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1・3 摩擦電気・電気力線・電界
 1660年ドイツのゲーリケが硫黄の球の回転体に乾いた手をあてて電気を発生させ, また, 1733年フランスのデュフェイが猫の毛皮で摩擦した封ろうと, 絹布で摩擦したガラス棒とは両方とも帯電するが, これは異種の電気であることを主張した。1747年アメリカのフランクリンがこのガラス電気を正電気(陽電気), 封ろう電気を負電気(陰電気)と名付け, これらの2種は互いに反対の電気であって, 二つを合わせれば, 中和される現象を説明した。
 このような2種の電気を説明するためには, 磁力線と同様に電気力線を想定したほうが理解し易い。封ろうの電気を負の電気(−)ガラス棒の電気を正の電気(+)という。その作用は図1・4(a)のように電気力線は正電気から負電気に向い, 図1・4(b)では正電気同志であるから相反発しあっている。また, 負電気同志も同様に相反発する。このように電気力線の存在している空間を電界と称し, その線の本数の多少によって電界の強さを表す。正電気の方向は電界の方向を表す。
 
図1・4
 
 物体が摩擦等によって電気を帯びることを帯電といい, 帯電した物体は帯電体という。帯電体のもつ電気量を電荷といっている。電荷の大きさを表す単位にクーロン〔単位記号C〕を用いる。
 この二つの電荷との間に働く力(静電力ともいう。)には次の性質がある。
 「二つの電荷間に働く力Fの大きさは両電荷Q1, Q2の積に比例し, 電荷間の距離rの2乗に反比例し, その方向は両電荷を結ぶ直線上にある」
 これを電荷に関するクーロンの法則という。
 上記のクーロンの法則を式で表せば
 
 
 ここで, Q1, Q2:電荷〔C〕
        ε:誘電率〔F/m〕
備考1. 量記号Qクーロン〔単位記号C〕は, 電荷の量の単位で, これは真空中で1〔m〕の距離におかれた電荷の等しい二つの電荷間に働く力が
 
 
であるとき, 各電荷の量を単位としたものである。
   2. 量記号ε誘電率〔単位記号F/m〕は電気力をとおす媒質すなわち誘電体によって定まる値で, ε=εs・εoの関係がある。εoは真空中の誘電率で
 
 
である。
 εsを比誘電率と称し,
 
 
の関係がある。
 真空中では, εs=1, 空気中ではεs≒1として計算できる。比誘電率εsの例をあげれば次のようである。
 ベークライト4.5〜5.5, エボナイト2.8, ファイバ2.5〜5, ガラス5.4〜9.9, 陶器5.7〜6.8, ゴム2.0〜3.5。
 
 すべての物質はいくつかの元素の組合せからできているが, 元素は, また, さらに原子と呼ぶ最小単位粒子でできている。原子は単独では存在しないが, これらが結びついてできたものを分子といっている。例えば, 2個の水素原子(原子記号H)と1個の酸素原子(O)とで水の分子(H2O)が作られるようなものである。分子の中に含まれる原子の数の多少によっていろいろ呼ばれているが, 日常高分子という分子は何百, 何千という多くの原子からできているものをいう。
次に原子の構造を水素(H), ヘリウム(He)及びリチウム(Li)の原子について述べる。
 
