3・8 固体表示器
最近の民生用電子機器及びゲーム用機器の発達に従ってディスプレー(表示器)の面では著しい技術革新がもたらされてきた。
特に、真空のガラス管を使うCRT方式から金属、半導体等の固形材料に電気を印加して種々の映像を表現する方式が開発され、実用化が図られてきた。
(1)概要
Liquid Crystal Device又は、Liquid Crystal Displayの略称で、液晶素子及び液晶ディスプレイ(表示装置)のことである。液晶素子とは液晶の分子配列を電界等で、初期状態と異なる別の配列に変化させ、配列変化によって生じる液晶の光学的性質の変化を利用して、入射光を散乱させたり、干渉させたりして変調する素子であり、この素子による表示装置を液晶ディスプレイという。大型表示やカラー表示も可能である。近年、パソコン、ワープロに頻繁に利用され、安価な製品が出回り始めてきたため、レーダー、魚群探知機並びに無線装置等の表示装置としても使われている。
液晶は分子の配列の具合によってネマティック液晶とスメクティック液晶及びコレステリック液晶の3つに大別でき、主にネマティック液晶が使用されている。2枚のガラス板の間のネマティック液晶が90度ねじれる(Twist)ようにした構造の液晶をツイスト・ネマティック液晶、略してTN液晶と呼んでいる。
液晶の駆動方式には単純マトリックス方式とアクティブマトリックス方式がある。TN液晶を単純マトリックス駆動回路と組み合わせた場合、コントラストが低い等の弱点がある。そこで液晶のねじれ角度を180度から270度と大きくし、表示特性を改善したSTN(Super Twist Nematic)液晶が考察された。更に画素数の多い画面に対応するためSTN液晶ディスプレイの画面を上下2つの領域に分けて別々に駆動するDSTN(Dualscan STN)液晶も実用化されている。STN液晶は構造が単純で低コストである点が優れているが、コントラストが低く応答時間が長い、また表示状態が隣の画素に干渉する(クロストーク)問題や表示むらが発生しやすい弱点がある。
もう一つの駆動方式アクティブマトリックス方式は、液晶の一つ一つに専用のスイッチを設けて直接駆動しようというもので代表的なものがTFT液晶である。TFT液晶は一つの画素に一つのトランジスターが配された液晶層自体がコンデンサーの働きを与えられ、与えられた電圧を保持する。一瞬しか電圧を与えられない単純マトリックス方式に比べて、液晶の反応が高速なので、むらのない美しい表示が可能である。TFT液晶はスイッチの導入による電圧保持効果のため、ねじれ角が小さいTN液晶と組み合わせても十分な表示特性が得られる。TFT液晶では画素の数だけトランジスターが必要で、640×480ピクセルの液晶ディスプレイの場合、総数は約30万個(カラーの場合は90万個)に及ぶ。TFT液晶の製造には非常に高い技術と製造設備が必要となる。
ちなみに液晶ディスプレイは液晶自体が発光するのではない。電卓等で使われる太陽や部屋の照明の光を当てることで表示を見る反射型と、ノートパソコン等で使用されるELパネルや蛍光管による照明装置を備えた透過型がある。
(2)構造
液晶は固体のような結晶構造をもつ有機材で図3・16に示すようにネマチック、スメクチック、コレステリックの3種類の相の配列をもっている。
ネマチック液晶は、棒状分子がある方向に、ほぼ平行に配列しており、個々の分子は長軸方向に比較的自由に移動できる構造である。
スメクチック液晶は平行配列とともに長軸方向にも規則性をもち、層状構造をなしている。
コレステリック液晶も層状構造をもち、各層内で分子が層面に平行に配列し、その配列方位が層間で多少ずれ、全体としてヘリカルな構造となっている。
このように細長い棒状分子の集合から作られており電気的、光学的に異方性が強く、施光性、複屈折性、二色性などを有するため、ディスプレイに利用されている。
図3・16
(3)動作
現在数多く使用されているネマチック液晶のTN(Twisted Nematic)でディスプレイパネルの1例を以下に述べる。
図3・17に構造モデルを示す。透明基板の内面に透明電極を設けて、その上層を配向膜で被覆する。この膜によって、接する液晶分子が一方向に配列される。
配列方向が互いに直交するように2枚の基板を対向させ、間に液晶を充てんすると、液晶分子配列は両基板間で90°ねじられる。入射光が基板外面に設けられた偏光板で直線偏光され、液晶分子配列に沿って、偏光面が90°回転し、他方の基板に達する。透過側の基板に設けられた偏光板とは偏光面が直交するので、無電界時、光は透過しない。
