12. 事故後の対策
◇患者・家族への説明と歩行・トイレの介助または, 見守り 11事例
◇環境の整備 6事例
◇ベッド仕様の変更 4事例
◇24時間の見守り 4事例
◇排尿パターンによる誘導 2事例
◇その他 1事例
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実際に事故が発生した後に, 事故直後はすべてのケースがだいたいどこか打撲しているとか, 傷があったというケースが大半でした。時間帯にかかわらずバイタルチェックをしてドクターコールをし, 診察をして, 必要な傷の処置をすることと併せて, ご家族へのお知らせをするということをしています。それが事故直後に行うアクションです。
その後, どのように継続的に見ていこうかというときに配慮したことは, 患者さんやご家族へもう一度説明・歩行・トイレの介助または見守りなどに関してのプランを加えたり再度強化することをしたのが11例です
写真1 病室内ベッドの配置(1)
写真2 病室内ベッドの配置(2)
環境の整備について配慮した, 例えば先ほどのカーテンを閉めるのに転倒してしまったケースや, 物を拾うために転倒してしまったケース, ポータブルトイレにつまずいてしまったというケースがありました。その方の場合は, お手洗いまでの歩行がふらつきがあるし大変そうだということをわかっていましたので, ポータブルトイレの提案をして設置をしています。患者さん自身はふらついてもやはりトイレまでは歩きたいということで, ポータブルトイレを使わないで置いたままでトイレを使っていたケースが2件ぐらいあったと思います。ですから使わないものが邪魔になっていたということですね。そういう意味での見直しと, とりあえずその時点でトイレの歩行を継続・見守りと付き添いで続行する場合は不必要なものは除くことをする。また, ベッドの位置をトイレに近いほうに移動させるなど, そういう意味での環境の整備です。あとは患者さんと相談して, 物を取りやすい位置に整える。あるいは夕方・朝の時間などは患者さんと打ち合わせてカーテンの開閉に関しての配慮をするなどをしたという意味の環境整備です。
ベッド仕様の変更としては, ピースハウスは全部の間取りが洋式の部屋です。患者さんの生活習慣を聞くと今までベッドは使ったことがなかったという方も稀にいます。ただ, 今までにどこかの病院に入院していますので, ベッドに対してすごく抵抗がある方はそれほど多くはないようです。しかし, せん妄が起こってくるなどのときに, ベッドからの転落を繰り返すような方の場合はベッドの仕様を変更しています。これは私たちは「お座敷ベッド」と呼んでいますが, ベッドを取り除いて, 畳をお部屋に1畳あるいは2畳敷いて, その上にマットレスを敷いてそこにお休みいただくということです。患者さんはせん妄であまりはっきりした合意が得られない場合もあるのですがご家族に相談をさせていただいて, 変更するということを行います。
24時間の見守り, これはやはりせん妄の強い患者さんの場合は, ご家族に状況をお話ししたときに, ご家族が自分たちのマンパワーを使ってなんとか24時間をやり繰りをして付きましょうということになったようなケース, あるいは昼間のある時間帯はご家族はお帰りになって休まれますが, その間はボランティアやスタッフメンバーが少しつなぐようにしてなるべく途切れなく見守るような体制をとったという事例が4件ありました。
排尿パターンによる誘導, やはりトイレ歩行が転倒のきっかけや動機だということが非常に多かったということです。まずその方の排尿パターンを知り, 時間によって声をかけることで対処していった事例が2件です。
写真1はピースハウスの病室で, 通常のベッドの仕様です。普通のベッドの感じですが, 廊下には手すりがありますが室内にはとくに手すりとかがないのです。個室が25m2ですからベッドからトイレまでの距離が3mぐらいあるんですね。その間にチェストとか箪笥などはありますが, 少し手がかりが遠くて1, 2mあると思います。やはりそういうところで危険かなという感じがあります。
1つはせん妄の方などの対策として必要なときによくとられる方法としては, ベッドを壁の片側につけるという方法です(写真2)。たぶんこういう方法をとられる施設が他にもあると思いますが, このように移動させます。
写真3 ベッド柵の防御
写真4 お座敷ベッド
昨日, たまたま私は別の所で自分が講義を受けるチャンスがありました。そのときに高齢の方の抑制についてどのように考えるかという授業があって, 抑制というのはどういう範囲が抑制なのかという話がありました。このごろすごく話題になっていますよね。抑制廃止ということについては, 実際に身体を拘束するとか手足を縛るとか, すぐ目に見える抑制の方法だと思っていましたが, ベッドを壁側につけるというのも広義の抑制だということが出ていました。ですからベッド柵を両方上げるというのも自由を束縛するという意味で抑制ということです。薬物による鎮静つまり眠る時間を作るということも広義の抑制だということなんですね。ピースハウスでは縛るということについてはありえません。ですから私はピースハウスは抑制はしていないと思っていたのですが, その講義を聞いて, ある意味では抑制をしていたんだなあと思いました。
実態としては, 私どもの所でもこのようにしてベッドを片側につけています。でも患者さんはベッド柵の頭側とか足側からどうやってすり抜けたんだろうと思うように下ります。ですからさらに補強する場合は, 今, 蒲団が垂れ下がっていますが, ベッドの足元, 両カバーが一番広いスペースでよく患者さんはここから下りますので, 床頭台をここに柵のようにつけたりします。ピースハウスはお部屋の中に患者さんのご家族がいつでも泊まれるようにソファーベッドが全部のお部屋についています。それを移動してきてドンと柵のように, ずれてきても落ちないようにしているという現状があります。
