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研究業績年報 2002

 事業名 基盤整備
 団体名 ライフ・プランニング・センター 注目度注目度5


No.2 若年性パーキンソン病の利用者をどう援助するか*1
 
 連載1回目は、性的接触や暴力のある利用者への対応について考えました。今回のケアカンファレンスでは、若年性パーキンソン病の利用者の事例を取り上げます。まだ43歳と、若い利用者が在宅療養をできるだけ長く、よい状態で続けていくためには、どのような援助ができるかを考えていきます。
 
<出席者>(敬称略)
日野原重明(聖路加国際病院理事長)/紅林みつ子(顧問)/池田・大手・菊池・関川・奥(訪問看護ステーション千代田Ns)/佐藤・甲斐(LPCクリニックNs)/松浦(ウエルネスケアセンター・担当ケアマネジャー)/富永(在宅介護支援センター・社会福祉士)
 
【事例】
Sさん/43歳/女性/要介護度5
●現在歴
 43歳の主婦。37歳の時、若年性パーキンソン病発症。1年前から病状が進行し、精神症状が出現。2002年1〜3月、4〜8月入院。既往歴は特になし。
●生活像
 2階建ての一軒家で夫と高校1年生の長女の3人暮らし。経済的な困窮はないが、夫の親の経済的授助もしているので余裕はない。
●介護者
 主介護者は夫。事務所を構えて仕事をしているので、多少の時間の融通はきく。家事も夫が行っている。姑が時々様子を見に訪れるが、本人の実家は両親の高齢と遠距離のため、支援は望めない。
●経過
 1年前から病状が進行し、主に薬の副作用の精神症状のため入院していたが、落ち着いたため8月27日退院。精神症状は治まっているが、ADL障害は著明。8月30日より病状観察のため訪問開始。
●問題点
・服薬変更に伴う副作用が出る可能性がある。
・転倒の危険がある。
・社会的孤立、喪失感から抑鬱状態に陥る可能性がある。
・家族の介護・精神的負担が大きい。
 
◎ヘルパーへの不信
大手:今回の事例は若年性パーキンソン病の利用者への援助についてです。
紅林:医師から病状についての説明は、きちんとご本人にされているのでしょうか。
大手:はい、それは聞いていらっしゃいます。
日野原:最初に、訪問看護師の立場から、ドクターがどの程度に病気について話しているか、利用者がどのように理解しているかを確認することは、一番大切なことかもしれませんね。
紅林:家族もご本人と一緒に説明を受けているのですか。
池田:娘さんがどの程度理解しているかはまだ確認していませんが、ご主人は病気のことをよく理解されており、どのように病状が進行していくのか予測がつかない、また他の人よりSさんは激しく精神症状が出るので、薬のコントロールが難しいと医師から聞いているようです。今は、薬の量が減ったため精神症状は落ち着いてきましたが、パーキンソン病の日内変動は激しくなりました。
松浦:訪問介護を利用しているのですが、固定してしっかりみてくれる信頼できるヘルパーさんが見つからないということで、ご主人が最近イライラされるようになってきました。
 今お願いしている業者さんをすぐにでも替えてほしいと言われるのですが、「1週間でも様子を見られたらどうですか」と話をし、並行してもう1社と話を進めているところです。
 
 
紅林:ヘルパーさんにどういった不満をもっていらっしゃるのですか。
松浦:具体的なことはおっしゃらず、「変だ」の一点張りなんです。「妻がかわいそうだ」と言って。特定のヘルパーが定まらず、いろいろな方が入られるので、「ヘルパーが固定しないので病状が不安定になる」と言われました。
大手:私がご主人から聞いた話では、訪問に行くのを忘れた人がいたとか、食事が同じものが続いたとか・・・。
松浦:確かに行くのを忘れてしまったヘルパーさんがいて、私から「困ります」ということを強くヘルパーステーションに伝えました。食事に関しては、材料があったかどうか・・・。「買物も頼めますよ」とお話ししました。
富永:障害をもっていらっしゃる若い方を既存のサービスに当てはめるというのはなかなか難しいですね。私も相談を受けたのですが、ご本人の主訴としては、何かの役に立ちたい、受け身の生活だけではなくて、体を動かしたいということでした。それでボランティア活動だとか、福祉サロン的なところはどうですかとお話ししました。できることを無理なくできたらいいと思い、話を進めているところです。
 
