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【SESSION 4: 具体的な海洋における脅威について/Specific Maritime Interests & Threats】
 
[Presenter]
○Vice Admiral O. S. Das(Retd.)/Maritime International and Threats From an Indian Perspective
 現在、世界の全海運の半分近くがインド洋を通過している。通商のシーレーンはインド洋に集中し、高速水路と化している。これにともなって、テロリズムは、海洋の側面を持つようになった。アデン港での駆逐艦事件、シンガポールでのテロ阻止事件、イエメン沖のタンカー爆破事件のように、テロは今や海に移りつつある。太平洋・大西洋の貿易の75%が域内間の貿易であるのに対して、インド洋では域外への貿易である。そして、通商の20%が石油とガスで占められる。日本や韓国は、石油消費量の70%を中東湾岸域に依存し、中国の依存も高まってきている。ほか多くの東アジアの国々が資源を中東に依存している。中東湾岸域の石油埋蔵量は世界の65%、ガス埋蔵量は35%に及び、こうした背景がインド洋を戦略的に重要海域かつ脆弱性の高い海域としている。さらに、ほとんどの沿岸諸国は独立から50年を経ておらず、強権・独裁政治が台頭しており、インド洋の状況をさらに不安定としている。また、石油生産国においては、失業率は20%に至り、テロの温床となっている。インド洋を通過する船舶は狭い海峡を通過しなければならず、テロリストにとっては容易に安全性を脅かすことができる。
 インドの抱える問題点は次のとおりである。1. インドから湾岸で300万人が生活している、2. インドの一年あたりの石油輸入量は8,000万トンから2020年には15,000万トンに上昇する見込みで、全てインド洋を介して輸入される、3. インドには140百万人のイスラム教徒がいること、4. スリランカの麻薬貿易および麻薬テロリズム、5. 諸国の軍事化である。インドは、これらの状況下で域外の国々と交渉しなければならない。アメリカとインドについては、近年、利害の収斂がみられ、米印の軍事協力、演習へとつながっている。オーストラリア、UK、フランス、ロシアなども同様である。インド洋で抜け落ちた問題点としては、かつての最大の資源同盟国であった日本と、経済大国へ成長を遂げた中国である。日本は、資源の75%をインド洋シーレーンに依存しているにも関わらず、安全保障の面においてインドと最も離れた国となっている。中国は、パキスタンのグワダール港の開発を支援しており、インドは中国と積極的に関わっていく必要がある。2003年11月15日印中で海軍の合同演習を行う予定である。今後は、日本ともインド洋において安全保障の協力関係を強化する必要がある。現在、安全保障問題については、域内10ヶ国からなるCSCAP(アジア太平洋安全保障協力会議)やARF(アジアン地域フォーラム)などがあるが、これはあまりに多岐多分野に渡り、安全保証問題の解決は困難に考えられる。日印二国間の条約などによる協力体制の確立による打開が必要である。
 
【Presenter】
○Vice Admiral John De Silva/Piracy, Terrorism, Disasters, Illegalactivities and Transnational Ocean Crimes
 過去には、分割されているように考えられてきた海洋も、今日では、国々をつなぐ連続的なものとなっている。世界の貿易の95%が船舶によって行われている。莫大な価値ある貨物を輸送する海路は、今や経済ハイウエイ“economic highway”と呼ぶべきものとなっている。海洋における最も重要な貨物である原油は、原産地から消費地まで地球を半周して運搬されている。海洋における交通量はますます多くなり、事故や災害防止のために規則と組織によって保護する必要性が生じている。また、海洋は資源の面からも保全の必要性が生じている。
 IMOは、捜索および救助に関する包括的な規則を作成し、Maritime Regional Coordination CenterとGMDSS(Global Maritime Distress Support System)とともに海域を区分した。また、乱獲を防止し絶滅危惧種を保護する規則を作成している。これら以外にも、麻薬・銃器の密輸、不法移民、環境犯罪に対する政策が必要とされている。過去20年の間に海賊が発生するようになり、近年ますます凶悪化する傾向にある。さらに海賊はゴーストシップやホワイトカラー犯罪などの他の犯罪とも密接に関わっている。
 数カ国の国々とIMOは海賊対策を導入しているが、海賊撲滅のためには、あらゆる国の協力が必要である。アロンドラレインボー号事件は、海賊の手口、隠れ家、国際シンジゲートとの関連を解明する糸口となった。海賊の原因については、近年の海賊研究から、海賊問題は経済格差によって生じていることが明らかにされている。また、冷戦終了後、アメリカなどの大国がインド洋から引き上げたために、多くの地域の海軍、沿岸警備隊など、海域警備組織を運営する資金が不足する事態を招いている。法制度に関しても、国際法と国内法の不整合な点、植民地法や管轄法が統廃合されていない点などの問題点がある。
 アロンドラレインボー号事件は、99年10月27日に7000トンのアルミニウムを積載してインドネシアから日本へ向かっていた船舶「アロンドラレインボー」が、海賊にハイジャックされた事件である。名前を「メガラマ」に偽装していたが、インド海軍と沿岸警備隊に同年11月16日に発見され、33時間の追跡の後拿捕された。拿捕にあたっては警備艇と航空機よりエンジン部に銃撃が行われた。12人の海賊は同年11月21日にムンバイ警察署に引き渡され、インドの法により起訴された。2003年現在11件のうち、9件が立件された。逮捕後の法的措置が最も困難であり、法制度の不備が指摘されている。また、12人の逮捕者のうち2人が中国で逮捕歴のある人物であり、海賊と国際シンジケートとの関係が指摘されている。
 海賊対策としては、海事機関・船主・船員間での情報共有および伝達が必要である。このためには、船舶安全保障のための組織の構築、多国間・他機関の横断的協力、船舶にトランスポンダーを装着するシップロックシステム、海賊を取り締まり罰則するための法制定が必要である。ASIAN PLUS1(海賊防止国際会議)やその他の会議でも提言は同様であり、実践することが必要である。それぞれの政府が小規模のセミナーを開催し、海賊問題に関する教育・訓練・啓蒙を行っていくことが重要である。
 
