■スピリチュアリティのもつ力
では, ここで問題とされているスピリチュアル, もしくはスピリチュアリティというのは何なのでしょうか。その一例として, パラリンピックのことを考えてみて下さい。
オリンピックのシンボルマークは, 地球上の5つの大陸を5つの輪に象徴したものだといわれています。ではパラリンピックのシンボルマークはどのようなものでしょうか。それは赤・青・緑の3色で3つの焔(ほのお)を描いたものです(図4)。赤はマインド, 緑はボディ, 青はスピリットです。事故で片方を失った人が1m80のハイジャンプをどうして跳ぶのか。普通の人でもむずかしいことなのにそれができるというのは, 何かその人を押し出している目に見えないパワーが働いているのではないかと考えてしまうのです。YMCAのマークは逆三角形ですが, これもそれぞれの三辺がボディとマインドとスピリットを表しているものです。信仰をもつ人には信じることである力が与えられているとは思いますが, それと似たようなものが人間には賦与されているのではないでしょうか。乙武洋匡君のように, 手も足もないのにさわやかに生きている。一体何が彼をそうさせているのか。ヘレン・ケラーは, 三重苦といわれる障害をもっているのに輝いていたのは, そこに何かのスピリットがあるからではないでしょうか。
図4 パラリンピックのロゴ・マーク
すべての人が病むのですから, 人は健康という状態でありつづけることは不可能なことなのです。病んでいるにもかかわらず, どうすれば輝いていることができるのかということになると, やはり身体的な状態のほかに, スピリットの問題とか, 生き方の問題などが非常に大きな影響を及ぼすのではないかと思うのです。
図5 「健康」の意味を語源から探る
「健康」の意味と成り立ち
“健康”という文字から考えてみましょう。「康」は安らかという意味です。「健」は人偏(にんべん)に建築の建という字を書きます。これは「人がしっかりと建っている」ことを意味するのではないでしょうか。「健忘症」「健啖家」「健脚」などというように, 「健」という漢字のもつ意味は「程度がはなはだしいこと」をも含みますが, 私の解釈では, 健やかであるとは, 「人が自立して建っている」状態です。
外国では, “Health”という言葉はギリシャ語のHolosからきたもので, アングロサクソンの古い英語ではHãlといっていました。ギリシャ語のHolosは, またWhole(全体の)とか, Holy(神聖な)という単語の語源ともなっているものです(図5)。したがって, Healthという言葉はもともと内的なものを含んでいるものなのです。ですから, 私たちが手や足や目が不自由だというようなことがあっても, 体の他の部分がそれを補うことによって, 全体としてはその体が健やかになるということがあるのです。先ほども触れたように, どこにも欠陥がないなどということは人間にはありえないことなのですから, どこかが少しばかり悪いからといって, それでめげることも, 嘆くことも当たらないと申し上げたいのです。これからはもっともっと医療が進歩を遂げるでしょうから, すべての人にもっと欠陥が見つかるようになるでしょう。これからは病名ももっといくつもつくようになるでしょう, まるでたくさんの勲章のように。それはアラがよく見つかるようになるからです。
医療が進むと病気が減ると思っているのは大間違いです。病名はどんどん増えていきます。その病名が増えても, それにわずらわされないで, 健やかに生きる生き方は何であるかを考えていかなければなりません。
脳のMRIをとることが流行っていますが, いちばんMRIをとらないのは医師ではないでしょうか。最近物忘れをするとか, 薬の量を間違えるというような医師でも, 大体はとっていないでしょう。自分のスカスカの脳を見るとガッカリするからでしょう。それならば知らないほうがいいと思うのかもしれません。MRIの検査を受けたことによってますます何かの病名がつけられて気持ちがうつ的になっていくということもありえますから, MRIをとるように勧められても, 「先生はおとりですか?」と尋ねてみるのもいいかもしれません。私たちのクリニックでは, そういう余分なことはなるべくしないようにして, 病気を無理につくらないようにしています。しかし, いまのところ症状はなくても, いまのような生活をし, いまのような食事をつづけていけば明らかにこうなるということがわかる場合には, 私たちは警告を発しています。
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