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研究業績年報 2002

 事業名 基盤整備
 団体名 ライフ・プランニング・センター 注目度注目度5


No.3 在宅ターミナル患者・家族へのケアを考える*1
 
 前回のケアカンファレンスでは、若年性パーキンソン病の利用者が在宅療養をできるだけ長く、よい状態で続けていくために、どのような援助ができるかを考えました。
 今回の事例は、在宅で看取りたいという家族の希望で、ターミナル期を在宅で過ごした利用者・家族へのケアを振り返ります。
 
<出席者>(敬称路)
日野原重明(聖路加国際病院理事長)/紅林みつ子(顧問)/池田洋子(訪問看護ステーション千代田所長)・菊池香代・関川聡子・大手美和子・大串佐江子(同Ns)/綱島英俊(小石川ホームクリニック地域医療担当)/中村哲生(エムイーネット代表取締役)・臼井美幸(同Ns)
※太字は事例提供者
 
【事例】
Kさん/84歳/女性/要介護度5
●現在歴
 2002年4月腹膜炎にて入院。全身状態、心機能状態不良のため、保存的治療となる。同年7月、右脳梗塞を発症し、左片麻痺、言語障害、嚥下障害を呈する。一時危篤状態となるが回復し、小康状態を保つ。転院を勧められるが、家族の希望で8月14日に退院し、訪問看護開始。9月16日死亡。既往歴は、20年前から高血圧・不整脈(心房細動)を患っていた。
●内服薬
 ラシックス・アルダクトンA・小児用バファリン・ラックビー・ガスター・ロペミン。8月27日より血圧が70台に低下したため、医師の指示によりアルダクトンAは中止。
●生活像
 夫と死別し、長女夫婦と同居。孫は独立している。Kさんが一家の主的存在で家業を経営していたが、入院後は長女夫婦が営んでいる。経済的な困窮はない。
●介護者
 主介護者は長女であるが、長女の夫も介護に協力的である。
●経過
 退院直後より訪問看護開始となる。家族に対して死の教育を開始する。9月16日に「呼吸が止まった」との連絡を受けて訪問したが、その際、主治医となかなか連絡がとれなかった。ナースの判断で先に死後の処置を行った。亡くなった1カ月後にグリーフケアのため訪問。長女より「家に帰ってこられて本当によかった」という言葉が聞かれた。
●問題点
・仙骨部に褥創がある
・右膝下動脈閉塞のため下腿壊死を起こしている
・37度台の熱が持続している
・脳梗塞、動脈閉塞再発のリスクがある
・介護量が多く、家族の介護負担が大きい
 
●初めてのターミナル
関川:今回の事例はターミナルケアについてです。利用者は訪問看護開始から約1カ月で亡くなられましたが、振り返りを込めて事例に取り上げました。
日野原:あなたは今までターミナルを何例ぐらい経験したの。
関川:臨床では整形外科に所属していてターミナルの経験はほとんどありませんし、訪問看護でも今回が初めてでした。私自身迷いながら死の教育を進めていきました。
日野原:どこに迷いがあったのかな。
関川:ご家族は状況を理解していましたし、医師からも説明があったのですが、私自身“死”という言葉を口に出すことに抵抗がありました。また、どういうタイミングで話をしていけばいいのかなと戸惑いました。
 
 
日野原:死という言葉は使ったの。使わなかったの。
関川:「いざという時のために」という言い方で、最初はあまり触れないようにしました。
日野原:あなたは初めて在宅での死を経験したわけだね。フォローアップは誰かしたの。アドバイスはあった?
関川:ステーションに戻って、所長や他の方からアドバイスを受けました。まず、こういう本があるということで文献の紹介を受けました。
日野原:カンファレンスは開いたの。
池田:カンファレンスをもっと開くべきだったのですが、いろいろな事情が重なって開くことができませんでした。同行訪問したり、日常の業務の中でのアドバイスとなりました。
 
◎なぜ在宅を選んだのか
:書面では住宅に移る経緯が載っていないのですが、この方は経管栄養や褥創の処置、おまけに寝たきりで介護する家族は大変だったと思うし、こういったケースで在宅を希望してくる家族は少ないと思うのですが、なぜ家に帰ろうと思われたんですか。
関川:最初は転院の予定だったんです。家族も一度施設を見学に行っているんですが、あまりにも想像とかけ離れていたのかショックを受けて「家では看れないのでしょうか」と病院に相談したそうです。
 
 
大手:病院も家で看られるとは思ってなかったんじゃないですか。
関川:そこで、ソーシャルワーカーからこちらに依頼の相談を受けたんです。退院の2週間前くらいでしたから、退院前訪問に行き、在宅で看るための準備を進めていきました。家族の「最期は家に帰してあげたい」といった想いが病院スタッフを動かしたんだと思います。
 
◎看取りとグリーフケア
菊池(司会):ほかに、記載がなくてわからないこと、また経験を踏まえてのご発言など、いかがでしようか。
中村:主治医と連絡がとれなかったということですが、死後の処置はどうされたのでしょうか。また、グリーフケアの効果はいかがでしたか。
池田:私どもは24時間対応のため、常勤のナースが順番に当番をしています。ご家族から「もう呼吸が止まっている」と連絡を受けたのは私でした。ところが、この日は3連休中で、主治医も数日中に亡くなるとは思っていなかったらしくて、連絡先を置いていかれなかったんです。
 ただ、普段から意見交換している医師ですし、翌日には戻っていらっしゃることがわかっていたので、私の判断で死後の処置を先に行いました。本来、医師の宣告があって初めてお体に手を触れられるものであることは、改めてご家族に説明しました。ご家族の方も理解されていましたが、「先生にも診ていただきたいが、先に体をきれいにしてほしい」というご要望でした。
 幸い、処置の途中で主治医とは連絡がつき、ご了解を得ることができました。主治医の所在をきちんと把握してなかったのは反省点であり、今後の教訓として生かしていかなければいけないと思っています。
中村:ご自宅で看取りをされる場合、ご家族からはどのような質問が出ますか。
 
 
池田:どのタイミングで、医師やナースに連絡したらよいのか、また、具合が悪くなるってどういうことなのかわからないんじゃないかという質問を受けます。その他には、死後の処置に関するもの、例えば亡くなった時、何を着せるかとかですね。紅林さんのご経験ではいかがですか。
紅林:ご家族からの一番多い質問は、「何か起こった時どうしましょう」ということです。「何か起こった時には、病院にいても家にいても同じです。呼吸が停止した時にどうするかが問題ではなくて、それまでどうケアをするかが大切です」ということを説明しています。
 家族がケアをすることの意昧をきちんと説明すると、よく理解していただけるようです。ただ、死ぬっていうことが現実としてよくわからないんです。理性ではわかっていても、まだなんとかなるのではという期待もあります。
中村:在宅でお亡くなりになった瞬間にパニックになって、救急車を呼ばれるご家族もいますよね。
紅林:在宅で看取られると意思表示されていても状態が少しずつ変化した時に再度確認して、「亡くなった時に救急車を呼ばないように」ということは、折りに触れてご家族にお話ししています。それまでなさったことの意味がなくなってしまいますので。救急車を呼ぶと同時にこちらにも連絡があって、救急車を止めたこともありました。
菊池:もう1つご質問のあったグリーフケアについて、関川さん、どうでしたか。
関川:長女は常に穏やかで、悲嘆する様子がなかったので、本当に死を受容できているのかわからずにきてしまっており、それを確認したかったところもありました。1カ月後に訪問した際には満足された様子がうかがえて、私自身が癒されたと感じました。
中村:在宅でグリーフケアが必要になってくるケースというのは、どれぐらいありますか。亡くなった方がお年寄りの場合と、がんの末期で30代の方という場合では、ご家族の悲嘆も違うと思うのですが。
池田:私は、在宅で看取られたご家族にはすべてグリーフケアが必要だと思います。悲嘆の程度でどうというのではなく、在宅でよくケアされたことに対しての慰労もありますし、私たちにとっても区切りをつけるという意味があります。
中村:お葬式には伺っていますか。
 
 
池田:訪問看護ステーションに勤務するようになって迷いましたけど、お葬式には伺っていません。お葬式にはたくさんの方もいらっしゃるし、ご家族の方も気をつかわれるので、ご迷惑にならない時に伺うようにしています。
紅林:私も在宅で大勢亡くなった方には出会っていますが、お通夜・お葬式には伺っていません。
 死は家族のものです。そこへお世話した私たちが伺うことは、やはりご家族をわずらわせることになります。ステーションとして立場上、伺わなければならないこともあったり、さまざまなケースがありますので難しいですけれども。グリーフケアは大切ですが、このことは訪問看護に従事する者にとって悩む問題です。
 
◎家族へのバイタルサインの教育
池田:関川さんが初めてターミナルを経験して不安があったというのは、具体的にどういうことだったのですか。
関川:具体的にこれというものではないのですが、“死の教育”を進めていっても、家族にどの程度、どういうふうに理解されているのか、死を迎える際に混乱させてしまうのではないかという不安がありました。
日野原:死の教育として、「死のプロセスを説明する」とありますが、具体的にはどういうふうに説明したのですか。
関川:例えば、「死が近づくにつれて、呼吸が荒くなってきたり、意識が遠のいたりしますが、声は聞こえているので、声をかけて家族で見守ってください」というふうにお話ししました。
 
 
日野原:死ぬ時に何が起こるかというのは経験しないとわからないから、家族の人は不安でしょうがないの。だから、数で評価をするということを前もって教えておいたほうがいいね。呼吸が荒くなるとか脈が速くなるというけれども、どれぐらいをいうのかわからないからね。
 ケアする人が脈を測る能力があるか、血圧を測る能力があるか見極めると同時に訓練をする。脈が測れるか、まず測らせて、間違っていたら、それを直してあげる。そして、能力の限界を知る。脈を測るのが無理なら呼吸のカウントを教える。そうして、「呼吸が10を割ったら警戒態勢に入りなさい。8つよりも下がってきたら間もなくだから、お別れをしなさいよ」と教えるの。「お医者さんが間に合わないことがあっても、心配なことはないですよ」と言ってね。
 私の経験では、9歳の子どもががんの末期のママの呼吸数をちゃんとカウントしてね、お別れに「ママ、9年間ありがとう」と言った。そうしたら、7歳の弟もお兄ちゃんに倣って「ママ、7年間ありがとう」と言った。その声を最期に聞いて、お母さんは静かに亡くなったの。
 家でケアするのだったら、バイタルサインの見方を家族に教育するのが当たり前なの。そうでないと、在宅ケアは無駄なことや危険なことがあるからね。
菊池:今回は本当に貫重なお話をうかがいました。先生のお話を踏まえて、もう一度職場に戻って話し合いをしていきたいと思います。ありがとうございました。
(2002年10月28日。訪問看護ステーション千代田にて)
 
日野原先生のケアカンファレンス
ここがポイント
在宅ケアでは家族にバイタルサインの見方を教育すること。家族の能力を見極めたうえで、訓練をし、具体的な数値で状態を判断できるようにするとよい。
 

*1 No.3 Studies on Terminally III Patients and Their Family Members at In-home Care







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更新日: 2020年10月17日

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