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国際会議「日・印 海洋安全保障ダイアローグ」
JAPAN-INDIA DIALOGUE ON OCEAN SECURITY
(概要)
開催日:平成15年11月12日(水)、13日(木)
開催場所:海洋船舶ビル10階ホール
(敬称略)
【Opening Remarks】
 
○秋山昌廣 シップ・アンド・オーシャン財団会長
 今回のダイアローグには4つのキーワードがある。それは1)「日印関係」、2)「海洋」、3)「安全保障」、4)「民間レベル」のダイアログ(すなわちトラックII)である。この会議を通じて、ぜひ具体的な成果、提案をアピールしたいと考えている。このダイアローグは公開で行われ、配付資料、会議の内容は全てオープンである。なお、本日配布される論文、資料等は暫定版であり、会議後にパネリストと協議の上、財団で確定版を作成することにしている。
 
○Vice Admiral Mihir Roy(Retd.)
 日本とインドの友好関係には、長い歴史がある。同じ東洋人として、日露戦争はアジア人の勝利と考えているし、またインドにゆかりのある岡倉天心と彼のタゴールとの出会いにあらわされるように、人間同士のつながりも深いのである。そしてインドは、日本の行いをずっとフォローしてきたのである。第二次世界大戦前後は、日印関係はやや低調なものとなったが、インドは日本との関係を常に尊重してきた。
 冷戦後、この地域の均衡を保つ必要が生じてきているが、日本は高いGDPを持つアジアの国として、この地域の均衡の維持に高い責任を持っているのである。50年目を迎える日印外交関係は、これまで以上に重要性を有し、そしてもっと有機的なものとしていく必要がある。21世紀はインド洋が運命の海になるであろうという言葉を引用して、結びに代える。
 
【SESSION 1: 変化する国際状況について/Overview of Changing International Situation】
 
[Presenter]
○村井友秀 防衛大学校国際関係学科教授/「最近のアジア情勢と安全保障システム」
 最近のアジア情勢は、中国の影響力の拡大、日本の影響力の縮小、インドの発展と東南アジアへの進出、イスラム原理主義やテロなどで大きく変わっている。多くの不安要因によってアメリカのDemocratic Peace政策は10年前のアルジェリアのように危険に置かれる可能性がある。中国は東南アジアで政治的・経済的影響力を急激に拡大している。例えば、中国のインドシナ・メコン流域への経済的浸透は急速に大きくなっている。メコン川開発や「南北回廊」計画、ASEANと「戦略的協力関係」宣言の締結、「東南アジア友好協力協定」への加盟など、中国の国家戦略の中で重要になっている。
 中国の国家戦略は、米国の一極支配に対抗するため、東南アジアに対して地域統合を形成し、影響力を拡大することである。この戦略は成功するだろう。また、ロシアと中央アジアに集団的安全保障システムである上海協力機構を形成し、影響力を拡大しようとするが、これは失敗の可能性が高い。そして、東南アジアに対する日本の影響力を牽制するが、成功する可能性がある。
 しかし、ASEANプラス3を地域安全保障機構として発展させ、米国または日本が東南アジアに軍事的影響力を拡大することを牽制しようとするが、アメリカの影響で失敗すると思われる。
 東南アジアへの最大の援助国である日本は、諸国と深い経済関係を持っているが、東南アジア国家への影響力は中国によって弱まっていると思われる。これは中国外交の成功だというより、日本の方が下手であるからだと思う。また、東南アジアの国にとっては、カンボジア外務大臣の話のように「日本と中国はASEANの右手と左手」であって、このような現状を踏まえて日本の戦略を立てるべきである。
 イスラムの影響からみると、インドネシアやフィリピンに比べて東アジアの場合は、大きな心配は無いだろう。
 インドの台頭は中国の影響力増大にとって変数である。インドも東南アジアで、インド人を中心して影響力を拡大しているからである。インドは情報技術大国であり、年6-7%の経済発展を果たしており、米国との関係も大きく改善しつつある。
 ネルー首相は、歴史的な統一中国の拡張主義を考慮すると「友好による中国封じ込め政策」が必要だと強調した。友好を強調しているが、究極的には世界戦略を持つ二つの国は競争の立場から避けられないと思われる。
 一方、日本は経済的影響力で行ってきた今までの戦略と違い、東南アジア地域に対して他の分野で影響力の拡大を図るべきである。例えば安全保障の分野は日本がこれまで多くの貢献をしてこなかった分野である。今まで日本の軍事的動きは国内的な要因によって制限されたが、アジアで軍事的な影響力が必要ならば、アジアの代表的な民主国家である日本とインドの役割が期待されると思われる。
 
