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4・6・7 STC回路
 海上が非常に荒れているようなとき、CRTの中心付近が明るすぎて、自船の近くにある物標が見えなくなってしまう。これは近くの波からの反射波のために起こる現象で、海面反射といわれている。これを防ぐためCRTの中心付近の感度を下げて海面反射を抑制するための海面反射抑制回路(STC: Sensitivity Time Control)回路がある。
 
図4・40 STCの電圧波形
 
 STCの動作は図4・40に示すような電圧波形を作り、距離が遠くなるに従って段々小さくなる負のバイアス電圧を、中間周波増幅回路へ加えて増幅度を落とすようにしたものである。STC調整のボリュームによってSTCの電圧波形の負電圧の振幅や時間的な長さを変えて見やすいように調整する。
 
 CRTの陽極電圧は約10kV程度を必要とするため、専用の高圧回路を設けている。高圧回路は図4・41に示すように、制御回路、発振回路、整流回路からなり、制御回路は発振回路の電源電圧を変えて、出力電圧を8〜10kVまで加減する。発振回路は約20kHzで発振し、これを昇圧、整流して10kVの高圧を作る。
 
図4・41 CRT用の高圧回路の構成
 
 従来のCRTの構造の概念を図4・42に示す。この方式は集束コイルで細く絞られた電子ビームを、偏向コイルに流した鋸歯状波電流で中心から円周部に電子ビームを移動させるものである。この偏向コイル全体をアンテナの回転に同期して回転させることで平面表示方式(PPI)としている。偏向コイルに流す鋸歯状波電流の調整が悪いと、中心部が抜けた映像になったり、ゆがんだ映像となるので注意が必要である。偏向コイルに流す鋸歯状波は送信の瞬間にスタートさせ、その傾斜を変えることで表示する距離レンジを変えている。電子ビームの強度は受信信号の強度に対応させることで、アンテナの方位と受信されるまでの時間のCRTの画面上に輝点として表示される。このようにして、CRT面には、輝点が次々のアンテナの方位と距離に対応して表示され、これがCRTに残光性をもたせることで空中線が一回転しても残光により、全周の受信信号が写し出されて、空中線の位置を中心とした360度の方向の状況がCRT面上で観測できることになる。
 
図4・42 従来のCRTの構造(偏向コイル回転式)
 
 最近のレーダーの表示用CRTとしては、一般のテレビやモニタのようなラスタスキャン方式のものが使用されている。図4・43に示すように偏向コイルが水平用と垂直用の2種類を固定して取り付けておく方式もある。偏向コイルを回転させる必要がないので、回転時の雑音がなく静かな利点がある。このような方式としては、スイープレゾルバ方式、一般のテレビやモニタのようなラスタスキャン方式がある。
 スイープレゾルバ方式とは、偏向に必要な鋸歯状波電流をアンテナの回転部に送り、回転に応じた水平用と垂直用の成分に変調させた電流を水平用と垂直用の2種類のコイルに接続する方式である。
 ラスタスキャン方式では、電子ビームを水平方向に走査を行った後に、わずかに垂直方向の位置をずらしながら画面全体を表示する方式である。
 なお、CRTに関する詳しいことは、第3章に述べてあるので、参照されたい。(3・7節・・・CRT、レーダーブラウン管、カラーブラウン管、3・8節・・・LCD等固体表示器)
 
図4・43 CRTの構造(偏向コイル固定式)







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