもある。これは、政府の未来予測の殆どが2020年を目標年としている為、MTS2020像の立案にそれら他案件のデータを反映することが可能だからである。
 MTS報告書はI. 概論、II. MTSの現状、III. 傾向と競争圧力、IV. 重要課題、V. 望ましい2020像、VI. 戦略的実行課題の6章から成り立っている。
 
(第I章 概論)
 第I章概論では、MTSが経済、国家安全保障、環境、レクリエーションの見地から国家に対する貢献度が高いことを強調している。
 
(第II章 MTSの現状)
 第II章MTSの現状では、MTSの構成要素、機能、サポート・システム及びサービス・プロバイダーにつき述べている。MTSサポート・システムとして挙げられているのは、コミュニケーション/情報システムとマネージメント・システムの2つであり、更にコミュニケーション/情報システムの中身として、貨物のリアルタイム輸送情報を伝えるインテリジェント運輸システム(ITS)とMTS内の安全運航の為のナビゲーション・システムを挙げている。
 マネージメント・システムには、MTSのマネージメント、オペレーション、保守、研究に加えて新規投資の為の資金調達も含まれる。特にMTS構築の為の投資決定権者は政府、州、地方、民間と多岐にわたっており、MTS構築の為の資金調達が複雑であることが強調されている。資金調達については次節で詳述する。
 
(第III章 傾向と競争圧力)
 第III章傾向と競争圧力では、2020年にMTSを利用する貨物、乗客の量的傾向、MTS使用者の要求変化、MTS2020が満たすべきインフラ条件に加え、セキュリティ及び環境問題がMTSに与える圧力について述べている。米国の国際貨物は年率3.5%増加し、2020年には1996年の2倍以上になり、中でも冷凍・加工食品等の高付加価値農産物の輸出が急速に伸びると予想している。コンテナ貨物は、従来ブレークバルクで運んでいたコーヒー、ココア、バナナ等の市場を奪い、期近的に年率8-10%ずつ増加し、その約40%は積載量4,500TEUを超えるメガ・シップで運ばれるようになると予測している。原油タンカーの輸送量の伸びは期近的に年率2%であるが、プロダクト・タンカーの伸びはさらに大きいと予測されている。
 国内水上貨物の伸びは表3-1に示すように年率1.3%増と低い予想であり、2020年の輸送量は8億3,600万トン(資料ではショートトン表示であるが、1トン=1.10ショートトン)となっている。クルーズ船客数は、1995年から1997年の間年率7.8%増加しており、1997年から5年間は、更に年率7.5%で増加すると述べているが、9/11テロによりこの予想は多少低めとなっている。また、レクリエーション用ボート利用者の増加は、年率1.2%増と低く見積られている。
 
 MTSは、今後益々加速される区分製造法(Fragmented Production)、つまり何個所かの部品製造所で部品を作り別の組立工場で一つの製品に纏めあげられる製造法に必要な、ジャスト・イン・タイム(JIT)マネージメントの要件を満たす必要がある。この場合、輸送業者に要求される5大サービス要素は、信頼性/輸送時間/効率/低価格/輸送中の損傷の最小化である。なお、MTSはロジスティックスチェーンの一部を構成していることから、その輸送時間(その一形態としてのコンテナのバージ輸送)も契約輸送時間全体の中で考えられるべきものである。MTS2020が満たすべきインフラ条件としては、情報技術、ナビゲーション・システム等のMTS技術の進歩/水上利用増大に対処する安全の確保/水路浚渫量増大への対応/水路の閘門やダムの近代化/コンテナ港の拡張/インターモーダル・システムの整備が指摘されている。
 
(第IV章 重要課題)
 MTS活性化の重要課題としては、コーディネーション、安全、競争力、セキュリティ、インフラストラクチャー、環境について検討されている。MTS報告書は、現在のMTS関係者がお互いの仕事を知ろうとせずバラバラに仕事をしているとし、MTS整備の国家ビジョンの欠如/政府、州、地方機関の責任の分離/MTSを一つのシステムとして捉える視点の欠如/情報を適当に共有する態度の欠如/不明確な責任体制/政府機関内の分担の重複等を問題点として指摘している。
 インフラストラクチャーの重要課題としては、ターミナルと船とのインターフェース/浚渫及び水路設計/情報マネージメント・インフラを挙げ、第III章で記されたインフラ条件が繰り返し強調されている。
 
(第V章 望ましい2020像)
 望ましい2020像では、MTS2020のビジョンを示し、MTSの各構成要素が満たさなければならない条件及びMTS支援システムとして、ITS及びマネージメント・システム完成の重要性について再度触れている。
 
