第三部 相殺措置の対象となる補助金
第五条 悪影響
加盟国は、1.1及び1.2に規定する補助金によって、他の加盟国の利益に次のいずれの悪影響も及ぼすべきではない。
(a)他の加盟国の国内産業に対する損害(注) 注 「国内産業に対する損害」の語は、第五部におけるものと同一の意味で用いる。
(b)他の加盟国に対し千九百九十四年のガットに基づいて直接または間接に与えられた利益、特に、千九百九十四年のガット第二条の規定に基づく譲許の利益の無効化または侵害(注) 注 この協定において、「無効化または侵害」の語は、千九百九十四年のガットの関連規定におけるものと同一の意味で用いるものとし、無効化または侵害の存在は、当該関連規定の適用に関する慣行に従って認定する。
(c)他の加盟国の利益に対する著しい害(注) 注 この協定において、「他の加盟国の利益に対する著しい害」の語は、千九百九十四年のガット第十六条1におけるものと同一の意味で用い、著しい害のおそれを含む。
この条の規定は、農業に関する協定第十三条に規定する農産品に関して維持される補助金については、適用しない。
第六条 著しい害
6.1 次のいずれかの場合には、前条(c)に規定する著しい害は、存在するものとみなす。
(a)補助金の総額が産品の価額の五パーセントこえる場合(注1、注2)
注1)産品の価額に対する補助金の総額の割合は、附属書IVの規定に従って算定する。
注2)民間航空機は、多数国間の特定の規律に服すると見込まれるので、この(a)に定める基準は、民間航空機については、適用しない。
(b)補助金がいずれかの産業の営業上の損失を補てんするものである場合
(c)補助金がいずれかの企業の営業上の損失を補てんするものである場合。ただし、当該企業について繰り返されることのない一回限りの措置であって、長期的な解決を図るための時間を与え、かつ、深刻な社会的問題を避けるためにのみとるものを除く。
(d)債務の直接的な免除(注)、すなわち、政府に対して負っている債務を免除する場合及び債務の返済を補てんする贈与を行う場合
注 加盟国は、民間航空機の製造に対するロイヤルティに係る融資は、実際の販売の水準が予想される販売の水準を下回るために全額返済されていない場合には、それ自体、この(d)に定める著しい害を構成するものではないことを認める。
6.2 6.1の規定にかかわらず、補助金を交付している加盟国が、当該補助金が6.3に規定する影響のいかなるものももたらさなかったことを立証する場合には、著しい害は、存在するとは認めない。
6.3 前条(c)に規定する著しい害は、次に規定するもののうち一または二以上に該当する場合には、生ずることがある。
(a)補助金の効果が、補助金を交付している加盟国の市場への他の加盟国からの同種の産品の輸入を代替しまたはその輸入を妨げるものであること。
(b)補助金の効果が、第三国市場において他の加盟国の同種の産品の輸出を代替しまたはその輸出を妨げるものであること。
(c)補助金の効果が、補助金の交付を受けた産品の価格を同一の市場における他の加盟国の同種の産品の価格よりも著しく下回らせるものであることまたは同一の市場における価格の上昇を著しく妨げ、価格を著しく押し下げ若しくは販売を著しく減少させるものであること。
(d)補助金の効果が、当該補助金の交付を受けた特定の一次産品(注)について、当該補助金を交付している国の世界市場における占拠率を当該国が過去三年間に有していた平均的な占拠率よりも増加させるものであり、かつ、その増加が、補助金が交付された期間を通じて一貫したものであること。
注 ただし、多数国間で合意された他の特定の規律が当該産品の貿易に適用される場合は、この限りでない。
6.4 6.3(b)の規定の適用上、輸出を代替することまたは妨げることには、6.7に規定する場合を除くものとし、(しかるべき代表的な期間であって、関係産品の市場の拡大の傾向を明確に立証するために十分な期間(この期間は、通常の場合には、少なくとも一年とする。)を通じて)相対的な市場占拠率の変化が補助金の交付を受けていない同種の産品にとって不利益となるように生じたことが立証される場合を含む。「相対的な市場占拠率の変化」には、(a)補助金の交付を受けた産品の市場占拠率が増加すること、(b)補助金が存在しなかったとしたならば補助金の交付を受けた産品の市場占拠率が減少したであろうという状況において、当該市場占拠率が一定であること及び(c)補助金の交付を受けた産品の市場占拠率が、補助金が存在しなかったとした場合の市場占拠率の減少の速度よりも遅い速度で減少していることを含む。
