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研究業績年報 2002

 事業名 基盤整備
 団体名 ライフ・プランニング・センター 注目度注目度5


症例研究
日野原重明の“一緒に学ぶケアカンファレンス”
No.1 性的接触や暴力のある利用者への対応を考える*1
訪問看護ステーション千代田主催のケアカンファレンス
 
 『生き方上手』の著者であり、聖路加国際病院理事長の日野原重明先生は、高齢者の心のケアについて、まさに日本の第一人者といえます。
 その日野原先生が、毎月、東京・千代田区の砂防会館で多職種を集めて開催される訪問看護ステーション千代田主催のケアカンファレンスに参加し、アドバイスを行い、援助の方向性を明らかにしています。本連載では、そのケアカンファレンスを誌上再録します。
 連載1回目は、性的接触や暴力のある利用者への対応について考えます。
 
<出席者>(敬称略)
日野原重明/紅林みつ子(顧問)/池田・永野・杉本・菊池・関川・奥(訪問看護ステーション千代田Ns)/佐藤・甲斐(LPCクリニックNs)/石井(担当ケアマネジャー)/柴山・新井(他事業所ケアマネジャー)/臼井(大塚クリニックNs)・坂井・渥美(大塚クリニックSW)
 
 
【事例】
M氏/65歳/男性/要介護度4
●既往歴
 1995年、肺炎で入院時に脳梗塞を発症し、以後、左半身麻痺でリハビリ中。96年胃ポリープ内視鏡下切除。2001年2月に痙攣が起こり、抗けいれん剤投与。現在、尿路感染とてんかん発作に注意と主治医から指示されている。
●生活暦
 家業を経営し、妻とM氏の弟・娘夫婦で営んでいる。住居は5階立てビルで、1階が事務所。M氏は妻と4階に住んでいる。経済的困窮はない。現在、M氏の障害に合わせて、モーターベッド、リハビリ用平行棒、車椅子等を自費購入し、住居はバリアフリーとなっている。
●介護者
 主介護者は妻で、熱心に介護を行っている。家族経営のために、人間関係のストレスもあるようで、精神状態が不安定になりやすい。なお、M氏の娘も熱心に介護を行っている。
●経過
 2000年9月にケアマネジャーより依頼があった。病状観察・入浴介助目的で訪問看護開始となった。現在、訪問看護週1回1時間。ヘルパーとともに入浴介助。2カ月に1度、病院受診。訪問介護週3回3時間。通所介護週1回4時間。
●問題点
・初めて訪問するスタッフに対して強い態度に出て、スタッフを受け入れにくい(拒否的反応)
・性的接触や、血がにじむほどつねったり、拳で殴るほどの暴力をふるう時がある
 
◎利用者の暴力と家族背景
永野:今回の事例は性的接触や暴力のある利用者へ、どう関わっていけばよいかです。
柴山:この方の意識レベルと痴呆の状態は?
永野:抗けいれん剤を飲んでいますので、傾眠がちですが、失見当識はありません。判断力も良好で痴呆はありません。
柴山:主治医との関わりはどうなんでしょうか?
永野:地域の往診医である在宅診療医がいたのですが、信頼関係の面で難しい部分もあって、長年のつきあいがあるということで、今は大学病院の先生が主治医になっている状況です。在宅の往診という形にはならないのですが、電話をするとすぐに指示があり、対応は早いです。メンタル面に関しては、信頼関係は強いようですが、2カ月に1度の受診ということもあり、カウンセリングまではできていないと思います。
日野原:このような例をほかにご存知ですか?
臼井:特殊な例ではないと思います。ただ、それはベースに痴呆があったり、脳出血の後遺症がある場合ですので、これほど意識がクリアな例は珍しいように思います。
日野原:家族はどうしているの?
永野:家族も暴力などの被害にあっているのですが、表に出ないように隠し、利用者をかばっています。
紅林:複雑な家庭環境のようですが、奥さんとの関係に問題があるのではないですか?
永野:弟夫婦を含めて一家で商売をしているという事情もあって、奥さんの立場は微妙で、今までストレスを抱えながら過ごしてきたのではないかと思います。
 
