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【SESSION 3: 海洋安全保障と経済について/Economic Aspects Related to Ocean Security】
 
[Presenter]
○Dr. Sanhay Baru / The Economic Aspects of Indian Ocean Security
 1998年12月にインド国際センターの主催するグループの一員として訪日したが、その目的は、同年の5月にインドが行った核実験によって冷え切った日印関係を修復するためであった。
 この5年間は、経済面だけでなく対外政策上もインドにとって重要な期間であった。特に、アメリカはかつてインドに経済制裁を課したが、その後、インド首相は「米国とは自然な同盟国“Natural Alliance”であるべきだ」との声明文を発表した。日印も自然な同盟国となってしかるべきであると思う。
 今回、このダイアローグに参加できたことを非常にうれしく思う。なぜなら、自然かつ当然の同盟国を築くためには海こそが最適な場所と思うからである。インドにおいて、海洋は最も重視されてきた関心事であり、海洋国か大陸国かという点では、歴史的に見てペルシャ湾、東南アジア、アフリカ諸国との関係、日韓との関係を見ても豊富な海洋に関する歴史を有しており海洋国であると言えるであろう。
 1947年から1990年の約40年間、国際関係にはほとんど関心が払われず、国内経済のみに偏った施策が行われてきた。過去数千年の歴史の中で世界中の国とかかわりを持っていたにもかかわらず、200年間におよぶ英国支配が原因で突然内向きの経済構造になってしまった。
 表1は、過去300年間の世界所得のシェアを示したものだが、1700年代には中国やヨーロッパと並んで22%を占めるほどであり、当時の日本は4.5%に過ぎなかった。それが、200年におよぶ英国支配により激減し、独立した1950年代には4%にまで落ち込んでいた。そして中国と同様、発展途上国として国内経済に目を向けるようになった。その結果、世界での貿易のシェアが1950年には2%であったものが、1980年には0.5%になってしまった。
 中国は1978年に小平の経済改革により、海外に目を向けたため大きく経済成長したが、インドは1991年以降にようやく海外に目を向けるようになったのである。1980年代に知識層で議論はなされており、数多くの研究者がこのような経済政策の転換を支持していたが、結果として、2度の危機を経て政策転換が実現した。
 第1の危機はソ連邦の崩壊である。それまでのインドは安価な武器の輸入をソ連に頼っており、貿易相手国もソ連のみで事足りていたため、政策の見直しを余儀なくされた。特に、アメリカを中心とした諸外国への戦略的な見直しも必要となった。
 第2の危機は国際収支の問題であり、韓国、インドネシア、タイが経験した1997年の金融危機と非常に似通っているが、世界各国に対して平身低頭で援助を求めざるを得なかった。例えば、英国銀行に金塊を委託することで経済的な援助を得たが、日本からは援助が得られなかった。
 その結果、経済政策の全般的な見直しを行わざるを得ず、1991年にはようやく政策転換をなしえた。もし、当時日本からの援助が得られていれば、安易な道を選び逆に今日のインドはなかったかもしれない。
 表2は経済の実績であるが、一人当たりのGDPは、独立当時は1.8%で低成長であったが、1980年代には3.1%に伸び、政策転換以降は4.3%にまで伸びている。これは、GDPの伸びに比例しているが、人口の増加が抑制されたということも一因になっている。このように急速な成長を見せるインドでは、2002年から2007年の成長目標を7%と設定しており、来年は中国を追い抜くといわれている。
 ゴールドマンサックスの報告書でも、特にブラジル、ロシア、インド、中国などの経済成長が協調されているが、事実インドは2003年の成長率が6.5%に達し、来年度は7%を目標としている。
 また、この10年間で貿易の取引額も大きく伸びており、その取引国も変わってきている。輸出相手国として、アジア、オセアニア諸国のシェアは1991年の30%から、2001年には39%に、アフリカ諸国は1991年の2.6%から2001年には5.5%に伸び、2005年には7.5%に達すると予想されている。輸入についても、輸出と同様にアジア、オセアニア、アフリカ諸国のシェアが伸びている。特に、中国は過去1年間で86%という劇的な伸びを示している。
 日本との経済関係は残念ながら停滞しており、私の最も大きな関心事項になっている。インドに来るビジネスマンやエコノミストは、過去10年間はインドを無視してきたと口をそろえて言っている。
 かつて、日本はアメリカに次ぐ第2位の貿易相手国であったが、現在は中国が第2位、英国が第3位、韓国が第4位で、日本は第5位にまで落ち込んでいる。日本の景気後退も一因であるが、お互いに関心を持たなかったことが最大の要因である。ぜひ真摯な態度で両国の協力関係を考えていただきたい。
 先ほど申し上げた小泉首相の訪問だけでなく、インフラへの資金援助、特にボンベイの港湾、道路等の整備など、両国の関係を促進できる分野は多々ある。この先の10年間で再びインドとの関係を強化していただくよう望む。
 世界との関係に目を転じると、貿易シェアや対外直接投資は伸びているが思っていたほどではない。しかし、中国も近代化を始めた最初の10年は大きな伸びはなかった。
 海外直接投資の受け入れ国としては第3段階に入ったとエコノミストは分析している。第1段階は、外資が鉱物資源等を求めて進出するもので、かつての日本もインドに原材料を求めていたために深い関係にあった。第2段階は、外資が地元市場をターゲットにして生産をするパターンであり、日本や韓国がすでに進出してきている。そして最も重要なのは第3段階であり、資源を求めて投資し、それをもとに製品を第3国に対して輸出するパターンで、アセアン諸国や中国が日本に対して演じた役割である。安価な労働力、改善されたインフラ、インド国民のIT技術を活用することである。
 このような経済と海洋安全保障との関係はどのようなものであるのか。あるいは、投資対象国としてのインドの魅力はどのようなものであるのかを考えたい。
 日印関係においては、シーレーンの重要性が浮上してくる。インドの西にあるエネルギーが東に向けて輸送されるというエネルギーの安全保障という観点は言うまでもないが、東から西に向けた財の輸送に注目したい。日本や韓国が、アフリカ、中央アジアやバルト海諸国を市場とする場合、インドにおいて生産、あるいは経由して輸出するということが増えてくる。これに伴う人の動きも同様である。つまり、海洋安全保障が2国間においてますます重要になってくるということである。
 最後に、APECのバンコクでの首脳会談においてテロの問題を取り上げたことは驚くべきことではない。今日のテロリストには、世界経済を破壊しようとする意図があり、9.11の場合もペンタゴン以外はまさに経済をターゲットとしたテロであった。今後もテロリストにとって重要な標的であり続けるであろう。
 インドにおいても、ボンベイのような金融都市、コエムトゥールのような外国人が多く訪れる観光都市も標的になっている。インド経済は発展の緒についたばかりであるが、テロリズムにより先進国との取引が減少すれば、さらに経済的なテロが増えてくる可能性がある。
 日印間の経済的な分野と連動した安全保障の枠組みがあれば、テロ問題や国際的な不安定性に対して早急に対応可能である。
 国益やアジアにおける日本の立場、あるいは世界経済での立場を考えたとき、自然で当然な同盟国は必ずやインドになるということを強調したい。ハイテクを有しているが資源に乏しいのが日本であり、インドは潤沢な資源を有しているが技術が不足している。
 われわれの世代は英語教育を受け欧米を目指していたが、特にIT分野では若者の多くが日本での仕事を目指して日本語を学んでいる。
 海洋の安全保障をより大きな枠組みの中に位置づけたいと思う。海賊対策やマラッカ海峡のシーレーン確保、テロ対策などは大きな枠組みの中に位置づけるべきである。アジアは大陸でありながら大陸的な安全保障の枠組みがなく、すでにその枠組みをつくる時期が来ている。21世紀において日印はともにアジアの安全保障に寄与すべきである。
 
[Presenter]
○Rear Admiral Sampath Pillai / An Overview of Ports, and Shipbuilding in India-maritime Economy
 独立後50年がたち、1990年に立てた目標に向けて努力し、海外に目を向けたことによって経済が大きく変わった。インドには、10億人の人口がおり、その28%が都市人口である。仕事を求め都市人口が高くなっている。GDPは他国と比較して低い。失業率は人口が多すぎて厳密にはわからない。先ほど話のあったように対外貿易についてはあまり進んでこなかった。現在は、海外からの資金援助依存型から貿易依存型の経済に変わってきている。
 インフラについては、道路、テレコミュニケーションの分野で大きな伸びを見せている。コミュニケーションに特に大きな変化があった。
 インドには、国が管理する13の主要港湾と、地方行政が管理する119の中小港湾が存在する。これまでは道路を中心としたインフラの整備が遅れていて評判が悪かったが、ここ数年でバースの待ち時間も短くなり改善してきている。ただし、海外と比べるとやはり遅れている。北西部にあるグジャラード州ではいくつかの港を民営化し、港湾の管理については他の地域に比べて進んでいる。
 さらに、現在「黄金の四辺形」と呼ばれる大きな交通インフラプロジェクトが進んでおり、デリー、ボンベイ、チェンナイ、カルカッタを結ぶ壮大なものである。また、大手の港湾を結ぶ“Port Connectivity Project”も進んでいる。これによりインドのコンテナ輸送が飛躍的に推進されるであろう。すでに9月にひとつ完成しており、そのほかも再来年までには完成する予定である。
 また、サガマーラ(海のネックレス)と呼ばれる港湾プロジェクトは、道路整備の3倍のコストを見込んでいるが、85%が民間出資であるところが大きな特徴で、港湾の管理も大きく変化するであろう。
 3つ目のプロジェクトは、立ち上がったばかりの河川の接続プロジェクトである。反対意見も多く、技術的に不可能といわれた。計画通りにいかなかったとしても、内水路の輸送が可能になる。
 先ほど、秋山会長がインドは海洋国かとおたずねになり、Baru氏がマハンのシーパワーの6条件のうち4つは充足していると述べたが、個人的にはまだ海洋国になったとは思わない。海が人をつなげるものになってほしいし、これらのプロジェクトが実現すればそれが可能になる。
 これまでの造船業や施設整備への取り組みについて紹介する。まず、造船業は政府のライセンスがなくなった。多くの産業が力を結集して造船業に取り組もうとする企業が出てきている。
 過去50年で58の造船所が設立されたが、そのうち12が民間部門で、利益を上げているのはこれらの造船所だけである。これは、造船業の中心が日本から、韓国、中国へと移っていった影響である。政府が所有する5つの造船所のうち3つが軍艦を造っており、後の2つは三菱の協力で商船を造っていたが、最近の厳しい状況で修繕のみの取り扱いになっている。
 技術的に見れば、造船業はアッセンブリー産業であり、後背地、関連産業が必要だが、技術的な進歩も十分ではなく、国内調達も困難で経済的に効率が悪い状況であった。改善するには今しばらく時間がかかるであろう。
 次に、日印脇力に関してであるが、どのような分野であっても技術と人が重要であり、これらの分野で協力体制が構築できる。インドの造船所や企業において日本型管理を導入しようとしている。国民性の違いで導入が難しいといわれるが・・・。
 インドでは、従来の欧米中心のビジネスが主流であったが、政府には近年Look East Policyという概念が広がっている。企業も同様であると考える。日本全国にインドのIT技術者が滞在しているので、彼らを架け橋として、日印関係を強化することが重要である。
 特に、日印協力として、企業の協力が不可欠である。技術協力を中心とした経済協力が重要である。
 インド経済は、すばらしい段階に入っている
 
