討論概要
セッション2: 過密度海域(Highly Accessed Sea Areas)の現状
南シナ海
2-1 重要なHASAの一つである南シナ海は、地政学的そして戦略的に大きな役割を果たしている。昨年、中国とASEAN諸国は南シナ海に係わる行動宣言を採択し、信頼醸成についても合意した。これにより、南シナ海の諸問題を平和裏に解決することが可能になったといえる。行動宣言が採択されてから1年経つが、この間、関係諸国ではどのような動きがあったのだろうか。
2-2 南シナ海の行動宣言は信頼醸成システムとしての役割を果たしている。行動宣言の採択以降、フィリピンと中国の間で領海紛争に起因する軍事的対立の危険性は全くない。インドネシアとの間では共同開発についての提案がなされている。南シナ海における資源量が正確に分かれば、共同開発に着手できると思う。
2-3 中国について言えば、海洋政策に係わる動きが早くなっている。ASEAN諸国との条約策定も進捗している。しかし、幅広く議論され、あるいは研究論文が書かれているかといえば残念ながらそうではない。原因として、中国外務部と学者との間の交流が少ないことが考えられる。
行動宣言は南シナ海のためにはプラスの展開であり、これによって国際情勢は二国間でも多国間でも安定化していくと期待される。
海洋に係わる縦割り行政
2-4 インドネシアでは、海洋政策に関する政府機関が17もあって、それらが縦割り的に管轄権を行使しているとのことであった。韓国では縦割りによる弊害を解消する目的で海洋水産部がつくられたが、海洋政策について完全に統合できているわけではない。どのような勢力が動くかによって一つ一つの海洋政策の方針が決まってしまうようなところがある。海洋政策について国家としての方向性を打ち出すことが大事である。
2-5 インドネシアでも、海洋政策に関する共通の目標を掲げる必要があるとの認識がある。しかし、この地域は文化的にも差違が大きい。例えば、インドネシアとオーストラリアとでは大きな違いがある。他国の教訓から学べることはあるが、あまりにも差が大きい。それが、国際的にもバラバラに努力してしまうという結果になる。
群島水域
2-6 群島海域について、インドネシアはIMOの支援を得て国際的なレジームが実行できるようになっている。フィリピンについては難しいところがある。フィリピンとインドネシアとの間で調整はあるのか。
2-7 フィリピンについて言えば、国連海洋法条約に沿った具体的なステップは踏んでいない。困難だからだ。まず第1にベースラインが確定されていない。海域の境界線画定の問題もある。サバ地域とマレーシアとの間の国境の線引きも決まっていない。国連海洋法条約を実施するためには国内法を改定しなければならないが、国連海洋法条約の批准が条件付であったか否かについての議論もある。
2-8 フィリピンの国内法では群島水域は内水に位置づけられているが、案出されている群島水域航路帯は無害通航権か群島航路帯通航権か。アメリカ海軍艦艇についてはどうか。
2-9 アメリカの軍艦については、訪問軍協定(Visiting Forces Agreement)の対象となり、フィリピンの内水における移動が認められている。群島航路帯については、プロジェクトがまだ進んでいない。群島航路帯は内水を貫通することになるので、フィリピンの政治家にとってはなかなか受け入れがたいという問題がある。
2-10 インドネシアの群島水域と東チモールの関係はどうなっているのか。
2-11 いろいろな官庁がいろいろな研究をしている。インドネシアの基線が島の南側にあり陸に向かって群島水域がある。東チモールの領海とインドネシアの領海とではなく、東チモールの領海とインドネシアの群島水域という位置づけで交渉ができるのかという疑問が出ている。調査研究では、航路帯の安全確保が大きな焦点になっている。
新しい安全保障の概念の適用
2-12 インドネシアには調整組織としてバコルカムラがあると聞く。新しい安全保障の概念について論じるときにバコルカムラは関係するのか。それから、インドネシアでは沿岸警備隊をつくろうという取り組みが行われていると聞くが、新しい安全保障の概念を執行する受け皿となり得るのか。
冒頭、議長から、新しい安全保障の概念への取り組みを、地域的な取り組みでやるのか、より普遍的なIMOのような場でやるのか、という問題提起があった。セッション1では地域協力について多くの議論がなされた。私も、地域協力として具体的な話をすすめることが現実的であると思う。その場合、取り組む対象によって地域設定が異なってくるように思う。例えば、テロや海賊といった場合はかなり大きな地域が想定されるのではないか。そのため、ASEAN諸国にSUA条約加盟を勧めても、想定される地域がASEANより大きくなるので、なかなか対応できない面があるのではないか。群島水域航路帯についても、領海基線の問題についても同様で、目的によって設定する地域の大きさを考える必要がある。
2-13 インドネシアでは2002年に新しい法が導入され、国防と警察力が分離された。調整を担当する省がどこかは分からないが、海軍ではバコルカムラのようなものを作ろうと努力している。沿岸警備隊については、海上交通に関わる組織で、現状ではあまり進展はない。一方でバコルカムラの代替になるようなものを導入しようという努力があるが、伝統的な安全保障向けのものであって、新しい安全保障の概念に合ったものではない。
2-14 環境悪化に対する緊急策としての地域協力が必要であるが、これを国の安全保障の問題と絡めると、環境問題は横に押しやられてしまう。グローバルなアプローチとしてこの新しい概念を導入するとすれば、安全保障問題が環境問題を疎外しないように考えなければならない。
2-15 南シナ海のワークショップに参加して、南シナ海での協力を成し遂げることは大変難しいものがあると感じた。南沙諸島に関する主張の対立や海域の対立があるからだ。さらに、多くの国々が条約の制定や協定の締結に極めて後ろ向きであった。中国政府の姿勢はこの5年間で変わったのだろうか。相手を懐疑的に見るという姿勢はいまだに続いているのだろうか。海洋安全保障の新しい概念を打ち出すためには、各国は省庁間の協力をするための委員会を作らなければならない。包括的に協力するよりも個別の分野で協力をするほうが前進することができるのではないか。
2-16 個人的には、中国政府の姿勢は変化していると思う。数年前は、海賊問題にしても極めて懐疑的な見方をしており、提案があっても即刻拒否ということがあった。最近はそのような慎重さは消え、よりオープンに議論をする姿勢になってきている。この地域の一部の国々には、拘束力のある条約には参加したくないという姿勢がある。行動宣言については採択したが拘束力のある法律文書ではない。主権問題ということになると、すべての国々がそれに対して神経質になる。しかし、環境問題について各国はそれほど神経質ではなく、戦略的なアクションプログラムに中国も参加している。機が熟してきたのではないか。少なくともチャンスはある。今回の会議のような努力をすれば、地域における法的枠組や環境文書をまとめあげることができると思う。ペルシャ湾には環境条約があり、地中海についても文書や協定がある。このようなトラック2の場で議論して、トラック1に上げ、そして公式な政府間協議に進展させることができるのではないかと思う。
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