日本財団 図書館


8 沿岸域総合管理研究会提言(抜粋)
2003年3月
 
はじめに(略)
1. 沿岸域に対する基本認識(項目のみ)
(1)自然環境の中での沿岸域
 
(2)人と沿岸域との関わり
 
(3)本提言作成の趣旨
 
2. 沿岸域管理に関するこれまでの取組
 沿岸域では, 産業, 物流, 生活, レジャーなど各分野において秩序ある利用が求められる一方, これまで人の利用や防災対策のために, 人の手により多くの改変がなされてきた。また, 干潟, 藻場, 砂浜の保全など環境問題への対応も課題となってきた。このため, 沿岸域管理のあるべき姿に関しては, 従来よりさまざまな機関で検討が行われてきた。
 
 特に近年の取組として, 国においては, 平成10年の全国総合開発計画「21世紀の国土のグランドデザイン」の中で, 沿岸域圏の総合的な管理計画を策定・推進することを定め, これに基づいて平成12年に「沿岸域圏総合管理計画策定のための指針」を策定している。また, 平成13年6月に国土交通省河川局では「沿岸域管理研究会提言」をとりまとめている。
 
 その他の機関においては, 「沿岸域の持続的な利用と環境保全のための提言」(平成12年12月日本沿岸域学会), 「21世紀における我が国の海洋政策に関する提言」(平成14年5月日本財団)などが出されている。
 法制度面では, 海岸法が平成11年に改正され, 従来の法目的である防護に加えて環境と利用の観点が追加され, 防護・環境・利用が調和した海岸づくりを目指して整備が進められている。さらに, 施設整備といったハード対策に加えて, ハザードマップ作成支援などのソフト対策も鋭意進められている。また, 港湾法が平成12年に改正され, 法目的に「環境の保全に配慮しつつ」港湾の整備等を図る旨が明記され, 港湾の整備等において配慮すべき環境の保全に関する取組が強化されている。
 
 特に閉鎖性水域については, 人の活動が環境に与える影響が大きく, 利用に関する要請も高いことから, 環境保全や水域全体の利用調整に関する取組が行われている。東京湾, 伊勢湾, 瀬戸内海(大阪湾を含む)については, 水質の汚濁防止を図るため, 水質汚濁防止法及び瀬戸内海環境保全特別措置法に基づき, 陸域から流入する汚濁負荷量の総量を削減する措置が図られている。瀬戸内海(大阪湾を含む)については, 環境の保全を図るため, 汚水等を排出する施設の設置の規制, 富栄養化による被害の発生の防止, 自然海浜の保全等の特別な措置を講じる, 瀬戸内海環境保全特別措置法が制定されている。有明海及び八代海についても, 深刻な漁業被害の発生を契機として, 環境の保全及び改善並びに水産資源の回復等による漁業の振興に関する施策を促進する等の特別な措置を講じる, 有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律が新たに制定された。その他, 環境, 防災, 国際化等の観点から都市の再生を目指した都市再生プロジェクトの中で, 大都市圏の「海の再生」を図ることとされ, 先行的に東京湾において対応を図ることとし, 関係機関の連携により, 東京湾再生推進会議が設置され, 水質改善のための先進的な取組が行われている。さらに, 湾内に港湾が隣接して存在している東京湾, 伊勢湾, 大阪湾については, 各港湾相互間の役割分担や連携を図る必要があることから, 国及び関係港湾管理者の連携により「港湾計画の基本構想」が策定され, 広域的な観点から各港の開発, 利用及び保全が行われている。
 
3. 沿岸域管理における問題点(項目のみ)
(1)利用と環境の問題
(1)水質汚濁
(2)船舶事故による油流出
(3)海岸漂着ゴミ
(4)海岸侵食
(5)干潟等の減少
(6)海岸利用による生態系への影響
 
(2)利用における問題
(7)レジャー利用と漁業の輻輳
(8)レジャー利用同士の輻輳
(9)プレジャーボート等の放置
(10)臨海部の土地利用の問題
 
(3)防災対策と環境の問題
(11)海岸整備等による生態系への影響
 
(4)防災対策と利用の問題
(12)海岸構造物によるレジャー利用への影響
(13)護岸, 離岸堤等の整備による景観の悪化
 
(5)防災対策における問題
(14)防災対策の遅れ
 
4. 沿岸域に関する取組における課題と必要な対応
 上記のように, 依然として沿岸域ではさまざまな問題が残されており, その現状は深刻な状態にまで来ていると言っても過言ではない。
 