○Ambassador S. K. Singh / "Security System in Northeast Asia"
 影響力の面で見ると、軍事力だけが有効ではない。ソフトパワーといえる文化・技術・経済などを通じた国際関係も非常に重要である。インドはこのような宗教、文化的な意味合いを持つ国家ビジョンを保有している。日本の場合もこうしたソフトパワーを重視していると思う。
 インドと日本は歴史上、一度も重大な競争関係が無くて友好な関係を築いてきたと思う。この関係に基づいてアジア全体の繁栄を考えながら行くべきであろう。
 各アジア地域では様々な国際変動が起きている。中国の影響力拡大、中国−パキスタンとの連携、イラク戦争、トルコの参戦問題、中央アジアの新しい動き、イスラムとイスラエルの敵対感に基づく対決・復讐、テロ組織の発生・浸透などが挙げられ、何らかの形で安全なシーレーンの運営に影響を与えている。特にインドは、パキスタンと接続している、インドネシアに続くイスラム勢力が多い国であるからテロへの憂慮が大きい。
 日本は中国の影響力の拡大を心配しているが、中国はイスラムを含めて影響力を延ばしていると思う。
 過去20年間に比べて、海での自由航行に対する比重度が落ちているのではないかと考える。SLOC、シーレーンなどの海での安全確保は日本を始めとしたアジア各国のエネルギー問題が係っている大事な事項である。その意味でインド洋での安全な管理は極めて重要なことであろう。
 インドが1998年核武装したことを、当時日本は非難したが、NPTの6条が守れない状況でパキスタンに対する生存権問題もあってインドは決意したのである。日本でも、非核3原則があるが、周辺の核武装国である中国、ロシア、北朝鮮、又は米国、英国、フランスという国家との関係を見ながら、今後考えていくだろう。
 南シナ海での中国の進出も、ベトナムやマレーシア、フィリピンなどに影響を与えるだろう。
 
