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5. 調査研究報告
I. 運輸分野におけるCDM推進の課題
運輸協力研究センター 元主任研究員 竹内 義治
(現所属:財団法人日本気象協会)
1. はじめに
 運輸分野からの燃料燃焼による二酸化炭素(CO2)排出量は、2000年時点で気候変動枠組み条約付属書。国合計でおよそ40億トン(CO2分)で全体(約146億トン)のおよそ28%である(出典:UNFCCC Greenhouse Gas Inventory Database; 2000年)。
 我が国では二酸化炭素総排出量12億3700万トン(2000年度)のうち20.7%が運輸部門からの排出となっている。世界的な割合から見ると低くなっている。国土交通省の資料によれば全ての自動車からの排出量は運輸部門の約87%を占めており、自動車排ガス対策の重要性が高いことを示している。
 
2. CDMの現状
 国連気候変動枠組み条約のホームページ(文末参照)によれば、2003年10月上旬時点で、30件余のCDMプロジェクトがCDM理事会に対して認可申請されている。そのうち2件はCDM手法としてCDM理事会から認可されており、24件が審査中、8件が不認可となっている。プロジェクトは小規模なものが多く、廃棄物埋め立て地からのメタン回収関連が5件、コジェネと燃料転換関連が5件、バイオマスエネルギーが5件、水力発電4、風力発電2等となっており、現時点で運輸分野のCDMプロジェクトは1件も申請されていない。
 CDMの運用体制としては、CDMプロジェクトの有効性やモニタリングによる二酸化炭素クレジット(CER)の認定を行う運営組織(OE)は、現在15団体が申請中で年内にも2団体(1団体は日本)がCDM理事会で認定されDOEとして誕生する見通しである。日本の申請6団体のうち3団体が運輸分野も含めて申請しており、運輸分野のCDMについての運営体制が整いつつある。また、日本OE協会も発足した。国は関係5省からなる京都メカニズム連絡会を設け、CDMの相談・受付窓口を開設している。
 
3. 地球温暖化対策の取り組みから見た運輸分野CDMの類型
 我が国のCO2削減枠が大きいことや近年の経済情勢から温暖化対策や省エネに積極的に取り組んでいる企業や団体が多く、その中には開発途上国でそれらを事業化すればCDMプロジェクトとなりうるものも含まれている。そこでアンケート調査からCDMプロジェクトの類型を整理した。
(1)自動車を対象としたCDM事業
 自動車を対象としたCDM事業の例としては、以下のような事業が想定される。
・タクシーやバスの低燃費車(CNG車、ハイブリッド車等)への転換
・バイオマス資源による低CO2排出車や再生可能燃料(エタノール)自動車の導入
・交通流対策(バスレーン設置、バス優先信号、都心部への乗り入れ規制等)
・タクシーの運行効率化(タクシー無線、待合所でのアイドリング規制等)
・運送業における低CO2排出車の導入や経路の適正化によるCO2排出削減
・トロリーバスの導入や省エネ型トロリーバスヘの転換
(2)鉄道
 従来型鉄道車両から省エネ型鉄道車両への転換が現実的なCDM事業としてヒアリング調査から浮かび上がってきた。これは公共輸送手段として鉄道の充実によるモーダルシフトと併せて実施することにより、より効果的なCO2削減事業になりうる。
(3)船舶
 開発途上国では船舶からのCO2排出量の割合が大きな国もあり、CDMの可能性としては、以下のような事業があがった。
・エネルギー効率の良い船舶の導入
・船舶における排エネルギーの有効活用
(4)航空
 最も可能性の高いCDMとしては、境界が明確な空港での駐機中の航空機への動力供給を、GPU(Ground Power Unit: 地上動力供給装置)を使用するプロジェクトが可能性として浮かび上がった。
 
4. 運輸分野のCDMの課題
 運輸部門におけるCDMプロジェクトを実施する場合の主な課題は次のとおりである。
(1)手続き上の問題
 ホスト国との対応を円滑に進めるための手続きなどの問題点は次のようになる。
・CDM事業全般についての相談やコンサルテーションを受ける公的機関が無い
・プロジェクトを計画する場合のホスト国との対応を支援する仕組みが不明確
・プロジェクト計画書(PDD)の効果的な記載をサポートする機関や法人が未成熟
・プロジェクト境界でのCO2排出量算定に必要な資料収集等のホスト国側の協力支援対応
(2)技術上の問題
 CDM事業は科学的で透明性の高い方法で、温室効果ガス排出量の算定、ベースラインの設定、リーケージの算定、モニタリングによる排出削減分の算定が義務づけられる。開発途上国においては算定に必要な排出係数や交通量などの温室効果ガス排出に係る活動量に関する基礎データの欠如など、CDM事業推進に最も大きな障害となっている。
(3)資金的な問題
 CDM事業者はCDM事業として認証を受けるための以下の追加費用が必要となる。
・認証を受けるための指定運営組織との契約料
・事業計画段階での温室効果ガス排出量や削減分の算定に必要な費用
・モニタリングにより削減分を実質的に算定する費用
・必要な場合、環境影響評価に係る費用
(4)CDM事業実施のリスク
・発展めざましい開発途上国で、技術的優位性を保っての安定した事業運営のリスク
・政情に不安のあることの多い開発途上国での事業のリスク
・経済的な安定度が低い開発途上国の物価や為替変動に対するリスク
(5)CDM事業の理解の増進
 京都メカニズムやCDMという言葉に対する認知度及び関心度はかなり高かった。一方、どのような事業がCDMとなるかは判断できないなど、理解の増進が必要であることがわかった。
 