[Commentator]
○青木 稔 東洋建設(株)顧問 元海上保安大学校校長
 世界地図を改めて見てみると、中東から日本までの海上輸送路ではマラッカ海峡がほぼ中間に位置し、マラッカ海峡の東西では海上輸送を取り巻く環境が異なるのではないかという印象を受ける。特に、マラッカ海峡西側のインド洋においては、インドによって海上の安全が守られていることを実感する。
 インドと日本は、地勢的面からは、大陸であるか島国であるかを別にすれば、両国とも海岸線が長くかつ広大な海洋を擁し、貿易面では重量ベースで、日本は99.7%、インドは90%を海上貿易に頼っている。特に日本は、エネルギー関連資源のほぼ100%、食物資源、繊維原料の大半を海外からの輸入に頼っている。世界貿易でも両国のシェアーは、日本が輸出で6.5%、輸入で5.1%、インドは輸出・輸入とも0.8%であるが、2005年までには1%に拡大するといわれており、両国とも海洋大国であり、海洋貿易大国であるといえる。
 海上保安機関は、海上における治安の維持、安全の確保、海洋環境の保全等を主任務とし、また海軍は防衛、安全保障を主任務としており、それぞれ自国の経済活動を企画・育成する等直接リードする立場にはないが、国際機関、関係各国等と連携し、海上輸送の安全を確保し、近年とみに複雑化している海上における各種脅威を減少させ、治安の維持を図ることによって、世界の海上輸送の発展に貢献し、ひいては各国の経済の発展に寄与することができると考えている。
 日本では、マラッカ・シンガポール海峡における船舶航行の安全確保のため、古くから日本財団、関係機関等が関係各国と協力し、各種安全対策を支援しているが、最近、東南アジア各国においてコーストガードの設立、あるいは拡充の動きがあり、海上保安庁では積極的に支援することとしている。近い将来、コーストガードを連携の土台として、海上における航行安全対策、治安の維持、さらに海賊対策、テロ対策がよりスムーズに行われることと思われる。
 日印間の政府開発援助は、1998年に停止等の措置がとられていたが、2001年に解除されている。1998年までの二国間援助実績では、インドは第5位の受け取り国になっている。運輸分野の中で特に海洋に関するものは、開発調査では;港湾4件、有償資金協力では;船舶3件、港湾2件、無償資金協力では;船員2件がある。
 また、JICA等を通じた国際協力として、船舶、港湾、海上保安分野での人材育成も行われている。
 
[Commentator]
○秋山昌廣 シップ・アンド・オーシャン財団会長
 経済と安全保障の問題を日印関係の中で考えると、3つに分けて議論できる。1つは、一般に2国関係を考えるときに経済関係だけということはあり得るが、安全保障のみはあり得ない。すなわち、安全保障の関係は必ず経済関係を伴っている、ということ。日米安保の第1条に、日米関係は軍事同盟だけではなく、経済協力、社会安定、国際協力という言葉が入っている。安全保障だけでなく、経済も含めて議論しないと本質的な議論にはならない。
 第2は、経済と安全保障の関係である。エネルギーと食糧の輸送は、どこの国でも海上交通に頼っている。マラッカ海峡については両国とも関心が深い。さらに、海洋資源、海底資源、水産資源、環境資源も経済と安全保障に密接にかかわっている。
 第3には、具体的な個別問題である。海洋、経済、港湾、造船、海運、河川交通、海上構造物などで、具体的な議論ができるのではないか。港湾も造船も安全保障に密接につながっている。
 Baru氏の最後の話で、広い観点から取り組むべきとの発言にはまったく同感。ではどう対応するか、更なるコメントをいただきたい。ピライ氏には、プライベートセクター同士での経済協力という話題に関して、更なるコメントがあれば聞かせてほしい。
 
[Discussion]
Baru氏:日本のODAは、インドが今年は中国を抜いて最大になると聞いている。エコノミストという雑誌で、中国の宇宙開発をとりあげ、いつになったら援助を求めなくなるのか、という論調であった。そろそろ中国の援助を減らしてもよいのではないかと考えており、歴史的転換点になる。日本が戦略的に中国をどのように位置づけているが理解できなかった。
 経済関係が強靭に存在していることは存在しているが、経済関係は世界各国と結び得るが、戦略的な関係は一部の国に限られる。戦略的な関係のみということはありえない。日中は経済はあるが、戦略的な関係はない。
 アジア地域には、パキスタン、中国、北朝鮮など核拡散の問題があるが、安全保障に関して広い議論をすべきだ。日本との協力体制を強固なものにしたい。
 対インド投資で、日本は研究ばかりしていたが、韓国は投資を実行してきたことによって、韓国が投資額で日本を抜いた。アジア全体をにらんで、戦略を立てる必要がある。
 
Roy氏:ナトラパスにトレーニングセンターを開いた。カルカッタから北上するNational Water Wayの構想があり、これが実現すればインド洋からの距離が劇的に短縮する戦略的な水路となる。ぜひ関心を持っていただきたい。
 
Singh氏:日印関係について、お互いに密接な位置にあったが、お互いがいるから不幸であるという側面もあるかもしれないが、お互いを非難しあうような間柄ではない。
 核拡散に関して、パキスタンで起こったことは日本でも、台湾でも起こりうる。台湾の若い世代は独立国のアイデンティティを持ちたいと思っているはずだ。次世代のことを大切に考えないといけない。
 
秋山会長:日本の南アジアに対する外交は必ずしもよいものではなかった。数年前に森総理、本年防衛庁長官がインドを訪問した。両国関係が変わりつつあるということを認識してほしい。これまではアクションをとってこなかったが、今後は、インドに対してアクションをとると思うし、われわれがその引き金を引きたい。
 
夏川氏:核拡散に関する議論については、日本国内でも肯定的な発言をする者もいるが、人類のために絶対に防がなくてはいけない。イラクの事例を見ても核拡散に対する各国の認識が高いとは思わない。アメリカも同様。各国には最大限の努力を払っていただきたい。
 ODA受け入れ1位になるということだが、海に使われる割合はどうか、そのような要望を政府に対して出しているのかお聞きしたい。
 
Roy氏:大陸インドと半島インドで分断されているが、海洋には予算を回していない。ODAのソフトローンの使い道として、半島インド、港湾、海運産業などにまわしていきたい。ヨーロッパからはアイディアをもらえるが、日本はお金だけなので技術的な面でも民間から支援をいただきたい。
 
