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■ケーススタディー 海浜学校(目黒星美学園小学校)
 目黒星美学園小学校では4年生時に千葉県の小湊にて海岸海浜学校を行う。これは約30年続く伝統的な取り組みでもあり、その意義は開始当初から一貫しており、「海での経験を通して命の尊さを知ること」である。この授業に同行し実際に授業に参加し、子どもたちとのやり取りを通じて、海浜学校の有用性や学習効果を検証した。
 
▼海浜学校での授業
 授業は観察を中心に進められた。到着した日の午前は水に入らずに、陸地から海全体を眺め、磯の匂い、風の冷たさ、波の動き等を五感を使って把握することに取り組んだ。午後からは、実際に磯浜(タイドプール)に入り、海の中における様々な生き物の様子をじっくりと観察した。
 二日目は、午前中から水に入り、自分が観察する生き物を捕獲した。その際、その生き物がどのような環境下で暮らしているのか、周辺の様子を観察してから捕獲した。午後は、捕獲した生き物を水槽に移して部屋に持ち帰り、時間をかけて観察し、スケッチにおこした。スケッチ後、生き物は海に戻した。
 
▼子どもたちの反応
 子どもたちの多くは、砂浜の海しか知らないようであった。また、自らの手で海の生き物に触れ、捕獲するといった経験が無い児童がほとんどであった。初めのころは、生き物を見つけることすらできない様子でいたが、慣れてくれば簡単に見つけられるようになり、磯浜を満喫していた。
 事前に、生き物との接し方等について考える時間を持っていることもあり、生き物を乱暴に扱う子どもは見られなかったが、水槽に移して観察している最中に死なせてしまうこともあり、ひどく悔やんでいる様子は見かけられた。
 普段は詳しく観察することのできないカニやイソギンチャクなどの身体の仕組みや、環境に応じた工夫を目にすることで、「生きる」ということに対する興味を広げている様子を確認できた。
 
磯浜での生物観察
 
▼授業の準備
 今回の海浜学校では、学校で行われた事前の授業や打ち合わせにも同席することが出来た。
 下見から始まり、授業のスケジュール等の行程創りは、潮汐を考えながらの企画、また同時に多くの班に別れての活動でいかに安全を確保するかなど、2泊3日の海浜学校のために行う準備には莫大な時間と注意を払う必要があることを知った。また、それらの準備は、日常の学校生活の間を縫って取り組むため担当教員にかかる負荷は大きく、資料などを探し揃えるなどの時間を確保することの難しさがよく理解できた。
 
 
■ケーススタディ 干潟学習(目黒星美学園小学校)
 4年生時に海浜学校を行っている目黒星美学園小学校に協力を依頼し、以下の事柄について検証を試みた。学校側の反応と考察については、ワークショップ参加者のレポートに詳しく記載されているので、そちらを参照されたい。
 
盤州干潟での生物観察
 
▼検証事項
Q1: 子どもたちは磯浜と干潟の違いをどう捉えるか?
Q2: その捉え方に4年生での海浜学校の経験がどう作用するか?
Q3: 一日の干潟学習に必要な準備と実施による学習効果の適正バランスは?
 
▼経過
・事前
下見:小櫃干潟にて環境学習を実践した経験を持つ参加者にも協力を依頼し、担当教員と下見を行った。バスから現地までのアクセス、トイレなどの問題や安全面等を確認し、具体的な授業内容の企画を行った。また、必要な補完資料等、準備に関する計画も行った。
資料作成:授業当日、現地までのバスの中で導入に使う資料、現地で観察を行う際の補完資料、振り返りやまとめで使う資料等の作成を行った。主に写真資料の収集と編集加工である。 
 
・当日
実施:バスから1Kmほど、湿地の中を移動し、干潟へとアプローチした。子どもたちは、この間塩性湿地を通りながら、多くのカニや野鳥と遭遇し、干潟では、カニ穴や珍しい生き物を探し、目で捉えにくい干潟の生態系と視認性に優れた磯浜との違いに驚いていた。2時間弱の活動では、持っていた干潟の「汚い」イメージが変わり、分解や循環という新しい概念に触れ、新しい「海観」を持てた様子だった。また、参加した教員の多くも、初めての干潟だったことから、東京湾や海に対するイメージが大きく変わり、海への興味が喚起された様子だった。
振り返り:参加者レポート参照(目黒星美学園小学校 武澤先生)
 
