12. 事業の評価
提案された本事業の効果及びその必要性は経済的な評価指標として専ら用いられる内部収益率(Internal Rate of Return: IRR)を用いて財務及び経済分析により証明する。
12-1 財務分析
12-1-1 財務分析の手法、構成及び範囲
費用計算のモデルは選定された各6航路におけるRO-RO貨物専用船の費用と便益を適用した。費用の積算は健全な状態でRO-RO船が運航可能するに必要な貨物運賃を元に計算し、市場において実現可能な値と比較している。運航及び財務指標は前章の“運航及び維持”において説明済みであるので、本節では各指標は下表のように要約する。
表12-1: RO-RO船の仕様
|
1,000DWT |
2,000DWT |
4,000DWT |
調達価格
(×1,000バーツ/隻) |
560,206 |
783,549 |
1,114,551 |
主機関常用出力(HP) |
850 |
2,800 |
5,440 |
平均航海速力 |
11ノット(NSO) |
14ノット(NSO) |
16ノット(NSO) |
乗員
職員
部員 |
8
12 |
8
12 |
8
17 |
|
表12-2: 財務指標
減価償却法 |
25年均等償却 |
残存簿価 |
船舶調達価格の5% |
支払い方法 |
銀行貸付 |
7年返済 |
金利年7.75% |
事業金融 |
10年返済/ 半期毎均等返済 |
金利年1.65% |
ODA |
40年返済/
10年元本返済猶予。 半期毎均等返済 |
金利年0.75% |
為替レート |
41.7バーツ/米ドル |
35バーツ/100円 |
|
|
運航指標
表12-3: 運航指標
稼動週 |
45週 |
輸送距離
(km) |
航路 1:320
航路 2:540
航路 3:730 |
航路 4:250
航路 5:430 |
航路 6:620 |
運賃
(バーツ/トン) |
航路 1:284
航路 2:350
航路 3:367 |
航路 4:432
航路 5:470 |
航路 6:671 |
燃料費 |
C重油:140ドル/トン
A重油:300ドル/トン |
港費 |
10バーツ/GT(50%割引が可能) |
貨物費 |
50バーツ/トン |
船員費
(バーツ/月) |
職員:30,000
部員:10,000 |
入渠費 |
船舶調達価格の0.3〜0.6% |
修繕費 |
船舶調達価格の0.5%プラス年4%の増加 |
保険料 |
船舶調達価格の1.0% |
潤滑油費 |
システム油:893ドル/トン |
その他
店費
管理費 |
収入の3%
収入の6% |
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道路輸送に係わる費用指標
表12-4: 道路輸送費用指標
指標 |
値 |
備考 |
最低料金 |
127.6 |
バーツ/トン |
距離レート |
0.73 |
バーツ/km/トン |
トラック/トレーラー費用 |
250 |
バーツ/日 |
|
各輸送ルートにおけるトンあたりの道路輸送手数料は、ETOが発効した料金表に線形回帰相関表を適用して積算した。これによると最低料金は127.6バーツ/トン、1トン1キロメートルあたり0.73バーツが追加される。これにはトラックからの荷物の積み下ろし料金が含まれている。この相関関係は、分析を行った各路線の道路輸送費用を試算するために使用した。この相関関係はRO-RO船の運航を利用した際の、港間の複合一貫輸送費用を試算するため使用している。しかしトラックに貨物を載せたままトラックごと輸送する場合には、荷積みと荷揚げは各1回しか行われない。従って、船舶輸送の前後に陸上輸送として荷積みと荷揚げを2回行うものとしてコストを計算すると、費用を過大評価することになる。その為、複合一貫輸送における輸送費用は、港までの片道区間と港から目的地までの距離の和に等しいとして計算した。
荷主もまた、貨物を積み込んだトラックあるいはトレーラーの固定費を払う必要がある。「沿岸輸送システム開発に関する調査(MOTC,2001)」では、トレーラーの固定費を1日あたり144バーツと見積もっている。車齢に比例した滅価償却費と利息によるコストは1日あたり、6輪のトラックで約800バーツ、10輪のトラックで約950バーツ、18輪のトラックとトレーラーの組み合わせの場合には12,000バーツと見積もられている。これら1日あたりの値を各トラックタイプの予測積載荷重で割り、各輸送手段の予測割合を計算することにより、これらの費用をまかなうためには貨物1トンあたり1日27バーツが必要であることがわかる。
12-1-2 融資条件
ODAによる円借款プログラムで有利な融資条件を得る事は事業を成立させる上で重要な要素である。ここでは通常の金融機関の融資条件と比較する。銀行貸付の金利は船舶のように価値が大きく変動する資産に対する融資の場合、リスクが比較的高いことを考慮して標準の輸出入銀行の貸出金利に多少の割増が加えられている。
ODAによる円借款の金利及び返済期間はJBICのガイドラインによる。最優遇金利は現在0.75%まで下がり、返済期間は40年まで延長されている(10年の据置期間を含む)。もし、ODAによる円借款の返済期間と据置期間を延長するよう交渉できれば、この事業の実現性はこの事業計画に示す結果よりも更に高いものとなるであろう。
12-1-3 航路の特性
