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3.3.3 貧酸素水の空間分布の経年変動に関するデータ解析
 広範囲で湾内底層の調査が行われている長崎県総合水産試験場の資料(1986〜2002年)をもとに貧酸素水の出現状況を月別に調べた。結果を図3.3.15に示す。必ずしも定期的に観測が行われていないため月によって観測頻度が同じでない点には注意を要するが、全体的に各月ともDO濃度(海底直上1m層)の減少傾向が認められる。そこでさらにDOが3.0ml/L以下を貧酸素水とみなし、3.0ml/L以下であった観測点の比率(以後、貧酸素比率と呼ぶ)を月別に求め、その経年変動を図3.3.16に示した。それによれば、8月以外のすべての月に貧酸素比率は増加傾向を示し、湾内の貧酸素水が次第にその面積を拡大していることが分かった。
 一方、図3.3.17は同じく月別に各観測点における貧酸素水の出現率(3.0ml/L以下になった頻度、%)を求め、その水平分布を示したものである。6月には貧酸素水の出現は局所的であり、出現頻度は最大で50%程度であったのに対して、7月にはほぼ全域で高い頻度を示した。8月には湾北西部で貧酸素水の出現率が低下しはじめたが、湾内では依然として出現頻度が高く、特に北東部では90%以上の値が見られた。9-10月には湾内西部海域の貧酸素化はほぼ解消されるが東部で高い値を示した。このことから、貧酸素化は8-9月に湾西部から消滅に向かい、9-10月には貧酸素水の分布の中心は東部(特に北東部)に移動することが分かった。
 このような貧酸素域の季節的な推移は、2002年と2003年の実海域における観測結果(図3.3.13)や、第2湾口部〜湾内の海水流動の特性(基本的には湾の西側の深みに沿って流入し、反時計廻りに循環する流れ、3.3.1参照)とよく符合している。そこで湾口部の混合水の湾内への流入深度の時期による変化との対応を調べるため、測点L(第2湾口部付近)の10〜20m深の平均密度を湾口部混合水の密度、湾北西部に位置する測点Oにおいてその密度が存在する深さを湾口部混合水の流入深度とそれぞれ定義した上で、流入深度の時期による変化を図3.3.18に示した。年々の変動は大きいものの、7-8月には測点Oの中層(10〜15m)に主に流入していた湾口部混合水が、密度の増加にともない、8月下旬ごろから徐々に底層に流入しはじめることがわかる。このような湾内への流入深度の変化は2002年、2003年の観測結果(図3.3.12)とも一致している。大村湾の貧酸素化は、以上のような過程で湾北西部から解消に向かうものと考えられる。
 これまで大村湾の貧酸素化は湾内中央の西側でもっとも起こりやすいことが報告されている。確かに底層水のDO濃度の経年変動を見ると、7-9月には湾の中央部・南部でほぼ恒常的に貧酸素化が進行している。しかしながら、上記のデータ解析により、湾北東部にも恒常的に貧酸素域が見られるなど、貧酸素域が経年的に拡大している兆候が認められた。しかも、湾北東部には西部で貧酸素化が解消される9-10月にも貧酸素化の頻度が高い場所が出現している。ブイの追跡結果でも湾内表層の流れは湾北東部に向かう傾向が強いことから(図3.3.2c)、有機物質などが湾の北東部に集積して海底付近の環境を悪化させている可能性が示唆される。
 
図 3.3.15大村湾の海底直上1mにおけるDO(ml/L)の経年変化(6月−10月)
アルファベットは各観測点を意味する。すべての測点のデータをプロットした。
横軸が年、縦軸がDO(ml/L)
(データ:長崎県総合水産試験場、1986-2002年)
 
June
 
July
 
August
 
September 
 
October
 
 
 
June 
 
July 
 
August
 
September
 
October







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