3-2 MTS構築の為の立法と資金
MTS構築の為の資金的裏付けのある立法は多くはない。また、MTSの問題点でも指摘されているように、MTSについては連邦、州、地域政府及び民間が複雑に責任を分担していることから、MTS構築の為の資金調達の現状を明確に区分することは難しい。
1998年12月、米国ハイウエー運輸協会の水上運輸委員会は、「マリーン運輸資金調達とその責任」と題する報告書を出している。その中で、MTSの各構成要素が、歴史的にも規模的にも大きく異なる上、貨物や輸送業務の多くは民間企業によって行われているのに対し、MTSの構築、オペレーション、改善、立法が殆ど連邦、州、地域政府の手で行われており、益々複雑になっていると述べている。連邦政府機関だけをとっても多くの監督機関、基金助成機関がバラバラに或いは重複して存在し、現状把握を困難にしている。このような状況ではあるが、MTS構築の為の現状の資金源を構成要素別に記述すると概略以下のとおりとなっている。
(港湾ターミナル)
一般的には民間投資による。地域或いは州政府、港湾が投資する場合もある。外国籍船の専用ターミナルでは、外国からの資金も投資される。1997年には深喫水港のターミナル改善、浚渫、インターモーダル枝線整備に$15億が投資されたが、1998-2002年の投資総額は$77億と推定されている。ターミナルの使用料、その他のサービス料、リース代の一部も投資に回される。大規模投資の場合には、債券発行により調達された資金やDOC経済開発局から公布される連邦助成金が充当される場合がある。
(連邦政府管理の港湾アクセス・チャンネル)
1986年以来、チャンネルの浚渫は連邦と使用者のコスト分担が原則である。コスト分担の配分は、浚渫深さと土砂処理コストの関数として定められている。一方、チャンネルの保守費用は、従来港湾維持信託基金(HMTF)により連邦政府が支出されてきた。HMTFは、港湾を利用する船舶の乗客や貨物の運賃に加算して徴収した額を基金として積み立てたものである。HTMFについては、1999年5月に成立した港湾サービス基金法(HSFA)によって変更され、船主は船舶の容積に基づき使用料を収めることが義務付けられた。この立法によって、年間$10億の基金が連邦港湾アクセス・チャンネルの保守に用いられることとなった。
(非連邦政府管理港湾アクセス・チャンネル)
このカテゴリーに属するチャンネルは、上述の深喫水チャンネルと非連邦政府ターミナル、桟橋、マリーナ、専用係留施設等を結ぶものである。これらのチャンネルは、新設、保守費用ともに非連邦組織が支出するが、政府管理のものと同じ基準の許可の取得が必要である。
(航行補助装置)
ブイ、照明、船舶運航サービス(VTS)、霧中信号、各種刊行物は従来政府の一般会計から支出されていたが、一部を利用者負担とする方向で改正が進められている。
(インターモーダル枝線)
鉄道及びパイプラインの枝線の整備は、それぞれ鉄道及びパイプライン会社の負担である。道路の枝線は公道或いは私道によりハイウエーと繋がっているが、公道の場合は州や地域の道路基金或いはガソリン税を積み立てた連邦ハイウエー信託基金(FHTF)が使用される。但し、同基金からインターモーダル枝線整備に充当できる額は限られている。なお、4-2節で紹介するアラメダ・コリドー(鉄道)の場合は、連邦の基金としてはFHTF以外の基金が僅かに充当された。
(内陸水路)
水路のオペレーション及び保守の費用は、連邦政府の一般会計より支出される。新設の場合は、閘門も含め50%が一般会計から、残る50%は水路の利用者が燃料税として支払う資金を積み立てた内陸水路信託基金(IWTF)によって支払われる。
(船舶)
船舶は民間企業が建造するものが大部分であるので当然民間企業の支出となるが、古くから連邦ベースの運航、建造、融資保証、税控除、優先貨物、カボタージュ等の助成制度で建造支援が行われてきた。
運航差額助成(ODS)及び建造差額助成(CDS)は、ともに1936年の商船法によって定められたものであり、米国籍船と外国籍船との運航、建造差額を助成するものであるが、現在CDSは機能していない。
融資保証については、クリントン政権が鳴り物入りで輸出船を含む米国造船所建造船及び造船所近代化に対する破格に有利な新タイトルXIを導入したが、連邦政府サイドが作成する予算原案においては毎年予算措置がなされない等次第に影の薄いものとなっている。
税控除助成としては、新造船時に船主が法に従って積み立てた一定額の基金に対し税が免除される税制優遇措置である、資本建造基金(CCF)制度がある。CCFもその将来が怪しくなっている。
優先貨物については、1954年の優先貨物法に基づき、政府貨物の少なくとも50%を米国籍船で輸送すべきことが定められている。
カボタージュは先進国の多くが採っている制度であるが、米国ではジョーンズ・アクトとして知られる米国内貨物、乗客輸送の米国籍船の独占である。このジョーンズ・アクトには、カボタージュのほか、米国人船員の配乗や米国内造船所での造修義務付けがあり、影響が大きいことから歴代政権ともジョーンズ・アクト法を維持する態度に基本的変更はない。但し、1996年議会が外国の投資機関が米国の船舶オペレーターにリース・ファイナンスすることを許したことがきっかけで、外国船主が米国内マーケットに足がかりを作れるようになったと言われており、業界からジョーンズ・アクトの基本的適用を守るよう要望が出ている。
(ISTEA及びTEA-21)
1991年以降、連邦政府は米国の交通インフラ整備に関する時限の基本法であるインターモーダル陸上輸送効率法(ISTEA)及び同法の後継法である21世紀の為の交通整備法(TEA-21)に基づき、限られた分野ではあるがMTSの構築に力を注いできた。