◎若年在宅療養者の難しさ
池田:最初の1ヵ月、ステーションから毎日訪問していたのは、夕方になると病状が悪くなるので、毎日の訪問看護が必要と医師から指示があったことと、どの程度悪いのかということをつかむためでした。調子のよい時は玄関まで出迎えてくれたりするのですが、本当に悪い時には全く動けないほどで、転倒していることが何回かありました。そういう中で、病状確認のほかに私たちはどう関わっていったらいいかと。
松浦:ご主人は訪問介護には不信感をもっておられますが、訪問看護に関してはすごく信頼されていらっしゃいます。
池田:時間の経過とともに、必ずしもナースでなくてもよいというところも出てきて、2カ月目からは週3回に減らすことになりました。今まではご主人が3日に1回入浴させていたのですが、奥様からもう少し入りたいという要望があって、今後、病状が悪くなることも考えると、ナースのほうがいいと思うので、入浴介助を主に行うことになりました。
松浦:ご主人はSさんにリハビリを受けさせたいらしいのですが、訪問リハビリというのはどうでしようか。
富永:業者さんはないですね。保健所では月に1回やっていますが・・・。介護保険サービスの中では、ほとんどないといっていいですね。
松浦:ヘルパーさんとの信頼関係ができてくると、一緒にお料理を作ったり、洗濯物をたたんだりと、日常生活を通してリハビリができると思ったのですが、現在はヘルパーさんとの関係が悪くなっているので、難しい状況です。
紅林:痴呆のお年寄りと違って体は動かないけれど、意思ははっきりしているので、援助すればいいというわけでもないですし、何を望んでいるのかを確認した上で、援助の方向を見つけていかないと難しいですね。
松浦:確かにヘルパーさんも一生懸命なのですが、若い患者のところへ行かれるのはあまりないことなので、どう接したらよいか戸惑いがあるようです。いずれはヘルパーさんとの関係が落ち着いてくると思うのですが、ご主人は待ちきれないようです。
 
◎骨折を起こさないことが大事
日野原:この人は、どの程度の歩行障害があるの?手を貸せば倒れないで歩けるの?
大手:歩き出せば刻み歩行で歩きますけど。
日野原:でも、止まったり、ちょっと押されたりするとすぐ倒れてしまうというパーキンソンの特徴があるわけだから、倒れることは起こりうるわけで、実際に何回も転倒しているんでしょう。そうすると、リハビリというのは何のためにするのかな。パーキンソン病は神経作用からきているから、リハビリしても、歩けるようにはならないのではないですか。歩けないので外に出にくいということなら、車椅子を使って外に出ていくほうが社会に接しているという満足感が得られるのではないですか。
松浦:医師にお聞きしたら、動けるのなら、どんどん動いたほうがよいということでしたが。
 
 
日野原:でも、バランスがとれないから、転倒して骨折の危険があるのでしょう。
松浦:はい。それは言われました。
 
 
日野原:この人にとって、何が大切なケアなのか。骨折を起こさないことが一番大切だね。ただ、自分で行動すれば、転倒の危険があるから、誰かが側にいなくてはいけない。もう少し訪問介護を増やしてみたらどうかな。
松浦:私自身はもう少し訪問介護を入れたいと思っているのですが、ご主人が介護保険の訪問介護を目一杯使ってしまうと、自立の妨げになるという考えが強く困っています。
日野原:“自立”の考え方は、それぞれの立場によって違うからね。自立してほしいとご主人が思っても、安全に歩くことはSさん1人では生理学的にできないからね。筋肉は使ったほうがいいけれどもね。音楽療法というのはどうかな。音楽を聴きながら体を動かすと、筋肉の緊張がとれるの。精神的にも気持ちがいいし、薬以外で筋肉の緊張がとれるからね。ぜひ、やってほしいね。
 これからは、ご主人を説得しながら、ケアマネがどこまでのプランがつくれるかが重要になってきそうだね。医師を交えて、ご主人ともっと話し合ってみてはどうですか。
 
◎「自立」への基準の共通理解
松浦:最近わかってきたのですが、ご主人には病状をわかっていながら認めたくないという気持ちがあるようです。パーキンソンと診断されたのは6年前ですが、ここ2年間で急激に悪くなり、この1年間でどっとADLが落ちました。Sさんはきれいな方だし、以前は秘書の仕事も有能にこなされていたので、ご主人は今の奥様の姿を認めたくないのかもしれません。
 