【SESSION 2: SLOCにおける包括的な安全保障について/Comprehensive Security Issues on SLOC】
 
[Presenter]
○金田秀昭 岡崎研究所理事 元海上自衛隊護衛艦隊司令官/「『海洋の自由』の追求・・・印亜・西太平洋一体地域における海洋安全保障」
 海洋の自由とは、国連海洋法条約などの国際法に定められた他の沿岸国の主権や管轄権を阻害しない範囲で、海洋国が最大限に海洋を自由に利用する権利であり、「海上航行の自由」(SLOCの利用など)と海上諸活動の自由(海上の諸資源を活用すること)に分けられる。
 冷戦後の国際社会は、イデオロギー対立から開放され、科学技術の発達による物資や情報の流通が円滑化し、グローバルな経済的相互依存関係が一層深化している。物資の大量輸送に適する海上交通は必須不可欠で、「海上航行の自由」は以前に増して重要な意義を持つようになっている。これに対して、台湾危機が実証したようにSLOCに危機が生じて「海上航行の自由」が阻害されれば、経済のみならず安全保障にも多大な悪影響を及ぼすので、海洋自由を確保するための連帯が必要である。
 一方、国連海洋法条約に基づき、今日大陸棚、排他的経済水域など地球上のおよそ半分には何らかの権限が及ぶ。海洋法条約の基本精神に立脚すればこれらの権限は資源の独占のためではなく資源管理を目的とするが、境界の画定作業にも見られるように、現実には、特に陸上資源の枯渇傾向を見越して発展途上国のナショナリズムの向上などと相まって海洋資源獲得を巡る対立激化のきっかけになっている。このことは、確立された一定の国際・地域ルール下での各国の「海上諸活動の自由」の問題が重要であることを示している。
 経済的にも「海上航行の自由」、「海上諸活動の自由」の重要性は高い。東アジア・西太平洋地域の経済は、海洋に大きく依存し、そのダイナミックな経済成長は海洋資源の存在なしには語れない。つまり海洋自由は死活的に重要である。これとの関係で従来関心の低かった北インド洋地域(欧州・中東と東亜・西太平洋を繋ぐ)は、経済成長も堅調で、同地域の陸路連接手段が依然粗悪なことに鑑みれば「海上航行の自由」への依存度は一層高くならざるを得ない。それ故、経済、安全保障の両面から今後「海洋の自由」の確保に関しては、東アジア・西太平洋地域諸国と北インド洋地域諸国間を、両地域間の連帯、協調をベースとした「印亜・西太平洋」という一体地域として把握していく必要がある。
 21世紀初頭におけるこの一体地域の安全保障上の不安定要因として特筆すべきは7点挙げられる。1)大量破壊兵器や弾道ミサイルの拡散、2)国際テロがガバナンスの弱体な国家を中心に拡大、3)地域の軍事バランスを崩しかねない中国等の軍事力強化、4)朝鮮半島や台湾問題に見られる冷戦時代の残滓たる対立構造、5)領土(特に島嶼)、宗教、民族問題、6)第5点とも関連する海洋権益を巡る対立構造、7)海賊、麻薬、人身売買などの不法行為の国際化、組織化の動きである。以上のいずれも、SLOCに強く依存しており、SLOCにおける海空軍事力の保障が重要である。
 将来の問題として、アジアの急速成長国(特に中国)が必ず直面する課題は、経済成長を維持し続けるためのエネルギー確保、資源の確保、人口の急増と食糧確保、環境汚染だが、これらに関して新たな衝突が生じうる。そこで、“Value of Waters”を認識しつつ、早急な地域のコンセンサス作りが求められる。日本は、地域全体の安全を確保するにあたり、海洋自由から最大の利益を得ている国として、重要な役割を果たす。他方インドは、一体地域のSLOCの安全確保に関して地政学的に重要な位置に存在し、最低限の核の抑止力も持つ。また最近の中国海軍増強の動きに対して海軍の改編、インド初の陸海空3軍を統括するアンダマン・ニコバル・コマンドを創設、国防参謀制度や情報組織も新設している。「海洋の自由」の確保を巡って、日印関係は特に対立要素はなく、中国の海洋への進出に警戒心を持っている点において共通点があり、一体地域における「海洋の自由」パートナーとして相応の相手である。これに米国(海軍)を加えて日米印を中心とする「海洋協調」が不可欠である。
 海洋協調へのアプローチは、1)平素の「海洋協調」、2)緊急事態(有事)の海洋協調、3)海上諸活動での海洋自由の確保における海洋協調があるが、時間の関係で1について:平素から一体地域共通の問題(海賊等国際テロ等)に対して、共通の認識を持って協力、連携した対策をとるように努め、地域的多国間の枠組みを創出する必要がある。その過程としては2つ考えられる。一つはARFの場でコンセンサスを得て次第にARF地域全体へと広げるアプローチ、そしてもう一つは、日米印の2国間ベースから始め、次いでこの3ヵ国を中心とする「海洋協調」のための常設協議帯を設置し、やがて一体地域各国の多国間に発展させていくアプローチである。これが、地域全体の海洋自由のアプローチへの足がかりとなるのではないかと考える。
 
[Presenter]
○Vice Admiral Mihir Roy(Retd.)/ Comprehensive Security Issues -SLOC security management and Emerging Technologies
 海洋は人類の共同財産であり、海上貿易の増大と海洋資源への依存強化に伴い、この海を巡る問題は次第にセンシティブな問題になってきている。その中心は欧州・大西洋からアジア・太平洋へとシフトしてきている。このアジア・太平洋経済の動脈が、SLOCである。日本と西太平洋諸国にとり、エネルギーと安全保障は密接な関係を持っている。この地域で台頭してきているのが中国である。しかし我々はそれを脅威とみなしていない。私は、ペーパーの中で“Chinese Challenge”(中国の挑戦)と位置づけた。中国はアジア太平洋SLOCにおいて、主要なプレーヤーとなってきている。かつて中国は自己充足的であったが、経済の急速な発展と共にSLOCに大きく依存するようになっている。WTOへの加盟はそれを加速させていくだろう。貿易額は米国、ドイツ、日本に次いで4位、10年前の2.5倍に跳ね上がり、造船でも日本、韓国に次いで3位になっている。中国は石油のほとんどを中東からの海上輸送で賄っている。これとの関係で広西省に新しい港を建設しており、また上海には5000〜6000TEUを運ぶ第5、6世代コンテナ船が入港できる深水港を建設する計画がある。2020年には双方向でのチョークポイントを通った貿易が進められてゆくであろう。他方で中国は、核兵器の材料やミサイルを、パキスタン、北朝鮮、バングラデシュそしてミャンマーに供給している。
 インド洋とエネルギーの問題について。わずかに10の沿岸国が、世界の石油埋蔵量の65%を占め、貿易の側面から見れば、積荷の33パーセントがこのインド洋を渡っていく。インドは独自の油田をもち、45パーセントを頼っている。他の国はそうしたオプションがないので、シーレーンが重要になる。もしマラッカ海峡で事故が発生したり、テロが行われたりすれば大変なことになる。ヘリや航行船に爆弾を乗せたテロなどが考えられる。この地域ではエネルギーの安全保障のみならず他にも人身売買、麻薬などの不法行為の問題、環境問題など様々な問題を抱える。アジアのSLOCに対する包括的な安全保障のチャレンジについて、サミュエル=ハンチントンは、文明の衝突を指摘したが、マクロレベルではそれはイスラムとその他の衝突を指す。インドは紛争回避に協力してきた。インドには近隣イスラム諸国(パキスタン、バングラデシュ)よりも多いイスラム人が暮らしているのである。SLOCの安定・安全保障にはかなりの程度経済成長が必要であるが、この地域にはいくつかの不安定要素が存在する(麻薬取引、核物質の不法な移動、大型タンカーによる油濁、サイバー干渉というもの、ダブルボトムのタンカーを利用する必要性、しかしインドは1日1ドルの生活をしているようなところであり、ダブルハル化を要求するのは難しい)。戦時にはSLOCが重要な点になる。南アジアにおける武器の取引が急増し、560億ドルになっている。この地域には準海洋国家が増えてきている。安全保障の絶対的な目的としては、安全できれいな海を求めているが、脅威の種類は軍事的なもの、非軍事的なものなど、汚染、海賊など非軍事的なものもある。イラン・イラク戦争時、タンカーが多く攻撃され、うち11がインド船であった。
 海上の安全保障とはきわめて多面的なものである。精密誘導ミサイル、トマホークといったサイバー兵器、ハイテクセンサーなどを使ったり、また都市戦争、環境戦争、スリランカのタミルの虎のような革新的テロリスト攻撃などは、新しい技術がどんどん取り入れられ、それに対応する必要がでてくる。我々だけでは南シナ海のSLOCを護ることは出来ない。協力によってなんとかしなければならない。たとえば、米国第7艦隊との相互運用性の問題など。我々はASEANの加盟国ではないが、これらの国と我々は対話をしていく必要がある。シーレーンが重複しているという点で、シーレーンを協力して保護をする必要があり、ダイアログを深めていくことが重要である。米印間の協力を維持することが必要。SLOCは我国だけでは護れない。また、実際に何が出来るかを示していく必要がある。APECやCSCAPなどの取決めなども必要。そうした海上安全保障には、インドが参加する必要がある。
 最後に提言をしたい。協力には、力を持たせなければならない。歯でかめるものでないとだめ。アジア・エネルギー機関を作るべきである。インド洋における共同の海難捜索、共同の環境安全委員会などの分野でも協力を進めていくべきである。日本とインドは、この地域の2大海軍国であり、合同「ベンチャー」を活性化させる必要がある。沿岸警備隊間の協力などの海賊対策、テロ対策、海上における救難救助、麻薬取引などに対してどういうことが出来るのか考え、一歩一歩でもいいが、迅速に行動をとる必要がある。21世紀はインド洋が運命の海洋になる。
 
[Commentator]
○笹島雅彦 読売新聞社調査研究本部研究員
 金田、Roy両氏はSLOCをキーワードに、海洋の自由について包括的な現状の問題点を提示した。金田氏は7つの個別的問題を列挙、地域における海洋協調の方向性、多国間の協議体創設を提案した。ロイ氏も、インド洋領域が日本にとって死活的に重要と指摘、基本的考え方を共有している。特に、インド洋領域が「日本外交のレーダースクリーンの外にある」と日本に警告した。
 私からは、戦略的視角からのアプローチの重要性を指摘したい。なぜ今、日印対話が必要なのか。日本にとって、中東地域からインド洋、マラッカ海峡を超えて日本に至るSLOCが死活的利益であるという認識は、冷戦時代から変わらない。それは、軍事的には米国のパワー・プレゼンスによって維持されてきた。しかし、少なくとも軍事面において米国のパワーが減退し、他の地域パワーに肩代わりしてもらわなければならないという力関係の変化は現在、生まれていない。それでは、なぜ今、日印対話が必要なのか。短期的課題:海賊、中期的課題:対テロ戦争、長期的課題:中国への取り組みがあるからだ。
 海賊問題では、アロンドラ・レインボー号事件が契機で、インド海軍、沿岸警備隊の捜査能力に対する高い評価が日本に生まれている。この分野における協力体制を構築するには、どのような方法論が考えられるか。対テロ戦争を遂行するうえで、日印はアジアにおける要石。日印は、有志連合の一員として対テロ共同行動を近い将来、取ることが可能になるのではないか。中でも、テロ、大量破壊兵器の移転、海賊などの取り締まりを求める概念としては、「集団的自衛権」というよりも、「集団的海上警察権」という国際法上の新概念を創出しなければならない。
 ここで三つ質問したい。インドはなぜ、イラク戦争に部隊派遣を要請されながら、国連決議がないことを表向きの理由に、派遣を拒否したのか?PSIに、インドも参加する可能性はあるか。日本国民の非核感情と、日本の政策立案者、インド側の認識には大きな認識ギャップがある。核実験全面禁止条約(CTBT)、核拡散防止条約(NPT)に対するインドの署名拒否の姿勢は変わらないのだろうか。
 長期的課題は、中国への対応である。シビリアンである村井氏、Singh氏は極めて厳しい中国認識を示したのに対し、金田、Roy両氏というアドミラル二人の中国観は極めて抑制が利いていた。問題は共産党一党独裁政権下にある中国の将来像が不透明で、経済力だけでなく、軍事力の面でも地域パワーとして台頭する危険性のある中国に日印両国がどう取り組むか、という課題だ。中国に対する懸念は、程度の差こそあれ、日印は共有。しかし、中期的課題と長期的課題にはジレンマがある。9・11事件以後、米国にとっての主要な脅威は、中国の台頭よりも、国際テロ。中国は対テロ戦争については協調的で、米中関係はこの一年間、急速に進展。この協力関係は、便宜的協力なのか、戦略的変化なのか。便宜的協力ならば、いつの時点から、米中関係は対立構造に戻っていくのか。また、日印両国は、中国とどう向き合っていくのか。勢力均衡で、中国に対抗していくのか、日印がイニシアティブをとって、海洋安全保障における新たな多国間協調システムに中国を招き入れていくのか。こうした長期的課題に伴うジレンマをまず指摘しておきたい。
 
[Commentator]
○Captain S. Samadar
 本当に我々が焦点を当てるべき問題は、海の安全(航行安全+安全保障)の問題である。海洋の安全保障が人間の安全保障に関係する重要なものになってきている。海の安全保障は興味深い形で発展してきている。10年前、麻薬取引などの取引がこのような不安定性の問題として取り上げられることはなかったのではないか。他方で、安全保障に関して2つ問題がある。まず、海洋法条約がどのように解釈されているか。無害通航、科学的調査がどう解釈されているか。これが安全保障との関係で問題となっている。船舶の航行はきわめて多くの国が係っているが、現在はそれが短期的な利益の考慮で動いている。しかし経費的な問題だけではなく、長期的な利益を見据えて対応していく必要がある。
 つぎに、長期的課題としての中国のチャレンジについて。戦略として、中国と交渉し、友好関係を持とうとする一方で、力も必要である。その両方が必要だろう。必要であれば多国間で封じ込めが必要なときが来るかもしれないが、まず中国がどのような形でSLOCを使うのか、それを見ていく必要があろう。多くの機関が係る必要がある。たとえば諜報機関、海軍など。それぞれの強みを活かしていく必要がある。すべての資源を使って、相互的な支援が必要である。金田氏が触れたOperational Turn Aroundは、そのための信頼醸成に有効である。最後に、イラクで生じたことは、繰り返されるかもしれない。たとえば米国がイラン沖に第7艦隊を進めるときに、アブサヤフのようなテロ組織がSLOCの要衝たるマラッカ海峡に機雷を敷設したりすればどういうことになるか。これに対してはバイラテラルな協調がまず必要である。また海洋協調とは何かということがもっと議論されるべきだ。
 
【Discussion】
議長:笹島氏の質問に答えることから始めたい。
 
Singh氏:イラク派兵拒否は、反対なのではなく、英米による作戦の参加者とみなされたくないということである。国際法や慣習法、国内外での条件等(例えば国内のムスリムの存在)を勘案したものである。もしこれが国連によるものであれば対応は別であろう。これまでの作戦に関しては、我々は及び腰になっていない。ソマリアなどでも積極的に貢献した。今回の戦争は国連ではなく米国がリードする戦争であり、その参加者とはみなされたくないのである。外交面、国連の面からみれば、派兵ができない。トルコも派兵ができないと言ったが、よく理解できる。
 PSIについては議論中である。反対しないかもしれないが、一、二のクリアすべき要素がある。CTBTへの加盟については、軍事会議でも国内でもはっきり言っているが、ない。核拡散防止条約NPTに加盟する可能性はゼロである。
 