▼結果
A1:そもそも干潟の具体的なイメージが無かったことから、磯浜と同じ海の分類に入ることが驚きだった様子。特に、泥の中に隠れる工夫や、生き物自身がその泥を浄化する力を持っていることを知り、自分の目だけでは知り得ない生態系の複雑さや多様性について驚いていた。
捉え方で大きな違いは、視認できる対象の多さや、五感で感じる感覚の違いであった。磯浜は多くの種類の生き物が、混在しており、その様子が一目で分かる。干潟は、ほとんどが泥に隠れており見えにくく、感触も磯と比べて不安定だと感じた。
A2:4年生の磯浜での経験した五感を使って対象を捉える、手法は残っていた。今回は特に匂いや色に大きな違いを見いだしていた。また、視覚に強く残った広さも印象的だったようである。生き物を大切に扱うという感覚も残っていたようである。
A3:授業後に学校で行った教員との反省会では、通常の教科学習との関連性を事前から考えておけるのであれば、より効果的な取り組みに出来たと指摘があった。しかし、2時間弱の学習のために必要とする準備や費用の負担は大きく感じ、継続的に、しかも学校独自の取り組みとして続けて行こうとすると、検討する余地は多くあるとされた。これは、特に時間数が限られており、今回実施した5年生時の特定の時期には様々な催しがあることから、自動的に優先度が下がるとされた。学習効果や価値があることは認めつつも、それにかかる負担を低く抑えるための体制や環境が、現時点では揃っていないとの結論に至った。
 
 
■巡検 新潟海岸巡検(11月)
▼ねらい
 地先の教員に対して海への興味を喚起する手法として、巡検の有効性を検証した。巡検による問題提起や普及啓蒙は、対象人数の点などから一見非効率的に思われるが、海の学習を広める際にはまず教員自身の興味を促すことが重要なことから、検討するべき手法である。しかし、従来は現状を伝えるためだけの取り組みとして行われている。
 今回の巡検は、現状の伝達が目的ではなく、どう現状を伝えれば学習に取り入れる気運につながるか、常に参加者には“海の学習”を視野に入れつつ、一日を過ごしてもらうことで、主催者側にとっての巡検という手法の可能性を探った。
 
新潟海岸巡検の様子
 
▼巡検
 場所は、新潟海岸にて行った。新潟よりワークショップに参加している参加者を通して、新潟県の教員を募集した。参加した教員は幅広い年齢層が集まった。
 コースは、
みなと館 (港湾と開発) をスタート地点に、
日和山展望台 (新潟の地形特性と地盤沈下)
関屋浜海水浴場 (海の家・消波ブロックに囲まれた海水浴場とレジャー)
関屋分水資料館 (災害と治水)
新川漁港東側 (縦割りの管轄区域)
新川漁港西側 (侵食現場と対策)
佐潟 (砂丘・後背湿地の利用と環境保全)
越前浜 (新潟海岸の原風景)
角田岬 (総括) と周遊した。
 
▼結果
 参加者からは、身近な海がこれほど痛手を負っているとは思いもしなかったこと、このことは何らかの形で学習に取り入れ、将来この問題を解決する立場になる子どもたちに触れさせておくべきだと感じた、との声が聞かれた。
 
 これは同時に、近くにとても重要で有効な学習資源があったとしても、認識できていないことを裏付けたことになる。認識するきっかけとして、巡検はその実施方法によって有効な手段になると確信した。
 
■結果のまとめ
 本年度事業の結果としては、ワークショップの開催と、事例検証、巡検を通して、目標に掲げていた学校周辺環境の特性や恊働に必要な事柄などの検証も進み、参加者との良好な関係が構築され、来年度、実際に恊働実践を希望する学校や参加者にも恵まれた。また、それを支える共通言語的なプログラム例も参加者により示された。これらのことから、事業目標へ到達できたと言える。そしてその過程からは、再設定された「場」の目的が達成され、我々が今後海洋教育を普及していく際の羅針盤とも言える仮説が導かれた。
 以下にその仮説を示し、次章にて、先述した各手法により得られた結果(学び)を振り返りつつ、今後「海の学習」を広めるための戦略と戦術について考えてみたい。
 
命題:「どうしたら海の学習が広がるか? そのために外部機関は何をどうすべきか?」
 
 このテーマ(命題)について、場に与えられた機会(ワークショップ、巡検、議論)と、これまでの個々の経験を通して、各参加者から導かれたものをもとに、主催者側で検討し、最終的な仮説として以下を導いた。
 
大仮説:<どうしたら「海の学習」が広がるのか?>
▽学校側が取り組みやすいようなサービスが継続的に提供され
▽学校側が取り組みやすいような環境が整い
●「海の学習」に対する良い評価が広がり、取り組みやすい風土が形成される
 
手法の仮説:<そのために外部機関は何をどうすべきか?>
1. 共に取り組んでくれる学校や人を確保し
2. 「海の学習」の有用性と必要性を示す事例を創りつつ
3. 様々なサービス(素材・手段)を用意し
4. 学校のリクエストに応えてくれる機関として存在を知らしめ
5. より広い専門家とユーザーのネットワークを整え
6. 学校の取り組みを様々なサービスにより継続的に支援し
7. その取り組みと効果をネットワークにて広く知らしめ
8. 海の学習に取り組みやすい風土を創る







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