(第VI章 戦略的実行課題)
 この章はMTS2020ビジョンの達成方法を示したものであり、コーディネーション、資金調達、競争力と流動性、MTSに関する一般の認識度の改善について、勧告の形で示されている。
 
(MTSのビジョン)
 MTS報告書は、MTSのビジョンとして下記6点を示している。
(1)MTSを他の国内及び国際輸送システムと統合し、国家の安全保障に備え、経済の安定を確かなものとし、生活の質を高め、環境保護を確保する。
(2)MTSのビジョン達成には、明確に定義され、コーディネートされ、且つ、首尾一貫した連邦政府のリーダーシップが必要である。
(3)MTSのビジョン達成には、公的及び民間の機関が、責任、資金を分ち合ってチャレンジすることが必要である。
(4)MTSの施策の決定は、関連する利害の調和を基に為されなければならない。
(5)長期的に競争力を維持する為、積極的且つコスト効果の高い技術開発が不可欠である。
(6)MTS労働者、乗客等の関係者は、MTS運営の成功の為に重要であり、人間ファクターはMTS発展の基本要素である。
 
(MTSビジョン達成のための推進体制)
 MTSビジョン達成の具体的方策のうち、本報告書の対象範囲に関しては、以下の6点が示されている。
(1)連邦政府の主導により検討体制を体系化し、公的及び民間関係者が一体となって下記委員会を作って推進する。
(1)連邦政府MTS委員会(ICMTS);従来の連邦政府水路管理委員会を拡大した委員会であり、MTS関連の政府機関内の重複を廃する為の委員会
(2)MTS国家諮問会議(NAC);NACは非連邦組織の上級代表者により設立され、その意見を国家レベルの政策決定にインプットすることを目的とする。
(3)その他必要により設立される地方及び地域のMTS委員会
 
(2)資金調達;明確なMTS需要予測に基づき、正しい必要資金量を把握し、公的・民間資金の獲得メカニズムを正しく理解し、輸送モード毎或いは活動毎ではなく、将来を見通した全体計画により連邦資金その他を最大限に獲得する。既存の資金については、それにより得られる便益の極大化を図る。
 
(3)システムの流動性と競争力確保の為のビジョンの確立;近い将来貨物・乗客の遅延が悪化し、或いは移動コストがかかりすぎて不適切とならない為の対策
(1)船舶出入港許可情報の交換及び同時実施システムの確立
(2)港湾への陸上側アクセスの改善
(3)NSRPのような国家MTS研究プログラムの設立
(4)システム的交通予測の展開
 
(4)MTSに対する一般の認識度の改善;一般社会の政策立案者は、概してMTSの役割と価値について正確に評価していない。このことがMTS構築のネックとなっている。MTS構築に良い職員が集まる様なプログラム及び手法を展開する。
 
(5)MTSを支える情報システムの確立;貨物・乗客を混雑による遅延無く移動させる能力の向上
(1)水路測量及び天候情報システム
(2)貨物・乗客及び船舶のトラッキング・システム
(3)水路運航管理情報システム
 
(6)その他の研究
(1)船とターミナルのインターフェース
(2)浚渫土砂有効利用の研究
(3)有効な浚渫土砂マネージメントの研究
(4)新設水路、既設水路の一部に運航限界(最大船型等)、運航管理規則を作る。
(5)浚渫の必要度を減らす航行システム改良の研究
(6)河川水路の氷結軽減、閘門及びダムの氷管理法の研究
 
表3-1 内陸水路貨物量の予測(1995-2020)
(単位;100万ショートトン=90万7,000トン)
COMMODITY GROUP WEIGHTED
ANNUAL AVERAGE
95-98
2005 2010 2020 ANNUAL AVERAGE
1995-8 TO 2020
Farm Products 87.9 103.0 110.2 124.2 1.6%
Metals 30.9 34.6 38.2 44.7 1.7%
Coal 175.2 183.3 194.2 222.2 1.1%
Crude Petroleum 43.4 46.3 48.7 53.8 1.0%
Nonmetallic Minerals 99.9 116.8 125.6 139.9 1.5%
Forest Products 17.9 18.5 19.7 21.9 0.9%
Industrial Chemicals 41.7 46.3 52.3 65.0 2.0%
Agricultural Chemicals 12.2 13.2 13.7 14.9 0.9%
Petroleum Products 111.5 119.0 125.1 138.2 1.0%
Other 11.2 10.4 10.6 11.1 -0.1%
Total 631.8 691.4 738.3 836.0 1.3%
資料提供:USACE







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION