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3. 二次検査(主に大村湾)
 
3.1 二次検査の目的
 上述のように、大村湾で一次検査の結果、健康上もっとも大きな問題となるのは、底層水の貧酸素化の進行であり、それには流入負荷に加えて湾内水と湾外水との交換速度などが大きな影響を及ぼしているものと考えられる。また、橘湾においても、程度の違いはあるが、流れの停滞しやすい湾奥部を中心に海底付近の環境悪化と貧酸素化の進行が健康を阻害する大きな要素になっていることが分かった。そこで、二次検査では健康状態を害している原因を詳しく探るため、健康を支える基本的な代謝のしくみ、すなわち大村湾や橘湾の基本的な環境の構造とその時間変動の特性を把握すること、とくに健康診断で重要なポイントとなる底層の貧酸素化の進行過程と湾口部の海水交換状況との関連などを集中的に調べることを主な目的とした。既存の公共用水域水質測定データだけでは、底層水の貧酸素化の仕組みや、底層における貧酸素水の広がりの年による変動の要因を特定することは難しく、その点について実海域で精密なデータを得ることが二次検査の最も重要な課題となる。
 ここでは、平成14年度に実施した予備的な現地調査の結果を踏まえながら、とくに以下の点に留意して二次検査のための調査とデータ解析を進めることにした。
(1)大村湾は地形的に閉鎖性が強く、潮流は全体に弱いと考えられているが、基本的には湾口部における潮流渦の発達と第2湾口部(図3.2.1のAライン付近)における密度流的な海水交換が、湾内の物質収支にきわめて重要な働きをしているものと考えられる。その意味で、大潮・小潮による湾内の海水流動構造の変化や、第2湾口部あるいは湾口における海水交換の状況を実測し、上記の働きを検証していくことが必要である。
(2)年による貧酸素化の進行度合(病状)の変化の原因を考える上で、湾口部における鉛直混合や混合された海水の第2湾口部からの中層貫入の実態を押さえることがきわめて重要な課題となる。
(3)逆に陸側(湾奥部)から見れば、大村湾に流入した有機物や栄養負荷は奥部の枝湾(津水湾など)から湾中央部に運ばれ、おそらくそこで一部が海底に沈積することによって底質の悪化と底層水の貧酸素化(2次汚濁)を引き起こすものと考えられる。湾全体の健康度の改善をはかるためには、大まかにでもこうした汚濁負荷物質の輸送と収支の構造を明らかにしていくことが重要であろう。
(4)一方、橘湾の場合にもおそらく大村湾と同様の貧酸素化のメカニズムを想定することができる。すなわち、有明海の入り口にあたる早崎瀬戸の強い潮流による海水混合が・大村湾の湾口(針尾瀬戸)と同様の働きをしている可能性がある。その意味で・大村湾で貧酸素化に至る過程を把握するための方法論を確立していくことは、橘湾も含めた他の内湾の問題にも十分応用ができるものと考えられる。そこで、15年度は大村湾を中心に二次検査のための現地調査に取り組むことにした。
 なお、大村湾と比較しながら上記の仮説を検証すべく橘湾でも現地調査を計画したが、荒天等のため十分の調査を実施することができなかった。以下には、大村湾において実施した調査とその結果の概要を中心にとりまとめる。
 
3.2 調査の概要
 湾内に鉛直成層が発達し底層水の貧酸素化が進行する6−9月を中心として、大潮・小潮などの潮汐周期も考慮しながら、大村湾で2002年に5回(のべ12日間)、2003年に9回(のべ12日間)にわたって各種の調査を実施した。各調査時に、図3.2.1に示したように、原則として湾の海底地形の深みに沿った縦断面(Lライン)と複数の横断面(A〜Dライン)で、クロロテックによる水温・塩分等の測定と、DOメーターによる溶存酸素濃度(DO)の測定を実施した。なお溶存酸素については、メーターの不調などのため、必ずしもすべての点で測定できなかった場合もある。
 一方、大潮期・小潮期における湾口部と湾内の海水流動、とくに湾口部から湾内に流入する海水の流動実態を明らかにするため、主として漂流ブイの追跡とADCP(超音波ドップラー流速計)の曳航による海水流動調査を実施した。ブイ追跡に使用したパケット通信型漂流ブイの構成図を図3.2.2に示す。抵抗板(1.8m×1.8m)とブイをつなぐロープの長さを変えることによって抵抗板の深さ(ブイの漂流深度)を調整し、湾内では1〜5日間の追跡を実施した。表3.2.1(1)−(3)に、追跡日時、投入・追跡時の潮汐、使用したブイのドローグの深さ、投入・回収位置をまとめて示した
(2001年に湾口部で行った目視によるブイ追跡の結果も含む)。
 
図3.2.1 観測点図
(A line付近を第2湾口部とする)
 
 また、湾口部における海水交換状況を調べるための基礎データとして、湾口を流出入する海水の水温・塩分等の連続測定を、2003年7−11月に随時実施した。
 さらに、長崎県総合水産試験場が毎年夏季(6月〜10月)に数回実施している定点観測のデータ(1986〜2002年)を使用して、海底直上1m層のDOの時空間的な変動について詳しい解析を行った。
 
図3.2.2
 
ブイの構成:ドローグの中心が上層(3〜5m)あるいは中層(10〜15m)にくるようにロープを調節
 
 
表3.2.1(1)ブイの追跡調査の概要(2001年)
ブイNo. ドロ−グ深さ
(m)
投入日時 緯度 経度 回収日時 緯度 経度
J-1 14 2001.7.21 8:14 33°02' 054 129°45' 803 2001.7.21 13:20 33°02' 136 129°48' 065
J-2 14 2001.7.21 8:23 33°02' 318 129°46' 372 2001.7.21 13:44 33°02' 548 129°46' 685
J-3 14 2001.7.21 8:33 33°02' 368 129°46' 570 2001.7.21 13:37 33°02' 544 129°46' 711
J-4 14 2001.7.21 8:40 33°02' 546 129°46' 776 2001.7.21 14:15 33°01' 065 129°46' 427
J-5 14 2001.7.22 8:17 33°02' 265 129°46' 173 2001.7.22 15:33 33°01' 311 129°46' 419
J-6 4 2001.7.22 8:17 33°02' 265 129°46' 173 2001.7.22 15:40 33°01' 052 129°47' 021
J-7 14 2001.7.22 8:25 33°02' 464 129°46' 689 2001.7.22 15:48 33°01' 035 129°47' 666
J-8 4 2001.7.22 8:25 33°02' 464 129°46' 689 不明    
A-1 14 2001.8.6 8:45 33°01' 730 129°49' 334 2001.8.6 16:14 33°01' 684 129°49' 897
A-2 2 2001.8.6 8:47 33°01' 730 129°49' 334 2001.8.6 15:31 33°02' 234 129°46' 080
A-3 14 2001.8.6 8:52 33°01' 191 129°48' 930 2001.8.6 11:16 33°01' 394 129°48' 915
A-4 2 2001.8.6 8:54 33°01' 200 129°48' 930 2001.8.6 11:25 33°02' 444 129°47' 179
A-5 14 2001.8.7 8:54 33°01' 289 129°48' 777 2001.8.7 14:54 33°01' 048 129°49' 085
A-6 14 2001.8.7 9:00 33°01' 312 129°47' 974 2001.8.7 13:17 33°02' 397 129°48' 267
A-7 14 2001.8.7 9:04 33°01' 799 129°48' 249 2001.8.7 13:55 33°02' 832 129°47' 049
A-8 2 2001.8.7 9:09 33°02' 787 129°48' 287 不明    
A-9 14 2001.8.7 9:18 33°02' 329 129°46' 234 不明    
a-1 14 2001.8.12 13:16 33°02' 494 129°46' 813 2001.8.12 16:11 33°01' 774 129°46' 968
a-2 14 2001.8.12 13:22 33°02' 257 129°46' 358 2001.8.12 15:54 33°01' 868 129°45' 655
a-3 14 2001.8.12 13:28 33°01' 808 129°46' 064 2001.8.12 14:31 33°01' 671 129°45' 958
a-4 14 2001.8.12 14:40 33°02' 152 129°46' 300 2001.8.12 16:02 33°01' 141 129°46' 221
J,A:大潮 a:小潮
 
表3.2.1(2)ブイの追跡調査の概要(2002年)
ブイNo. ドロ−グ深さ
(m)
投入日時 緯度 経度 回収日時 緯度 経度
j-11 10 2002.6.21 11:42 32°57' 540 129°53' 907 2002.6.22 14:36 32°59' 845 129°55' 525
j-12 10 2002.6.21 11:54 32°57' 504 129°51' 026 2002.6.22 14:56 32°56' 250 129°51' 880
J-11 10 2002.7.12 8:08 32°58' 730 129°50' 057 2002.7.13 9:26 32°58' 031 129°50' 049
J-12 10 2002.7.12 8:25 33°01' 277 129°48' 687 2002.7.13 9:12 32°59' 072 129°50' 028
J-13 10 2002.7.12 8:59 33°02' 354 129°46' 242 2002.7.13 8:59 33°00' 896 129°47' 008
A-11 10 2002.8.10 9:17 33°01' 130 129°48' 680 2002.8.11 12:32 33°02' 511 129°46' 572
A-12 10 2002.8.11 14:53 33°00' 500 129°49' 505 2002.8.12 9:47 33°01' 624 129°45' 039
A-13 10 2002.8.10 9:09 33°01' 688 129°48' 986 不明    
A-14 3 2002.8.10 9:07 33°01' 683 129°48' 983 不明    
s-11 10 2002.9.2 13:13 33°01' 128 129°48' 557 不明    
s-12 10 2002.9.2 12:52 33°01' 611 129°49' 025 2002.9.7 9:02 32°57' 314 129°49' 093
s-13 10 2002.9.2 9:26 32°57' 477 129°50' 098 不明    
s-14 10 2002.9.3 10:02 32°57' 505 129°51' 922 2002.9.7 13:09 33°01' 062 129°52' 011
s-15 10 2002.9.2 10:10 32°57' 517 129°53' 951 2002.9.7 8:37 32°53' 843 129°53' 380
S-11 10 2002.9.7 15:22 32°57' 486 129°49' 990 2002.9.9 9:25 32°53' 515 129°50' 251
S-12 10 2002.9.7 9:46 33°01' 257 129°48' 768 2002.9.7 16:04 33°02' 959 129°46' 409
S-13 10 2002.9.7 16:25 32°59' 970 129°47' 704 2002.9.9 12:32 32°56' 337 129°50' 480
S-14 10 2002.9.7 14:31 32°57' 534 129°53' 892 2002.9.8 16:38 32°58' 476 129°55' 823
S-15 10 2002.9.8 16:45 32°58' 975 129°55' 004 2002.9.9 14:55 33°00' 193 129°55' 738
J,A,S:大潮 j,s:小潮
 
表3.2.1(3)ブイの追跡調査の概要(2003年)
ブイNo. ドロ−グ深さ
(m)
投入日時 緯度 経度 回収日時 緯度 経度
J-21 3 2003.7.31 13:26 32°57' 454 129°50' 042 2003.8.5 11:18 32°56' 976 129°51' 875
J-22 10 2003.7.31 13:30 32°57' 449 129°50' 041 2003.8.5 9:36 33°01' 130 129°50' 147
J-23 10 2003.7.31 14:09 32°57' 951 129°53' 551 2003.8.5 10:40 33°00' 303 129°56' 452
A-21 3 2003.8.30 11:52 33°00' 038 129°52' 513 2003.9.2 10:09 32°02' 425 129°49' 998
A-22 3 2003.8.30 13:38 32°57' 472 129°49' 926 2003.9.2 13:02 32°57' 845 129°49' 396
A-23 3 2003.8.30 12:46 32°57' 488 129°53' 868 2003.9.2 11:18 33°01' 470 129°56' 032
A-24 10 2003.8.30 13:40 32°57' 484 129°49' 914 2003.9.2 14:57 32°51' 746 129°50' 325
A-25 10 2003.8.30 12:40 32°57' 491 129°53' 864 2003.9.2 12:25 32°58' 396 129°53' 280
J,A,:大潮







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