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III. 東南アジアにおける空港の現状と課題
運輸協力研究センター 主任研究員 新関 陽一
1. はじめに
 東南アジアの国々では経済成長、人口増加が著しく、地形的にも島嶼国、山地、ジャングル等さまざまであり、陸上交通整備も遅れているため、航空輸送は経済発展、観光にとっても必須の交通手段である。このため、拠点としての空港が益々重要な役割を担っており、最近では、アジアの大型空港が次々に開港し、数年後のバンコク新空港の開業により、アジアの開港ラッシュが一段落する。このように、東南アジアの大型空港は、各国の国家戦略のもとにアジアにおけるハブ空港となることを競って、整備が行われてきた。
 また、アジアの航空輸送需要予測は、ICAOはじめ関係各機関において実施されているが、今後も航空輸送需要が増大していくと予想されている。
 しかしながら、今後の経済発展により国際旅客、地域内移動が増大し、拠点空港から地方への旅客移動が増大すると見込まれており、地方空港の充実が今後益々必要となる。
 ここでは、東南アジアにおける空港の課題とその対応の方向性について述べる。
 
2. 東南アジアの地方空港の現状と問題点
 各国の国際ハブ空港は、欧米からの最新鋭大型機が乗り入れており、安全面・設備面でも大きな問題はないが、今後、経済活動、観光等により、国際ハブ空港から地方空港への移動が増加することが見込まれており、以下、東南アジアの地方空港の現状と問題点を取り上げる。
(1)維持管理体制の不備(壊れたら修理するという考え方)
 アジアの国々では、一般的に「壊れるまで使用する」という考え方で施設機器等が使用されており、日本等のような予防的な考え方の導入を含めた維持管理体制の強化が必要である。
(2)不完全なセキュリティー(住民の横断)
 地方空港には、B737ジェット機が離発着しているにもかかわらず、場周柵が整備されておらず、民家が着陸帯にはみ出して例がある。また、離発着のない時間帯には、横断のために空港内に人々が立ち入っている。地方空港においては保安施設・設備が不十分であり、便数も少ないため、実態としてこのような状況を許してしまっているが、航空機に対する保安強化が益々求められている状況から、地方空港の保安施設・設備の整備が必要である。
 
3. 観光における空港の重要性
 安全性向上の観点から地方空港の整備は必要であるが、資金的な問題もあり、現状では地方空港のすべてを一度に整備することはできない。このため、各国はその地方空港の利用状況や将来の需要動向等に応じて重点的に整備していく必要がある。
 ここでは、地方空港を重点整備する際に必要な優先順位づけのための一つの判断材料として、観光における空港の重要性の例を以下に取り上げる。
 例えば、カンボジアのアンコールワットを含むアンコール遺跡群は、世界的な価値のあるアジア有数の世界遺産であり、2001年には航空機を利用してカンボジアを訪れる訪問者の65%が、アンコール遺跡を訪れるまでになっている。
 
表 航空機利用によるアンコール訪問者数の推移
  1998年 1999年 2000年 2001年
アンコール訪問者 34,551 69,939 194,180 264,057
直行便利用者 10,423 28,526 87,012 133,688
航空機利用者総数 186,333 263,789 351,661 408,377
直行便比率 5.6% 10.8% 24.7% 32.7%
備考 BKKchtr Open sky
 
 1997年の内戦のためにカンボジアの観光客は一時的に減少したが、1999年にフンセン首相がオープンスカイ政策を施行し、近隣国からの国際線の直接乗り入れを認可した。このため、首都プノンペン空港を経由することなく直接シェムリアップ空港への乗り入れが可能となった。その結果、シェムリアップヘの航空機による訪問者は、2001年には264千人となり、オープンスカイ政策施行前年の1998年と比べて約8倍に増加した。
 このように、カンボジアの例は、直行便の増加やそれに合わせた施設改修整備等によるアクセス向上が図られたことにより、観光客の増加につながった一例である。
 東南アジアには他にも世界遺産等の観光資源は多く、このような地方空港のアクセス向上施策を実施することが、観光客の増加につながる可能性が高い。
 また、バンコクエアーウエイズはリゾートと文化を結ぶというコンセプトの元に、近隣の世界遺産を巡るツアーを実施しているが、その際にも、地方空港への直行便の乗り入れが効率的な旅行を可能としており、このような地方空港のアクセス向上対策は、航空会社の乗入れを誘致するのに重要であることが認識される。
 
4. 空港運営の重要性
 外国人訪問者を受け入れるに際し、空港における快適性・利便性がサービス水準を印象づける上で重要な要素となる。外国人は自国のサービス水準を期待する。また、外国人は物品の購入単価も高い。見方を変えれば、空港は開発途上国にとって収益が見込める場となる。収益を見込むためには、空港運営において外国人のサービスレベルを満たす必要がある。これらに対応するため、チェックインカウンター、ロビー、免税店、土産店、飲食施設などのレベルアップを図っていく必要がある。
 日本においても、最近ではJRの駅でも商業施設の充実を図っている。このような状況から、空港運営においても、空港は「公共施設」から「商業施設」であるという発想を取り入れる必要がある。また、快適性を提供するためには、空港においてもホテル運営の発想も必要であると思われる。その際、空港運営のノウハウを持っているかが重要となる。
 ハノイノイバイ空港開業当初の国際線出発ロビー内の土産店は机を並べた仮設の状態であり、立派な新空港を建設したにもかかわらず、閑散として不十分なものであった。このような状況は開発途上国の多くの空港で見受けられる。
 一方、パリ空港公団が運営しているカンボジアのシュムリアップ空港では、仮説プレハブ国際ターミナル内でさえもローカルクラフト店を設置しており、運営に対する姿勢の違いが現れている。
 
