II. ジャマイカ観光の現況
社団法人海外運輸協力協会・観光開発研究所 前野 靖彦
国土交通省からの委託で平成14年に実施された国際観光開発促進協力調査にて、ジャマイカを訪問した。そのジャマイカ観光の現況を報告する。
1. 基本指標
国名 ジャマイカ 面積 11,424km3
人口(1999年) 260万人
首都(人口) キングストン 70万人
GNP(1999年) 6,041百万ドル
国民一人当りGNP(1999年) 2,330ドル
主要民族 黒人90%
主要言語 英語(公用語)
宗教 プロテスタントなど
政体 英国女王を君主とする立憲君主国
通貨 ジャマイカ・ドル(1米ドル=47Jドル)
主要産業 鉱業(ボーキサイト)、農業(コーヒー、砂糖、バナナ)、工業(アパレル、食品加工)、観光。観光は国民総生産高(GNP)の中で20%以上を占める。
2. 観光行政
国レベルの観光政策は、工業・観光省(Ministry of Industry & Tourism)が策定して、その内容の種別によって同省の下部エージェンシーが実施をしている。
【観光振興関連−ジャマイカ・ツーリストボード(JTB)】、【観光開発・基準設定・人材育成関係−ツーリズム・プロダクト・デイベロップメント会社(TODCO)】、【海外からのツアー客のパイロット・セールス(米国テキサス州からのチャーターフライトの仕掛けなど)−ジャマイカ・バケーションズ(JAMVAC)】、【国内ホテル予約実務−ジャマイカ・リザーベーションズ(JRS)】
3. 観光政策
―ジャマイカは以下の目標を目指している。
(1)観光を国の生産性と経済成長を高める原動力(エンジン)にすること
(2)観光産業の成長、多様化、及びその持続性(サステイナビリテイ)を図る
(3)観光に関連する省庁及び民間観光産業との建設的かつ持続的な協力関係の維持
(4)観光客受入れのハード及びソフト面での持続的な開発と改善
4. 観光開発・促進・環境対策
(1)観光開発 ―北部にあるオーチョ・リオスやモンテゴ・ベイ等のビーチ・リゾート開発はほぼ完了されている。現在、未開発の南部海岸地域の観光開発プロジェクト(South Coast Sustainable Development Project)に取り組んでいる。
南部地域海岸地区の観光開発は、持続的開発の面から次の事項を重視している。
・自然、文化遺産、地域社会(コミュニテイー)と調和した開発
・漁業資源の保全
・行政支援の仕組みと法令等の見直し
・自然・海洋保護地域の的確な管理
・道路、上下水道等のインフラ整備
(2)観光促進 ―ジャマイカ・ツーリストボード(JTB)が中心となって、世界の主要観光市場へ向けジャマイカへの観光客誘致プロモーションを行っている。ニューヨーク、ロンドン、東京等を含む海外の主要市場の8都市に独自のジャマイカ政府観光局を設置して、観光客の誘致活動をしている。
(3)環境対策 ―国家環境計画庁(National Environmental Planning Agency NEPA)が環境関連の法律・法令に基づいて観光開発案件の審査を実施している。全ての新規観光開発プロジェクトにおいて、個別に詳細な環境評価(EIA: Environmental Impact Assessment)が義務づけられている。工業・観光省傘下のTPDCOでは観光地の評価を維持・高めるために持続的環境づくり方策(Sustaining the Environment and Tourism SET)の策定と実施により、各観光地の美化運動や地元社会への美化・環境保全の告知運動を行っている。
5. 観光人材育成
工業・観光省傘下のTPDCOが国レベルの観光人材育成プロジェクトとして1997年以後、チーム・ジャマイカ・プロジェクト(TEAM JAMAICA PROJECT)を進めている。当プロジェクトでは、旅行産業の従事者に対して西インド諸島大学(U.W.I.)、工科大学(UTECH)等の協力のもと研修を実施している。所定の研修・訓練の修了者へチーム・ジャマイカ(The Team Jamaica Certificate)を授与する。現在までに約5000人にこの証書が授けられている。単に職業訓練だけでなく、現場管理、経営、研修・訓練指導者も対象にしている。
6. 観光資源
(1)主な観光地域 ―ジャマイカの面積11,000はカリブ地域で3番目に大きな島。白砂のビーチ、滝、川、豊富な野生小生物、洞窟等自然が豊かな島。大きく地域分けをすると以下の通りに5地域に分けられる。
1)キングストン(ジャマイカの首都):国際空港があるカリブのビジネスの中心地。レゲエの故郷(レゲエの王様ボブ・マリーの博物館)。郊外のポート・ロイヤル(17世紀に地震で一部海底に没した海賊モーガンの本拠地)。かつての首都スパニッシュ・タウン、ブルーマウンテン・コーヒーで有名なブルーマウンテン。