金田氏:日印ともに、最終的には、マルチラテラルな取り組みが必要だということに対しては合意できたのではないかと思う。ここでは経済を取り上げているが、きわめて重要なことであり、意義が大きい。Baru氏から、インド国内、インドと日本の関係については説明があったが、SLOCに対する、地域全体の経済に与える影響に関する発言があまりなかった。
 一般に、SLOCに悪影響を及ぼす政治、安全保障面での不安定要因は比較的容易に把握できるが、テロリズムが地域全体の経済に与える影響については簡単に述べることはできないがゆえに、2国間関係だけではなく、地域全体の経済問題にも、今後議論して成果を得ていく必要があるのではないか。
 
Baru氏:地域全体に関して問題提起されるのは初めてであり、今後ぜひ検討していきたい。
 インドとアメリカ間で、アジア地域に関するセッションがあった。日印ともマラッカ、ペルシャ両方に注意を払う必要がある。
 インドについては、スリランカ、シンガポールとの自由貿易協定があり、相互依存性を高めることであり、シンガポールでは、観光客の最大シェアはインドである。SARSにより苦境に陥れば経済そのものが後退する。テロであれなんであれ、その影響が広範に及ぶようになってきた。10年前位には起こりえなかった。シーレーンやエアレーンの脅威は、経済に対する脅威である。ASEANと安全保障とのリンクが強まっている。
 
インド側:インド経済に関するレクチャーで、意見が集約されてきた。グローバルな戦略は経済要素を持たなくてはいけないということ。日本の投資を受け入れやすくするためには、インドは何をすればよいのか教えてほしい。
 
インド側:民間同士の協力としては、ジャバルネルポートにおいてBOTを広州との間で結んでいる。チェンナイではシンガポールとの間で結んでいる。日本との間では、造船業では設計面での協力を求めているが、1998年の状況が悪影響をもたらしており、インドへの関心を低めているという報道もある。現在はビジネスでの透明性が確保できている。
 
De Silva氏:SLOCにマルチな協力が必要ということにはまったく同感。すべての関係者、関係国がかかわるべき。船舶は大量破壊兵器の輸送手段になることがわかっており、このような問題には、一国だけの規制では意味がなく各国が協力して規制していくことが不可欠である。また、海峡や港湾付近で船舶を爆破沈没するだけで大きな影響を与え得ることを考えれば、各国の連携が必要であり、日印がどのような役割を果たしうるのか。日本は経済力、軍事力で大きな力を持っている。SLOCの安全を確保するためには、政府高官だけではなく、現場の船主や船長まで教育していく必要があり、ユーザーも含めた関係者すべてがかかわるべきである。
 
笹島氏:経済成長が6%から7%代に伸びるといわれたが、それを支える中産階層と人口の7割を占める低所得層との経済格差、それによる社会不安の懸念はないのか。
 他方で、9.11以降コンテナ輸送によるテロ関連物資輸送の防止が大きな課題であるが、それにはコストがかかる。インドではコスト増にどのように対応するのか。
 
インド側:一つ目は、1958年にスタートした日本のODAによって、インド東部諸州の港湾整備が図られたという事実があるということを紹介する。
 二つ目は、二国間での地域問題への取り組みである。個人的に2000年は両国にとって重要な年であったと思う。その年、日印の財務大臣が相互訪問で会談し、翌年はインド首相が訪日して首脳会談を行い両国関係の大枠が定まった。昨年、川口大臣が訪印してシーレーンの安全、核拡散について議論したが、今後さらに両国間の対話を進めるべきである。
 
村井氏:インドとパキスタンの関係と、日本と北朝鮮の関係は似ているという発言があったが、それに対して発言する。インド−パキスタンの関係は政治的なものであるがゆえに政治的解決が可能であるが、北朝鮮のわが国に対する行為は単なる犯罪行為であり、政治的な解決、譲歩ができる性質のものではない。そのような意味で2つの関係はまったく異なるものである。
 
青木氏:De Silva氏からSLOCの安全を確保するためには、政府高官だけでなく、現場の船主や船長まで教育する必要があるといわれたが、この点については、SOLAS条約の改正により、港湾や船舶ごとの保安対策が義務づけられるので、制度面で改善される。
 
山崎氏:Baru氏から日印の経済関係が進まないとの発言があったが、この要因として、経済活動にかかる日印の文化的な違いがあると思うが、その点について何かコメントはあるか。
 
Baru氏:開発の不平等は難しい問題である。失業率が増加し、不平等も増加しているが、貧困層自体は減少している。一方で、地域的な問題として沿岸部は成長しているが内陸部の成長率は低いということもある。しかし、インドの政策能力を持ってすれば解決可能である。
 両国間に文化的なギャップがあることは確かである。インドのビジネスマンには、日本よりもアメリカや韓国とのビジネスの方がやりやすいという声もある。







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