本調査で検討した航路の特性を下記の表に示す。市場規模予測は「タイ国におけるモーダルシフトに伴う新規造船需要に関する調査書」から引用した。積載率の予測方法及び陸上貨物輸送コストは前節で記述の変数を用いて試算した。
表12-5: 目標航路の特性
|
自〜至 |
距離(km) |
陸上輸送費用 |
積載率 |
目標市場規模 (1,000トン) |
海上 |
陸上 |
全工程 |
港への往復 |
航路1 |
バンサファン〜バンコク |
320 |
550 |
530 |
171 |
79% |
24,669 |
航路2 |
スラータニー〜バンコク |
540 |
644 |
599 |
171 |
65% |
3,337 |
航路3 |
ソンクラー〜バンコク |
730 |
950 |
823 |
171 |
56% |
4,982 |
航路4 |
バンサファン〜東部海岸地域 |
250 |
650 |
603 |
171 |
48% |
760 |
航路5 |
スラータニー〜東部海岸地域 |
430 |
823 |
730 |
171 |
31% |
328 |
航路6 |
ソンクラー〜東部海岸地域 |
620 |
1,129 |
954 |
171 |
36% |
490 |
|
目標内部収益率を予め設定する為に、本計算は税引き後ベースで実施してある。融資条件において税制効果は投資決定に大きく寄与するため、これを資金モデルに取り入れることは重要である。これは税引き後の目標内部収益率が明示されている場合にのみ可能となる。
物価上昇率の影響が、この分析全体にわたって適切且つ確実に反映されるようにする為、残存簿価は、スクラップ時点における代替船の額面価格の5%として計算した。
船舶の資本価値は船舶調達価格から減価償却の積算額を減じたものとして積算した。
12-1-4 必要な貨物運賃市場シェア
《必要な市場シェア》
このファイナンス分析から少なくとも貨物の流通の最も多い方向に関しては、商業的に採算の取れると考えられる積載率を達成できると推測できる。積載率を達成するために必要な市場シェアと「タイ国におけるモーダルシフトに伴う新規造船需要に関する調査」で試算した確保可能な最大市場シェアを比較することによって、この仮定の実証について予備評価を行い、現実的でない航路や船舶サイズを今後の検討から排除することができる。
次の表に示すように、航路5及び航路6に関しては、調査の対象としたあらゆる大きさのRO-RO船を使用した場合も、十分な貨物量を確保することが困難であるといえる。しかし、判断の根拠となったこれらの数字が正確でない可能性もあるため、小型のRO-RO船に関しては今後の分析の対象とする。
航路1から航路3の場合、中型または大型の船舶の運航に十分な貨物の確保は実現可能と思われる。
表12-6: 必要な貨物運賃(バーツ/トン)
船舶のサイズ (DWT) |
航路 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
1,000 |
486 |
468 |
652 |
432 |
334 |
552 |
2,000 |
357 |
345 |
470 |
n.a |
n.a |
n.a |
4,000 |
283 |
350 |
367 |
n.a |
n.a |
n.a |
達成可能な運賃レート (10%割引レート) |
284 |
341 |
540 |
360 |
470 |
671 |
道路輸送費用(全工程) |
530 |
599 |
823 |
603 |
730 |
954 |
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航路1: バンサファン〜バンコク
航路2: スラータニー〜バンコク
航路3: ソンクラー〜バンコク
航路4: バンサファン〜東部海岸地域
航路5: スラータニー〜東部海岸地域
航路6: ソンクラー〜東部海岸地域
本事業の実現性の分析において、潜在的な貨物需要は現在の道路輸送貨物運賃より多い割引によるRO-ROサービスへの貨物の目へ向けさせる事により喚起できると考えられる。
表12-6はODAによる円借款を利用して有利な融資条件でRO-RO船を新規調達する場合に必要な運賃レートを要約したものである。
上記の貨物輸送市場における達成可能な運賃レートを上回る運賃で利益をあげることが可能な運航形態は表に太字で示した。航路5及び6の場合、小型船であれば運航可能であろう。航路1の場合、4,000DWTを使用した場合にのみ収益が見込める。航路2では中型あるいは大型船に必要な最低貨物運賃は市場で達成可能な貨物運賃より僅かに高い。航路3では中型船の場合も大型船の場合も必要とされる最低貨物運賃は予想される市場での達成可能運賃を下回る。航路4の場合は、現状では明らかに採算が合わないと判断できるが、潜在的需要のある市場であろう。
12-1-5 財務的内部収益率(財務的経済分析)
上記の各種指標及び計算した運賃レートに基づき、航路毎の財務分析を行った。
(1)RO-RO船型毎の財務的内部収益率
表12-7〜12は航路毎に新造RO-RO船1隻を運航した場合の財務的内部収益率の計算結果を示す。船舶はそれ自体で採算性を維持しなければならない為、各々採算性を検討した。検討した内部収益率は事業金融の融資条件を適用した。
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