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第3節 阪神淡路大震災を契機としたコンテナ輸送
1 震災で明確化した港湾ソフトの立ち遅れ
 阪神淡路大震災で大打撃を受けた神戸港の復興過程で, わが国コンテナ港湾の高コスト構造, 24時間荷役や情報化への対応の遅れが指摘され, 重ねて米国との摩擦から港湾運送事業法の規制緩和問題等が惹起され, 総合物流施策大綱等でも対応策が提起された。
 2002年8月, 新総合物流施策大綱第一回フォローアップが行われた。その結果によれば, 港湾の24時間フルオープン化の早期実現を図るため労使間協議が行われ, 2001年末から2002年にかけての年末年始の4日間に, 初めて全国でコンテナ船等545隻において荷役が行われた。また, 海上通関情報処理システム(Sea-NACCS), 港湾EDI(電子データ交換システム), 乗員上陸許可支援システム等の各システムを相互に接続, 連携することにより, 2003年度中のできるだけ早い時期までに輸出入・港湾関連手続きのシングルウィンドー化を実現することとされた。
 インターネットが普及した現在, 専用回線システム(Sea-NACCSが該当)を維持して行政手続への電子申請で料金を取ることへの批判もでている。今後は発荷主から着荷主までの関係者間で必要な情報をワンインプットで共有するための基盤整備を進めることにより, より一層の国際物流の効率化を進めるべきであるとされているところである。
 2003年度供用開始予定である北九州市ひびきコンテナターミナルについては, シンガポールのターミナルオペレーターであるPSA社を筆頭とする企業グループとPFI事業の基本協定を締結し注目を集めている。釜山新港, 光陽などが2010年半ばに完成するが, ひびきコンテナターミナルが2003年と早い時期にオープンすることで, トランシップ港としてプレゼンスを高めることとなっており, 新しい港湾荷役サービスとして注目を浴びているところである。
 
2 内海化が予想される日本周辺海域
 阪神淡路大震災で神戸港は大打撃を受けたが, 日本関係貨物が輸送できず経済に大打撃を与えたとは報告されなかった。日本社会はすでに日本域内だけで物流を考える段階を卒業し, 大陸とのネットワークの中で物流を考える時代になってきていたからである。コンテナどころか鉄鋼等の太宗貨物のストックポイントがいずれ大陸に移動すると予想されるところから, 港湾の位置づけはさらに変化すると考えられる。
 極東の物流のパイが大きくなることには間違いがない。中国東北部等が発展し世界の工場となれば, ロシア極東地域も発展し, 日本海, 黄海, 東シナ海は日本列島における瀬戸内海のごとく内海化するであろう。欧州大陸と英国の間のフェリー, 沿岸海運ネットワークのように, 中国・ロシアと日本列島の間にフェリー・沿岸海運ネットワークが形成されるに違いない。すでに日本海側本州港湾に就航している定期コンテナ航路は, プサン航路(10航路), 中国航路(2航路), 東南アジア航路(1航路), その他(3航路)の16航路にまで増加している。
 
図1-7-4 
地震で倒壊した六甲アイランド・コンテナバースのクレーン
 
図1-7-5 地震で倒壊した三宮付近の岸壁
 
 日本近海が周辺諸国の内海化し, 太宗貨物のストックポイントが大陸部へ移動していけば, 相互にカボタージュ規制は見直さざるを得ないはずである。経済特区で論議になったカボタージュにつき, わが国ではいまだに安全保障の観点から必要との認識が強い。パナマ籍船がわが国経済の生命線である中東石油を輸送しているにもかかわらず, そのパナマ籍船による沖縄・本州間の国内輸送反対に, 安全保障を振りかざすのは順序が逆である。
 カボタージュにもバリエーションがある。純粋のカボタージュは外国籍船が日本国内港間のみを航行するケースで, この場合は日本法令の適用も可能であり, トラックと何もかわらない。船籍が問題なのではなく, どこの国の法令に従うかが問題なのである。純粋カボタージュと対比されるのがタグエンド・カボタージュである。中東航路のパナマ籍タンカーがついでに沖縄・東京間の国内輸送に従事するケースである。中国が日本を含めた極東の物流ストックポイント化すれば, 日本国内港間輸送をネットワークから排除すれば物流効率は低下する。相互主義に基づき条件付で双方が開放することも必要になるかもしれない。
 