せん妄があり, 多動で起き上がる患者さんはゴツゴツと棚やベッドボードに体をぶつけて, ベッドから落ちなくても傷を負うということがあります。そのために大きなクッションを柵に縛り付けたり, クッションを置いたり, あるいは動きによっては打撲の可能性のある所にもそのような対処をし, ベッド上で傷を負うということをなくす工夫をしています。
写真4はお座敷ベッドです。私が写真を撮りましたが, 実は畳が敷いてないんですね。これは急いでこのセッティングをつくって, こんな感じというのを見ていただこうと思って写真を撮ったものです。通常はこの下に畳が1畳か, あるいは畳を敷くとマットレス, とくに減圧マットを使っている患者さんでお座敷ベッドにすると段差ができてゴツンと落ちることがあるものですから, マットレスの厚みがとくに高い人の場合は畳を2畳分敷いて, いったんは畳にごろんと転がれるようなスペースを作るようにしています。通常の薄いマットなら畳1畳分を敷いて, その上にマットレス, お蒲団をこういった大きなクッション, これはボランティアがたくさん作ってくれていますが両脇に敷くようにしています。
この写真には写っていませんが, このへんに小さなちゃぶ台を置くことも多いです。ちゃぶ台が危なそうな人には置かないのですが, 大丈夫で落ち着いてくるような感じで畳, お座敷ベッドがいいですという方にはちゃぶ台を置いて, ナースはここでナースシューズを脱いで畳に上がって患者さんのケアをします。
たぶんどこの病院も同じような感じですが, お手洗いの中はタイル張りで四方はタイルで堅い素材です。転倒したときに一番外傷を負いやすい場所になっています。手すりは両脇についています。これはオープンになります。お手洗いの中の広さはそれほど広くありませんので, 手がかりが順にいくようになっていて, 車椅子がかろうじて入る広さになっています。
写真5 お手洗い
写真6 廊下
写真7 ポータブルトイレ
写真8 離床センサー
廊下はすべてこのように手すりが両脇についています(写真6)。個室はこういう入口のかたちです。ただ, この写真だとわかりにくいですが, 廊下と廊下の幅は2.5から3mぐらいあると思います。やはり真ん中に立つとまったく手がかりのない空間になってしまいますので, 傾く方などは必ず手すりなどを伝っていっていただくようにお話をしています。
この研究会の準備のために撮影をして回っていましたら, 廊下にぽんとお手洗いが出ていたので写真を撮りました(写真7)。これはポータブルトイレです。けっこうがっしりとした安定感のあるポータブルトイレなのでポータプルトイレごとひっくり返ってしまうという事故は発生したことはありません。座面がパカンと開くと便座になっています。トイレットペーパーが脇にかけられる仕様になっているポータブルトイレは10個のうちの3つしかないのです。立ち上がりのときやトイレットペーパーを取ろうとして転ぶことがあるので, 患者さんが自分の手で取れる所に木の箱をつけてトイレットペーパーをつけたり, この上にこれはティッシュの箱が縛り付けてあるのですが, すぐ手元でとれるように工夫してあるものもいくつかあります。
患者さんが靴に履き替えて移動するというのがなかなかできない, あるいは足が浮腫んで靴が履けないという方もいらしゃいますので, ベッドサイドにポータブルトイレを設置して, 直接素足で移動して, ポータブルトイレに座っていただけるように床にキルティングの薄い布の敷物を敷くようにしています。ただ敷物につっかえることがないように気をつけなくてはなりません。
写真8は後で話がでますが, 離床センサーです。スタッフから転倒の事故があるたびにナースコールマットを買ってほしいという要望がずっとありました。私はナースコールマットを使った体験がなくて, どんなものかは知っていたのですが, 私はどう考えてもナースコールマットはそこの上を踏んでくださらないと鳴らないし, 踏んだときにはもう倒れているんじゃないかと思って, そんなに有効なんだろうかという私なりの疑問がずっとあったものですから, ずっとペンディングにしてしまっていたのです。
それで本当は患者さんが起き上がったときに通報がある仕組みのものがないのだろうかと常々思っていましたら, たまたまダイレクトメールに離床センサーというものが入ってきて, これだと思って試しに使わせていただいたのです。これは幅10cm長さ80cmぐらい, だいたいマットレスの幅ぐらいあります。いろんなタイプがあるそうですが, これはシーツの下ではなくてベッドとマットレスの間に挟み込んで, 患者さんがそこから起き上がるとセンサーが働いて, ここに重みがかかっていたのが解除されるとコールが鳴るというふうに連動しています。これが器械でナースコールに接続されていて, ナースコールは通常の壁についている仕組みです。これを試してみましたら, 大変よかったです。宣伝をするつもりで言っているわけではないのですが, よかったのです。
だいたい患者さんが起きて離れた瞬間に鳴る設定とか離れて1秒したら鳴るとか, そのように設定ができます。ピースハウスでは, 離れたらすぐに鳴るというふうに設定します。使ってみるとせん妄の患者さんなども起きたり寝たり起きたり寝たりすると, そのたびにコールが鳴りっ放しになる現象は起こるのですが, しかし, 転落は未然に防げます。行ったらもう起き上がっていますので。患者さんがベッドから足を, 次にどうやって下ろそうかと思案しているところにナースが到着するといったあんばいです。そういうものを使っています。うちはこれを2台使っていて2台出っ放しになるときもありますが, たぶん3台以上になるとナースがコールに対応しきれないんじゃないかということと, 3台一緒に使うことが今まではなくてすんでいます。
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