Baru氏:インド洋はインドの海か?インドからのメッセージとしてはっきり言えるのは、この地域の海洋貿易に関係する人々全員の海である。インド洋は我々だけがテナントであると言ったこともかつてはあったが、今はそうではない。アジアのメンバー全員の協力を持って安全が守られうる海である。笹島氏の質問に対し、私は、元外交官Singh氏とは違った立場(ジャーナリスト)から答えたい。インドは今歴史の中でも興味深い段階に来ている。国家の内外で、新しい均衡を求めている時代である。将来的には、多極的世界に行くべきだが、今は二極分化の世界から多極分化の世界への移行期の中で単極世界になっているのかもしれない。日印は、その中で大きな役割を果たす必要がある。この移行期をどう運営していくのか。目に見えるような関係を、米国との間で持っていかなければならないというのが、日本の立場であったと思う。他方でEUは別の立場をとり、イラク問題に対し最も厳しい対応を示したと思う。
 他の大国との関係をどうやって管理していくか、それを議論していく必要がある。たとえば、もしこの地域で一部の地域の国を怒らせてでも、中国との関係を維持しなければならないという考えもあるだろう。いずれにせよ、移行期にある今、日印は責任をもっと果たす必要がある。
 インドと日本は、幸せなことに、同じサイドにいるのだと思う。日本国内でもいろいろな議論があると思うが、隣国(パキスタン)が核を持つということは、非常に問題があるだろう。インドは日本の97年の反応には失望したが、なぜインドが核を持ったのか、そういうことを考えてほしい。日本、欧州がそういう問題をいつも持ち出すようなことは、やめるべきである。インドを核保有国として認めるならCTBTに加盟したいと思うところである。
 
インド側:中国自身はあまりはっきりとものを言わない。現実の中国の脅威を語ることが出来るのは良いことである。中国に対しては、不必要に不安に思う必要はない。中国も、対立ではない方向を望んでいると思う。もっと現実的なアプローチをとるべきであると思う。Singh氏の答えについてであるが、日本政府も同じことに巻き込まれていると思う。過去を振り返れば、91年の湾岸戦争の際、派兵できず、小切手外交と呼ばれたことを思い出す。なお、NPTに関しては、簡単に立場をとることは出来ないと思う。日本も長い間批准にかかったではないか。CTBTも、日本との関係で、ODAとの関係で論じられ、ODA停止になったが、今でも問題になっているのである。
 
秋山会長:2点話したい。1点は、Baru氏の言う「移行期」の話。移行期における単極構造についてだが、イラク問題はそのこと自体が重要な問題であると思う。外交的にも法的にも、国連的にも問題がたくさんあった。しかし、国際的なテロと国際的な安定の闘いとなっているのではないかと考えている。この問題は、移行期と位置づけるよりも、もっと重要な問題であると考えている。もう1点は、村井氏が話したメコン川のことについてである。中国は、高速道路の建設等を通じ、東アジアへアプローチできると言った。つまり中国は海洋国家と大陸国家の双方のアプローチをとることが出来る。日本は、海洋国家としてしかアプローチをとれないので、それだけ海洋が重要である。では、インドは海洋国家なのか、大陸国家なのか?
 
笹島氏:日本では、日本国内での説明というのが重要になってくるだろうと思う。秋山会長の指摘通り、イラク問題は重要な問題であることは確かである。
 
Baru氏:重要なことは、イラクへの派兵か否かの議論は、終了していないことである。ニュアンスとしては、その他の諸国との関係を悪くしたくないということである。インドは英国及び米国がイラクで失敗するのを望んではいない。勝利こそが我々の国益になるのは当然である。文民に関しては、協力は惜しまないし、軍人についても、まだ可能性はあるのである。議論は決して終了したのではなく、2004年においてもこの問題は引き続きオープンである。
 
Roy氏:ミャンマーについて。アウンサンスチーは、インドで教育を受け、学位を受け、インドは支援をしてきた。しかしミャンマーは中国に抱き込まれている。だから、インドは対ミャンマー政策を変えてきている。しかし、無視するのでなく積極的に働きかけてきている。
 また、パキスタン首相とも話を進めようとしている。働きかけを行う努力はしているのである。
 
Singh氏:Baru氏のコメントに補足したい。インドの派兵は簡単なものではない。たとえば、補給面、人道的後方支援、医療関係など他の形式で行えないかという話がある。まだはっきりしていないが、現政府にとって一番大事なのは、来年中頃に選挙があることで、その選挙前にイスラム教徒の票を失うのが一番困ることである。国防省はその辺も考慮せざるを得ない。
 