2)ポート・アントニオ(隠れ家的リゾート):バナナの積み出し港。マリーナが整備され、クルーズ船も寄港。
3)オーチョ・リオス:リゾートホテルも多く、観光客、クルーズ埠頭が整備されてクルーズ客が多い。ダンズリバーの滝、3キロのシダの渓谷等。イルカと遊泳できるドルフィンコーブ、アドベンチャー体験の出来るチュッカコーブなどのアトラクション。免税のショッピングセンターも充実。
4)モンテゴ・ベイ:ジャマイカのもう一つの国際空港がある2番目に大きな都市。白砂のビーチにリゾートホテルが点在している。郊外にはマーサブレア川の筏くだり、竹のアーチが10キロも続くバンブーアベニュー、ワニが棲息するブラクリバー、アップルトン・ラム工場等がある。
5)ネグレル:
1970年代にヒッピーによりその良さが知られるようになった。11キロの白砂ビーチが続く。オーチョ・リオス、モンテゴ・ベイに比べ小規模。夕陽が有名。
7. 自然観光資源以外の特有の観光資源
(1)文化資源: 1)ジャマイカはレゲエ発祥の地(キングストン ―レゲエの王様ボブ・マリー博物館や銅像)、2)歴史的な見所 ―a.キングストン近郊のポート・ロイヤル(16世紀の海賊の本拠地)、スパニッシュ・タウン(かつての首都)、b.英国植民地時代の広大なプランテーションの主の館(グレートハウス)― オーチョ・リオス近郊のセヴィルグレートハウス、モンテゴ・ベイのローズホール等、3)ラム酒の製造過程(アップルトン・ラム工場)、ブルーマウンテン・コーヒーの農園見学等、4)その他、代表的ジャマイカ料理― スパイシーな調味料につけ込み焼いた“ジャーキーチキン”、“ジャーキーポーク”。
(2)ショッピング:オーチョ・リオス、モンテゴ・ベイ等の観光地 ― 観光客やクルーズ客を対象にしたショッピングセンターやクラフトマーケット。
(3)アトラクション
観光客の85%を占める北部リゾート地域におけるアトラクションは大別すると、自然に親しむものと観光に分かれる。1)自然に親しむもの:オーチョ・リオス近郊―ダンズリバー滝登り、筏による川下り、イルカとの遊泳など、2)ジャマイカらしい観光アトラクション:「キングストン・レゲエ・ミュージックツアー」、「ブルーマウンテン・コーヒーの農園ツアー」、「アップルトン・ラム酒工場ツアー」など。
(4)スポーツ:ダイビング―北部沿岸では透明度が高く1年を通じてダイビングが出来る。オーチョ・リオス、モンテゴ・ベイ、ネグリルではダイブショップが充実。
(5)ゴルフ:キングストンに2コース、ポート・アントニオに1コース、オーチョ・リオスに1コース、モンテゴ・ベイに4コース、ネグリル、マンデビルにそれぞれ1コースある。
8. 外国人訪問者の動向
(1)外国人訪問
2001年の総外客数1,276,500人の中、米国が916,700人(71.8%)、欧州180,600人(14.2%)、カナダ111,200人(8.7%)。
フライト時間が比較的短い米国が7割を占める市場。フライト時間が6〜4時間であるニューヨーク他13州)から396,003人で43.2%、南部(フロリダ州他11州)からが28.2%。
2001年9月11日の米国多発テロの影響は、対前年度、地上泊訪問者数で-4.5%、クルーズ客数で-7.5%。
2001年のクルーズ客総数において、オーチョリオスへ77.6%、モンテゴ・ベイへ22.3%、ポート・アントニオへはわずか0.1%。オーチョリオスへの寄港数が多いのは、クルーズ埠頭が一度に3隻のクルーズ船に対応出来る他、免税ショッピングセンター、土産店、レストランなどがある市街地が極めて近いこと、近隣に滝上り、乗馬他のソフトアドベンチャーが楽しめる数力所の観光施設、川の筏下りなどのアトラクションがあることもあげられる。
(2)日本人訪問者
日本人訪問者数の推移
1988 |
1989 |
1990 |
1991 |
1992 |
1993 |
1994 |
1,800 |
3,000 |
6,000 |
11,500 |
16,000 |
19,000 |
22,500 |
1995 |
1996 |
1997 |
1998 |
1999 |
2000 |
2001 |
25,000 |
24,000 |
15,775 |
10,781 |
8,411 |
7,779 |
5,446 |
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出展:Caribbean Tourism Organization(CTO):CR Management Ltd.
1988年の1,800名から1995年の25,000名、約14倍に数字が延びた背景:
1)1998年、東京にジャマイカ政府観光局開設
2)日本との関係が官民ともに緊密化したこと;1992年に駐日ジャマイカ大使館開設、1995年に日本大使館のジャマイカ設置。ブルーマウンテイン・コーヒーの8割を日本が輸入。若者に人気の高いレゲエ音楽発祥地(歌手ボブ・マリー他)。
しかし日本人訪問者数は1996年以後、減少続け2001年には5446名になった。減少の理由は1997年以後、本国の財政事情により在東京ジャマイカ政府観光局の活動の縮小、1999年4月の日航のアトランタ線の運航中止(乗り継ぎでジャマイカヘ多くのツアー客を送り込んでいた)、日本経済の不況の深まりなどによる。
9. 北部地域の観光に於ける日本のODA
(1991年度有償資金協力)効果について
円借款によるジャマイカ「北部地域開発事業」の一事業の北部海岸道路建設について、モンテゴ・ベイ〜ネグリル間(83キロ)はすでに完成している。モンテゴ・ベイ〜オーチョ・リオス間(107キロ)でも高速道路建設工事が進められていた。国際協力銀行発行、「ODA円借款レポート2003」によると今年9月に北部海岸道路完工式が行われた。
北部海岸道路、上下水道他のインフラ基盤を整備したことが、オーチョ・リオス、モンテゴ~ベイへの質の高いホテル建設投資や諸々の観光施設を誘引し、人口260万の島に年間、北部地域を中心に地上泊客・クルーズ客を合わせて210万人の観光客が来島するに至った今日のジャマイカ観光の興隆に大いに貢献している。(1990年:123万人)
10. 今後の国際協力の可能性と方向について
(1)工業・観光省のガントリー次官補(観光担当)と面談の際に、次官補は現在、クルーズ客と地上泊を伴う観光客が北部地域に集中している状況下、南部のキングストン首都圏へのクルーズ客と観光客の誘致を図る必要性を協調した。その目玉として17世紀にカリブの海賊の本拠地であったポート・ロイヤル歴史的遺産地域の整備とクルーズ船バース・ターミナル建設が欠かせないこと、先進国のODAへの期待を述べた。
(2)国際協力への方向:次の国際協力が考慮される。
・研修員の受け入れ
・日本、東アジアの観光客振興マーケテイング戦略での協力
・工芸品専門家派遣(竹が豊富なことから竹細工など)
・海洋環境保全專門家派遣(ビーチ・マリーン観光資源の劣化防止)
・森林保全専門家派遣(ザイマカ→ジャマイカ「木と水の大地」。緑濃く120本の川が海に注ぐ。滝登り、竹筏の川下りなど自然を活用した観光の環境保全)
質疑応答
【質問1】
国民の人種は黒人ということであるが、特に、高級ホテルなどの資本をもっている人は黒人か。
【回答1】
国民はもちろん、政府の要人も黒人である。しかし、高級ホテルのオーナーについては、バハマに住んでいる資産家の白人もいると聞いている。
【質問2】
ジャマイカへの政府開発援助(ODA)は、ジャマイカ国民に対する国際協力となっているのか。観光事業への投資家のみが便益を受けることになってはいないか。
【回答2】
日本のODAで実施された「北部地域開発事業」は、インフラ整備が主な事業となっており、例えば、道路整備により冠水することがなくなり、生活道路として安定的に利用できるようになった。このため広く国民への利用が可能となり、国民の便益となっている。特に、観光事業への投資家のみが便益を受けているわけではないと思われる。
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