◎家族の高い心のバリア
日野原:これほどの性的な行為や暴力を誰がケアマネジメントするのかな。よほど強く言える人がいないとね・・・。
 ケアマネジャーはどう判断しますか?全部引き上げなければならない悪い状況とみなすのか、それでも介護を続けていくのか・・・。
石井:私がこちらのお宅に関わって1年ほどになりますが、ご家族の方とは接していても、なかなか本人と関わる機会がもてずにいます。奥さんの話からは、今まで一家の長として家業を盛り立ててきたご主人のことを非常に誇らく思っているようなところがあります。
 娘さんと暴力を受けた話になったことがあるのですが、「でも、そのことはいいの」と触れてほしくない様子で、なかなか深く関わることができません。ただ、ヘルパーから対応に困っているという話は聞いています。
 それで、今まで女性のヘルパーばかりだったのですが、こちらの対応として数が少ないので非常に難しいのですが、男性のヘルパーというのも1つの手かなと考えています。一度、定期的にうかがう者が行けなかった時、20代の男性ヘルパーに行ってもらいました。そういう方向で検討してもいいのではないかと思っています。
柴山:男性のヘルパーに替えるということも方法の1つですが、それでは根本的な解決にはならないように思うのです。それと、先ほどから利用者の意向というのが見えてこないのですが、その点についてはいかがですか?
 また、この方がこういった行動に出る原因はどこにあるのかといったことの検討や、医療機関との連携についてはどうお考えでしょうか。
石井:意識レベルははっきりしていますが、介護保険のサービスについて、選択をどうするというところは本人にはないので、どうしても家族の意向ということになります。この方の行動の原因については推測の域を出ません。
紅林:普段の生活はどのようにしていらっしゃるのですか。
 
 
永野:今は家業にも関わらず、たまの外出以外はだいたい寝てばかりだと思います。医師がワープロを勧めたりしたらしく、多少やる気になっていたのですが、それも尻すぼみになってしまっています。生きている意味を失ってしまっているようにも見えます。
 
 
池田:確かに、本人の意思が見えてこないのです。奥さんはご主人をかばう発言をするけれども、本当のところは見せてくれないという感じです。愚痴は言いますが、どうしたいのか、何か困っているのかといったことは話してもらえません。主治医との関係はよいようなので、主治医に確認しようと思いました。
 でも、主治医と連携をとろうとしても「それは私たちでしますから」と巧みに断られるので、本人の精神面に関してなど、話をするチャンスも与えてもらえないという感じです。主治医に報告書を送るだけでなく、何回か連絡をとりましたが、かなりお忙しく電話でのお話はもちろん、お会いする時間もとれませんでした。
新井:ケアマネジャーとして、日々悩む部分は、ご家族に対して過去の生活歴、価値観、直面する問題をどう捉え、援助していく上での方針としてどのようにお伝えするかというところなんですね。専門職としてまだ十分に認知されていないところがありますし、助けてほしいことの内容が具体的でなければ提案はしづらいですよね。
 この方の場合は、情動を抑えきれないところは障害が関係しているのではという気がしますし、過去の生活歴とかそういったものは置いておいて、むしろ、今の障害の状態やパーソナリティーを、医師との連携で再認識することが必要ではないでしようか。
池田:おっしゃるとおり、本人の脳の障害を確認しなければいけないのですが、主治医となかなかコンタクトをとらせてもらえない現実がありますので、今後はなんらかの形で検討していこうと思っています。
 サービス提供者として、体の線が出にくい服装で入浴介助をするとか、毅然とした態度で接してはいますが、さらに性的な接触や暴力がエスカレートするようであれば、主治医に事実として報告していくことも必要と思います。
 また、医療職に対してよりも介護職にもっと露骨に行為が行われているようですが、利用者ということもあり、事業所の損害などを考えて、ヘルパーさんもどうしたらよいか迷っています。だからと言って、皆が手を引いてしまったら、この方の生活も守られなくなりますし。
永野:言いにくい問題なので、なかなか直接的な行為を記録に残しにくいところがあります。私自身、ご家族が隠そうとしていることを明らかにすることに躊躇する部分があり、表に出しにくいです。
 
