海洋白書
2004創刊号
日本の動き 世界の動き
シップ・アンド・オーシャン財団
海洋政策研究所
ごあいさつ
シップ・アンド・オーシャン財団は「人類と海洋の共生」を理念として活動をしていますが, 海洋問題全般に本格的に取り組むため, 数年前から海洋シンクタンク事業を積極的に展開してきました。そして, 2002年4月には, 財団の中に「SOF海洋政策研究所」を設立しました。
研究活動はまだ緒についたばかりで, これまで研究成果を世に問うたのは数件程度であり, 研究はこれからが勝負だと考えています。われわれは同時に, SOF海洋政策研究所を, わが国における海洋研究の情報交換の場あるいは情報ネットワークの核にしたいということを考えてきました。これまで「Ship & Ocean Newsletter」を発行したり, 海洋フォーラムを実施してきました。これらを通じ, 一定の評価を得たと自負しています。
これとは別に, SOF海洋政策研究所は, 情報の収集と発信の一環として, 海洋白書の民間版を発行しようと考え, 検討, 企画, 策定作業を行ってきました。初めてのことでもありましたので時間がかなりかかりましたが, 今回創刊号の発行にこぎつけました。
わが国は海洋と大きく関わっています。また, 人類の歴史, 人類の繁栄に海洋が不可欠であることは論を待ちません。しかし, 人類と海洋の関係あるいは共存について, 自然科学, 社会科学横断的な, また, 政策にまで昇華させるような研究活動は, 日本のみならず世界でも十分行われているとは言えません。これを進めるためには, まずは研究の対象たる海洋の情報収集とその発信がきわめて重要であると考えます。
さらにいえば, 国民人一人が, 世界の人達が, 海のことに関心を持たなければ, 状況の改善につながらないでしょう。そのためには, 国民が関心を持つような海洋情報の提供が必要だと考えます。
SOF海洋政策研究所が発行するこの「海洋白書2004創刊号」が, 以上のような目的達成に少しでも寄与できれば幸いと考えます。2号, 3号と続けていきたいと考えています。読者の皆様からの支持を期待するだけではなく, 率直なご要望も是非いただきたいと思います。
本書の作成にあたって, 編集・執筆・監修にご尽力いただいた先生方, 本事業を支援していただいた日本財団, SOF海洋政策研究所の担当者その他多くの協力者に厚く御礼申し上げます。
2004年1月
シップ・アンド・オーシャン財団会長 秋山昌廣
推薦のことば
21世紀は海洋の世紀と言われている。四方を海に囲まれ, 海の恵みを受けて発展してきたわが国が, 新しい国際情勢の下で海洋国家としての発展を図り, 国際社会に貢献し得る舞台が前途に洋々として開けている。しかし残念なことに, 昨今のわが国は, 政治の関心も, 国民意識も海洋から遠く離れてしまっており, この好機を生かせないでいる。
食糧, 資源・エネルギー, 海上輸送, 環境, 温暖な気候, レクリエーションなど, 海の恩恵は, 広く, 深い。ところが, 20世紀の後半になると, 人間の活動が海洋の環境や資源に無視できないほど大きな影響を与え, 私たちの生存基盤を脅かしていることが明らかになってきた。したがって, 近年, 国際的に合意された「持続可能な開発」と「海洋の総合的管理」は, 私たちが真剣に取り組むべき21世紀の重要な政策課題である。
日本財団は, 社会に必要な非政府部門の公益活動の支援を使命としている。2002年4月, 総合的視点に立って海洋問題を調査研究し, 必要な政策提言をするわが国初の海洋シンクタンクとしてシップ・アンド・オーシャン財団(SOF)に海洋政策研究所を立ち上げたのは, このような海洋問題の重要性を認識し, その課題に適切に対応する必要があると考えたからである。
今般, そのSOF海洋政策研究所が, わが国初の試みとして, 多方面にわたる海洋・沿岸域に関する出来事や活動を総合的・分野横断的に取り上げた「海洋白書」を創刊する。この白書は, 世界の海洋問題の取組みとその中での日本の位置づけ, 最近の海洋をめぐる重要な出来事など, 海洋をめぐる内外の動向を総合的視点で整理・分析し, それを国政の関係者はもちろん, 広く国民にわかりやすく伝え, もってわが国社会の海洋に対する関心と理解を高めようとするものである。
皆様に是非ご一読をお奨めしたい。そして, ともに海洋国家日本の進路を考える一助としていただきたい。
まさに, この海洋白書の創刊は時代の要請に適うものであり, タイムリーな企画である。これが今後継続して刊行されることを願う。
2004年1月
日本財団理事長 笹川陽平
創刊にあたって
1995年, わが国は祝日法を改正し, 7月20日を国民の祝日「海の日」と定めた。
アジア大陸縁辺部の細長い列島に住むこの国の人々は, 温暖な気候と親潮・黒潮がもたらす豊かな海の幸を享受し, 海を移動・交易の道として, また時に, 防壁として活用しながら生きてきた。1945年, わが国は第2次世界大戦に敗戦, ゼロから再出発して奇跡的な経済・社会の発展を遂げたが, これも海を活用した貿易立国と水産資源のお蔭である。
このように海はわが国の重要な存立基盤であるから, わが国が世界に先駆けて「海の恩恵に感謝し, 海洋国日本の繁栄を願う」ため, 「海の日」を国民の祝日としたのは妥当な判断であり, しかも, そのタイミングは絶妙であった。なぜなら, 当時世界の関心は海洋と環境に向けられていて, 国際社会は共通の枠組みを構築して新海洋秩序形成に向けて具体的な第一歩を踏み出していたからである。即ち, その前年の1994年には, 海洋に関する国際秩序の枠組みとルールをはじめて包括的に定めた「国連海洋法条約」が発効し, さらに, その2年前の1992年にブラジルのリオで開かれた国連環境開発会議(リオ地球サミット)では「持続可能な開発」原則およびその政策的枠組みである「アジェンダ21」が採択されている。ちなみにわが国が, 国連海洋法条約の95番目の締約国となったのは, 第1回海の日が祝われた1996年7月20日である。
それまで世界各地で沿岸国は, 海洋とその資源に対する自国の権利を主張し, その囲い込みを図ってきたが, 国連海洋法条約とアジェンダ21は, 国際社会がそれまでのそのような海洋の支配と資源をめぐる各国の角逐を乗り越え, また, 新たに顕在化した環境問題に対処するために到達した新たな国際的な法的・政策的な基盤である。ここに人類史上初めて, 地球の表面の71%を占め, 平均水深3,800mという巨大な空間である海洋全体を開発, 利用および保護・保全の対象として包括的にとらえ, これに関する各国および人間の諸活動を総合的に管理することを目指す「海洋の総合管理(Ocean Governance)」の試みがスタートしたのである。
わが国も, それまでの海洋活動を律していた海洋の無限の包容力を前提とする「海洋の自由」原則に基く考え方を見直し, 海洋国の自覚のもとに, 国際社会が進める共通の理念と法的・政策的枠組みの下で海洋の管理に積極的に取り組み, 国際的にもリーダーシップを発揮することが期待されている。
このように, 国民の祝日「海の日」は, それにふさわしい内外の情勢の中で制定された。しかし, 第1回の海の日を祝ってから7年半, 振り返ってみてこの間私達は本当に海に関心を寄せ, 真剣に海洋問題について考え, 必要な政策の策定・実施に取り組んできたのだろうか。答えは, ・・・残念ながら否といわざるを得ない。
近年のわが国や日本人の海洋に対する関心は総じて低く, 海洋やその沿岸域で起こっている海洋汚染, 水産資源の減少・枯渇, 内湾の環境悪化, 砂浜の消滅, 海洋の安全保障など様々な問題に対する対応は鈍い。総合的, 計画的な取組みを要する海洋の問題に対する行政や研究の対応も依然として縦割りであり, しかも, 問題が大きくなってからの後追いが多い。「海の日」を国民の祝日と制定した英知はどこへいってしまったのだろうか。わが国が, 世界とともに「持続可能な開発」と「海洋の総合管理」の理念を共有し, 海洋問題に総合的な取組みを開始する日が速やかに来ることを切望する。
