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1. 造船技能開発センター構想の背景と方針
 
【現状】
 我が国の造船業が多年に亘り国際競争力を維持してきた要因の1つに、技能レベルの高い優秀な現場技能者の存在があります。しかし、造船不況期の影響で、業界全体の技能者の年齢構成は大きな偏りが生じております。その結果、現場での技能レベル向上の中核を形成していた技能者の高齢化が進行しており、多くの人材が現場を去る時期を迎えつつあります。
 一方、生産性向上を追求した結果、一人作業化、下請け比率の上昇やOJT要員の不足が進み、現場での技能継承がスムーズに行われにくくなってきており、このままでは、国際競争力を支えてきた柱の1つである、現場での技能レベルの高さが失われるおそれがあります。
 
【新しい技能継承−研修システムのねらい】
 この状況を打開するために、技能継承を業界共通の問題として捉え、製造現場レベルの技能の継承を円滑に進めるとともに、新技術への対応能力向上を短期的に図ることをねらいとした地域研修センター及び技能開発センター設置等の新しい技能継承・研修システムの創設を構想しました。既に地域対象の事業として、先行して実施されている民間ベースの技能継承事業をベースに、地域の造船産業基盤整備事業として、速やかに立ち上げることをねらっております。
 
【新しい技能継承・研修システムの実現へ向けて】
 新しい技能継承・研修システムを実現するために、造船事業者、協力事業者等の皆様や自治体の皆様にも構想のねらいと基本的な考え方をご理解いただき、それぞれのお立場でのご協力をお願いする次第です。
 中国を中核とする東アジアでの経済成長に伴い世界の海運も新たな構造への再編が始まっています。同時に、造船業界も新たな局面を迎えようとしています。我が国の造船業が、今後とも、我が国の産業成長を支える産業部門としての役割を果たしていくためには、優秀な技能者を確保しておくことが必須の条件であることをご理解いただき、関係事業者、関係諸機関のご協力をお願いするものです。
 
2. 造船業における技能継承の課題
 
 造船業における技能継承の課題は以下のように整理される。
(1)2万人の大量採用新人に対する教育
 現在我が国造船業の従業員の最も多くを占める団塊の世代は、間もなく退職を迎えるが、実はこの世代が、我が国造船業の高い生産性と高品質を支えており、大量退職に伴う新人の早期戦力化と技能のスムーズな継承が差し迫った大きな課題と言える。
 アンケート結果から推計すると、退職が従業員の4.5%/年で進んでいくのに対して、最近の新人の採用状況は、大量建造を反映してコンスタントに進められているが、従業員の3%/年程度であり、退職者数の2/3に抑えられている。我が国の造船業の総従業員数は約7万人であり、アンケート結果より推計した退職・採用比率を乗じると、今後10年間に退職約3万人、採用約2万人が見込まれ、この数字からも新人の早期戦力化の必要性が高いことがわかる。
 
(2)専門技能の継承
 今後10年間に大量退職する現場技能員は、我が国造船業を支える中核的存在であり、その技能水準の高さが高い生産性を支えてきた。従って、この技能の継承がスムーズに行われるか否かが、我が国造船業、個々の造船所の将来を大きく左右するものと考えられる。
 アンケートにおいても全体の半分近い企業が専門技能員の将来的な不足(既に不足を含む)を懸念しており、また国交省海事局の別の調査では、技術継承について6割が「問題がある」と答えているなど、大きな課題である。
 
(3)人数的に手薄な中堅世代の人材確保とスキルアップ
 前述の年齢構成からも分かるとおり、これから企業の中核となるべき30歳代が、ワイングラスのピラーの部分に相当し、人数的に手薄であり、特に日本造船工業会メンバーでは9%と極めて手薄になっている。
 これらの中堅世代については、アンケートでも人材の不足・技能水準の不足を感じている企業が半数近くあるなど、この層の人材不足の解消、スキルアップが重要な課題となっている。
 
造船技能者の年齢構成
 
中小造船所における技能教育の現状
 
造船科を有する工業高校数及び生徒数の推移
(注)「学校基本調査報告書(文部科学省)」より作成
 
下請け比率の動向
主要造船所の社外工比率の推移
 
3. 技能継承・研修システムのあり方
 
 造船業における技能継承の課題は、「大量新人の早期戦力化」、「キー技能の確実な継承」、「手薄な中竪世代の補強」であり、それぞれの課題に応じた研修システムを検討する必要がある。
 
 
(1)新人等教育(大量新人の早期戦力化)
 新人教育については、大企業ではすでに自前でカリキュラムを整備し、運用していること、企業の枠を越えた共通のプログラムが組みやすいこと、また集合研修の効果が明らかなことから、既存の地域の中核造船所の養成所をオープン化することにより対応することが適当と考えられる。転職者についても基本的には新人教育を短縮した形で対応する。
注)オープン化:因島技術センターと同じように、養成所を独立させ、職業訓練校の認定を受けて、同一地域の中小造船所・協力事業者等と一緒に新人研修を行う方式
 
(2)専門技能継承(キー技能の確実な継承)
 専門技能継承については、新人教育と異なり各社の生産形態との結び付きが強いため、基礎・共通レベルで集合研修の効果が上がる職種(ぎょう鉄、配管艤装等)についてのみ業界共通の研修システムを構築する。一方、各社で異なる中上級へのスキルアップや集合研修に向かない職種(搭載、組立等)については、個々の会社のOJTへのサポートを行い、集合研修と併せて、全体として専門技能の確実かつ効率的な継承をサポートしていく体制を作り上げることが適当と考えられる。
注)OJTサポート:その分野における優秀なOBを、指導員として依頼があった企業への派遣や教材の提供等を行い現場でのOJTを支援するシステム
 
(3)中堅研修(手薄な中堅世代の補強)
 中堅技能教育については、個々の従業員のレベルアップを図るために、一般的な管理職としての知識習得と、造船分野の現場の班長あるいは技術者としての技能の向上・知識取得を目指す2つの研修を実施することが適当と考えられる。前者については鉄鋼学園(提携を想定)等の既存講座の活用を図り、後者については、業界団体が実施している既存の通信講座のE-learning化等により知識習得の機会の拡大を図るなど充実強化を行うとともに、現場のスキルについては、業界団体が実施する講習や個々の会社の状況に合わせた形でのOJTサポートを行い、レベルアップを目指すことが適当と考えられる。







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