図1-7-6 
神戸港における貨物取扱量の推移(神戸市みなと総局資料をもとに作成)
 
 安全保障とは別に, 外国人労働者問題がカボタージュと同時に議論される。一般的には労働法規は働く場所ではなく雇用された国の法令による。ハワイで雇用された者は何国人であっても, 日本であろうが外国であろうが, アメリカの労働法規による。カボタージュとは別問題である。船舶は例外的に旗国主義であり, 日本人であろうが外国人であろうが, 内航船であろうが外航船であろうが, 働く船の国籍による。しかも日本籍船での外国人労働者の単純労働への就労は既に禁止されていない。国際船舶に限らず, 丸シップ混乗船も代表例である。外国人単純労働の制限に関する閣議決定は陸上労働者にのみ適用されるものである。
 
3 物流構造の変化とハブポート
 わが国の産業・貿易構造は, 対外直接投資の増加, 海外生産比率の拡大とこれに伴う製品輸入の拡大など大きな変化をみせ, 基礎的な生活用品のほとんどが輸入品であり自国製品を見つけることが困難となった他の先進国の状態に近づきつつある。輸入も輸出も中間生産物の取引のウェイトを高めており, 輸入と輸出の差をみることはあまり意味が無くなってきている。このような国際分業の進展に伴い, 製造業を中心とした国内産業の空洞化が懸念されている。
 わが国発着の国際貨物は99%船舶により輸送されているから海上輸送は重要であり, 日本のハブ港湾の整備が重要であるとする主張がある。重量ベースでみた国際貨物は99%船舶により輸送されているが, 雑貨輸送を担うコンテナハブ港湾の整備については, 容積ベースの20フィートコンテナ換算個数(TEU)でその重要性が判断されているものであり, 正確ではない。物流先進国は金額ベースで航空化率を議論する時代にもなってきており, わが国も3割を超える水準である。自動車専用船の存在を考え合わせるならばわが国では雑貨輸送の主力は航空貨物へ移行したともいえる。
 
図1-7-7 40フィートコンテナ
コンテナの主流は40フィートに移行している
 
 神戸港をはじめ日本港湾について, そのハブ機能が低下したと見なすより, アジア域内での物流構造が変化したと認識した方が適切である。日本全体のコンテナ取扱量1,200万TEUを全国の港湾の290バースで荷役しており, コンテナターミナル稼働率が低くなっている。小さな島国で港が一つという条件差を踏まえても, シンガポールでは1,300万TEUを35〜36バースで取り扱っており, 1バースあたりの稼働率, 生産性は高いため, コストも安くなる。また, 香港でも21バースで貨物を捌いている。神戸港など日本の港湾は, コストの低減が最重要課題であり, ターミナルの集約も必要である。コンテナ船の大型化が進展しており, 日本の主要港湾でも大水深15mバースが整備・計画されており, 計画が実現すれば, アジアでも有数の大水深バース保有国になる。一方, 日本をとりまく国際コンテナ物流が変化する中で, 大水深バース整備が寄港航路や貨物取扱量増加に直ちに結びつくといえなくなってきている。完成してもコンテナ貨物が集まってこなければ港湾管理者は説明責任を問われる厳しい時代にもなってきている。
 
表1-9 2001年における世界の港湾のコンテナ取扱量ランキング2001年
順位 00年順位 港湾名 国・地域名 2001年取扱量(千TEU)
1 1 香港 中国 18000
2 2 シンガポール シンガポール 15520
3 3 釜山 韓国 7907
4 4 高雄 台湾 7540
5 6 上海 中国 6334
6 5 ロッテルダム オランダ 5945
7 7 ロサンゼルス 米国 5184
8 11 中国 5076
9 9 ハンブルグ ドイツ 4689
10 8 ロングビーチ 米国 4463
11 10 アントワープ ベルギー 4218
12 13 ポートケラン マレーシア 3700
13 15 ドバイ UAE 3502
14 14 ニューヨーク/ニュージャージ 米国 3180
15 18 ブレーメン/ベレーメハベン ドイツ 2896
16 17 フェリックストウ 英国 2800
17 - マニラ フィリピン 2796
18 16 東京 日本 2770
19 - 青島 中国 2640
20   ジオイアタウロ イタリア 2488
(出典:Containerization International Yearbook 2002)
 
