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Session 2-3
インドネシア周辺海域が直面する諸問題
Etty R. Agoes
パジャジャラン大学教授
 
概要
 
 1982年海洋法に関する国際連合条約は、今日「海の憲法」と呼ばれている。1994年11月16日に発効した同条約は、上空、海底及びその下を含む海洋のガバナンス及び保護の枠組みを提供している。海洋法条約は、全ての海域において沿岸国と海運国との均衡を扱っている。
 
 海洋の安全保障の維持及び海洋環境と海洋資源の保護は、海洋法条約によって定められた、全ての国が全ての海域で負う義務として認識されている。海洋法条約に批准している国家として、インドネシアは、特に、海洋安全保障、海洋環境とその資源の保護に関する事項について、この条約の関連諸規定を実施する義務を負う。したがって、インドネシアは、法的及び政策的枠組みの形成及び実施過程を進めていかなければならない。
 
 海洋法条約に批准した国として、同条約がインドネシアにつき発効している効果又は帰結は、性質において立法及び規制、執行及び行政そして協力に分類された活動のリストを通じて説明しうる。海洋法条約における新しい海洋法が形成されているので、インドネシアにおけるこの新しい法の実施は展開的な方法で行われている。
 
 1982年に新しい海洋法が出来る前は、海洋活動を規律するたいていのインドネシアの法令は、海洋法に関する4つの1958年条約にほぼ基づいていた。しかしながら、1985年に海洋法条約に批准した後、インドネシアは海洋及びその資源を規律するいくらかの法令を施行及び改正し、領海、群島水域、大陸棚及び排他的経済水域における主権及び管轄権を設定した。ただし、インドネシアは依然として接続水域を設定していないので、これに関するいかなる法令も施行していない。
 
 本稿では、1982年海洋法の実施に向けたインドネシアの努力の現れとも言える幾つかの重要な法律や規制について概要を紹介する。ただし、こうした法律や規制の一部は同条約の施行前に制定されており、条約に沿って改訂する必要があるかは検討を要する。以上、インドネシアのような群島国家にとって、海洋安全保障の維持、海洋環境及びその資源の保護及び保全のために、海洋法条約が重要であることを記述した。インドネシアがこの新しい海洋法から利益を得ることを可能にするため、法的及び政策的枠組みの設定及び実施が必要である。
 
インドネシア周辺海域が直面する諸問題
Etty R. Agoes
現職 インドネシアPadjadjaran大学教授
学歴 インドネシアParahyangan大学法学部修士課程修了、米国California大学法学部修士課程修了(法学修士)
インドネシアPadjadjaran大学大学院修了(法学博士)
1974年よりインドネシアPadjadjaran大学で教鞭をとり、現在同大学海洋法、海事センター所長。専門分野は多岐に渡り、主に海洋法、経済法、環境法、漁業法、沿岸域管理、人権問題など。いくつかの大学の非常勤講師を務める一方、インドネシア政府海洋水産省などのインドネシア政府の法律顧問も務めた。多数の学術・専門組織に関与し、東南アジア政策・海洋法研究所(SEAPOL)理事会メンバーとして、また国際法協会にEEZ・海洋汚染委員会メンバーとして参加。国際法や海洋法のいろいろなトピックに関して、100を超える論文といくつかの書籍を出版している。
 
はじめに
 1982年海洋法に関する国際連合条約1は、今日「海の憲法」と呼ばれている。1994年11月16日に発効した同条約は、上空、海底及びその下を含む海洋のガバナンス及び保護の枠組みを提供している。また沿岸沖合での活動を規制するに当たっての国の利益と、不当な干渉なしに国家管轄権外の海洋空間を利用する自由を保護するに当たっての全ての国の利益との均衡を慎重にはかった、諸国間の主権、管轄権、権利及び義務を配分する枠組みを提供する。
 
 海洋法条約は、全ての海域において沿岸国と海運国との均衡を扱っている。沿岸国が沖合の海域で行使する排他的な権利及び規制は、全ての国が絶対的な主権を行使する自国領土、内水(及び群島国家の場合には群島水域)、接続する領海帯及び上空からはじまって、接続水域、排他的経済水域、大陸棚、公海そして国際海底区域へと、沿岸国からの距離が増すにつれ減少していく。他方で、海運国の権利と自由は公海で最大となり、海域が沿岸国に近づくにつれ徐々に減少してゆく。
 
 海洋の安全保障の維持及び海洋環境と海洋資源の保護は、海洋法条約によって定められた、全ての国が全ての海域で負う義務として認識されている。海洋法条約に批准している国家として、インドネシアは、特に、海洋安全保障、海洋環境とその資源の保護に関する事項について、この条約の関連諸規定を実施する義務を負う。したがって、インドネシアは、法的及び政策的枠組みの形成及び実施過程を進めていかなければならない。
 
 要求されている紙幅と報告時間の長さに鑑み、本稿では議論の焦点をインドネシアが海洋法条約を実施するに当たって直面している法的問題に絞る。さらに私は、「インドネシアをとりまく海域」を、インドネシアの主権及び管轄権の下にある海域のみを指すものとし、公海と国際海底区域は除外することとする。
 
インドネシアの主権及び管轄権の下にある海域
 海洋法条約は諸国間の主権、管轄権、権利及び義務の配分のための枠組みを提供する。群島国家であるので、インドネシアの主権と管轄権は、以下の様々な海域において行使しうる。
 
内水
 第8条1項は、内水を領海の基線の陸地側の水域として定義している。この定義は、領海及び接続水域に関する1958年のジュネーヴ条約第5条に見られる伝統的な内水の定義を進めたものである。しかしながら、海洋法条約第50条は、群島水域の閉鎖線を引く結果生ずる別の内水を認めている。
 
群島水域
 群島水域に対する群島国家の主権の承認は、海洋法条約第2条1項においてなされており、さらに第47条6項、49条及び53条4項において規制されている。しかしながら、我々は、群島水域の正確な定義を、海洋法条約のどこにも見つけることができない。なぜなら、第2条1項は「通常」の沿岸国の内水と同じ地位を有することが認められているので、群島水域は群島国家内の島嶼をつなぐ海域を含む直線の群島基線の陸地側の水域として、あるいは群島国家の直線の群島基線によって囲まれる海域として定められるからである。
 
領海
 第2条は、領海を沿岸国の基線から海側に測った海帯と定め、沿岸国の主権に服し、上空、海底及びその下にも及ぶ。群島国家の場合、領海は群島の最も外側の島嶼を囲む直線の群島基線から海側にある。第3条に基づき、沿岸国(群島国を含む)は海洋法条約に従って決定される基線から測って12海里を超えない範囲でその領海の幅を定める権利を有する。
 
接続水域、排他的経済水域(EEZ)及び大陸棚
 これらの各海域は、領海の海側の限界から始まり、領海の外側の限界を決定するために用いられる同じ基線から測定される。接続水域は基線から最大24海里に及び、EEZの最大距離は同じ基線から200海里である。大陸棚は基線から200海里の距離に及びうるが、もし大陸縁辺部がその限界を超えて延びている場合には、海洋法条約により定められる大陸縁辺部の外縁まで及ぶ。大陸棚制度は海底及びその下に適用があり、その上部水域又は上空の地位には影響を及ぼさない。
 
実施に関する諸問題
 海洋法条約に批准した国として、同条約がインドネシアにつき発効している効果又は帰結は、性質において立法及び規制、執行及び行政そして協力に分類された活動のリストを通じて説明しうる2
 
1. 立法及び規制 たとえば以下のものを通じて:
a. 領海、群島水域、接続水域、大陸棚及び排他的経済水域の様々な海域における主権又は管轄権の設定
b. 領海、接続水域、国際航行に使用されている海峡、群島水域、排他的経済水域及び大陸棚における活動の規制による綿密化
c. 船舶及び航空機、通航権、通過の権利、天然資源に対する主権的権利、海洋環境の保護及び保全及び海洋の科学的調査の実施に関する諸規則
d. 海底電線及び海底パイプライン、航行、航空及び通信、通関上、財政上、出入国管理上及び衛生上に関する諸規則
2. 執行及び行政 なかでも以下の取決めを通じて:
a. 限界線の設定
b. 航路帯、航空路、分離通航帯、安全水域、航路指定制度
c. 海事上の管理
d. 通関上、財政上、出入国管理上及び衛生上の諸規則
e. 航行及び通過の権利
f. 漁業管理
g. 環境管理
h. 海洋の科学的調査
i. 海洋技術の発展及び移転
j. 監視、規制及び執行上の管理的な側面
3. 協力:
他の国又は国際機関との間で、特に以下の協力的性質の諸活動:
a. 航行の安全及び海上と上空の交通規制
b. 生物資源の保護、管理及び利用
c. 海洋環境の保護及び保全
d. 海洋の科学的調査
e. 海洋技術の発展及び移転
 上に列挙した活動及び取決めに加えて、海洋法条約の発効の効果はまた、水路測量及び航行上の安全の目的での若干の科学的及び技術側面及び主権及び管轄権の設定を含む。
 海洋法条約の膨大さ及び複雑さを考えると、政策決定者及びその助言者は、この新しい海洋法を十分に理解するために、海洋法条約の詳細な分析を行っておく必要がある。同じく重要なことは、政策決定者及びその助言者は海洋法条約を、その歴史的な視点のなかから理解することであり、新しい規則と慣習法上の規則及び先行する諸条約、特に1958年ジュネーヴ諸条約の規則との関係を評価することが出来るようにすることである。
 
 海洋法条約における新しい海洋法が形成されているので、インドネシアにおけるこの新しい法の実施は展開的な方法で行われている。1982年に新しい海洋法が出来る前は、海洋活動を規律するたいていのインドネシアの法令は、海洋法に関する4つの1958年条約にほぼ基づいていた。
 
立法面及び規制面での実施
 海洋法条約から生じた主要な概念は、沿岸国の主権及び管轄権、海洋及びその資源に対する権利及び義務に多大な影響を及ぼした。それはインドネシアのような群島国家にもまた同様の影響を及ぼした。海洋法条約の締結以前、インドネシアの主権は、四つのジュネーヴ条約に依拠していた3
 
