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結果
■ワークショップ
□第一回 5/31(土) 養老川巡検(講師:濱田氏)
▼募集
 教育関係者への紹介依頼、及び教育関係メディアへの公募を実施し、東京・千葉・神奈川・新潟より、14名の現役小学校教員の参加を得ることができた。
 
 参加者同士も、また主催者と参加者もこの会で初めて顔を合わせた。そのような重要な回にも関わらず、5月としてはとても珍しい台風上陸に見舞われた。東京駅での集合時間には小雨が振り出し、第一見学ポイントの養老川河口では強い横風を伴う雨に変わり、最終見学ポイントでは豪雨となりバスの外へと出ることすら出来なかった。その結果、この回では参加した教員から学校側のことについて何かを得るという以前に、主催者側の運営手法を強く反省せられることになった。
 
養老川河口干潟付近
 
 まず、我々はこの回の内容を企画するに当り、この初回は参加者側に我々の意図をフィールドワークという楽しい体験を持って理解してもらう機会として位置づけた。
 しかし、本年度事業の内容を企画・準備している段階から、主催者側(支援機関側)の論理や都合で考えない様に気をつけてきたものの、振り返るとこの初回の位置付け自体がそれに反していた。参加者としては、初めて耳にする機関の催しであり、参加者同士も初めて顔を合わせることからしても、とても不安なはずである。そもそも、我々が何を目的に会を催し、何をねらっているのか、紙面以外では具体的には知らされていなかった。そのような大前提からしても、まずは主催者として、参加者に対し説明責任を果たすことのみに注力し、同時に今後5回に渡り時間をともにする参加者同士の相互理解に努めるべきであった。また、位置付け以外にも、多少の雨天なら開催できるとして、豪雨の場合のプランを準備しなかったことは、野外での催しを行う者としては、あらゆる面からしても犯してはならないことであった。
 しかし、肯定的に捉えるとこの回での失敗から得たものは非常に多く、後の回全てに対して、良い影響を及ぼした。以下、この失敗から得たものを並べてみる。
 
・「どう伝えるか」ではなく、まずは「どう伝わるか」を考えること。
・関係者同士(参加者と主催者、参加者同士)の関係の発達度合いに応じた内容(手法)を提供すること。
・野外巡検を催す場合は、数パターンの天候を想定し準備する。と同時に、延期や中止の判断基準を明確化する。
 
▼結論:
 まず、主催者側が初回をどう位置付けるかという観点からは“目的意識を共有する場”として設定すべきであった。初回に目的意識を共有することの重要性を低く見積もっていたことは、深く反省すべき点である。
 そして初回に企画していた内容は、関係者間での関係構築が進み、共通言語や共通認識が形成されてから、提供するべきであった。この関係性が密接になっていたのであれば、また天候が良ければ、良い成果が得られたと推察する。
 
 
□第二回 6/21(土) 「館」の活用(講師:中村氏)
 学校と外部機関との連携を考える上での叩き台事例として、博学連携を取り上げた。中村氏に講師を依頼した理由は、近年の博学連携におけるミスマッチ等の課題解決には、学校側に対して館側の実情を伝える必要を感じていたからである。「館はこう活用しろ!」というメッセージを、館側の立場にある者から発信することで、参加者(学校側)に存在する「館」に対する既存のイメージを拭いさり、新しい活用方法や連携方法を模索するきっかけを提供することができると考えた。
 そこで中村氏から、まず館の実情や背景を、次に中村氏の「館はこう活用しろ!」というメッセージを話していただき、最後に参加者がグループに分かれて仮想の水族館を使った単元開発を行った。
 
▼館の実情
 中村氏からは、少ない人数と予算内では学校のニーズに対応しきれいない実情や、そもそも明確なコンセプトを持って設計・運営されることが難しいことの背景や原因などが伝えられた。参加者の中には、館と連携しての授業や取り組みを経験し、その難しさを知りつつ、恊働の可能性を模索している者もおり、氏の説明にはとても興味があるようだった。最近は、小中学校の教員が博物館などに出向し、館と学校のコーディネーターを務める事例もあり、また双方に似た構造や問題があることからも、より身近なこととして感じたようだった。
 
▼中村氏からのメッセージ
 その上で、中村氏から「館はメディアとして捉え活用するべき」とのメッセージが示された。館には一定の情報が方向性を持って集積されているのだが、その方向性にとらわれず教員の得意技(趣味やテーマなど)を活かして展開していくことで、より子どもたちにとって魅力的な場所になることなどが伝えられた。館が展示する内容や固定概念に縛られず、そこからどんなキッカケを得て後につなげるか、あくまでも教員の思いを伝えるための素材集として捉えることで従来以上の広がりを持ち、同じ場所でも幾通りもの活用方法があるとした。
 