図1・5原子の構造例
 
 図1・5に示すように, 一般に原子の中心には正電荷+Z・e〔C〕をもった1個の原子核と, その周囲を一定の軌道を抽きながら回転している負電荷-e〔C〕をもったZ個の電子(electron)からできている。この場合電子の回転による遠心力と原子核の吸引力とは釣り合っている。
 そして原子核の正電荷+eと電子の負電荷-eとは異種であるが等量であるから, 原子は全体として中性である。
 原子核にあるいくつかの正電荷をもった陽子と電荷をまったくもたないいくつかの中性子は核力によって堅く結ばれていて, 原子核から陽子を取り出すことは極めて困難である。この力の場に1935年湯川秀樹博士が中間子という粒子が存在することを理論的に説明したことはよく知られている事柄である。これらの電子, 陽子, 中性子のほか中間子の粒子を総称して素粒子と呼んでいる。
(1)束縛電子 束縛電子は1・4・1で述べたように, 原子核の周囲を力の釣り合を保って電子が軌道上を回転している状態の電子すなわち束縛された電子をいっている。
(2)自由電子 自由電子は上記とは少し趣きを異にし, 外側の電子は運動エネルギーは大きいが原子核からの結びつきは比較的弱いので, したがって, 金属元素等で外部からの電気力が働けば軌道からはなれて飛び出す電子ができる。これを自由電子という。
(3)イオン 原子において何かの理由で負電子を失えばその分だけ正電荷が多くなり, それは正に帯電することになるので, この原子を陽イオンと呼び, また, 逆に中性状態にある原子に, 余分に負の自由電子が飛び込めば, その分だけ負の電荷が多くなり負に帯電した原子となる。これが陰イオンである。これらのイオンが液体及び気体中に存在する条件が整えば, この中を電流が流れる要因となる。
 
 磁石の近くにおかれた物体は磁化される。これを説明するのに1852年ドイツのウェーバは磁気分子説を発表した。これによれば磁性体(磁石を帯びうる物体)の内部には極く小なる磁石が内蔵され, それが勝手な方向に向いていて, 互いに作用が打消しあっているから外部には作用が現われない。しかし, 磁石のそばにこれをおけば, これらの極小磁石が正しく整列され, それが次第に拡張され全体が磁化されるという考え方である。
 この論だけでは磁性体の本質を説明していないので, 現在では電子論的に説明されている。
 電子は図1・5でみるように原子核の回りを回転運動しているとともに電子自体も自転運動(これをスピンという。)をしている。そのため電子自体は磁気モーメント(微小磁石と同じ性質)をもち, かつ, 軌道運動によってこのモーメントをもっている。また, 原子核自体も磁気モーメントをもっているが, これは極く微小であるから無視できる。今原子に磁界が加わると電子スピンは磁界の方に向きをかえ, 常磁性をもつことになる(これを磁気的分極正という。)。また, 一方では電子が原子核の回りを軌道運動しているため, これはちょうど磁界中の導線の輪に電流が流れているようなものに相当しているから, これによって生ずる磁気モーメントは, 前記の電子スピンと逆向きとなる。(これを磁気的分極負という。)。一般に物質はこの両者の作用の重ね合わせたものと考えればよい。全体として前者の作用が強い物質を常磁性体といい, 反対に後者の作用が強ければ逆磁性体といっている。
 図1・6において, 電池の(+)端子から豆電球をとおって(−)端子に銅線を接続すれば電流が矢の方向に流れる。これは正電気と負電気を有する電池を銅線で接続したためであるから, 自由電子((−)e)が正電気に吸引され図1・6に示すように, (−)端子から(+)端子に移動したことによる。電流はその逆に(+)端子から(−)端子に流れる。
 
図1・6
 
 このように銅やその他の金属のように自由電子を多くもった物体を導体という。
 この場合自由電子は導体表面が陽イオンの正電荷のため, 一歩も銅線外部に飛び出すことはできない。これを強いて導体外へ飛び出させるためには, これに相当する強いエネルギーを外部から与えればよい。この現象を電子放出という。
 また, 金属は熱して自由電子が熱エネルギーをうけて, 金属表面から飛び出す現象を熱電子放出といい, この電子を熱電子という。次に導体表面に光をあてて, 電子放出を起さす現象を光電子放出といい, このように表面から放出する電子を光電子といい光電管はこれを利用したものである。
 以上述べたように, 電子の移動によって電気伝導が行われるが, その速度は, 通常考えられるように電子というまりが投げられたとき, 目的地に達するまである時間が経過して, それにつれて電流が流れるということではない。
 図1・7で示すように1位置の電子が1′位置に移動するとき, 同時に2位置の電子が2′位置に移動するのであって, 1位置から2位置へ移動するのではない。すなわち1位置の移動は極めて速かに他位置の移動に波及することである。その速度は導体が大気中であれば, 光速C=3×108〔m〕に等しい。このように導体の自由電子は移動しやすい。
 
図1・7







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