両電極間に電界を加えると液晶分子の大部分が電界方向に沿って配列されるので、入射光の偏光面が回転せず透過するので、光シャッターの役割をする。偏光板を直交配列にすると、上のものとは明暗が逆の表示となる。図3・17のものは、透過形であるが、反射光を利用する反射形は、時計や電卓の文字表示に多く用いられている。
液晶材料は動作温度範囲を広くするため、同形の液晶の2、3種類が混合され用いられている。例えばシック塩基系、安息香酸エステル系、ビフェニル系などがある。
液晶層の厚さは10μW/cm2程度で、印加電圧は2〜5V、消費電力は数十μW/cm2と非常に少ない。基板は1mm程度の厚さのガラス板や100μm程度の厚さのプラスチックフィルムが用いられる。偏光板はよう素や二色性染料で染めたポリビニアルコール(PVA)膜を保護フィルムで挟んだもの等を用いる。
図3・17
光透過率40〜50%、偏光度90%程度である。透明電極は酸化インジウムや酸化すずの薄膜で形成され、配向膜は、例えばブラジル酸クローム錯体やPVAなどを電極上層に塗布して、一方向に綿布などで軽くこすって、その配向をそろえる。
文字や記号の形に電極を形成した文字表示パネルのほかに図3・18に示すように行電極(X電極)と列電極(Y電極)の交点でドットを構成し、任意の文字・図形・画像を表示するドットマトリクス方式のものが、多くなってきている。
図3・18
例えば、英数字を横5ドット、縦7ドットとすれば合計35ドットの組合せで表示することになる。各ドットごとに印加電圧をオン・オフすると配線の数が膨大となるため、行及び列ごとに所定の波形の電圧を加え、時分割的にそれぞれのドットを駆動するようにしている。液晶では、或るしきい値以上の電圧であれば完全にオン状態になり、ほかの、しきい値以下では完全にオフになる。両電圧の差が少ないほど、時分割駆動の駆動範囲を小さくでき、電極数並びに表示量を多くすることができる。表示したい画素にはできるだけ高い電圧を、非表示画素にはより低い電圧を加えるようにすると、コントラストのよい表示が得られる。効率よく行うためには、それぞれの画素に等しい実行電圧を加えればよく、電圧平均化法が用いられている。
また、最近では、表示容量を更に大きくするために、各画素にダイオードやトランジスタなどの能動素子を付加して記憶機能をもたせたアクティブマトリスク方式のものもある。このように、ディスプレイ装置の種類は多くあり、装置の用途や適用分野等により使い分けられている。表3・1に代表的な表示デバイスの機能比較を示す。
表3・1 代表的なディスプレイデバイスの機能比較
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CRT |
LCD |
PDP |
VFD |
ELD |
表示品質 |
輝度(Nit) |
普通
(50〜100) |
外部光による |
普通
(60〜120) |
大
(100〜300) |
普通
(80〜100) |
色 |
自由 |
可能 |
赤色が主流
(緑色も可) |
青緑色が主流
(蛍光体による) |
黄橙 |
コントラスト |
十分 |
やや劣る |
十分 |
十分 |
十分 |
視野角
(度) |
十分
(120°) |
やや劣る
(〜50°) |
十分
(120°) |
十分
(120°) |
十分
(120°) |
実質的な画面あたりの
文字表示量(字) |
大
(128〜8,000) |
中
(40〜2,000) |
中
(60〜4,000) |
中
(10〜2,000) |
中
(10〜2,000) |
小形(薄形)の可能性 |
小 |
大 |
中 |
中 |
中 |
消費電力(比) |
中(1) |
小(1/5) |
中(2) |
中(2) |
中(2) |
平均寿命
(×103時間) |
20〜30 |
20 |
30〜100 |
50 |
40 |
価格比/表示文字 |
1 |
5〜10 |
10〜20 |
〜20 |
〜20 |
適用分野 |
ディスプレイ 装置全般 |
ポータブル ディスプレイ装置 |
小〜中形 ディスプレイ装置 |
小〜中形 ディスプレイ装置 |
小〜中形 ディスプレイ装置 |
|
(注) |
CRT (Cathode Ray Tube), LCD (Liquid Crystal Display), PDP (Plasma Display Panel), VFD(Vacuum Fluorescent Display: 蛍光表示管), ELD (Electro-Luminescent Display) |
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