[Commentator]
○山崎 眞 (株)日立製作所顧問 元海上自衛隊自衛艦隊司令官
 二人のアドミナルからは、日本およびインドが、ホルムズ海峡からマラッカ海峡にいたるまで海洋の利益を共有していること、これらの海域における広範な脅威の存在とその分析、ならびに具体的提言が行われた。内容は、当会議参加者のみならず、海洋の安全保障に関わるものの共通の認識である。2003年5月4日にデリーで行われた日印防衛首脳会議では、シーレーンの安全協力、海上保安協力、海軍間協力、海賊対処、弾道ミサイル防衛について話し合いが行われた。従来、日本は海上防衛力の及ぶ範囲を1000マイルに設定して、これを越えるものはアメリカに依存することを防衛の方針にしていた。日本が戦後50年間に急速に経済発展できたのは、この方針で自由に海を使用できたからである。しかし、冷戦終了後、国際的枠組みが変化し、わが国に一定の国際協力の義務が発生し、ペルシャ湾に掃海艇を派遣したのをはじめとして、2年間にわたって日本艦隊が多国籍軍の支援にあたっている。今後、インド洋で海上権益の争奪に伴って、軍事的脅威、テロ、海賊、新たな脅威の増加にともない、日本も1000マイルのみならず、死活的重要性を持つシーレーンの防護のため、インド海軍、警備隊と協力していくことが重要と考えている。テロ、海賊対策に限定することなく、海軍間の相互運用性を確保することを目的にして、交流を段階的に始めることが必要である。その理由は、1. 両海軍は所定の作戦を共同に行うに至っていない。このため、相互理解を深めて相互協力を高めることが重要。2. 日本の事情であるが、平時における安全確保について、海上保安庁と海上自衛隊の棲み分けが明白でない。3. 将来的には、日本とインドの海軍は、シーレーンを護るためには、軍事的事態からLow Intensityにいたるまで広範な事態に対する協力体制を持つべきである。このためには、集団的自衛権、武器使用の問題等日本国内の問題を解決する必要がある。よって、両軍の協力体制確立のため、まず、人的交流、両海軍間会議の定期的開催、艦隊の相互訪問等を段階的に進める必要がある。
 ここで質問したい。
1. 中国によるパキスタンのグアダール港の開発援助は、インドにとって大きな問題ではないとのことだったが、ここに中国の軍事基地が建設された場合、インド洋のパワーバランスに影響を及ぼすことにより、インドにとって無視できない状況となるのではないか?さらにミャンマーのシットウエイ港は、ミャンマー軍の近代化と引き替えに中国軍が使用権を得ており、インドは中国に東西から挟まれる形になっている。
2. 次に、海賊による被害について、2001年以降、マラッカ海峡における海賊被害が大きく減っているとのことだったが、インド海軍を含む周辺海軍の共同パトロールの効果が現れていると思う。特に昨年のインドと米海軍の共同パトロール、正確にはインド海軍による米海軍ハイバリューユニットの護衛であったが、これに注目している。パキスタンとの軍事緊張が高まったにもかかわらず、印海軍がマラッカ海峡に兵力を維持したことは、印海軍の米海軍との関係重視と海賊退治の意気込みが推察される。インドとアメリカ海軍の装備の違いを克服して、interoperabilityはどの程度進んでいるのか?
 また、De Silva氏の提言の中で、海と船舶の安全のため、強力な海上警察力と国際協力の二つの提案があったが、強力な海上警察力とは、具体的にどのようなものを想定しているのか。1999年のIMOサーキュラー622、623についての紹介内容は具体性に富み、当を得たものと考えている。本セミナーから各国に提案を投げかける趣旨でintelligence sharingについての提言があったが、他の軍事作戦と同様に海賊対策に対してはintelligenceが最も重要なのは、論を待たない。具体的方法が重要。最終的には、ISR(Intelligence, Surveillance & Reconnaissance)についても考えていくことが重要であると考えている。
 