De Silva氏:インドが海洋国家かどうかという問いに答える前に、一つ言いたい。20年前、海軍学校である米国人が言った。インド洋は、インド人の海ではなく、アメリカ・インディアンを指しているのかもしれない、と。それはさておき、アジアは、一翼が日本、一翼がインドである。インドが海洋国であるかどうかはわからないが、システムやガバナンスの点ではまだ学習途中である。40年間、いろんな紛争、内乱に関わり、それは陸上指向であったと思う。しかし、インドの首相が、インドの安全保障の問題は、ペルシャ湾からASEANの海岸に至る、と述べている。つまりインドは海洋国家なのである。これは私見ではなく、首相がそう言ったのだ!
 
金田氏:二つの点について。第一に、日米印の有志連合の中で、日本はイニシアチブをとる必要があるということである。国際的な取り組みとして、集団的警察権の研究をすべきであるとの認識がある。その前に、日本は国家として個別的自衛権などについてもう一度考え直すべき時期が来たのだと思う。テロや海上不法行動などが引き金となり、パンドラの箱が開いた。「海洋法条約時代におけるテロ問題」という考え方をする時期に来ている。これに対応するために、いま、不明確となっているものは何なのか、海における自衛権や警察権とは何かに関しても、より広範な視点で考えていくべきである。最近、アメリカの海軍大学校(ニューポート)でシーパワー・シンポジウム(非公開)が開催された。情報によれば、初めて各国の海軍と海上保安当局の首脳を集めて行われたという。そこでは、テロへの対応として、海軍と海上保安当局の協力が欠かせないことなどが話し合われたといわれる。テロへの対応を考えた場合、現行国際法では不十分である。日本の場合、どういう形式で参加していくのか?同盟ではなく、コーリションという形になるのか、こういう流れの中で、今回の成果などを、しかるべき行政府などに伝えていく必要があろう。
 第二点として、「今の米中の協力は一時的なものだろうか?」という質問への答えはイエスである。現状は、移行期の段階で、その限りにおいて、米中両者が関係改善に利益を見いだしているのだと思う。中国が共産党の独裁国家であり、軍が党に隷属するという状況は、両国間で乗り越えられるものなのか、また、台湾問題などを乗り越えられるのか。中国側の状況にドラスチックな変化があり、米国が政治的にも許容できるような状態になれば、永久的な協力へとつながるであろうが、それまではやはり一時的なものであろう。笹島氏が短期、中期、長期と分けて、中国を長期に分類したのはそういうところに関係するのだろう。
 
De Silva氏:82年の海洋法条約は94年にようやく批准され、またアロンドラレインボー号を巡ってもローマ条約未批准などが問題となった。そこで二国間協力が必要となっている。インドとインドネシアの共同パトロールをする可能性などもある。継続追跡権には合意があるので問題がないだろう。またコーストガードは港湾外の管轄になるので、他の省庁の対応になる。国内の中でも協力が必要である。
 
青木氏:De Silva氏から、アロンドラレインボー号事件についてお話がありましたが、インドコーストガードがインド海軍の協力を得て同船を捕捉したことが、アジアにおける海賊対策が大きく前進する契機となった。
 2000年4月、東京で各国の海上警備責任者等による海賊対策国際会議」が開催され、「アジア海賊対策チャレンジ2000」が採択された。
 これにより、(1)巡視船・航空機の派遣等によるアジア各国との連携訓練・情報交換の強化、(2)海上保安大学校への留学生の受け入れ、(3)海上犯罪取り締まり研修の開催、(4)海賊対策専門家会合の開催等の活動が実施されている。
 特に、インドコーストガードと海上保安庁の間においては、2000年から両国の巡視船による相互訪問・合同訓練が実施されるとともに、両国長官の相互訪問・会談が開催され、友好関係が続いている。
 これら詳細については、次のセッションにてお話ししたい。







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