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□第四回 8/29(金) 東京湾巡検(講師:宇多氏、清野氏)
▼ねらい
 海の専門家が示す「つながり」のストーリーを、参加者(教員)はどう感じるか。また、身近でありながら遠い存在である「東京湾」というフィールドで、海岸工学と生態系保全の2人の研究者により繰り広げられる世界に対して、参加者はどう反応するか。主催者側としては、第4回のフィールドワークは臨床実験的な位置付けをしていた。かねてより、多くの教員から、研究者の話は専門的な事柄や言葉ばかりが並んでいて分かりにくく、学校では取り入れにくい、という指摘があった。しかしその反面、総合的な学習の時間などで調べ学習が進むにつれて、専門家や研究者の指導が必要になるものの、適切な人材を見つけるのが困難であるとも聞いていた。
 海の学習を広め、より豊な学びを支援しようとすれば、必ず海の専門家や研究者と教員が恊働する場面があり、その存在は学校にとって有用なはずである。実際に第三回のワークショップでは、より身近な話題を提供したとはいえ、参加者は専門家や研究者が示す事柄に興味を持っていた。また、講師(村上氏、福島研究員)を学校に招いて、授業実施や研究会の評価を依頼する参加者も現れた。
 日本全国の海岸線で、地元民や自治体関係者まで、幅広い人に対して巡検やワークショップなどを行っている宇多氏と清野氏に講師を依頼したのは、目の前の対象に関する専門的な情報や知識を伝えていただくためだけではなく、海の現場で起きている複雑かつ重要な問題と、それらの解決が非常に難しいこと、その解決のためには人材育成=教育の役割が欠かせないという事実を、それぞれの経験や想いと合わせて、参加者に伝えていただきたいというねらいもあった。同時に、海の専門家や研究者が学校や教員と関わる際に、注意すべき事柄を具体的に把握するねらいもあった。またオブザーバーとして第1回講師の濱田隆士氏にも同行を依頼し、2人の講師から示される事柄について、自然科学的な広い知見からの補完をお願いした。
 
有明でのフィールドワーク
 
▼巡検
 第一回の巡検とはうって変わって晴天に恵まれた。有明の埋め立て、辰巳水門、葛西臨海公園を周るコースを予定していた。
 コースは、
 
・身近でありながら、非日常的な場所
・現代社会の基礎をなす重要な事柄を多く含んでいながら、一般にその認識が薄い場所
・「自然か人工か」の定義をするのが難しい内容を持つ場所
 
 などの観点をもとに、東京湾内で、しかも移動距離が少なくて済むように設定した。そして、事前に宇多氏と同コースを周り、伝えるべき内容と大まかな脚本を描いた。また、清野氏より助言をいただき、当日の講義を補足する資料を作成した。この時、なるべく参加者が学校での授業にも活用できるよう、空中写真などの珍しい写真を載せる、図表を用いる等の工夫をした。
 
▼結果
 猛暑での一日に及ぶ野外活動にも関わらず、参加者は熱心にメモを取り、講師とのやり取りを通じて海に関する興味を広げていた。視点は、有明で繰り広げられている埋め立てという行為が問いかける、自然の保全と社会基盤の整備という矛盾にも思える事柄について。辰巳水門の岸壁に、波という自然の力が創った砂浜とそのメカニズムについて。葛西臨海公園の汀線際に根をはり、風や波にも耐えぬいている植物たちについて。意識を持ち、少し視点を変えるだけで、東京湾という人工的な場所にも、多くの題材が存在することを認識していた。参加者の意識や興味が広がることで、それらを題材として見つけることができ、都心の教室から海につながる学習も可能となることが、感想として聞かれた。また、そのような意識や興味を広げるキッカケとして、専門家や研究者と共に過ごす、巡検という手法は有用だと確認できた。
 