 
若年性パーキンソン病の特徴について
順天堂大学能神経内科 教授
水野美邦 Mizuno Yoshikuni
 
 若年性パーキンソン病とは、一般に40歳以前発症のパーキンソン病を指す。40歳を境に臨床特徴が大きく変わるわけではないので、便宜的な区分けである。一般にパーキンソン病では発症年齢が若くなるほど、パーキンソニズムに加えてジストニアが見られることがある。主に歩行時の下肢のジストニア姿勢で、内反尖足位をとることが多い。また、L-ドーパに対する反応がよい代わりに、比較的早期からジスキネジアやwearing off現象などのL-ドーパによる症状の日内変動が出現しやすい。しかし、その他には、高齢発症者に見られる安静時振戦、歯車様固縮、姿勢反射障害、特有の前かがみ小刻み歩行などは同じように見られる。痴呆の合併頻度は低い。
 進行は一般的に高齢発症者に比べ緩徐である。発症年齢が40歳に近づくにつれ、高齢発症のパーキンソン病に似てくる。
 若年性パーキンソン病といっても、1つの疾患単位ではなく、1つの症候群である。若年発症者では家族内発症の頻度が高く、遺伝子が判明しているものもある。最も有名なものは、本邦の山村安弘先生によって発見された常染色体性劣性遺伝の若年発症パーキンソニズム(AR-JP)である。発症年齢は、7歳くらいから知られており、平均28歳くらいであり、最も早期に発症する家族性パーキンソン病といってもよい。原因遺伝子は、パーキンという新たな遺伝子であることが、我々のグループの研究で明らかにされた。海外にも広く分布する。
 本病型では、さらに午睡や睡眠で一過性にパーキンソン症状が改善するsleep benefitの存在が特徴である。パーキン蛋白は、ユビキチンリガーゼの一種である。ユビキチンリガーゼとは、不要になった蛋白やできそこないの蛋白を壊すために必要な蛋白で、蛋白の処理機構に問題が起きて黒質が神経細胞死に陥ると考えられている。
 この他に、1番染色体に劣性遺伝のパーキンソン病を起こす場所が3カ所知られており、そのうち1つがDJ-1という遺伝子変異で起きることが最近報告された。これらからも新しい遺伝子が発見される可能性のある、極めて興味ある領域である。
 
佐藤:私の知っているケースでも、奥さんが50代の時にパーキンソンと診断されました。ご主人ともども病気を受け入れるまでに随分時間がかかったとお聞きしました。最初は病気を否定して葛藤が続き、ようやく病気を受け入れて理解し、予後を考えられるようになるまでには10年ぐらいかかったそうです。
池田:この事例を取り上げるに当たって「パーキンソン友の会」に連絡を取り、私たちの支援のヒントになればと思って、若年性パーキンソンで自立されている人のビデオを買いました。本人と家族が病気をどのように受け止めたのか、どう自立したのかが収められているビデオです。ご主人に見ていただければ、参考になるし、友の会に入れば、いろいろな悩みも共有できると思います。でも、Sさんの場合は、薬をコントロールすると精神障害の副作用が出てしまうため、そのバランスを取りながら薬の処方をされるので、とても難しい状態の方ではあるのですが。
日野原:そうだね。ご主人の意識を変えていくアプローチには、言葉で説明するよりも、実際を見てもらったほうがいい。
紅林:この方は日中どのように過ごしているのですか。
菊池:ソファーにじっと座っています。何もしてないですね。
 
 
松浦:ご主人は、手を出すと何もできなくなって自立の妨げになると言うんですが、そんなことはありませんよね。
池田:ご主人の言う「自立」の基準がケアスタッフと違うので、見守りを含めた介護が必要だということを時間をかけて理解していただかないといけないと思うんですね。それは私たちの役割かもしれません。
紅林:ご本人が自立できるようになるには、現在の状況をよく理解し、援助する人の手が必要ということをご主人を含めて話し合うのは・・・。
池田:チームとしてやっていかないといけないですね。幸い訪問看護には信頼を置いてくださっているようなので、最初、ヘルパーさんを入れる時には、スケジュールを合わせて、私たちがヘルパーさんと一緒に訪問するというのもいいかもしれません。そうすれば、ヘルパーさんもSさんへのケアが高齢者へのケアとは違うこと、Sさんに求められていることがわかっていくと思うし、ご主人のヘルパーさんへの考え方も変わっていくのではないでしようか。
松浦:私がヘルパーさんを選ぶことはできないので難しいのですが、今度は利用者の状態等を詳しく伝え、理解を求めるなどして、ヘルパーさんを入れていきたいと思っています。
富永:みんなで一緒に考えていかないと。ぜひ、担当者会議を開いてほしいですね。
(2002年9月30日。訪問看護ステーション千代田にて)
 
日野原先生のケアカンファレンス
ここがポイント
利用者にとっての「自立」は何であるのかを介護している家族に理解していただき、そのためのアプローチや支援方法を考えていく
 

*1 No.2 A Case Study: How to Support a Juvenile Patient with Parkinson's Disease







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更新日: 2020年9月19日

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