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4. インドネシア群島水域を通る群島航路帯に関する2002年政府規則第37号
 
 新しい群島航路帯通航権は、インドネシアの同意を伴ってIMOが採択する群島航路帯において適用されることになる。インドネシアは若干の利用国と共同して行った完全な測量と協議に基づき、南北の方向に主要な三つの群島航路帯をIMOに提案した。
 
 1998年5月19日の第69回IMO海上安全委員会で、インドネシアはIMOと共に、以下の航路を利用する三つの群島航路帯を採択して、協力的な立法権限についての合意に達した:
 
1)スンダ海峡−ジャワ海−カリマタ海峡−ナチュナ海−南シナ海
2)ロンボク海峡−マッカサル−セレベス海
3)太平洋から南方へ、次の三つの代替航路で
a. 太平洋−マルク海−セラム海−バンダ海−オンバイ=サウ海
b. 太平洋−マルク海−セラム海−バンダ海−レチ=ティモール海
c. 太平洋−マルク海−セラム海−バンダ海−アラフラ海
 
 スハルト政権末期の政治的混乱を含む様々な理由で、三つの群島航路帯の採択から国内的な施行までには、いくらかの時間がかかった。規則が初めて起草されたのは1995年だったが、完成されて施行されたのは、2002年になってようやくであった。こうして施行されたにもかかわらず、東チモール周辺海域の主権と管轄権が変化したため、三つのうちのひとつの群島航路帯は改訂が必要になっている。
 
5. インドネシア海域で無害通航権を行使する外国船舶の権利及び義務に関する2002年政府規則第36号
 
 この政府規則は、インドネシア領海及び群島水域(国際航行に利用される海峡を含む)の外国船舶による無害通航権の行使に関する1996年の法第6号を実施する政府規則として施行された。この政府規則の下で、古い1962年政府規則第8号は廃止された。
 
 同政府規則は、無害通航に関して基本的には海洋法条約の諸規定に従っている。一般的に、無害通航権は通常国際航行に利用される航路帯において行使されうるものであるが、航行安全を確保する目的上、こうした航路帯及び分離通航帯が指定されたものである。
 
 無害通航権の一時的停止は、少なくともその開始の7日前までに、外交経路を通じて他国に通知されなければならない。
 
6. インドネシアの大陸棚に関する1973年法第1号
 
 インドネシアは、1969年2月17日に大陸棚に関する権利を宣言した。それがインドネシアの大陸棚に関する1973年の法第1号の施行へと続いた。同法は、領海を越える海底及びその下の天然資源に対するインドネシアの関心を示している。同法の主要な5つの点は次の通りである:
 
1)インドネシアの大陸棚は、1960年法第4号により決定される領海の限界を越える区域の海底及びその下から構成され、水深200メートルまで又は上部水域における天然資源の探査及び開発利用が認められている場合にはその海底及びその先も含む
2)インドネシアの大陸棚の天然資源に対する完全な権限及び排他的権利は同国に付与されるものとする
3)インドネシアの大陸棚(そこに存在するいかなる陥没も含む)が他国の領海に接続する場合には、境界線は当該国との合意によって設けられるものとする
4)大陸棚での天然資源の探査及び開発は有効な法令によって規律されるものとする
5)探査及び開発活動を行ういかなる者も、上部水域及び上空及び大陸棚の汚染を防止するために必要な手段をとることが要求される
 
 本法は、新しい基準と手法を用いる大陸棚の外側の限界に関する新しい規定を含む海洋法条約の成立以前に施行された。インドネシアはインドネシアの大陸棚の定義を改訂する必要性があり、基線から200海里以上にその権利を主張する可能性につき、科学的調査を行わなければならないであろう。
 
7. インドネシアの排他的経済水域に関する1983年法第5号
 
 領海及び大陸棚の主張と同じ態様で、インドネシアは1980年に排他的経済水域の権利を宣言し、その後まもなくインドネシアの排他的経済水域に関する1983年10月8日法第5号が施行された。同法は、インドネシアに対して、排他的経済水域の天然資源の探査及び開発、保存及び管理の目的で主権的権利を与えている。さらに、同法はいかなる探査及び開発活動もインドネシア政府の同意又は同政府との間で締結される国際協定を通じて行われなければならないと定めている。
 
 同法はまた、外国法主体又は政府に対して、漁獲可能量の余剰分への入漁権を保障することを定めている。本法はまた、海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するために必要な措置をとる義務を含んでいる。また、インドネシア法令に反するいかなる行動、海洋の科学的調査に関する場合には国際法の規則に対する責任に関する諸規定を含む。海洋環境の汚染又は天然資源への損害という結果になるいかなる活動にも厳格な責任が課せられる。
 
 同法は、海洋法条約に沿って起草されているので、改訂の必要性はないように思われるが、排他的経済水域の外側の限界は新しい直線群島基線に基づいて明らかにされ、そして引かれるべきである。
 
8. インドネシアの排他的経済水域における生物資源の管理に関する1984年政府規則第15号
 
 インドネシアは、自国領海外の水域における漁業の可能性を認識している。1983年法第5号の施行は、インドネシアが排他的経済水域において生物資源を開発する機会を広げている。1983年6月29日の1983年法第5号を実施するものとして、1984年政府規則第15号が施行された。
 
 基本的に、インドネシアの排他的経済水域における生物資源の利用及び保存、免許取得の手続き、違反に対する制裁に関する規定を含む。この政府規則はインドネシアが自国水産業を発展させることを考慮して発せられたものである。
 
 海洋漁業省の設置と共に、インドネシアの排他的経済水域における漁業に関する省の政策をさらに実施するため、新しい省令が施行された。
 
9. 群島国家の法制度及び領海、群島水域及び東西マレーシア間にあるインドネシア領に関するマレーシアとインドネシア間の条約の批准に関する1983年法第1号
 
 海洋法条約第47条6項及び第5条の規定に従って、インドネシアはインドネシア群島水域におけるマレーシアの権利と正当な利益を調整するための二国間条約を締結した。同条約はマレーシアによるインドネシア群島国家制度の承認と支持を定め、その代わりにインドネシアはインドネシア群島水域におけるマレーシアの既存の権利と利益を尊重する事を約束する。
 
 インドネシアは近隣諸国に囲まれているめで、海洋境界画定の解決の重要性を認めている。このため、インドネシアは近隣諸国との間で、大陸棚又は海底の境界画定につき約12件、領海境界画定に関して2件の合意に至った。インドネシアとオーストラリア間で顕著な実績は大陸棚境界の合意を棚上げするチモール海におけるオーストラリアとの協力水域を設定する協定であり、これは後に東チモールの独立により廃止され、1997年3月14日に排他的経済水域の境界及び一定の海底の境界の設定に関する新条約が採択された7
 
 海洋生物資源及び非生物資源の利用に関して、インドネシアはまた、生物資源の保存に関する法とあわせて漁業及び採掘に関する法を設けた。上述の法令を実施するに当たっては、これらの追加的な法もまた考慮しなければならない。
 
10. 生態環境の管理のための基本規定に関する1997年法第23号
 
 1997年9月19日、生態環境の管理に関する1997年法第23号が新に通過し、1982年法第4号に取って代わった。1997年法は第3条において、同法の基礎、目的及び対象を次のように定めている。すなわち「国内的責任及び持続可能な開発と整合する環境管理」及び「インドネシアの個人及び共同体全体の全体的発展の枠組みの中での開発」である。
 
 同法は、全ての人民の健全な環境に対する権利と環境の機能を保全し環境汚染と戦う義務を保証している。第IV章は、1945年憲法第33条3項の実施に供し、天然資源が国家により管理され、可能な最大の公共の福祉のために政府が開発するものであると定められている。
 
 同法は、その当局の代表を地方政府とすることを定めている。環境品質の基準を破るあらゆる事業及び/又は活動を禁じている。環境に影響を及ぼしうる事業は、環境影響分析を行わなければならない。事業及び活動はその廃棄物(有害及び毒性の廃棄物を含む)を管理しなければならない。同法はまた、県及び地区レベルでの監督、遵守管理、環境検査及び行政上の制裁に関する規定を含んでいる。後者には事業免許の取り消しという形式での制裁を含む。
 
 同法はまた、法的又は非法的手段による環境紛争解決について定めている。司法的解決は補償の支払い及び一定の行動を行うための命令の発令を想定している。この法の二つの顕著な特徴は、第一に、環境に顕著な影響を及ぼす有害及び有毒物質に関係する違反について厳格責任が定められていることである。第二に、最近の判例に従って、共同体及び環境機関に対して、集団訴訟を提起し及び/又は環境違反を報告する適格が明示に附与されていることである。
 
 同法を実行可能にする文書の一つが、海洋環境への汚染及び/又は損害の規制に関する1999年政府規則第18号である。
 
11. 空間計画に関する1992年法第24号
 
 本法は、開発の目的で群島国家としての国土の利用、計画及び管理を規律するものであり、その区域には、天然資源の管理のための主権的権利又は国際法により規律される他の正当な権利に基づき自国法を行使しうる国土の外側の区域も含む。
 
 基本的に本法は以下の点に記される一定の規定を含む:
1)群島国家としてのインドネシア領土及びその生態的多様性(多様な生態系及び生態)
2)調整及び統合
3)持続可能な開発の態様
4)さらなる開発を調整する能力
 
 本法で用いられる諸原則の中でも、規制に関しては次のものが含まれる:
1)計画:開発プログラムの形成及び決定からなる(各プログラムの行動計画の形成を含む)
2)利用:許可の発行、空間の評価及び実際の利用
3)管理:監視及び規制を通じて
 
開発計画は次のように定式化され、分割される:
1)領土の主要機能:保全区域及び開発区域
2)行政的側面:国、州、市及び郊外区域
3)区域の機能と活動の種類:郊外、市及び特別区域
 
12. 地方政府に関する1999年法第22号
 
 スハルト政権を終了させた政治改革につづき、1998年の国民協議会(MPR)決議No.XV/MPR/1998を通じて、政府は自治を行う地方行政に関する法令を設けるよう指導された。1999年5月7日、政府は地域政府に関する1999年法第22号を施行した。
 
 第2条1項は、インドネシア領土を、州、市及びリージェンシーの三つの自律的領域に区分している。さらに第3条では、州の領域は陸域と「海岸線」から公海及び/又は群島水域に向けて測定される12海里の海域から構成されることを定めている8
 
 他方で、市及びリージェンシーの管轄権は、州に与えられた管轄権の3分の1又は4海里の海帯であるとされ、州のそれと同じ方法で測定されるものと考えられる。
 
 こうした領域の割り当ては、以下の分野において、地方政府について対応する権利を伴う9
 
1)割り当てられた領域内の海洋資源の探査、開発、保存及び管理
2)行政事項の規制
3)空間計画の規制
4)地方及び国の法令の執行
5)国家の安全保障及び主権の向上に当たって政府を支援すること
 
 同法は、海洋活動の規制に相当な変化をもたらした。将来の解決に委ねなければならない根本的問題が存在するが、それはこの法が、インドネシアの全陸域及び海域を統一するワワサン・ヌサントラ(Wawasan Nusantara: 島嶼国としての視座)というインドネシア領域の根本原則の放棄という結果になるのだろうかということである。この新法の規定上、州、市及びリージェンシーが、インドネシア水域の一部について権利を主張する可能性がある。本法により附与された管轄権の自律的な性質を考えれば、政府の異なるレベル間で及び政府の同一レベル間で、衝突が生ずる可能性がある。
 
 海洋資源の開発は、環境的に健全で、社会経済的に調和的でありかつ持続可能なものであるべきという世界中で受け入れられている政策が長い間存在している。政策決定者及び助言者は、国家レベル及び地域レベルの双方で、この事項に関する実施規制を定式化することに追われている。
 
結論
 以上、インドネシアのような群島国家にとって、海洋安全保障の維持、海洋環境及びその資源の保護及び保全のために、海洋法条約が重要で有ることを記述した。インドネシアがこの新しい海洋法から利益を得ることを可能にするため、法的及び政策的枠組みの設定及び実施が必要である。
 
1 以下、海洋法条約とする。
2 条約草案に基づく事務総長の将来の機能に関する研究及び新法制度に基づく諸国、特に途上国の情報、勧告及び援助の必要性に関する研究(A/CONF. 62/L.76, 18 August 1981, in UNCLOS III Off. Rec., Vol.XV, p.158)に基づく。
3 1958年のジュネーヴ諸条約、すなわち領海及び接続水域に関する条約、漁業及び生物資源の保存に関する条約、公海に関する条約及び大陸棚に関する条約。
4 Territoriale Zee and Maritime Kringen Ordonnantie, 1939
5 インドネシア領海に関する1960年法第4号
6 State Gazette No.73 of 1996, Additional State Gazette No.3647 of 1996
7 この条約は、依然としてインドネシア及びオーストラリア両政府により批准されていない。
8 「海岸線」という語の使用は、同法の起草者がインドネシアが1985年に批准している海洋法条約に従って海域を測定するために用いられる方法の存在を無視していることを示すものとして、多くの批判を受けている。
9 第10条2項。







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