6.5 6.3(c)の規定の適用上、価格を下回らせることには、補助金の交付を受けた産品の価格と同一の市場に供給される補助金の交付を受けていない同種の産品の価格との比較によって立証される場合を含む。この比較については、商取引の同一の段階で、かつ、同等な時点で行うものとし、価格の比較に影響を及ぼすその他の要因に妥当な考慮を払う。もっとも、このような直接的な比較を行うことができない場合には、価格を下回らせることについては、単位当たりの輸出価額に基づいて立証することができる。
6.6 自国の市場において著しい害が生じたと申し立てる加盟国は、附属書V3の規定に従うことを条件として、紛争当事国の市場占拠率の変化及び関係産品の価格について入手することができるすべての関連情報を次条に規定する紛争当事国及び7.4の規定に基づいて設置される小委員会に提供する。
6.7 6.3の規定の適用上、関係する期間中に次のいずれかの状況が存在する(注)場合には、輸出または輸入を代替しまたは妨げることが著しい害をもたらすことはない。
注 特定の状況がこの6.7に規定されているという事実は、それ自体、千九百九十四年のガットまたはこの協定において、当該特定の状況にいかなる法的地位も与えるものではない。これらの状況は、単発的なもの、突発的なものその他重要でないものであってはならない。
(a)申立加盟国からの同種の産品の輸出または関係する第三国の市場への申立加盟国からの輸入の禁止または制限
(b)関係産品について、貿易を独占しまたは国家貿易を実施している輸入国の政府が、非商業的理由により、申立加盟国からの輸入を他の国からの輸入に転換することを決定すること。
(c)自然災害、同盟罷業、輸送上の混乱その他の不可抗力であって、申立加盟国から輸出することができる産品の生産、品質、数量または価格に相当な影響を与えるものが生じていること。
(d)申立加盟国からの輸出を制限する取決めが存在すること。
(e)申立加盟国が輸出することができる関係産品の量を自発的に減少させること(特に、申立加盟国の企業が自主的に当該産品の輸出を新たな市場に割り当てる場合を含む。)。
(f)輸入国における基準その他の法的な規制を遵守しないこと。
6.8 6.7に規定する状況が存在しない場合には、著しい害の存在については、小委員会に提供された情報または小委員会が入手した情報(附属書Vの規定に従って提供されたものを含む。)に基づいて決定すべきである。
6.9 この条の規定は、農業に関する協定第十三条に規定する農産品に関して維持される補助金については、適用しない。
第七条 救済措置
7.1 農業に関する協定第十三条に定める場合を除くほか、加盟国は、第一条に規定する補助金であって他の加盟国が交付しまたは維持するものが自国の国内産業に対する損害、無効化若しくは侵害または著しい害をもたらしていると信ずるに足りる理由がある場合には、当該他の加盟国に対し協議を要請することができる。
7.2 7.1の規定に基づく協議の要請には、(a)補助金の存在及び性格についての入手可能な証拠並びに(b)国内産業に対する損害、無効化若しくは侵害または協議を要請する加盟国の利益に対する著しい害(注)についての入手可能な証拠を付する。
注 要請が6.1に規定する著しい害をもたらすものとみなされる補助金に関係する場合には、著しい害についての入手可能な証拠は、6.1の条件を満たしているかいないかについての入手可能な証拠に限定することができる。
7.3 関係する補助金を交付しまたは維持しているとされた加盟国は、7.1の規定に基づく協議の要請を受けた場合には、できる限り速やかに協議に応ずる。協議は、事実関係を明らかにすること及び相互に合意する解決を得ることを目的とする。
7.4 協議により六十日(注)以内に相互に合意する解決が得られなかった場合には、協議の当事者である加盟国は、小委員会を設置するため、問題を紛争解決機関に付託することができる。もっとも、同機関が小委員会を設置しないことをコンセンサス方式によって決定する場合には、小委員会は、設置されない。小委員会の構成及び付託事項については、小委員会が設置された日から十五日以内に確定する。
注 この条に定める期間は、合意によって延長することができる。
7.5 小委員会は、問題を検討するものとし、紛争当事国に最終的な報告を送付する。当該報告については、小委員会の構成及び付託事項の確定の日から百二十日以内にすべての加盟国に送付する。
7.6 小委員会の報告は、すべての加盟国への送付から三十日以内に、紛争解決機関によって採択される(注)。ただし、一の紛争当事国が上級委員会への申立ての意思を同機関に正式に通報しまたは同機関が当該報告を採択しないことをコンセンサス方式によって決定する場合は、この限りでない。
注 紛争解決機関の会合がこの期間内に予定されていない場合には、この目的のために開催される。
7.7 小委員会の報告について申立てがされた場合には、上級委員会は、紛争当事国が当該申立ての意思を正式に通報をした日から六十日以内に決定を行う。上級委員会は、六十日以内に報告を作成することができないと認める場合には、報告を送付するまでに要する期間の見込みとともに遅延の理由を書面により紛争解決機関に通報する。この期間は、いかなる場合にも、九十日を超えてはならない。同機関は、上級委員会の報告を、加盟国への送付の後二十日以内に採択し(注)、紛争当事国は、これを無条件で受諾する。ただし、同機関が当該報告を採択しないことをコンセンサス方式によって決定する場合は、この限りでない。
注 紛争解決機関の会合がこの期間内に予定されていない場合には、この目的のために開催される。
7.8 補助金が第五条に規定する他の加盟国の利益に対する悪影響をもたらしたと決定する旨の小委員会または上級委員会の報告が採択される場合には、当該補助金を交付しまたは維持している加盟国は、当該悪影響を除去するための適当な措置をとりまたは当該補助金を廃止する。
7.9 紛争解決機関が小委員会または上級委員会の報告を採択した日から六箇月以内に加盟国が補助金の悪影響を除去しまたは補助金を廃止するための適当な措置をとらず、かつ、代償についての合意が存在しない場合には、同機関は、中立加盟国に対し、存在すると決定された悪影響の程度及び性格に応じた対抗措置をとることを承認する。ただし、同機関が対抗措置に係る申請を却下することをコンセンサス方式によって決定する場合は、この限りでない。
7.10 紛争当事国が紛争解決了解第二十二条6に規定する仲裁を要請する場合には、仲裁人は、対抗措置が、存在すると決定された悪影響の程度及び性格に応じたものであるかないかを決定する。
第三十二条 その他の最終規定
32.1 他の加盟国の補助金に対するいかなる措置も、この協定により解釈される千九百九十四年のガットの規定による場合を除くほか、とることができない。(注)
注 この32.1の規定は、適当な場合には千九百九十四年のガットの他の関連規定による措置をとることを妨げるものではない。
32.2 この協定のいかなる規定についても、他のすべての加盟国の同意なしには、留保を付することができない。
32.3 32.4の規定に従い、この協定は、調査及び既存の措置の見直しであって、各加盟国について世界貿易機関協定が効力を生ずる日以後に行われる申請に基づいて開始されるものについて適用する。
32.4 既存の相殺措置に21.3の規定を適用するに当たっては、当該措置は、遅くとも各加盟国について世界貿易機関協定が効力を生ずる日にとられたものとみなす。ただし、同日に効力を有する加盟国の法令が既に21.3に規定する条項と同様のものを有する場合を除く。
32.5 各加盟国は、世界貿易機関協定が自国について効力を生ずる日以前に、自国の法令及び行政上の手続を当該加盟国について適用されるこの協定に適合したものとすることを確保するため、すべての必要な一般的または個別的な措置をとる。
32.6 各加盟国は、この協定に関連を有する法令の変更及びその運用における変更につき、委員会に通報する。
32.7 委員会は、この協定の目的を考慮して、毎年この協定の実施及び運用について検討する。委員会は、検討の対象となった期間における状況について毎年物品の貿易に関する理事会に報告する。
32.8 この協定の附属書は、この協定の不可分の一部を成す。
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