 しかしながら、インドネシアが1985年に海洋法条約に批准した後、インドネシアは海洋及びその資源を規律するいくらかの法令を施行し及び改正した。上記の四つの分野での立法行為のなかで、インドネシアは領海、群島水域、大陸棚及び排他的経済水域における主権及び管轄権を設定した。インドネシアは依然として接続水域を設定していないので、当該水域における管轄権の実施に関係しては、いかなる法令も施行していない。
 
1. インドネシアの1982年海洋法条約批准に関する1985年法第17号
 
 海洋法条約の実効性は、それが法的効果を持つようになるかどうかに大きく左右され、そしてそれは正式に批准することによって最も実現されるということをインドネシアは認識している。インドネシアが1985年12月31日に、1982年海洋法条約批准に関する法第17号を施行することを決定したのはそうした考慮による。当時、海洋法条約は依然として発効していなかったが、インドネシアは実施に関する重い責任のみならず、国益のために利用可能な法をどのようにして利用するかを決定する責任を負っていた。
 
2. インドネシアの領海に関する1996年法第6号
 
 インドネシアが1945年に独立を獲得した際、領海は依然として1939年オランダ法(Ordinance)に基づいていた4。同法の下で、インドネシア領海は、各群島の周りに3海里の幅で設けられていた。一般的には欧州諸国の慣習国際法に従ったものであるこの法律により、インドネシア水域は実質的に寸断され、そのうちのいくらかは公海制度によって規律された。
 
 しかしながら1957年、インドネシアは12月に公布されたジュアンダ(Djuanda)宣言を通じて、領海に関する新たな政策を宣言した。この新しい政策により、古い1939年法のいくらかの規定は廃止され、領海の幅員は、群島を囲む最も外側の島嶼の外側の点をつなぐ線である基線から測定して12海里まで拡大された。この宣言は、インドネシアが群島国家としての地位を確立するための大きな法的一歩を示した。
 
 1958年及び1960年に開催されたジュネーヴ会議では、インドネシアの新しい領海概念は承認を得られなかったので、1960年法第4号を設けることで1957年宣言の中で概要を示された政策を継続することを決定した5。同法の下で、インドネシアの領海の幅員は3海里から12海里に拡大された。その幅員は、最も外側の島嶼の低潮線上の外側の点をつなぐ約96本の直線基線から測定される。
 
 インドネシアは、海洋法条約によって群島国家として承認を得たので、インドネシアの領海に関する1996年法第4号を施行した6。同法は、海洋法条約に具体化された諸原則を用いて1960年法第4号を改正している。基本的に、この新法は12海里の領海の幅員のようないくつかの古い諸原則を支持している。
 
 点から点をつなぐ直線基線という古い規定は、直線群島基線に関する新規定に従って調整された。同法に添付されている地図には、可能性のある新しい基線、領海、排他的経済水域の外側の限界及びインドネシアの近隣諸国との間で未解決又は交渉中の特別な線が示されている。
 
 通過通航権及び群島航路帯通航権、そして出入りの権利及び交通権のようないくつかの新しい概念もまた含められた。無害通航権に関する諸規定は、海洋法条約に具体化される新しい概念と調整された。
 
3. ナチュナ海におけるインドネシア直線群島基線の基点の地理的座標のリストに関する1998年政府規則は後に、インドネシア直線群島基線の基点の地理的座標のリストに関する2002年の政府規則第38号により廃止され取って代わられる
 
 海洋法条約第47条2項は、群島国家は、基線の総数の3パーセントまでのものについて、最大の長さを125海里までにすることかできることを例外として、100海里を超えない長さの基線を引くことが出来ると定めている。
 
 1989年から1995年の期間に、インドネシアはすべての既存の基点の測量を行う努力を開始した。この測量の過程で新しい基点が置かれ、新しい基線が設定された。結果として、可能性のある233の基点が置かれ、その中から231本の基線を引くことが出来た。第47条第2項を有効活用するため、これらの基線は187本の基線が引ける189の基点まで減じられ、そのうちの5本の基線は125海里の長さまで引くことが出来た。
 
 政府が1998年6月16日にナチュナ海におけるインドネシアの直線基線の基点の座標のリストに関する1998年政府規則第61号を施行することを最終的に決定したのは、この測量に基づくものである。この政府規則はナチュナ海におけるインドネシアの群島基線の地理的座標のリストを定めるものである。ボルネオ沿岸北西に位置するナチュナ海は、ビンタン島、アナバス島、北ナチュナ島及び南ナチュナ島の周辺海域を含む。
 
 ナチュナ海の群島水域は、1996年法第6号に添付された地図において初めて示された。国際海事機構での採択が提案されたインドネシア群島航路帯の一つが、ナチュナ海の水域を貫通するので、インドネシアの群島水域の当該部分について、新しい座標を示す必要があると感じられた。インドネシアにより提案された群島航路帯は、1998年5月にIMOで承認された。







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