 沿岸域における問題事例毎に, 現在の制度やこれまでの取組を整理し, その評価を行った結果, 以下のような共通の課題が存在しており, それぞれに適切な対応が必要である。
 
(1)責任の所在が不明確であったのではないか
 沿岸域においては, 管理者が存在しない海域があるなど, 管理体制が整っていない部分があり, 問題が発生した場合, その処理責任主体が不明確になっている。今後は, 問題毎に責任主体を明確化していく必要がある。
 
(2)施策の実施主体の連携が不足していたのではないか
 各々の問題に対して, 各施策実施主体が個々に対応してきたため, 責任の所在が不明確になる部分が生じるなど, 施策の効果を十分に発揮させることができなかった。
 
 今後は, 行政はもとより, 研究者, 地域住民, 利用者, NPO等の関係者間の連携を図り, 適切な役割分担のもとに施策を実施していく必要がある。その際, 地域住民やNPO等が行う活動に対しての支援を検討する必要がある。
 
(3)地域住民や利用者との合意形成が十分ではなかったのではないか
 事業の計画段階から工事実施に至る各段階において, 地域住民や利用者等に対する説明や対話の不足により, 地域住民等との十分な合意形成が図れないまま事業が実施された場合が見られた。今後は, 地域住民や利用者と十分な合意形成を図り, 地域住民や利用者の利便性や満足度が高い事業を実施する必要がある。
 
(4)広域的な影響の考慮が十分ではなかったのではないか
 局部的な開発や構造物の設置が水質の悪化や海岸侵食に影響を与えたり, 海砂利採取が環境の悪化や海岸侵食の一因となるなど, 広域的な影響に十分な配慮がなされてこなかった。今後は, 研究者の協力も得ながら他分野への影響も含めて十分な調査・検討を行うとともに, 関係機関と十分に調整していく必要がある。
 
(5)開発や防災を優先して環境への配慮が十分ではなかったのではないか
 これまで実施してきた防災対策や臨海部の開発は, その必要性が明らかで一定の効果を上げており, 環境への影響にも配慮してきたが, 代償として失った自然海岸や干潟等の自然環境も多い。今後は, これまで以上に環境を重視し自然と共生する取組が必要である。
 
(6)沿岸域における情報が不足していたのではないか
 沿岸域における環境調査結果等の基礎的情報や生態系の特徴など環境の自然科学的な情報, 水域の利用状況などの社会科学的な情報が不足していたために, 環境との調和が十分に図られてこなかった面がある。今後は, 環境情報をはじめ沿岸域に関する情報の収集・整理・管理体制を整備するとともに, 自然科学的研究を促進していく必要がある。
 
5. 沿岸域の総合的な管理の基本的方向
 以上のようなさまざまな問題が顕在化し, 対応が必要である沿岸域において, 従来のような単一の事業・ 施策, 単一の施策目的, 単一の事業主体による対応では, 一定の目的は果たすものの, 望ましい沿岸域の形成のためには不十分である。
 
 例えば, 東京湾においては, 流入する窒素・りん等による湾内の富栄養化の進行に伴い赤潮や青潮等の発生がみられ, 生物生息に多大な影響をもたらすとともに, 漂着ゴミの問題など沿岸域における環境の悪化が問題となっている。また, 背後の陸域には多くの人命や財産が集積しており, いわゆる「ゼロ・メートル地帯」を中心とした防災対策に強化が必要になっている。さらに, 位置的に近接する湾内の中枢国際港湾への港湾貨物の集中により, 海上交通に過度に負荷がかかるとともに, 空港の整備等の新たな利用要請も生じている。こうしたことから, 環境・利用・防災の各分野において, 総合的な管理の必要性が生じている。
 
 このため, 総合的な視点に立った沿岸域管理が必要であり, 良好な環境の形成, 安全の確保及び多面的な利用の調整を図るとともに, 多様な関係者の参画により, 「白砂青松」や「渚」などの言葉で表されるような自然の魅力ある空間や東京都の臨海副都心などのような都市の臨海部における水際線を活用した魅力ある空間など, 地域の特性に応じた, 「美しく, 安全で, 生き生きした沿岸域」を現世代から次世代へ引き継いでいくことを目標として, 以下の視点で各種施策を実施していくべきである。
 
(1)施策の実施主体の協働
 行政, 研究者, 地域住民, 利用者, NPO等当該地域に関わる多様な関係者が, 施策の検討及び実施, 実施した施策の評価に参加する。その際, 地域住民, NPO等に対しては十分な情報を提供する必要がある。また, 施策の実施にあたっては, 関係者間で十分な調整を行い, 問題に応じて適切な役割分担を図ったうえで効果的・効率的に施策を実施する。また, NPOや民間企業などの積極的な関与を促す仕組みの制度化などの新たな施策を実施する。
 