5. バンコクでのCDM推進事業の概要
 タイ王国バンコク市を対象として、運輸分野のCDM事業を推進するために必要な基礎資料の蓄積を目的とした調査を行っている。その概要は次の通りである。
(1)走行モード調査
 交通分野のCDM事業を実施するためには、ベースラインを策定し、種々の排出量推定モデルにより二酸化炭素排出削減量を精度良く推定する必要がある。このため実走行による走行状態調査を実施し、得られたデータについて統計解析を行い、代表速度別の走行モードを分析した。現地調査は2003年9月11日〜9月19日の間に実施し、その主な概要は次の通りである。
 バンコク市内の代表車種:乗用車、小型ディーゼルトラック、バスを調査対象車種とした。観測方法
(1)乗用車:タクシー3台にGPS、車速計測装置を設置して通常の営業運転による連続計測
(2)小型トラック:日本通運市内配送用小型トラックにGPS、車速、エンジン回転、NOx濃度の計測装置を設置して連続計測、ただし日曜日は休み
(3)バス:BMTA(バンコクバス公社)所属の3台のバスにGPS計測装置を搭載して通常の営業運転での連続計測
 計測は0.1〜1秒の間隔でサンプリングし、メモリーに保存した。各車種の走行データは6〜8日間について、タクシーはほぼ24時間、小型トラックは概ね日中、バスは早朝(1時頃)から深夜(22時〜24時頃)までの時間帯で取得でき、各試験車両の計測走行距離は約1000km〜4400kmの膨大な量となった。これらのデータを分析して代表走行モードを得た。
(2)排気ガス等の測定
 現地調査で得られた走行モードを用いてシャーシダイナモ試験による排気ガス測定を行う。測定の対象車種等は、ガソリン乗用車、小型ディーゼルトラック、大型トラック、バスである。対象とする排気ガス濃度はCO2のみならず、NOx、CO、PM(ディーゼルのみ)等も含めて測定し、CO2排出量推定の精度検証を行う基礎資料として整備することとしている。
(3)排出係数の分析
 当調査で得られる車速別の走行モードで測定するシャーシダイナモ試験の測定データを分析し、単位走行距離当たりのCO2排出係数及び大気汚染物質(NOx、HC、PM等)の排出係数および単位走行距離当たりの燃料消費量を分析し整備する。
(4)二酸化炭素排出量の試算と手法の検討
 バンコク市内の燃料販売量や交通量データ等を収集し、それらのデータと(2)の排ガス測定から得られる各車種毎の単位走行距離当たりの燃料消費量データ等により、自動車からのCO2年間排出量総量を試算し、CO2排出量算定手法について検討する。
 
6. まとめ
 地球環境問題の中でもとりわけ温室効果ガスの大気中濃度の増加による温暖化対策は、世界各地で温暖化によるとみられる現象が顕在化してきていることから高い優先度が与えられるべきである。運輸分野のCDMプロジェクトは技術的に多くの課題を抱えているが、国土交通省の「地球環境問題解決のためのクリーン開発メカニズム(CDM)推進事業」はそれに正面から取り組む調査研究であり、その成果が期待されるところである。
 
(参考)
国連気候変動枠組み条約CDM理事会ホームページ:http://cdm.unfccc.int
 
質疑応答
【質問1】
 航空分野において、国際線の航空機からの排出削減は、CDMの対象事業とはならないというのはなぜか。地球全体での二酸化炭素の削減に寄与していても、CDM対象事業とならないのか。
【回答1】
 CDM事業は、国と国との間で二酸化炭素の排出量を分け合うという制度であり、国際線の航空機は国境を越えて飛ぶために、その削減量の帰属国がはっきりしなくなり、CDM事業の仕組みには馴染まないためである。
 すなわち、今のところCDMの仕組みそのものが、国ごとの枠組みとなっている。
【質問2】
 資料17ページ以降で、「ヒアリングによる運輸分野のCDMプロジェクトの類型」となっているが、ヒアリング調査は、日本の企業を対象に行ったものか。
 また、これらは低費用でできることが大事であるが、ほんとうに低費用でできるのか。費用計算をしているのか。
【回答2】
 アンケート調査は、世界的な規模で実施した調査ではない。日本の運輸関連の企業や団体のみを対象として調査を実施した。日本の企業の集計値であり、日本の企業がどのようなCDM事業ができるかという観点から実施した調査である。あくまで技術的観点から見たCDMの可能性のある事業としての類型化であり、費用計算はしていない。
【質問3】
 資料38ページのバンコクのCO2排出量推定について、トップダウン方式が紹介してあるが、バンコクでトップダウン方式が採用できるのかお聞かせ願いたい。
 日本の赤本(エネルギー統計)のようなデータが整っていないと、トップダウン方式ではできないのではないか。
【回答3】
 バンコクでの燃料販売量の現地調査から推計することを考えており、バンコク市内の燃料販売量=自動車の燃料消費量と推定し、それに原単位の排出係数を掛けてCO2排出量を推定することを考えている。







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