議長:大変興味深いセッションで実践的なものになった。インドと日本の海上協力体制をどうするかについて具体的提言がなされた。
 
[Commentator]
○青木 稔 東洋建設(株)顧問 元海上保安大学校校長
 DAS氏からは、海賊よりもテロが問題であるとの報告があり、De Silva氏からは、海賊、テロ防止対策の全般について、実際の活動を踏まえた報告があった。日本においても、テロ防止対策は極めて重要であり、所要の対策を講じているが、特にここで国際的枠組みでのテロ防止対策の動きについて述べる。
1. 法制度面が、IMOにおいてすすめられているSUA条約(いわゆるローマ条約)の改正
2. オペレーション面が、SOLAS条約の改正で、2004年7月発効することとなっている。
3. ただちに実行するオペレーションが、PSIすなわち大量破壊兵器の「拡散安全保障イニシアチブ」である。
 海賊対策については、今週、東京において関係各国政府専門家による海賊対策専門家会合が開催されている。
 
[Discussion]
Das氏:中国のパキスタンのグアダール港への開発援助については、インドにとって現時点で懸念ではない。中国はすでに様々な場所で同様な援助を行っている。ただし、パキスタンのムシャラフ首相より、パキスタンが脅威を感じる場合には、中国がグアダール港を軍事利用できるとのコメントがあった。そういう場合には、インドにとって懸念となりうる。
 ミャンマーにおける港開発は、中国の関心事である。日本にとっても戦略的に重要であるが、今後、中国がミャンマーに対して影響を高めていく場合は脅威となる。
 SCAPでなされた海賊が50%削減されたとする報告は、数字をそのまま受け取るわけにはいかない。海賊事件のうち、重大事件は7件から35件の500倍、殺人事件は350%上昇している。船そのものがハイジャックされ、再利用されることが問題である。
 
De Silva氏:日本で本会議に出席したが、一人も警察官を見なかった。インドやアメリカでは、常に警察がパトロールしている。こうしたパトロールが強盗に対して抑止効果をもたらしている。海についても同様なことが言える。冷戦後、アメリカ軍は東南アジアから撤収して、アラビア海やその北部に移った。現在、インド洋ではパトロールができない状態にある。インドネシア、マレーシア、タイでは失業率が増加し、海賊が増加する傾向にある。だからこそ、海上で警察力が必要となっている。統計上、海賊は減っているが、これはマラッカ・シンガポールで別々に情報をとっており、減っているのは一方だけかもしれない。アロンドラレインボー号事件では、巡視艇が発見し、無線連絡を行ったが応答せず、一直線に速度を上げたことから早期発見につながった。パトロールは抑止力になりうる。情報を集めること、分析することが重要である。
 
村井氏:アフリカ東海岸および東南アジアに移住しているインド人について、インドと現地国のどちらに忠誠心を持っているのか?
 
Singh氏:独立してから海外に移住しているインド人は、閣僚、国会議員など現地国の主要ポストについているものも多く、現地国に責務を負っていると言える。
 
金田氏:海洋協力を北東アジア諸国へ拡大することに関し、中国、台湾の考えはどうだろうか?話しは変わるが、インド国防白書では、パキスタン原潜の弾道ミサイルがインドの脅威とされている。インドはどの程度動きを掌握しているか?東シナ海では中国の海洋調査船が盛んにモニタリングを行っているが、インド洋ではどうか?
 
広瀬氏:海洋の安全保障問題については、法の不備、UNCLOSの限界が顕在化している。日本は刑法上処罰規定がない。アロンドラレインボー号事件では、どの法が適用されたか?
 
笹島氏:強力な警察力の面で、日本の官僚組織の問題として省庁間の権益争いがあり、海上自衛隊と海上保安庁についても同じことが言える。インド海軍と沿岸警備隊の場合、権益を調整するシステムはあるか?
 明日行われるインド海軍の中国との合同演習について、インドの意図はどこにあるのか?段階を踏まずに演習を実現できるのか?
 
Roy氏:インドでも省庁間の権益争いはあったが、近年はだいぶ良くなった。緊密な連携をとって事態に対処している。
 
会場よりグレッグ・チャイキン氏(下関市立大学助教授)の質問
 日本の海上保安庁が、公海において海賊等を拿捕できるのか。それができない限り、協力の意味はないのでないか。
 
廣瀬氏:立法管轄権はないが執行管轄権はある。UNCLOS条約に批准しているために、公海上で海賊を逮捕・鎮圧して被害者を救済することはできるが、連行して裁判にかけることはできない。
 
会場より川村氏(川村研究所代表)の質問
 インドのコンテナライゼーション対応の仕方は遅れているように見える。港湾自体のセキュリティーの問題はどう解決するか?
 
DAS氏:350万人のインド人が湾岸へ移住し、インドへ送金を行っている。同化しているものも多い。コンテナについては、CSCAPにおいて問題として取り上げられている。マニラでさえ問題視されており、これは各港に共通する問題である。中国との関与は慎重に行う必要がある。首相間協議によって共同演習は決定したが、救難活動等の基本的レベルでの演習である。







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