(2)相互に関連のある問題に対する包括的な施策の実施
 さまざまな要因が密接に関連して生じている水質汚濁や海岸侵食等の問題に対しては, 総合的な水質保全対策や土砂管理対策など広域的かつ多面的に対策の検討を行い, 効果的な施策を実施する。
 
(3)個別法の法目的や適用範囲の拡大
 沿岸域で生じている問題の中で, 既存の法令の改正や適用範囲の拡大により対応が可能なものについては, 速やかに検討を始め, 拡大を図る。
 
(4)制度の空白部分の一体的管理
 沿岸域で生じている問題の中で, 自由使用を原則として認めつつ使用の制限を加える仕組みがない一般海域(法令により規定された区域以外の海域)の管理の問題など既存の法令やその適用範囲の拡大では対応が不可能なものについては, 立法的な解決の必要性を指摘しつつ, 当面の対応として地方公共団体による条例制定などにより対応を図る。
 
(5)沿岸域の新たな活用のための施策の展開
 人々がこれまでさまざまな形で恩恵を受けてきた沿岸域に対して, 国民のより一層の理解を得るためにも, 環境の保全に十分配慮した上で, 賦存する膨大な自然エネルギーを有効に活用するなど, 多様な活用を促進する施策を展開する。
 
(6)関係者間での情報共有と国民への情報提供
 沿岸域の総合的な管理を図るためには, 関係する機関が保有するさまざまな情報を有効に活用することが不可欠であり, 研究者やNPO等を含む関係者間で情報の共有化を図る必要がある。また, 説明会, ホームページ, パンフレット等のあらゆる手段を用いて, 沿岸域に関わる情報を国民へ広く公開し, 要請に応える必要がある。
 
6. 個別問題の解決のための施策(略)
(項目は3. と同じ)
 
7. 沿岸域の総合的な管理に向けて
 本研究会では, 短期的に対応が必要な具体的な問題事例を出発点に, 沿岸域の総合的な管理の基本的方向や具体的な施策について検討してきたが, 長期的課題も含めた沿岸域の総合的な管理のためには, あわせて以下の取組を実施するべきである。
 
(1)沿岸域の総合的な管理のための計画の策定
 沿岸域行政の実施にあたっては, 地域毎に地理的条件, 社会的条件, 自然環境条件等が異なることを踏まえながら, 一体的に管理すべき沿岸域毎に多様な関係者からの要請を調整しつつ進める必要がある。そのため, 沿岸域の総合的な管理のための施策実施に向けて, 国は, 地方公共団体等による沿岸域圏総合管理計画の策定を今後も促進すべきである。
 
(2)施策の推進体制
 沿岸域に関する問題は各地域の実態に即した対応が必要である。本提言に示した施策の実施にあたっては, 行政が主体となって各地域において多様な関係者が参画する協議会などを設置し, 施策の具体化の検討, 施策の実施, 実施した施策の評価を行うべきである。なお, 協議会では, 必要に応じて, 沿岸域圏総合管理計画案の提案や計画の見直しの提案も行うべきである。
 
 また, 国においては, 沿岸域の総合的な管理に向けて, 必要な体制の検討を行うべきである。その中で, 国と地方の連携を密にしながら, 新たな問題に対する施策の検討や, 本提言に示した施策の評価及び見直しなどを行うべきである。
 
おわりに
 本提言は, 沿岸域の総合的な管理に向けて, 国土交通省が所管する事項に関する施策を主にまとめたものであるが, 沿岸域に関する問題は多様な関係者が存在しており, 今後, 関係する省庁と積極的に連携を図りつつ施策を実施していくことが必要である。
 
 また, 本提言では, 既存の法令などの適用範囲外となる問題については, 短期的な対応として個別法の適用範囲の拡大等, 個別の実効的な施策により対応することとしているが, 将来的には, これらの個別施策の実施成果を沿岸域を総合的に管理する新たな法制度の制定は結びつけていくべきと考える。
 
 そのためには, 国民一人一人が自分たちの海や海岸であることを認識するとともに, 沿岸域の問題を広く国民に理解してもらうことが重要であることから, 沿岸域の現状や施策の実施状況等を広く公開するなど, 国民的な議論を一層活発化させていくことが必要である。
 
詳細は下記のアドレスを参照







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION