2-4 現MTSの問題点
現在のMTSには、種々の問題点が存在する。MTSは物流の中間にあり、MTS自体の問題点とともに、MTSと組み合わされたインターモーダル輸送手段である鉄道やトラック輸送に問題があれば、MTSの効率等にも大きく影響する。米国の現MTSは、多くの問題点を抱えているが、代表的なものは以下の通り。
(1)国際コンテナ貨物港湾
(1)特定港湾への貨物集中
(2)港湾における荷捌きの非効率
(3)荷役労働者のストライキ
(4)メガ・コンテナ船に対する港湾設備の不備
(2)港湾アクセス水路及び内陸水路
(1)メガ・コンテナ船用水路の不備
(2)港湾が大都市に集中していることによる浚渫土砂の処理困難
(3)内陸水路閘門の老朽化と閘門における遅延
(3)インターモーダル輸送
(1)港湾への陸上進入アクセス路(インターモーダル枝線)の不備
(2)鉄道の全体的非効率とサービス力の低下
(3)トラック輸送の大都市周辺での混雑、国境(カナダ/メキシコ)通過の遅延
(特定港湾への貨物集中)
表2-8は、1992年から2001年までの米国コンテナ港上位10港の年間コンテナ取扱数(TEU)の推移とアクセス水路の深さを示した表である。1992年には上位10港で米国全量の76%を取り扱っていたが、2001年には同83%へ増加している。特に集中度が高くなっているのはロサンゼルス及びロングビーチ(LA/LB)港であり、1992年には米国全量の夫々15、13%を取り扱っていたが、2001年には19、18%へと増加している。近接した両港に米国全体のコンテナの37%が集中し、その集中度が益々高くなっていることから、多くの問題が発生している。
コンテナ貨物がLA/LB港に集中するのは、コンテナ船の巨大化と鉄道を含めた陸上輸送とのアクセスに深く関係している。表2-8の上位10港でも、全ての港湾が満載喫水40-46ftを必要とするメガ・コンテナ船を受入れられる訳ではない。しかしコンテナ船の大型化傾向は進んでおり、6,500TEUから9,000TEUを超す超メガ・コンテナ船の時代になりつつある。今後もコンテナ貨物の集中が予想されるロサンゼルス港では、チャイナ・シッピング(CSCL)がロサンゼルス港と香港、上海間で就航させようとしている8,100TEUメガ・コンテナ船用のターミナル建設が進められている。CSCLの戦略は、今後20年の海運を見通しての決断であり、3-3節MTSの2020像の中で詳述する。超メガ・コンテナ船による大量の貨物輸送は、港湾、インターモーダル枝線、鉄道及びトラック輸送というトータルのロジスティックスの最適化を要求する。2003年春にアラメダ・コリドーと称するインターモーダル枝線を開通させたLA/LB港でも、貨物の同枝線への誘導やメガ・コンテナ船到着時の市内ターミナルから鉄道またはトラック輸送モードヘの積替えを如何に円滑に実施するかが課題となっている。
(港湾における荷捌きの非効率)
港湾の荷捌き効率については、様々な指標がある。コンテナヤードの単位面積当たりのコンテナ取扱量を指標に採った場合、アジアやヨーロッパのトップクラスの港湾が年間1ha当たり21,829TEUの処理能力を持つのに対し、米国西海岸諸港の平均は13,756TEUであるとの報告がある( 参考資料8)。世界中の港湾ターミナルは面積の拡大が難しい状況にあること、また、広すぎるコンテナヤードはコンテナのストックや船舶への積み込みの際の移動ロスが大きくなることから、単位面積当たりの処理能力を増やす方向にある。このため、コンテナ積み重ね装置、コンテナ・トラッキング、ゲート通過自動システム等のハードやソフトの新技術を導入し、その効率を高めているが、米国港湾の場合、港湾労働者との労働協約の問題や港湾ターミナルのレイアウト等が旧式であるという問題から、簡単に単位面積当たりの処理量を増やせない状況である。
(荷役労働者のストライキ)
港湾への新技術の導入は、荷役労働者の既得権益を減少させる場合が多いことから、ストライキやロックアウトといった労働争議の種になることが多い。2002年9月29日から10月8日迄の10日間、米国西岸の諸港は、海運会社及び港湾オペレーターを代表する太平洋海事協会(PMA)と国際沖仲仕倉庫組合(ILWU)間の労働争議の為に閉鎖された。
このストライキについては、ブッシュ大統領のタフトハートレー法発動により中断され、連邦仲裁人を入れた話し合いにより2003年1月両者は6年間の新たな労働協約に調印した。この争議の焦点は、コンテナ荷役へのコンピューター技術の導入と、それを誰が使うかという点である。コンテナ追尾に使用されるコンピューターシステムの操作者について、ILWUは同組合に所属する事務員の採用を主張し、PMAはこれに反対した。米国港湾は新技術の使用という点で遅れている。コンテナの情報処理でも、スキャナ情報処理さえ新たな労働協約によりようやく可能となったのが実情である。
上記西岸の労働争議と似たような争議は2003年東岸でも発生している。2003年5月、NY/NJ港の国際沖伸仕協会(ILA)が、新技術に携わる5人の事務労働者のILA加入を認めないエバグリーンの姿勢に抗議し、東岸におけるエバグリーンのコンテナ船の荷役を全面的に拒否している。
(港湾アクセス水路及び内陸水路)
