4-3-5 結論:RO-ROサービス及びその目標市場
前記の3条件を考慮した結果、最終的に下記の航路をRO-ROフェリーネットワークの目標航路として選定した。本調査ではレムチャバン及びマプタプット港は同一の行き先(または積地)として見なし“東部海岸地域”という。
表4-15: RO-ROフェリーネットワークの目標航路及び潜在的市場規模
サービス |
サービス目標市場 |
目標市場規模 (千トン) |
往路 |
復路 |
バンコク〜バンサファン |
金属製品 化学製品 鉄鉱石、砂、砂利 農産物 建設材、セメント 肥料 液体燃料 木材、合板 ゴム |
7,254 |
17,415 |
バンコク〜スラータニー |
2,185 |
1,152 |
バンコク〜ソンクラー |
3,263 |
1,719 |
バンサファン〜東部海岸地域 |
307 |
453 |
スラータニー〜東部海岸地域 |
115 |
213 |
ソンクラー〜東部海岸地域 |
171 |
319 |
|
全目標市場は更に前出の表の数値(%)に沿ってバラ積貨物と一般貨物に分類される。各海運サービスの目標市場規模は下表のとおり計算した。
表4-16: サービス目標市場の分類
サービス |
サービス目標市場 |
バンコク〜バンサファン |
西部県〜バンコク及びその周辺地域間の一般道路輸送貨物の50% |
バンコク〜スラータニー |
南部県〜バンコク及びその周辺地域間の一般道路輸送貨物の50% |
バンコク〜ソンクラー |
南部県〜バンコク及びその周辺地域間の一般道路輸送貨物の50% |
バンサファン〜東部海岸地域 |
西部県〜東部県間の一般道路輸送貨物の50% |
スラータニー〜東部海岸地域 |
南部県〜東部県間の一般道路輸送貨物の50% |
ソンクラー〜東部海岸地域 |
南部県〜東部県間の一般道路輸送貨物の50% |
|
4-3-6 目標市場における達成可能なシェアの推定
RO-ROフェリーにより達成可能なシェアの推定には、一般的によく用いられるロジットモデル方程式を使用した。ロジットモデルは機会選択の計算式としてよく知られており、下記の式を用いる。
本計算では、選定されるべき対象の輸送モードは道路と海運であり、その他の係数/定数等は下記のとおりである。RO-RO船の積載率は南行きが90%を、北行きが80%を適用した。
ここで:Pj=輸送機関jが選択される場合の選択的分担率
Zj=輸送機関jに対する効用関数
本計算の結果、目標航路別の達成可能な市場シェアは下記のようになった。
表4-17: 推定された航路別達成可能なシェア
航路 |
一般貨物 |
バラ積貨物 |
バンサファン〜バンコク |
5.2% |
6.7% |
スラータニー〜バンコク |
42.2% |
30.7% |
ソンクラー〜バンコク |
48.8% |
37.3% |
バンサファン〜東部海岸地域 |
8.5% |
19.8% |
スラータニー〜東部海岸地域 |
12.6% |
33.9% |
ソンクラー〜東部海岸地域 |
8.2% |
60.0% |
|
ここで注意すべき点は、これらの推定値は長期的なモードシフトによる概略であり、短期的に達成可能な目標ではないことである。更に、この目標を達成するためには、解決すべき多くの問題もある。しかし、表に示した推定値は、存在するビジネスチャンスの規模を示している。
更に、目標市場に投入するRO-RO船のサイズと必要隻数を得るために、RO-RO船の航海回数を週6回、年270回、積載率を80%と仮定し、上記の推定された航路別達成可能なシェアを勘案し、次のような推定を行った。
表4-18: RO-RO船の必要航海数と必要隻数
航路 |
一般貨物
(千トン) |
年間航海数
(回) |
実貨物需要
(トン) |
RO-RO船の必要隻数(隻) |
1,000DWT |
2,000DWT |
4,000DWT |
バンサファン〜バンコク |
1,283 |
270 |
5,939 |
5.9 |
3 |
1.5 |
スラータニー〜バンコク |
1,408 |
270 |
6,520 |
6.5 |
3.3 |
1.6 |
ソンクラー〜バンコク |
2,431 |
270 |
11,256 |
11.3 |
5.6 |
2.8 |
バンサファン〜東部海岸地域 |
65 |
270 |
299 |
0.3 |
0.1 |
0.1 |
スラータニー〜東部海岸地域 |
41 |
270 |
191 |
0.2 |
0.1 |
0 |
ソンクラー〜東部海岸地域 |
40 |
270 |
186 |
0.2 |
0.1 |
0 |
|
RO-RO船数の計算より、各航路毎の必要なRO-RO船の隻数は切り上げした。更に各RO-RO船が実際に運航可能な航海数を検証するために、各航路の必要航海時間、投錨時間、荷積、荷降ろし時間を含めた総航海時間を考慮した。本推定には次のパラメータを使用している。
○船速1,000DWT=12ノット、2,000DWT=14ノット、4,000DWT=16ノット
○出入港に要する時間:1.5時間
○荷物の揚げ降ろしに必要な時間:1,000トン/1時間
表4-19: 必要航海時間及び目標航路の特性一覧
航路 |
距離 (km) |
一般 貨物 (千トン) |
年間 航海 回数 (回) |
実貨物需要 (トン) |
RO-RO船の 必要隻数 (隻) |
平均積載率 (%) |
航海 時間 (hr) |
必要 総航海 時間 (hr) |
1,000 DWT |
2,000 DWT |
4,000 DWT |
1,000 DWT |
2,000 DWT |
4,000 DWT |
バンサファン 〜バンコク |
320 |
1,283 |
270 |
5,939 |
- |
3 |
- |
- |
79.19% |
- |
12.3 |
15.8 |
スラータニー 〜バンコク |
540 |
1,408 |
270 |
6,520 |
