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4. 技能継承・研修の新しい仕組み
 
(1)地域研修センター
 地域の中核造船所の養成所をオープン化することにより、短期集合研修による新人養成を主な目的とした地域研修センターを整備することが適当と考えられる。
 運営は地元の中核造船所、中小造船所、協力事業者等および自治体等が任意の協議会を設置し、中核造船所の協力のもとでカリキュラム作成、指導員であるOBの確保、研修の実施を行う。
 カリキュラムは座学と実習の組み合わせで、最低限必要な技能・資格の取得に絞り、研修実施期間は3ヶ月程度とする。また、専門技能継承・研修のうち、溶接分野については施設・設備をそのまま利用できることから、地域研修センターで対応する。
 この方式の適用により、自社養成や公共職業訓練等と比べて研修内容や助成面で大きなメリットが得られることが見込まれる。
 
(2)技能開発センター
 集合教育による専門技能継承を主な目的とし、中堅技能教育やOJTサポート、E-learningなどの機能を併せ持つ技能開発センターを新たに整備することが望ましいと考えられる。地域研修センターと同様、指導員は造船所OBが担当する。また、集合研修だけでなく、OJTサポートのため全国の造船所への出張指導や、E-learningのシステム整備・運用も合わせて行う。
 
事業スキーム
 
 以下に、本調査で想定した技能開発センターの概要を示す。
 
○技能継承部門(専門技能研修)
 技能開発センターの技能継承部門の専門技能講座は、ぎょう鉄等の職種における基礎・共通レベル(その職種における新人レベル)の技能の修得を目的とし、中上級レベルの研修は後述するOJTサポートにより対応することを想定している。
 
○OJTサポート部門
 各分野の中上級レベルの研修あるいは搭載、組立といった特殊な分野に関しては集合教育に馴染まないため、指導員(OB名人)の派遣、教材の提供等により各社の現場でのOJTを支援し、スキルアップを図っていくこととしている。
 
○E-learning部門
 中堅研修における班長レベルあるいは若手技術者の知識習得や専門技能分野の中でも設計業務などは知識の習得が研修の中心であるため、短期集合教育よりも通信教育の方が費用対効果の面で優れていると思われる。このため、従来の通信教育に比較して、研修の双方向性、受講の自由度が高く、研修効果がより高まると考えられるE-learningシステムの導入を想定している。
 
○管理部門
 指導員(OB名人)情報等をあらかじめ登録し、OJTを実施する造船各社の依頼等に応じて職種、技能レベル、期間に配慮した適切な指導員の派遣・紹介のため人材バンクデータシステムの運営・管理を行う。
 また、専門技能研修の教材開発等を行う。
 これらの管理部門は、既存団体を活用することにより、極力管理コストの低減を図る。
 
研修のイメージ
 
技能向上のプロセス
 
5. 造船技能開発センター構想における技能者研修の効果
 
(1)造船業全体での技能水準維持の効果
 新人、中堅を対象とした研修システムを整えることは、今後退職するベテランの技能水準を若い世代に円滑に継承させようとするものであり、現在の技能水準を維持するための現実的かつ効果的な手段である。円滑な技能継承により確実に現在の技能水準を維持することこそが、我が国造船業が生き残る道である。
 
(2)共同研修で得られる造船業としての効果
 
効果の範囲    効果の内容
造船所への効果
社会人教育 ・短期間で効果的な社会人教育、職業人教育ができ、継続的な人材育成の基礎をつくることができる。
・造船技能者としての意識づくりができ、定着率が高まる。
技能修得 ・新人研修では、造船技能者としての共通的な基礎的技能を確実に習得できる。
・専門研修では、造船所内でのOJTでは長時間を要する技能修得を短期間に達成できる。個々の造船所内に適切な指導者がいない分野も人材養成できる。
経済的メリット ・職業訓練校として認定を受けることで運営費補助、教育訓練給付などを得ることが可能となり、研修コストを大幅に削減することができる。注1)
・技能水準の早期向上で、生産性向上効果と育成費用削減効果(生産コスト削減)が得られる。
地域産業への効果 ・共通の研修訓練を行うことで地域内の技能水準の均質化や、相乗効果による技能向上が図れる。
・地域研修センターを拠点にして優秀な人材を地域内に蓄積することができ、造船業集積地としての業務効率の向上が図れる。
造船業全体への効果 ・共同研修とすることで公的補助などが得られ、教育訓練コストを削減できる。
・技能の標準化や作業基準の普及が促進され、業界全体での作業効率が高まる。
 
(3)共同研修による費用面での効果
(1)研修コストの節約効果
・地域中核造船の場合
 社内養成校をオープン化し認定職業訓練校とすることができれば、認定訓練助成事業費補助金等の運営費助成を受けることによる研修運営費の削減が可能となる。注2)
 また、講師・指導員をOBの嘱託とすることで人件費を圧縮することでも大幅な運営費削減効果を生んでいる。
 加えて、自社で実施する研修ではなく、認定職業訓練校での受講となることから、訓練給付金(研修期間中の賃金補助および受講料補助)等が得られ、研修費の実質的な負担の軽減が可能となる。
 
 
・中小造船所・協力事業者等の場合
 訓練給付金に関して大企業よりも高い給付割合が設定されており、結果として1人当たり研修費用は大企業従業者よりも更に低い水準となる。
 社内OJTによる新人教育の推計コストに比べ、大幅に研修コストを削減できる可能性が高い。
 
(2)生産面での効果
・地域中核造船の場合
 社内養成校では研修の講師・指導者を担当していた社員を生産現場に戻すことができ、生産量の増加に寄与できる。
・中小造船所・協力事業者等の場合
 短期集中した教育訓練により技量の向上が社内OJTより早くなり一般社員と同一技量レベルに達するまでの期間が短くなる。その短縮した期間における新人の生産性向上が期待できる。

注1、2)運営費助成を受けるためには、職業訓練校としての認定のほか、中小企業事業主の割合が2/3以上である団体であること、訓練生の2/3以上が当該団体の構成員である中小企業事業主に雇用されている者であることが必要となる。







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