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さて, アジェンダ21はその第17章で「各沿岸国は, 地方と全国の双方のレベルで, 適宜, 学界や民間部門, NGO, 地方共同体, 資源利用者グループ, 先住民との協議を含んだ, 海洋・沿岸域とその資源の総合管理と持続可能な開発のため適切な調整機構を設立し, あるいは強化することを考えるべきである」(17.6項)とし, 海洋の多様な利害関係者の参加による海洋・沿岸域の総合管理を求めている。「海洋の総合管理」が, このように各界各層に広がる多様な人々やグループの参加の下に行われるべきものであるとすれば, その前提として, 広く一般の人々が, 海洋・沿岸域に関する様々な情報・データに容易にアクセスできることが必要であろう。
しかし, 現状を見ると, 多方面にわたる海洋に関する出来事や活動, そして施策について各専門分野を越えて一般に情報・データが十分提供されているとは言いがたい。現在, いくつかの省庁から海洋に関する白書やそれに類する資料が刊行され, 当該分野の国際・国内の動向, 政策, 各種統計・データ等が提供されているが, これらを見ても縦割りの各省庁の所掌範囲に止まっており, 海洋・沿岸域の現状や課題について総合的・横断的視点に立って整理・分析した白書は見当たらない。
当海洋政策研究所は, シップ・アンド・オーシャン財団(SOF)が日本財団の支援を受けて「人類と海洋の共生」の基本理念に基づき日本で初めての海洋シンクタンクとして2002年に創設したものである。このような現状にかんがみ, わが国の海洋問題の全体的・横断的取組みに資するため, 多方面にわたる海洋・沿岸域に関する出来事や活動を「海洋の総合管理」の視点に立って総合的, 横断的に整理・分析し, これらを「海洋白書」としてとりまとめて定期的に刊行することとした。大きな目標に比してその非力は覆うべくもないが, もってわが国における海洋・沿岸域に関する知識や理解の向上, 海との共生に対する積極的関心の喚起並びに上述したような海洋問題に関する政策研究の促進の一助となることを念願する次第である。
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本書は3部構成からなり, 「第1部 熟慮したい海洋の重要課題」では, 最近の海洋に関する出来事や活動の中から重要課題を選んで整理・分析し, それについての見解を述べ, 問題提起, 提言などを試みる。今回は, 2002年8月に科学技術・学術審議会答申のあったわが国の海洋政策など, おおむねこの1年間の内外の動きの中から8つの課題を選出して取り上げた。なお, 研究所としての統一見解を追及するあまりその記述が平板なものとなることを避けるため, その内容については原則としてこれを担当する執筆者の責任執筆とすることとした。なお, 編集の最終責任を研究所が負うことはもちろんである。
「第2部 日本の動き, 世界の動き」は, 海洋・沿岸域関係のこの1年間の内外の動向を取りまとめたものである。海洋・沿岸域の各分野ごとにその動きを日誌形式でわかりやすく整理して掲載し, 読者の皆様が関心のある事項を中心にその動きを追うことができるように企画した。海洋の各分野の動きを読みやすくまとめるように心がけたが, 次号ではさらにその内容を充実させていきたい。
「第3部 参考にしたい資料・データ」には, 第1部および第2部で取り上げている課題や出来事・活動の関する重要データ, 資料等を掲載した。
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SOF海洋政策研究所が海洋国日本の発展を願う真摯な気持ちを込めて世に問うこの「海洋白書2004」が, 国民の海洋・沿岸域に対する関心を喚起し, また, 海に深い関心を寄せ, 海洋問題を真剣に考えている人々の検討のよすがとなることを切に願うものである。この海洋白書をより良いものとしていくために, 皆様の忌揮(きたん)のないご意見やご感想, さらにはご提案をお待ちしたい。
2004年1月
SOF海洋政策研究所所長 寺島紘士
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