日本財団 図書館


3. 技能継承・研修システムの運営
 
 技能継承・研修事業は造船業界全体にとっての共益事業であり、本事業の運営に当たっての方向性としては、
○企業の自主性を尊重した運営
○地域の造船産業基盤の整備に資する事業
○技能継承・研修に効率的、かつ、効果的な事業内容
が求められており、そのため事業を進める際には、以下の点に考慮を払いながら運営体制等を検討していく必要がある。
 
(1)企業等の創意を生かせるような運営及び支援制度の確立
 技能研修は、中央から統制する性格のものではなく、あくまでも各社の現場の事情、ニーズを踏まえた物でなければ、利用価値のないものになることから企業等の事業への参加機会を最大限に確保するとともに、企業等の創意が生かせるような柔軟な運営方法、体制の構築を目指していかなければいけない。
 
(2)地方自治体等が参加した地域ぐるみの事業実施体制作り
(1)造船大手においても下請け比率が60%を越える状態にあるとともに、ブロックの外注も増加していることから、造船業を支える地域の産業基盤の一つとして人材養成事業を捉え、地域全体として取り組む体制作りが不可欠である。
 支援面からも地方自治体(厚生労働省のスキーム)の参加が前提となっている事から、地方自治体が参加しやすい環境(情報の提供、運営形態等)作りを行う必要がある。
(2)また、人材養成には、時間を要することから事業が自立的に持続して行くために、地域研修センターを核とした地域ぐるみの自主的な活動体制の確立、バックアップ体制づくりを進めていく必要がある。
 
(3)効率的かつ効果的な事業とするために、造船業界からの全面的な支援体制の確立
 人材養成事業の効率を高め、効果的なものとするためには、既存団体の枠、個々の企業の枠を越えた、新しい共同参加、協力体制、サポートシステムを創る必要がある。そのためには、(社)日本造船工業会、(社)日本中小型造船工業会、(社)日本造船協力事業者団体連合会等の団体及び会員企業の全面的な協力が欠かせないことから事業への理解を充分に求めていかなければならない。
 
 具体的には、以下に示すような運営の枠組みが想定できる。
 実際に研修や人材育成の事業を行う組織として「地域研修センター」と「造船技能開発センター」を設ける。機能としては、地域研修センターが新人教育等を実施する。造船技能開発センターの現業部門がぎょう鉄、パイプ艤装などの専門技能に関しての研修や教材開発を行う(分野によっては外部委託を行う)。また、指導員派遣等によるOJTサポート、E-learningの機能も合わせて担う。造船技能開発センターの中央管理部門は、派遣のための人材バンク事業や全体の管理業務を行うものとする。なお、現業部門が立ち上がるまでの教材開発も行う。造船技能開発センターの現業部門は、詳細検討後に段階的に立ち上げていくこととするが、経費等の効率化を図るため地域研修センターに運営委託することを想定する。
 これら事業の全体調整を行う機関として「人材養成事業運営協議会」の設置を想定する。運営協議会は(社)日本造船工業会、(社)日本中小型造船工業会、(社)日本造船協力事業者団体連合会のメンバーで構成されるものとする。ただし、実際の運営にあたっては、地域研修センター、造船技能開発センターの現業部門を利用若しくは利用を予定している企業の意向が十分に反映されるようなシステムとすることが望ましいと考えられる。
 また、地域研修センターの運営に関しては、地域センターごとに周辺地域の地方自治体、中核造船所、中小造船所などで構成する「地域研修センター運営協議会」を設置し、地域の状況に応じた自主的な運営が行えるようなシステムを想定している。
 これら枠組みの全体像は、下記の図に示すとおりである。
 
造船技能開発センター等の運営について(案)
 
 下請け比率が高く、中小造船の多い、重層構造を有する我が国の造船業にとって技能継承・研修システムは、単に個々の企業の問題ではなく、人的な技術基盤整備の側面を有している。
 本報告書で提起している技能継承・研修システムは、過去、我が国造船業が、将来の技術基盤整備に資し、かつ、事業者が広く裨益し、公益性が高い技術開発として公的な支援を受けて実施したCIM、造舶WEB等の開発と同列であると言える。特に、大量退職時代を迎える中で、将来の造船業の方向性を左右する技能継承・研修システムの構築に、中小造船、協力事業者は対応を苦慮しており、業界共通の基盤的なシステム開発に対する公的な支援が強く求められており、一定の支援を行う必要性が高いといえる。
 支援に当たっては、競争環境を歪めることがなく、かつ、個々の企業の自主性を生かしながら、効率化に、かつレベルの高い技能継承等を図られるようなシステムとなるような支援の形態としなければならない。
 この様な支援システムの一例として、下記の図を示す。
 この中で、新規の主な支援制度として想定している内容は、造船業における3つの課題(「大量新人の早期戦力化」、「キー技能の確実な継承」、「手薄な中堅世代の補強」)に対応して、
(1)新人等教育向け(「大量新人の早期戦力化」)
 地域の中核造船所の養成所のオープン化を円滑に進めていくために、研修用機材の整備への支援、一部不足する教本等の教材開発への助成を想定している。
(2)専門技能継承・研修向け(「キー技能の確実な継承」)
 技能開発センターで行う専門技能継承・研修については、従来はなかった講座であることから、カリキュラム、教本、研修用機材等の開発への支援、開発した講座を運営する研修用機材の整備を想定している。
 更に、中上級向け、集中研修では対応が難しい職種については、企業内OJTへのサポートが欠かせない事から企業への指導員の派遣、教材提供への支援を考慮する。
(3)中堅研修向け(「手薄な中堅世代の補強」)
 中堅技能員向けには、個々の知識習得を助けるために、従来の通信教育講座の改編、拡充への支援を想定している。
 これらの関係を次ページの図に示す。
 
事業スキーム







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION