はしがき
電気工学の基礎編は, すべての電気技術の基礎となるもので, これを十分に理解し, 原理をしっかりつかむことが必要である。
本指導書は船舶電装業の実務に初めてたずさわる方を対象として作成したもので, 本書により直流と交流の理論等の概念を理解し更に上級の指導書を学ぶ場合の基礎となるよう心掛けてもらいたい。
本書以外のことを知りたい場合は他の図書により補足するよう御願いする。
なお, 本書は競艇の交付金による日本財団の助成金を受けて作成したものである。
磁石の存在は紀元前500年頃から知られていた。当時ギリシャのマグネシア地方で, 磁鉄鉱が発見され, これが鉄を吸いつける性質があるところから, ギリシア人は, この鉱石をマグニスと呼んで不思議がり魔よけに使っていたという伝説がある。その後魔よけに持っていたこの磁石がふとしたことから方向を示す性質のあることを発見し, しかもこれを針状に作って, わらにのせ水に浮かせてみれば地球の北をさす性質があるところから13世紀の始め頃になると, これを頼りに航海にまで応用された。これが磁気コンパスの始まりである。その後いろいろの人によって磁石について研究され, 今日の電気工学の基礎の一端をになうことにまで発展した。磁石の性質はこれを棒状にして糸で吊せばその棒は地球の南北方向に向きを変える, この場合, 地球の北極附近を指す一端を磁石の北極(N極), 南極の附近を指す反対側の一端を南極(S極)といっている。このようにN極とS極は一つの磁石で常に対をなしている。このような極を磁極という。このほかに磁石は鉄を吸い付ける力がある。これを磁力という。
図1・1(a)は磁針のN極と磁石のN極とでは相反発した力が働き図1・1(b)ではN極とS極とでは互いに引き合う力が働くことが実験的にわかる。この作用を磁力作用という。
図1・1
これを理解するためには, 図1・2, 図1・3に示すとおり目に見える磁力線を想定したほうが便利である。
図1・2
図1・3
図1・2は一つの磁石で磁力線がN極からS極に向っている有様を示し, 図1・3(a)は二つの磁石がN極同志向い合っているので磁石線が相反発し, 図1・3(b)は二つの磁石のN極とS極とが向い合っているので磁力線の流れがN極からS極に向っていることを示している。したがって, お互いは反発しないで引き合っていることになる。このように磁力線の存在する空間を磁界といっている。そしてN極とS極の持つ磁気の量すなわち磁気量(又は磁荷ともいう。)は等しい。
この磁極間に働く磁力には次の性質がある。
この磁極間に働く磁力及び次の1・3で述べる電荷間に働く静電力のそれぞれの性質については, 1785年にフランスの電気学者クーロンが, 綿密な実験の結果発表した法則がある。
この磁極間に働く磁力には次の性質がある。
「磁力の大きさは, 両磁極の強さの積に比例し, 磁極間の距離の二乗に反比例する。磁力の方向は, 両磁極を結ぶ直線上にあって, 両磁極が同符号のときは反発し, 異符号のときは吸引する方向となる」
これを磁極に関するクーロンの法則という。
このことを, 図示すれば, 次のようになる。
また, これを式で表せば, 次のようになる。
磁極間の磁力
ここで, m1, m2:磁気量〔Wb〕
γ:距離〔m〕
μ:透磁率〔H/m〕
π:3.14
備考1. 量記号mウェーバ〔単位記号Wb〕は磁気量の単位で, これは真空中で1〔m〕の距離におかれた磁気量の等しい二つの磁極間に働く力が
であるとき, 各磁極の強さ又は磁気量を単位としたものである。
2. 量記号μ透磁率〔単位記号H/m〕は磁力線のとおる媒質によって定まる値で, μ=μ s・μ oの関係がある。μ oは真空中の透磁率で4π×10 -7=1,257×10 -6である。μ sは比透磁率とよばれ,
の関係がある一般に物質の種類によって異なる。
真空中ではμo=1, 空気中ではμs≒1として計算できる。
3. ニュートン〔単位記号N〕は力の単位であって, 1〔kg〕の質量の物体に1〔m/s2〕の加速度を加える力の大きさをいう。
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