 
□第五回 11/8(土) GEMS体験(講師:田中氏)
▼ねらい
 14年度事業で行った調査の中で知ることになった、GEMS(Great Experience Mathematics and Science)というプログラムは、米国UCバークレイ校にある、ローレンスホール研究所にて開発されている、小学生から高校生を対象にした科学教育のプログラムである。タイトルは現在までに約80本出されており、日本語に訳されたものも出版されている。
 第5回ワークショップでは、GEMSの日本での普及を行っているGEMS Japanに協力を求め、実際にプログラムを体験することにした。
 GEMSのプログラムは、各テーマの専門家や研究者、大学院生、また教育学者や現場でプログラムを使う教員やPTAを交えて、恊働で作成される。また一つのプログラムが完成されるまでには1年〜3年を費やすこともあるという。ローレンスホール研究所などが設立され、科学教育の振興に力が注がれている背景には、スプートニックショックに端を発する米国の国策があり、投入される予算も膨大なようである。
 全てのプログラムには、参加者同士の議論や恊働が必ず設定されており、手と頭を動かしながら参加者自身が主体的に進めていくスタイルがコンセプトとして与えられている。
 ワークショップでの体験講座を依頼する前に、主催者側から1名、GEMSの講座に参加した。そこで実際にプログラムを体験し、完成度の高さのみならず、大人でも楽しめる仕掛けがあり、ある程度の訓練を積めば誰にでも実施できるプログラムであると認識した。特に、プログラムを実施できる人材が限られるようでは、普及は難しくなり、その目的にも反することから、この点での工夫は興味深く、実際に日本の教員がどのような興味を示すのかを確認することが、第五回の大きなねらいであった。
 
▼プログラム体験
<アイスブレイク>
 アイスブレイクでは、ロープを使った遊びを通して場の雰囲気を和ませ、その後のプログラム中の参加者同士のコミュニケーションの活性化が試みられた。ここでは、いかに固定観念を払拭するかというアクティビティが行われた。
 
<リンゴのプログラム>
 リンゴを使い、地球上に存在する水の量や、地表の面積、地殻の厚さなどを実感するプログラムを行った。ここでは、リンゴが切れなくなる程の薄さと、地球上で人間が飲み水として使える水の量が同等だという事例が特徴的だった。
 
<氷と流れのプログラム>
 水槽に2つのコップと氷塊を配置し、異なる場所からインクを落として、そのインクがどのように流れるかを予想するプログラムを行った。平面的な動きに加え、深度により流れが異なることが確認できる内容だった。
 
▼結果
 3つのグループに分かれ、プログラムを体験した。参加者は終始楽しんでいた。はじめに行ったアイスブレイクでは、参加者同士の距離をより近づけることになり、主催者側としては予期せぬ効果が得られた。同時にワークショップ等の運営手法をより学ぶ必要性を改めて感じた。
 氷を使い水の流れを確認するプログラムでは、各グループ同士がお互いの水槽を見比べつつ水の流れを予想し合う姿があり、場に一体感を感じることができた。座って話を聞く形態ではなく、手を動かしながら、グループ内で話をしながら進めるため、自然とコミュニケーションが深まった。先述したように、この回にこのプログラムの体験を設定したことは、場の雰囲気創りに大きく貢献した。
 
氷と流れのプログラム
 
▼プログラム体験の感想
 体験を終え、GEMSのプログラム自体に対しては「とても楽しいプログラムだった」と評価された。ディスカッションを進めていく中では「外部のプログラムを学校の中で活用すること」、「プログラムを外部機関と恊働で創る際の注意点」、「海の学習を行う際に、外部機関に求める点」、「どうしたら、海の学習が普及するか」など、海の学習に関する様々な議論へと発展した。
 我々が海の学習の普及に向け、その手段の一つとしてプログラム創りやその普及を行うこと考える際に、重要だと考えられる意見を以下に示す。
 
<プログラムについて>
「子ども自身に取り組む必要感を持たせるのが鍵」
「終わった時に達成感を感じさせられるかが重要」
「クラス、子どもの実態や特徴に合わせて調整できる余地が必要」
「子どもへの動機付け、疑問作りに期待できる」
「フルコースではなく、アラカルト群を用意してくれた方が良い」
 
<プログラムの利用促進について>
「学内で合意形成をとりやすい説明資料があるとよいのでは」
「活用する際の、意図、ねらい、効果、事例等、多くの情報を示すべき」
「学校の通常授業でやる予定にないものは、導入が難しい」
「備品扱いで購入できる額だと導入しやすい」
「プログラムを使い、他の学習へ発展した実例を示すべき」
 
<海の学習を広めるための、外部機関と教員の恊働について>
「双方の意図やねらいについて、相互理解する為の十分な話し合いが重要」
「学校の進み方(学年、時期、教科、内容等)との関連性を考慮する」
「商品開発をし、市場を創る気で、常にニーズを探り、我々は対応できますよ、というイメージ創りと普及に努める」
「教員の側にイメージや利用価値が浸透する前に事業を撤退する機関が多い」
「短期的ではなく、継続的に取り組むことで、効果がでる」
「既に海を用いた学習をしている学校同士のネットワーク創りが有用では」
「“海と○”といった感じで1つの授業ユニットを作り、それをウェブ上で配信すると興味をもってもらいやすい」







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