5. 東南アジアの空港における課題とその対応の方向性
(1)地方空港の安全性確保と重点的整備
 東南アジアにおける既存の地方空港では、空港施設の維持管理が不十分な状況にあり、特に、セキュリティー確保の観点からも保安施設・設備が不十分であり、これらへの対策が必要である。また、空港を整備する場合、各国がその地方空港の観光を含む経済的要因を考慮した将来需要動向を見直し、優先順位付けを行うことにより、重点的に安全基準に合致した空港整備を実施していく必要がある。
(2)空港ターミナル運営への支援協力
 東南アジアの空港ターミナル運営に、FRAPORT、パリ空港公団等の欧米の空港ターミナル会社が進出しているが、日系企業が運営に参画しているのはラオスのビエンチャン空港のみである。日本人出国者の目的地の約半分を占めている東南アジアの空港のうち、特に、日本人利用者が多い空港ターミナルでは、日本人が好む空港運営のノウハウを取り入れるべきであると考える。
 昨今の民営化の流れの中で、欧米流のBOTによる空港整備段階からの民間主導型整備が行われている例もあるが、空港全体の民営化の前段階として、まずターミナル部分の民営化のみを行う方法もある。日本の空港ターミナルは、地方自治体、航空会社、現地の運輸会社等の共同出資による第三セクターにより運営されている場合がほとんどであり、このような、アジア型空港ターミナル運営のノウハウは、途上国のターミナル運営の参考になると思われる。
 
6. 今後の国際協力
 日本は、東南アジアにおいて空港整備に係るマスタープランの策定や、大型ハブ空港整備等の主にハード面の支援・協力をこれまでに実施してきた。その際、開発途上国の空港関係者には、日本人の真面目さや公平さが高く評価されてきた。
 今後は、空港施設のハード面に係わる支援・協力のみではなく、日本がこれまで経験してきた空港ターミナルの運営や航空の安全性確保に係るソフト面の支援・協力を実施していく必要があると考えられる。このことが、東南アジアへの旅行機会の多い日本人の快適な旅行を可能とし、日本人にとって顔が見える効果的な国際協力になると思われる。
 
質疑応答
【質間1】
 今まで、空港整備の分野におけるODAとして、箱ものに対する資金供与はいろいろあったと思うが、日本の空港ビル運営のノウハウ(ソフト面)や共同出資の受け入れについて、実際の現場での感触はどうか。ウエルカムなのか、ノーなのか。
【回答1】
 私が、実際にそれについて質問したことがないのでわからないが、顧客指向でものを考えれば、日本人が多いところであれば、日本が運営してもよいのではないかと思う。
 我々が相手国の航空局と話をした時でも、日本は公平でまじめであるが欧米はそうではないとよく言われる。日本は積極的に売り込むことをしない。言われたらやるという姿勢である点が欧米とは大きく異なっている。
 また、日本も空港の運営面でノウハウを持っているし、いろいろな失敗も経験しており、そういうことを相手国に伝授していくことも必要であると思われる。
 空港整備に対するODAはまだ箱物の段階ではあるが、これからはやはりソフト面が必要であり、欧米の企業ではすでに空港施設の運営に係わっているだけでなく、場合によっては出資も行っている。
 開発もこれから増えないような状況であれば、もう少し日本も欧米のようにソフト面での協力や出資に積極的になってもよいのではないかと、私は思う。
 
6. 閉会挨拶
(株)海外運輸協力協会 理事長 山下 哲郎
 
 本日は、長時間、沢山の方々に最後までご参加いただきまして誠に有難うございました。
 
 基調講演をしていただいた森地先生には、都市交通問題を通じてアジアの未来を見据え、また、教育を含む人材育成までに話を広げながら問題点を明らかにし、我々が向かうべき方向性について貴重なご示唆いただきましたことを、大変有難く思っております。
 
 さて、当協会は、今年で創立30周年を迎えましたが、この30年間にODAをめぐる環境は大きく変化いたしました。
 当協会といたしましても、このような変化に対応するため「運輸協力研究センター」や「観光開発研究所」を内部に立ち上げて、対処しようとしてきました。
 本日は、その研究の一部を皆様方にご披露させていただいたところですが、いろいろな分野をカバーしていることの一端はご理解していただけたのではないかと思われます。
 本日のような「講演会」につきましては、著明な専門家によるご講演、当協会の研究広告などを通じて、今後も継続して参りたいと考えていますが、この他にも、会員の方々への情報提供の一環として、いろいろな報告会を設けています。
 海外の最新情報をテーマとする「運輸分野国際協力セミナー」や、国のご担当者による国際協力の「政策説明会」などであります。
 ご関心の向きは是非ともご出席いただきますようご案内申し上げます。
 
 本日の講演会は、30周年記念事業の一環として開催させていただきましたが、当協会が30年間の長きにわたり、このように活動してこられたのも、本日ご出席いただいている会員各位の皆様をはじめ、日頃ご指導・ご援助をいただいております国土交通省及び日本財団などの皆様方のお陰であります。心より皆様方にお礼申し上げる次第であります。
 協会といたしましては、これからも、国際協力に関わる事業を着実に進めていくことにより、少しでも皆様方にお役に立ちたいと考えていますので、今後とも皆様方の暖かいご支援とご協力をお願いしまして、閉会のご挨拶といたします。
 
 本日は、大変有難うございました。







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