- |
4 |
- |
- |
65.20% |
- |
20.8 |
24.0 |
ソンクラー 〜バンコク |
730 |
2,431 |
270 |
11,256 |
- |
- |
3 |
- |
- |
75.04% |
24.6 |
29.9 |
バンサファン 〜東部海岸地域 |
250 |
65 |
270 |
299 |
1 |
- |
- |
23.92% |
- |
- |
11.2 |
13.0 |
スラータニー 〜東部海岸地域 |
430 |
41 |
270 |
191 |
1 |
- |
- |
15.28% |
- |
- |
19.3 |
21.0 |
ソンクラー 〜東部海岸地域 |
620 |
40 |
270 |
186 |
1 |
- |
- |
14.88% |
- |
- |
27.9 |
29.6 |
|
各目標航路の航海に要する時間と積載率を勘案して、最も適切なRO-RO船の投入隻数を下表のように判断した。
表4-20: RO-RO船のサイズ及び隻数の妥当性
航路 |
RO-RO船の隻数及びサイズ |
妥当性 |
バンサファン〜バンコク |
3×2,000DWT |
運航可能 |
スラータニー〜バンコク |
4×2,000DWT |
運航可能 (船速向上が望ましい) |
ソンクラー〜バンコク |
3×4,000DWT |
運航不可能 (隻数の増加が必要) |
バンサファン〜東部海岸地域 |
1×1,000DWT |
運航可能 (航海回数を週3回に減少すべき) |
スラータニー〜東部海岸地域 |
1×1,000DWT |
運航可能 (航海回数を週3回に減少すべき) |
ソンクラー〜東部海岸地域 |
1×1,000DWT |
運航不可能 (運航回数を週2回に減少すべき) |
|
この検証から、下記の隻数のRO-RO船を各目標航路に投入すべきであろう。ソンクラー及び東部海岸地域間の航路については貨物需要が未だ活発ではなく、航続距離も他航路に比較して非常に長い。このため今のところ本航路は将来の候補航路とすべきであろう。
表4-21: RO-RO船の投入計画
航路 |
RO-RO船の隻数 |
RO-RO船のサイズ |
バンサファン〜バンコク |
3 |
2,000DWT |
スラータニー〜バンコク |
4 |
2,000DWT |
ソンクラー〜バンコク |
4 |
4,000DWT |
バンサファン〜東部海岸地域 |
1 |
1,000DWT |
スラータニー〜東部海岸地域 |
1 |
1,000DWT |
ソンクラー〜東部海岸地域 |
1 |
1,000DWT |
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4-4 事業の必要性
需要と供給分析に着目すると、潜在的な貨物需要は明らかに且つ確実に存在する。しかし、タイ国内輸送ネットワークにおいて、十分な経験を持つ海事関係会社が殆どないという未開発な海上及び沿岸輸送の視点に立脚すると、堅実な財政基盤の上でRO-ROフェリーによる輸送システムが構築され運航されるような改善策を講じる必要がある。
国内貨物の90%以上が道路にて輸送されているというタイ固有の輸送システムの特徴から、更なる道路輸送網の拡張は推奨できない。輸送システムの改善は政府関係機関によって為されなければならず、この方針に沿ってRO-ROフェリーネットワークの導入によるモーダルシフトの確立のための出来る限りの努力をしなければならない。
貨物需要と供給の分析を元に、最も効率的な手段を用いてRO-RO輸送システムを構築するために、必要なRO-RO船の隻数と、これらの船舶を選定された航路でどのように運航するかの分析を行わなければならず、これによる輸送システムの改善を段階的に実施すべきである。
前記のように、現在のタイ国内海運産業にはRO-RO船の運航及び管理の経験がある海運会社が存在せず、未だ貧弱な状態である。タイ国営海運公社(Thai Maritime Navigation Co.(TMN))は本事業の実施機関であるが、RO-RO船の運航経験は一度もなく、現在の限られた人的資源ではこれらの船舶を満足に運航する能力はない。
更に現在の多様な貨物取扱いシステムは、多くの仲介業者が介在し、一方ではタイ港湾公社(Port Authority of Thailand: PAT)が中心的に貨物の取扱いを行うなど、貨物の積地から仕向地までシステマチックに連携されていない。上記のような現状に鑑み、タイ国におけるモーダルシフト振興計画は下記の分野を強化・補足しなければならない。
1)RO-RO船の配備とその最大限の活用
2)RO-RO船運航及び管理のために必要な人員の訓練システムの構築及び熟練技術者の維持
環境の保全の観点では、自動車による大気汚染、貨物満載のトラックの通行による騒音・振動の問題が都市部では最も深刻な問題であり、これらは付着、科学的な毒性等により人間及び環境双方に負の影響を与える原因となり得る。
更に、著しい渋滞は経済活動において重大な経済及びエネルギーの損失をもたらす。本事業計画の経済評価の章で計算しているが、著しい渋滞による機会損失費用と浪費される燃料油(ガソリン/軽油)の量は莫大なものである。
タイの産業で農業、製造業分野双方の生産性は輸出のための“輸送”に大きく依存している。タイ政府は国家開発計画の中で、国によるコミットメントとしての輸出は国家の適切な開発のために非常に重要であると見なしている。
輸送効率の改善及び人間と環境双方の保護は迅速且つ的確に行わなければならない。さもなくば、タイの経済は暗い迷路へと入り込み環境へ危険な影響を与えるであろう。
物理的資源を迅速且つ的確に活用するために、RO-RO船のような適切な設備及び十分な数の当該分野の専門家が必要とされている。
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