メガ・ターミナル用水路は大水深が必要であり、浚渫土砂の捨て場所の確保と浚渫工事に伴う経済性の確保が課題となる。例えばフィラデルフィア港のアクセス水路(全長103マイル)を12m水深から13.5m水深としてNY/NJ港並とする(現在NY/NJ港は水深15m化を進めている)案は、議会の承認を得てから20年以上経っているが、未だに着工されていない。最初の反対理由は、浚渫土砂投棄場所の多くが指定されているニュージャージー州サイドの環境問題であったが、最近は総工費$2億5,200万、50年間の保守費$1億5,000万の35%を負担することが求められる地元筋からの、費用対効果面からの反対へと変ってきている。
また、他の港湾アクセス水路も大なり小なり似たような問題を抱えており、MTS構築上重要な問題となっている。内陸水路では、閘門の老朽化が進み、また、場所によってはサイズが小さい為閘門に到着したバージ船団をその入口で編成し直さないと閘門が通過出来ない等の問題があり、余分な作業と順番待ちの時間が加わって、運航コストの上昇と効率の低下を招いている。MTS報告書によれば、バージの時間待ちは年間550,000時間と言われ、$3億8,500万の運航費の増加をもたらしている。1998年に遅延の多かった36の閘門の内、19は上部ミシシッピー川、12はオハイオ川、5はGIWWに存在する。ちなみに、遅延によるコスト損失は、バージ15隻からなる船団で1時間当たり$250-350と言われている。
(インターモーダル輸送)
港湾への陸上進入アクセス路につきMARADは1997年58港(内コンテナ港31)を対象に問題点調査を実施したが、全体の半分の港が、ローカル・トラックとの交通干渉や車線が少なく且つ方向転換の場所の少ないことを問題にしている。道路や鉄道が無秩序に建設されたため多くの鉄道が道路と平面交差しており、道路もトラック専用車線を設ける余裕や構造になっていないと訴えている。唯一の成功例ではあるがLA/LB港のインターモーダル枝線であるアラメダ・コリドーが営業を開始し成果が各所で報告されている。(4-2節)
インターモーダル枝線の終点の鉄道ターミナルから先の鉄道の輸送効率は、MTSを含めた全体の輸送の生産性に大きく影響する。米国の鉄道で最大の問題点は、決められた時間帯に貨物を届けるという顧客に対する基本的サービスが比較的劣っていることにある。この辺の事情については5-4節で詳述する。西部では1995年以来の鉄道会社の合併がサービスの低下をもたらしたといわれている。一方、東部は、トラックのシェアが86%に達しており、鉄道の影響は西部程ではないが、鉄道の抱える基本問題は同じである。米国の鉄道会社が落ち込んだ理由はいろいろ指摘されている。例えば、政府の監督機関である地上運輸委員会(STB)が、荷主よりも鉄道会社の保護に熱心であったことや、鉄道会社内の変革に対処出来ない体質等である。
これに対し米国のトラック運送業は、決められた時間内に貨物を届ける基本的サービスを武器に、鉄道から次々に高運賃貨物を奪ってきた。しかし、道路混雑等の外部要因からそれも思うようにいかなくなっている。表2-9は、テキサス農工大学運輸研究所(TTI)が実施した、1982年から1996年迄の全米70都市周辺の道路混雑状況を調査した表である。1982年には平均16時間であった遅延は、1996年には2.5倍の440時間となっている。TTIは、上記70都市の遅延によるコスト損失は$740億、その内$650億は遅延による生産性の損失、$90億は燃料の浪費による損失と試算している。トラック輸送の一部をバージ輸送に切り替えて混雑を緩和する試みは少しずつ進展しており、5-2節で詳述する。
表2-8 米国港湾のコンテナ取扱高上位10港の取扱数の推移(1992-2001)
Top 10 U.S. Container Ports (thousands of TEUs) and Channel Depth (in feet)
KEY: TEU = twenty-foot equivalent unit.
SOURCE: Journal of Commerce, Port Import/Export Reporting Service, various container data files and U.S. Army Corps of Engineers, Navigation Data Center, channel depth data, personal communication June 2001. |
表2-9 全米70都市の道路混雑状況(1992-1996)
Urban Congestion Indicators for 70 Urban Areas: Selected Years
Year |
Average roadway congestion index |
Annual delay per eligible driver (person-hours) |
Wasted fuel per eligible driver (gallons) |
Annual fuel wasted per urban area (million gallons) |
1982 1986 1990 1992 1994 1995 1996 |
0.91 1.01 1.07 1.09 1.11 1.12 1.14 |
16 22 27 30 35 37 40 |
23 32 39 44 51 54 58 |
39 54 68 76 84 91 96 |
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資料提供:Texas Transportation Institute
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