TEA-21は1998年より開始され2003年9月30日までの時限立法であったが、後継の2003年安全、責任、フレキシブル及び高効率輸送法(SAFETEA)の審議が遅れたことから、2004年2月24日まで延長されている。TEA-21の総額は$2,300億に及ぶ。この資金の大部分はハイウエー関連の道路の補修、橋梁の塗装、トンネルの補修、自転車路の建設といったものに使用されるが、MTSの構築にも使用されている。その1つはフェリーの普及を図るためフェリー・ボート及びフェリー・ターミナル整備に対して助成するフェリー・ボート任意プログラム(EBDP)であり、もう一つは適用をフェリー・ボートに限定しない混雑緩和及び大気浄化プログラム(CMAQ)である。これらは金額的には大きくないが、フェリー・ボートが初めて交通緩和の手段と見做され、1992-2002年の間フェリー・ボート及びフェリー・ターミナル整備にISTEA及びTEA-21合わせて政府予算$2億9,500万が支出された意義は大きい。
(2003年安全、責任、フレキシブル及び高効率輸送法(SAFETEA))
2003年5月14日、DOTはTEA-21の後継法となるSAFETEAの全貌を明らかにした。このSAFETEAの支出総額は6年間で$2,470億である。
SAFETEAの1/4、$587億は環境改善に使用される。大気汚染防止の為CMAQその他政府助成の全関連プログラムを見直し、更にマルチモード、エネルギー及び気象変化研究プログラムを新設する。また、交通事故被害が大きな問題となっている(年間43,000人がハイウエー事故で死亡し、$2,306億のコスト損失があるといわれている)ことから、ハイウエー関連の安全性向上に使われる予算も多い。
SAFETEAでは、マルチモード輸送の改善にこれまで以上の注意が払われており、総予算の2%をこれに充当することとしている。同法では、TEA-21に含まれていた運輸インフラ融資改良プログラム(TIFTIA)を継続するが、1件当たりの額を$1億から$5,000万に下げ、鉄道プロジェクトもこの中に取込めるようにした。また、SAFETEAでは新しいカテゴリーの税免除民間債券を創設し、ハイウエー・プロジェクトと貨物輸送施設に融資出来るようになっている。また、SAFETEAではTEA-21と同じくフェリーボート及びフェリーターミナルも支出対象になる。
一方、下院運輸及びインフラ委員長Youngは、ブッシュ政権のSAFETEAは米国の増大する陸上・水上交通を支えるには不充分であるとしている。その証拠として、DOTが2002年成果報告書でハイウエー、橋、トンネル、鉄道、バス及びフェリー・ターミナルの状態を改善する為には年間$750億の投資が必要であると述べている点を挙げている。Youngは超党派でTEA-LUと呼ばれる独自案を作っている。この案はフェリー・ボート及びフェリー・ターミナルに注力した案と言われており、6年間の総額を$3,750億としている。なお、Youngは財源としてガソリン税の増額を提案しているが、大統領選挙を控えてガソリン税の増税が現政権に受入れられる可能性は低い。何れにせよ、同法は2003年12月上旬の段階で未だ上院の委員会で承認を得られたに留まっており、成立まで紆余曲折が予想される。
(SEA-21)
以上のようにマルチモード交通分野ではSAFETEAという基本法案の策定作業が続いているが、次世代MTSの構築を図るためには、より強力な法的裏付けが必要である。例えば航空分野では、AIR-21のように21世紀の交通需要に対応した長期計画が策定されている。このような状況を踏まえ、ミネタ運輸長官の要請により、MTSNACとMARAD等関係する政府関係機関の合同委員会(Interagency Committee for the Marine Transportation System)では、21世紀に対応したMTS構築を実現するための法的根拠を構築すべくSEA-21プログラムと呼ばれる検討作業が進められた。この検討作業については、財源の確保を含めSAFETEA法案が最終化された2003年5月までに最終化されなかったことから、法案の形にはなっていないが、今後のMTS構築方策に関する検討作業に反映されていくものと考えられる(ミネタ運輸長官は、SAFETEAの後継法案作成時にMTS単独の法案を作成するという形での実現の可能性を示唆している)。
ミネタ運輸長官の要請により、MTSNACにより2001年5月から検討が開始されたSEA-21は、国内の高速道路システムを包含するマルチモード交通システム政策の実施法であるTEA-21に似た総合的な海上交通システム構築に係る法的根拠として、その策定が進められてきたものである。SEA-21に含まれる事項は、海上交通システムにおける以下の目的を達成するためのものとなることが予定されている。
○21世紀に増加することが予測される国際貿易を維持するために、米国の海上交通システムが適切な容量を備えるようにする。
○国内の安全問題に取り組む。
○人及び貨物の移動に際しての渋滞を緩和させる。
○全ての交通モード間のシステムの統合と連携を向上する。
○海運システムの安全性を向上する。
○海運システムに関連した環境保護問題に取り組む。
○熟練労働者を確保する。
(フェリーボート建造の為のその他の基金)
2004年第2四半期に引き渡されるプエルトリコ・ハイウエー交通局向け272人乗りフェリーが、連邦交通庁(FTA)の基金で建造されている。また、その他多くの州がフェリー建造用に連邦基金を求めている。例えば、バージニア州交通局は、財務省の“マスター機材リース基金”を得ており、サンフランシスコ湾水上交通局(WTA)は、2003年初め世界最初の燃料電池推進フェリーの建造に関し$250万の連邦基金を得ている。
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