▼参加者によるグループワーク
 ここまでで館に対する新しい認識を共有し、最後に三つのグループに分かれて、既存のイメージを切り離してのプログラム作りを行った。グループ分けは、参加者にキーワードやテーマなどを掲げてもらい、文科系、生物系、マリンスポーツ系の三つに構成された。分化系のグループは、「環境について東京湾を切り口に考え、生命の大切さを知り、海を好きになる」ことをテーマとして、取り組んだ。生物系のグループは、「子どもたちに、生きていくための“環境”について興味を持たせる」ことをテーマに取り組んだ。マリンスポーツ系のグループは、「自分たちなりのフリースタイルの泳ぎを、魚たちから学ぶこと」をテーマに、『本物に学べ〜僕の私の自由形〜』として取り組んだ。
 
プログラム作り
 
・文化系では、子どもたちに「東京湾の環境と命について」という課題をどう発見させるか、導入や動機付けが重要として、議論を交わした。
・生物系では、子どもに興味関心を持たせる場として水族館を位置付け、しかもそこで終わらないよう、20時間くらいのプログラムにすることを前提として議論を交わした。
・マリンスポーツ系では、どのようにして水族館に行く子どもたちの必要感を醸成するかという、やはり導入部分について議論が交わされた。
 
 今回は、館をテーマが限られた場所として捉えるのではなく自由なメディアとして捉えること、また教員の得意技を活かして展開しようとすることで、館の活用法にも多くの可能性があることを確認しようとした。そのためにも制限や条件を設定せずに行った。結果として参加者から示された三つの案には、それぞれ課題や館への要望が含まれていた。
 
▼結論
<講義について>
 館側に位置する中村氏の講義に対しては、高い評価と満足度を得た。館側の実情を、その側に位置する者の視点で語られたこと、またほとんどの館が少ない経営資源で運営されていることなど、学校と同じような課題構造を持つことが示され、今後の館との連携において非常に参考となったようである。
 
<グループごとのプログラム作りについて>
 架空の水族館を前提にしたプログラムであったが、実現可能性の高いものもあり、学校に持ち帰り実践することを検討している参加者もいる一方で、架空の前提を用いたプログラムでは、実践不可能だと指摘する参加者もいた。
 実際には、学校ごとに様々な諸条件がある。いざ、実践してみたいプログラムが存在したとしても、地理的条件、人材的条件、資金的条件、時間的条件、そして学校の計画にどう位置付け、学習効果をどう測るか等の課題を解決しなくては実践不可能である。逆に言えば、この課題が解決されることを前提としないプログラム作りは実現可能性も低く、取り組みとしては魅力的には感じられないようである。一口にプログラムといってもその捉え方は多様であり、その多様性を我々側が理解することの必要性を提起された回であった。
 
 
□第三回 7/19(土) 「トイレ」の活用(講師:村上氏、清水氏)
 地域学習が主体の小学校では、いきなり海の課題に入ることは、臨海部の学校を除いて難しい。そこで、日常の生活からも海へと興味を広げられることを示したいと考え、トイレの専門家と廃棄物処理に関する専門家を迎え、また当財団の福島研究員も加わり、三名の講師で挑んだ。まずは、福島研究員から「環境問題の歴史と要点」に関する説明を行い、村上氏からは小学校への出前授業の内容や、トイレや排泄に関する事例を紹介して頂き、最後に清水氏から廃棄物処理にまつわる様々な事例を示して頂いた。
 この回のねらいは、環境問題には時代背景や地域により原因やその解決策に違いがあり、個々の国や人が日常の生活や身近なことから改めなくてはいけないこと、その中でも食と排泄は子どもにとっても身近な問題として興味を持ち易く、そして下水道は見えない川として日常の生活と海をつないでいると伝えることで、海を身近に感じることができまい場所からでも海につながる学習が可能だと示すことであった。
 
