標準化が予期される分野・項目の補足(7)
分野 |
環境・資源循環分野 |
項目 |
バラスト水交換・バラスト水処理 |
現況 |
(1)IMOの審議状況
地球規模の海洋環境保護問題として、船舶の運航に不可欠なバラスト水を媒体とする有害水生生物の国際間の移動・拡散が問題となっている。
その対策としてIMOで新条約の策定が検討されていたが、2003年7月開催のMEPC49で作成された条約案が外交会議(船舶のバラスト水管理に関する国際会議、2004年2月9〜13日開催)で審議され、新条約の「2004年の船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理に関する国際条約」(
International Convention for the Control and Management of Ships' Ballast Water
and Sediments, 2004 )が、2004年2月13日採択された。
新条約は、船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理を通じて有害な水生生物及び病原体の移動による環境、人の健康、財産、資源への危険を防ぐことを目的としている。他国の管轄区域を航行する船舶に適用され、バラスト水管理(バラスト水交換又はバラスト水処理)を実施しなければならない。バラスト水管理は、船舶の建造時期とバラスト水容量に応じて、バラスト水交換を選択できる期限を定めており、最終的には、D-2規則(バラスト水性能基準)に従ってバラスト水処理をしなければならない。バラスト水交換基準、バラスト水性能基準、バラスト水管理計画・バラスト水管理記録簿の作成・保持義務、バラスト水処理装置等に係る定期的検査の受検(400総トン以上)の義務付け、寄港国での監督、沈殿物受入施設、モニタリング、基準の見直し等を規定している。
また、条約の具体的な規制は、ガイドラインによることとなっており、MEPCバラスト水WGの議長指示により、ガイドライン策定のためのCGが設置され、当初6つのガイドライン(バラスト水交換、サンプリング、バラスト水管理免除及び追加的手法、バラスト水処理装置の型式承認、プレジャーヨット、沈殿物)の策定が指示されたが、条約会議の決議1において、今後の本条約に係わる作業として、上記の6つを含めて以下の10のガイドラインを策定することが採択された。
1. 沈殿物受入施設に関するガイドライン(第5条、B-5規則で引用)
2. バラスト水サンプリングに関するガイドライン(第9条で引用)
3. プレジャー及び捜索救助船のバラスト水管理の同等適合性に関するガイドライン
(A-5規則で引用)
4. バラスト水管理計画に関するガイドライン(B-1規則で引用)
5. バラスト水受入施設に関するガイドライン(B-3規則で引用)
6. バラスト水交換に関するガイドライン(B-4規則で引用)
7. 追加的手法及びリスクアセスメントに関するガイドライン(C-1規則、A-4規則で引用)
8. バラスト水管理システムの承認に関するガイドライン(D-3.1規則で引用)
9. 化学薬剤、殺菌剤等に関するガイドライン(D-3.2規則で引用)
10. バラスト水処理技術試作に関するガイドライン(D-4で引用)
バラスト水の交換に関するガイドライン及びバラスト水処理装置の型式承認に関するガイドラインについては、CGコーディネーターから外交会議にインフォメーションペーパが提出された。今後のスケジュールは、まず2004年3月開催のMEPC51で検討され、2005年春開催のDE48で技術的な検討が予定されている。
(2)バラスト水処理技術の現状
現在のところ各国で開発中の主なバラスト水内生物処理技術については、(1)ろ過法、(2)熱処理法、(3)紫外線法、(4)オゾン法、(5)無酸素法、(6)ガス飽和法、(7)電気化学法、(8)化学処理法、(9)ろ過+紫外線、(10)遠心分離+紫外線、(11)機械的殺滅法(日本)等によるものがあるが、処理性能、価格、運転コスト、簡便性、二次影響等一長一短あり、実用化には多くの課題克服が必要な状況下にある。化学薬品による処理については、二次汚染への懸念があり、塩素使用の場合は、塩素処理されたバラスト水排水時、有機化合物/塩素の反応により発ガン性物質を生ずる問題がある。
2003年7月にIMOで開催された第2回シンポジュームで発表された処理システムはMultiple Technologies and Combinedシステムが10件と最も多く、処理装置開発の国際的な主流になっている。これらシステムは、全てがろ過あるいは遠心分離で大型の生物を除去した後に、殺菌剤やオゾンおよびUVで小型の生物を処理する方式である。この傾向は、処理基準が大型生物から10μm程度の植物プランクトンおよび微小なバクテリアまでと広範囲な生物対象にすることになったため、ろ過等のMechanicalシステム単独では小型の生物には対応できず、Mechanicalシステムの開発者が殺菌剤等と組み合わせるシステムに転換している状況を反映しているようである。
(3)国内の対応状況・調査研究の状況
(社)日本海難防止協会(日海防)は、14年度までに開発した機械的殺滅法によるバラスト水処理装置(固定スリット板、可動スリット板、固定衝突板、可動衝突板及び閉塞対策のために可動板を移動させる機構を持った特殊パイプに処理水を通し、水生生物を機械的に殺滅する)を、15年度に実船に搭載し、効果を実証予定。
日本郵船は、蒸気から発生するキャビテーションの衝撃波による物理的な殺滅・殺菌効果で水生生物を破壊し、さらに、同時に少量のオゾンによる相乗効果で化学的な殺菌効果により効果を高める方法を開発中。
商船三井は、目詰まりを逆流洗浄と高圧噴流洗浄を組み合わせた独自の新洗浄方法で解消した専用フィルターで浄化するフィルター式バラスト水処理方法を開発中。 |
規格化の可能性 |
最大の課題は、現状対応するバラスト水処理装置がないため、バラスト水処理技術・装置の開発及びその性能評価基準の策定である。
次の標準化が考えられるが、ガイドライン等のまとまり方をみて、検討すべきと思われる。
(1)バラスト水処理・管理方法の技術基準などを標準化する。
なお、ISO/TC8/SC2「02.24」新作業項目として取り上げられているが、動きは見られない。
(2)バラスト水の分析法、許容バラスト水の基準を標準化する。
(3)その他条約の履行に関連するもの。 |
規格の内容 |
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緊急度 |
急がない |
参考資料 |
1. 平成14年度船舶バラスト水等処理技術調査研究報告書(平成15年4月(社)日本海難防止協会) 2. (BWM/CONF/36)
ADOPTION OF THE FINAL ACT AND ANY INSTRUMENTS, RECOMMENDATIONS AND RESOLUTIONS
RESULTING FROM THE WORK OF THE CONFERENCE INTERNATIONAL CONVENTION FOR THE CONTROL
AND MANAGEMENT OF SHIPS' BALLAST WATER AND SEDIMENTS, 2004
Text adopted by the Conference 3. (BWM/CONF/37) ADOPTION OF THE FINAL ACT AND ANY INSTRUMENTS, RECOMMENDATIONS
AND RESOLUTIONS RESULTING FROM THE WORK OF THE CONFERENCE FINAL ACT OF THE INTERNATIONAL
CONFERENCE ON BALLAST WATER MANAGEMENT FOR SHIPS, 2004
Text adopted by the Conference |
備考 |
・対応できるバラスト水処理装置の技術がないのが現状である。単独のもので対応できるものでなく、バクテリア、プランクトンのそれぞれに対応して処理するコンビネーション方式が実用化の方向と思われる。世界の開発情報を集めて分析し技術評価することが重要と考える。基準より一歩手前の評価の段階である。16年度も力を入れてやる。(国土交通省海事局安全基準課談) ・バラスト水処理装置の型式承認基準等を作成するため、HKに委員会が設けられ、バラスト水処理装置の技術開発の調査を含めて、調査検討が行われている。 ・条約の発効は、30ヵ国が批准し、かつ、その合計商船船腹量が世界の35%以上となった日の12ヵ月後となっているが、現状対応できるバラスト水処理装置がないこともあり、発効は非常に難しいとみられている。しかしながら、米国、オーストラリアは国内法で規制することが予測され、事実上世界的な規制になる可能性があるものとして対応する必要がある。 |
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「2004年の船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理ための国際条約」の概要
(条約の目的)
船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理を通じて、有害な水生生物及び病原体の移動により生じる環境、人間の健康、財産及び資源への危険を防ぎ、最小化し及び最終的に除去すること、管理から生じる望ましくない影響を避けること及び関連する知識及び技術の発達を促進することを目的としている。
2004年の船舶のバラスト水及び沈殿物の規制及び管理ための国際条約
(2004年2月13日採択)
1条 定義
2条 一般的義務
締約国はこの条約及び附属書の完全な実施を約束する。
この条約は締約国がより厳しい措置をとることを妨げない。
3条 適用
締約国を旗国とする船舶に適用する。
ただし、バラスト水を積載しない船舶
一の国の管轄水域内又は公海のみを航行する船舶
軍艦、政府所有船舶
等を除く。
4条 船舶のバラスト水及び沈殿物を通した有害水生生物及び病原体の移動の規制
締約国は自国を旗国とする船舶のこの条約及び附属書の規定を遵守させる。
締約国は港内及び沿岸水域内でのバラスト水管理に関する国の方針、戦略及び計画を作成する。
5条 沈殿物受入施設
締約国はバラストタンクの清掃又は修理を行う港等のうち必要な場所において、沈殿物受入施設をできる限り整備する。
6条 科学的及び技術的研究及びモニタリング
締約国はバラスト水管理に関する研究を推進し及び監視を行うよう努力する。
7条 検査及び証書
締約国は自国を旗国とする船舶が検査を受け証書の発給を受けることを確保する。
第2条及び附属書C部により追加的措置をとる締約国は他の国の船舶に対し追加の検査及び証書を要求しない。
8条 違反
9条 船舶の検査
ポートステートコントロールに関する規定(バラスト水のサンプリングをガイドラインに従って行うことができる。)。
10条 違反の発見及び船舶の監督
11条 監督措置の通報
12条 船舶の不当な遅延
13条 技術支援及び協力並びに地域協力
14条 情報の送付
15条 紛争の解決
16条 国際法及び他の協定との関係
17条 署名、批准、受諾及び加入
18条 効力発生
30ケ国が批准し、かつ、その合計商船船腹量が世界の35%以上となった日の12カ月後に発効
19条 改正
20条 廃棄
21条 寄託
22条 用語
附属書
A部 一般規定
A-1規則 定義
A-2規則 一般的適応性
バラスト水の排出はバラスト水管理を通して行わなければならない。
A-3規則 適用除外
安全確保上やむを得ない場合、同一場所での汲み上げ及び排出等は適用除外
A-4規則 免除
締約国は、次の場合、B-3規則又はC-1規則を免除できる。
・特定の港等の間の航海であること。
・5年以内の有効期間とし中間に見直しをする。
・他の場所のバラスト水との混合がないこと。
・ガイドラインに従ったものであること。
適用除外はIMOに通報後に有効となる。
A-5規則 同等適合性
長さ50m未満でバラスト水容量8トン以下のレクレーション又は競技用のプレジャー船又は捜索救助用の船の同等適合性はガイドラインによる。
B部 船舶の管理及び規制の要件
B-1規則 バラスト水管理計画
船舶は主管庁の承認を受けたバラスト水管理計画を船上に備え実施する。
B-2規則 バラスト水記録簿
船舶はバラスト水記録簿を船上に備える。バラスト水記録簿は最低2年船上に保管されその後3年以上会社に保管される。
B-3規則 船舶のバラスト水管理
バラスト水の排出は、D-2規則(バラスト水性能基準)に適合して行わなければならない。 ただし、船舶の建造年及びバラスト水容量に応じ、以下に示す期間はバラスト水洋上交換によっても良い。
(1)2008年末までに建造される小型船(バラスト水容量1500立米未満)
2016年まで
(2)2008年末までに建造される中型船(バラスト水容量が1500立米以上5000立米以下)
2014年まで
(3)2011年末までに建造される大型船舶(バラスト水容量5000立米超)
2016年まで
B-4規則 バラスト水交換
バラスト水交換は、最も近い陸地から200海里以上離れた水深200m以上の場所で実施する。
上記に適合できない場合でもできる限り最も近い陸地から離れて行うこととし、いかなる場合にも、最も近い陸地から50海里以上離れた水深200m以上にて実施する。
それでも実施できない場合、寄港国はバラスト水交換水域を設定することができる。
B-5規則 沈殿物管理
バラスト水管理計画に従いバラストタンクから沈殿物を除去及び廃棄する。
新造船は沈殿物の汲み上げが抑制され除去が容易であるような設計及び構造とする。
B-6規則 船員の責務
船員はバラスト水管理及びバラスト水管理計画に精通しておく。
C部 特定の場所の特別要件
C-1規則 追加的措置
締約国は、国際法に適合することを条件に、IMOで作成するガイドラインを考慮して、必要な場合、特定の要件に適合することを船舶に要求できる。
上記要件を設定する前に隣接国等に協議する。
少なくとも緊急時を除き6ケ月前にIMOに通報する。
C-2規則 特定の場所でのバラスト水汲み上げ及び関連する旗国の措置に関する警告
締約国は管轄水域における有害水生生物の異常発生等に関する警告を発するよう努める
C-3規則 情報の送付
IMOはこの部の規定により送付された情報の提供を行う。
D部 バラスト水管理基準
D-1規則 バラスト水交換基準
バラスト水交換は95%以上の容積を交換するものとする。
3倍量ポンピングスルー方式でも良い。また、95%以上の交換と同等であれば3倍量未満のポンピングスルー方式でも良い。
D-2規則 バラスト水性能基準
バラスト水の排出は次による。
サイズが50μmより大きい生物の生存数が1立米あたリ10個未満、かつ、
サイズが50μmより小さく10μmより大きい生物の生存数が1mlあたリ10個未満
さらに、指標微生物が少なくとも次のもの以下。
病毒性コレラ菌(O1及びO139)100ml 中1個未満
大腸菌 100ml 中250個未満
腸球菌 100ml 中100個未満
D-3規則 バラスト水管理システムの承認要件
化学物質を使用するもの等はIMOによる承認が必要であり、それ以外のものは主管庁の承認が必要。
D-4規則 バラスト水処理技術開発計画に参加している船舶
バラスト水処理技術の試験及び評価のために主管庁が承認した計画に参加する船舶は、D-2規則の適用を5年間猶予される。
D-5規則 IMOによる基準の見直し
D-2規則における最も早い日の3年以上前に、また、その後定期的に、基準の見直しを行い、 必要であれば条約改正を行う。
E部 バラスト水管理の検査及び証書の要件
E-1規則 検査
総トン数400トン以上の船舶は検査(最初の検査、更新検査、中間検査、年次検査、追加検査)を受ける。
E-2規則 証書の発給又は裏書
検査合格後、国際バラスト水管理証書が発給される。
E-3規則 他の締約国による証書の発給又は裏書
E-4規則 証書の様式
E-5規則 証書の有効期間及び効力
附録1 国際バラスト水管理証書の様式
附録2 バラスト水記録簿の様式
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