◎主治医を引き出す努力を続ける
日野原:そのような書きにくい文章を、この報告書ではここまでよく書けてるね。ここで大きな問題は、主治医が大学病院の教授で、電話で指示を受けているというところだね。
 
 
 つまり、この患者は権威というものに非常に弱いと思う。だから主治医が強く出れば、この人は弱いのじゃないかな。
永野:弱い立場の者を見分けていて、初めてのスタッフや介護職には強い態度に出るようです。
日野原:この人は非常にわがままで、女性を下に見るという戦前の間違った男性像をもっているね。だからこの問題解決のためには、権威である教授を出さないと。「言動に気をつけないと、誰にも来てもらえなくなってみじめになるよ」と教授が1回でも来て強く言うと聞くかもしれない。
 他の人が言っても聞こうとしないね。奥さんは最も弱い立場だから、何も言えないし。今まで、教授は電話での指示だけで責任を果たしていないのだから、勇気をもって記録を見せて「問題解決に協力してください」と言うといい。
永野:でも、奥さんに「なんで先生に言ったの」と言われると思うし、これからのことを考えると対応が難しいと思います。
日野原:訪問看護ステーションは、ナースが実質的にはやるけれども、ドクターが責任を取るのが当然でしょう。主治医不在がこの問題の解決を困難にしているね。
柴山:告げ口ではなくて、利用者の状態を正確に把握していただくための情報交換と考えてはどうですか。連携を深めていくことが利用者へのサービスの質を向上させるためということを、ご家族へも説明されなければいけないと思います。
紅林:利用者に迎合するのではなくて、こちらもプロとして厳しく関わることが大切ではないでしょうか。専門職として、技術と知識には自信があるという毅然とした態度で接しないと難しいと思います。身体的・精神的アセスメントをした上で、家族も含めてチーム全体での話し合いが必要ですね。
関川:そうですね。今まで、同じ人にずっと来てほしいと言われて、要求を聞いていましたが、それでは個人の負担も重くなりますし、こういうケースだからこそ、いろいろな人が関わったほうがいいかもしれません。事業所としての姿勢をはっきりさせて、ご理解いただけない場合はケアマネジャーさんに入っていただければと思います。
 
 
日野原:実情を認めてケアマネジャーが介入することが必要だね。このような場合、カンファレンスがないと、迷路に入ってしまうから、カンファレンスは重要なんだね。その時に特に重要な主治医が実質的に不在というのでは、ちょっとね。夫婦の間では強く頼りになる存在かもしれないけれど、問題解決には入ってこないんだから。ケアマネジャーを通して、主治医に関わってもらうことが問題解決の一歩なんじゃないかな。
池田:いただいたアドバイスから、まず、事実を記録して必要時には、直接、主治医に報告するということ、またケアマネジャーさんには、サービス担当者会議を開いていただけたらと思います。会議には家族の了解も必要ですし、その時には、ご家族の気持ちももっと引き出せるかもしれないので、今後の対応や私たちの姿勢を考えていきたいと思います。
 
日野原先生のケアカンファレンス
ここがポイント
カンファレンスで特に重要なのは主治医。正確な記録をつけてカンファレンスに参加させることで、難しいケースの解決につながる。
 

*1 Care Conferences with Dr.Shigeaki Hinohara
No.1 A Study How to Cope with the Situation of Sexual Harassment and Violence from Institution Users
『コミュニティケア』(日本看護協会出版会, 2003.1〜3)に掲載







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更新日: 2020年10月17日

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