▼参加者からの反応
 参加者からはねらい通りの反応を得ることができた。小学生にとっては「タブー視」されている大便の排泄を重要視することで、より強く子どもの興味を引きつけつつ次の展開へとつなげられるとして、参加者は喜んでいた。特に食と健康というそもそも学校生活が持つ重要なテーマも含み、下水道から下水処理場という必ず小学校では扱う場所を通り、最終的には海や環境の事柄にまで広げられるとして、その汎用性の高さが評価された。実際この回を経て、参加者が自分の学校へ村上氏を招き、トイレと排泄の授業を行うといった事例へと発展した。同様に、教員が開催する研究会に第三者評価の一環として福島研究員が招かれ、教員による実践事例発表に対して、専門家の視点から評価を行う事例へも発展した。
 回の内容としては、参加者からの反応がよかったことや、専門家の派遣という事例へと発展したことから、よい内容だったと言える。
 
▼主催者側への問いかけ
 事業開始当初、我々は、ワークショップの場に目的を与えることでより実践的な教員との恊働が可能になると考え、会全体で一つのプログラムを創り、それをワークショップのアウトプットにしようと考えていた。そのプログラム作りの過程は、参加者同士の関係性の発展度合いや興味の属性などを検討し、複数のグループに分けて行い、最終的に複数のプログラムを創る、もしくは個人で行い参加者の人数分のプログラムを作る等、複数のパターンを想定していた。同時に、限られたワークショップの場だけで可能なのか、また参加者のキャリアや地域特性等も異なる等、諸条件が多様なことからも、「プログラムを創る」というアウトプットが果たしてこのワークショップという「場」を最大化する絶対の方法なのか、確信を持てずにいた。
 そんな状況の中、3名の講師の講義の後に行った質疑応答で、参加者との議論の中から、主催者側が参加者へ求める事柄をより明確にするべきとの指摘を受けた。「主催者側が、この事業の参加を通して参加者側に求めるより具体的なアウトプットイメージと、その過程を示すこと」を求める内容であった。
 第二回ワークショップの冒頭で、事業実施に至った背景やねらい等の説明は行った。しかし、主催者側に先述した悩みが残されていたため、この指摘に関する部分は明確に示せていなかった。
 参加者の立場からすれば、当然の疑問や不安があったであろう。それら未解決の事柄について、参加者側から指摘を受けたことは、主催者側にとって非常に幸いなことであった。その指摘を口火に、参加者同士の中でこの会をどう捉えているか、どう活かすべきか等の議論が交わされ始めた。当然主催者側も加わり、議論の焦点は「背景の異なる教員が集まるワークショップという場をいかに最大化するか」へと変わった。議論では、ほとんど全ての参加者から場に対する想いが語られた。
 
・自分がワークショップという場に参加したことで得た情報や考え方をいかに子どもたちに還元できるか、それに取り組むことが参加している意義である。
・場として何かを作ると認識していたから、何かを作ることを求められると漠然と思っていた。
・普通では知り合えない幅広い層の先生方と知り合えただけでも、参加している意義はある。が、主催者側に何か提供できる自信はないので、申し訳ない感もある。
 
等、その他
 
結局、議論の中で示された共通の考えは、
 
○場全体で一つのプログラムを作るのは手法的に難しい
○個人やグループでプログラムを作ったとしても、汎用性は低い
○年齢や所属、地域も様々な18名という教員が集まる場だからこそ出せるアウトプットは何かを、主催者側の観点から考え直すべきである
 
 結果として、この回における参加者との議論を通じて、参加者側から目的の再設定という大きなチャンスをもらったことになり、議論から挙った声などをもとに、改めて主催者側で「場を最大化するための目的」を考えることになった。
 
▼場の最大化を目指して・・・
 第四回ワークショップ(巡検)までの間に目的の再設定を行うため、まず参加者へ個別に連絡を取り、意見や想いを聞く作業を行った。
 そのやり取りの中では、
 
第3回ワークショップ
 
・参加者が主催者のような公益機関に対して持つ期待
・学校が必要としている支援や協力の内容とその背景
・今までに非学校機関と関わった経験とそれに関する所感
 
 等を必ず聞き、それ以外にその教員の属する地域や学校環境が持つ特性や、その特性を日々の学習にどう活かしているかなど、なるべく「学校周辺の生態系」についての情報を入手するよう心がけた。
 
▼新しく場に設けられた目的
 そして新たに設定した目的は、
 
<場としては>
 主催者側が示す事例や、提供する機会(ワークショップ、巡検)を通して、どのようにしたら海の学習が広がるか?そのためにSOF のような機関は何をどうすべきか?などを導く
 
<参加者からのアウトプット>
 自らの経験や、その経験から導かれた考えを示しつつ、SOFのような公益機関が行う学校現場への支援事業や恊働事業に対しての提言や提案を行う。
 
 という2点に絞ることとした。







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