 わが国全体の海上コンテナ取扱量を単独で上回るシンガポール港や香港も, 生産基地により近いマレーシア, 中国本土の有力港にそれぞれ侵食されつつある。現にシンガポール港湾公社の2002年のコンテナ取扱量が, 初めてマイナスに転じた。大口顧客の海外有力船社マースク・シーランド(年間約200万TEU)を, 競争力の増したマレーシア・タンジュンペラパス港に拠点を奪われたことが要因である。香港のコンテナ取扱量も先細り傾向にあり, ハブ港としての牙城を中国本土の有力港に侵食されつつある。ハブポート論も再検証が必要となってきている。
 

海上通関情報処理システム(Sea-NACCS)
 海上運送貨物に係る輸出入通関業務等の税関手続を処理するために稼働を開始した電算処理システムのことをいう。1999年のシステム更改により, その対象地域は全国へと展開された。また, システム更改により, 輸入にあっては船舶の入港から海上貨物の取卸し, 輸入申告・許可, 国内への引取りまで, また, 輸出にあっては, 海上貨物の保税地域への搬入から, 輸出申告・許可, 船舶への船積み, 出港までの一連の税関手続及び関連民間業務をオンラインで処理するシステムとなっている。
 
PSA(Port of Singapore Authority シンガポール港湾公社)
 シンガポールのコンテナターミナルを運営している港湾公社。コンテナ取扱実績で香港と競っているシンガポール港の港湾管理, 港湾荷役を担う。海外での事業展開を加速させているPSAは, 韓国でサムスン物産と組んでコンテナターミナルの開発に乗り出しているほか, ブルネイでも, ムアラ・コンテナターミナルの開発・運営権を取得。さらに, 中国の大連, イタリア・ベネチア港など7ケ国10港の港湾運営に参画。
 
PFI事業
 公共施設等の建設, 維持管理, 運営等を民間の資金, 経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法。わが国では, 「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が1999年7月に制定され, 2000年3月にPFIの理念とその実現のための方法を示す「基本方針」が, 民間資金等活用事業推進委員会の議を経て, 内閣総理大臣によって制定され, PFI事業の枠組みが設けられた。
 
カボタージュ(Cabotage)
 カポタージュは国内港間沿岸輸送のことを意味したが, 転じて, 特別の許可がない限り国内輸送を自国籍船に限定する政策の意味に用いられている。
 
ハブポート
 自転車の車輸の中心がハブであることから, 放射状に航路が出ている港湾をイメージして, わが国ではハブポートまたはハブ港湾という用語が生み出された。実際は国際海上コンテナ輸送において船社の基幹航路が就航する港のことをさしている。周辺の港へは, ハブポートで基幹航路から支線航路へと, また, 支線航路から基幹航路へと積み替えられ, 輸送される。交通政策審議会港湾分科会が2002年7月に取りまとめた港湾政策のあり方(中間報告)においては, ハブ港湾という用語は使用されず, スーパー中枢港湾が提案された。これは相対的な地位が低下しているわが国のコンテナ港湾の国際競争力を重点的に強化するため, アジア主要港湾を凌ぐコスト・サービスの実現を図ろうとするものである。
 
TEU(Twenty-foot Equivalcnt Unit)
 20フィートのコンテナで換算したコンテナの個数のことを表す。40フィートコンテナ10個は20TEUと表示する。
 
バース
 港内において荷役などを行うために, 船舶を停泊・繋留する所定の場所。コンテナ専用のバースのことを, コンテナ・バースと呼ぶ。







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