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ロイズリスト ニュースフォーカス
 悪名高い黒ひげの末裔は、現在も東南アジアで活動を続け、国際海運を襲っている。先週、20カ国以上の代表がクアラルンプールに集まり、どのようにして増大する脅威を撲滅すべきか探った。マーカス・ハンドがこれまでの動きを追った。
 
 マラッカ海峡でハイジャックされた2隻の船が奪還されたのを祝いながら、クアラルンプールで開かれた第4回国際海事局(IMB)主催海賊対策会議は幕を閉じた。
 海賊が逮捕される様子を見ると元気付けられるが、東南アジアで急増している海賊行為を実際どのようにして減少させるかという広範囲な問題については、未だに解決されていない。
 「残念なことに、海賊行為の数は減っていない」と2日間にわたる会議の後に開かれた記者会見の席でIMBのムクンダン局長は述べた。昨年は全世界で海賊被害が56%増加し、469件がIMBに通報された。
 海賊問題についてはこれまでに何度も会議が開かれているが、東南アジアに蔓延る海賊対策のための行動は、うんざりするほどのろのろとした過程を経てきた。
 各国の安全問題や対応の難しい司法権問題から話し合いはもつれ、現在のところ、地域での取り組みというのは何一つとして採択されていない。
 これまでこれといった対応策は取られていないが、海賊対策に関わってきた者は、現在まで何度も話し合われてきた問題解決のための地域的取り組みが前進を見せていると考えている。
 日本は、地域の海賊被害撲滅を目指したキャンペーンで大変活動的な役割を担ってきた。
 多くの日本の試みは、慈善団体である日本財団が先頭を切って行ってきたものである。日本財団は、マラッカ海峡の航行援助施設を過去30年以上にわたり支援しており、これまで1億ドル以上の費用を費やしている。
 日本財団の寺島紘士常務理事は、事態が前進を見せていると静かに確信している。
 同氏は、「我々は活動が起こるのを期待して種をまいた。種のなかには現在根を伸ばしているものや、形になろうとしているものがあると感じている」と述べた。
 日本財団は慈善団体ではあるが、国際海運の戦略的水路であるマラッカ・シンガポール海峡を確保することについて、強力な行政及び財政的支持を受けている。
 日本に輸入される石油の80%がこの海峡を通じて輸送されており、日本にとって大変重要なものになっている。
 日本財団は過去3年間にわたり、海賊被害の解決法の発見に活動的に取り組んできた。
 寺島常務は、海賊行為をマラッカ海峡の航行安全問題の一部として見ており、より完全で整然とした枠組のなかで、この2つの問題が同時に対処されるようになってほしいとしている。
 合理的な運用の枠組みが、利用国から沿岸国への財政援助を奨励するとみられる。
「個人的な考えだが、司法権について問題があるのであれば、沿岸国と利用者の間で話し合いを持って、両者にとって適切な枠組を作成することができるのではないかと思う。アセアンの発展に最も重要である海峡の航行安全が、沿岸国と利用国の合意と協力の下、国連海洋法に記されている通り確保されるのが最も重要なことである」
 寺島氏は、日本財団は直接的に物事を行う立場にはないと強調したものの、今年末までに特定の協力案が出されることを確信している。
 日本と沿岸国の共同訓練が受け入れられることが最初の一歩だと見られている。日本海上保安庁は東南アジア海域に年4回船舶を派遣し、共同訓練を実施する予定である。
 「この提案は地域の海運安全強化に日本が真剣であることを示した。これは大変重要な序曲である」とペトロシップ社のアラン・チャン会長は述べている。
 しかし、今後もさまざまな経過を必要するという事実は明らかであり、日本海上保安庁は現在、地域のいずれの国とも訓練の実施に合意していない。
 より効果的な海賊防衛策を確保するために解決しなければならない問題は、地域協力に限ったことではない。
 海賊を逮捕しても、犯罪として海賊行為を取り扱う法律の枠組に欠けている国が多く、容疑者が罰を免れることもある。特に中国は、1990年代後半罰を与えることなく海賊を釈放し、大きな非難を受けた。
 IMBはこれまでずっと各国に対し、海賊を訴追するための法的な枠組として、ローマ条約(SUA88)を批准するよう求めている。
 皮肉にもムクンダン氏は、東南アジアのなかでこの条約の批准を考慮している国はいくつかあるけれど、実際に批准している国はないとしている。このほかに、IMBはComite Maritime Internationalの海賊行為に関する国内法のモデルの採択を奨励している。
 99年に日本の貨物船「アロンドラ・レインボー」を襲撃した海賊15人の裁判は、現在インドで進行しており、高い関心を集めることは間違いないだろう。
 インドには特定の海賊法律はないが、さまざまな罪で海賊を告訴している。インド政府関係者によると、今年末までにこの事件の結末が出るとみられる。
 インドネシアが貨物船Inabukwa号をハイジャックした海賊をどう扱うのかが、海賊の訴追・未然防止に関する国家の能力を問うまた別のテストになると思われる。
 東南アジア各国が海賊対策の調整解決法を見出すまでには、少し時間がかかりそうである。
 各国独自の取り組みは始められており、マレーシアは新高性能スピードボートでパトロールを強化している。
 しかし、政治や社会問題が深刻化するインドネシアの海賊多発地帯は現在も問題を抱えている。
 共同パトロールが実現するのかどうかは、関係各国の政治的意志によると思われる。現在のところ、マラッカ海峡を通航する船舶は各自海賊対策をとる必要がある。
(2001年7月7日ロイズリスト)
 
政府間の協力で海賊撲滅目指す
 インドネシアの政情不安定による法秩序の乱れにより、燃料・施設及び人材の不足等から効果的な治安維持が困難になっている。
 インドネシアの情勢が悪化するにつれ、周辺海域の商業海運が危険に晒されている。
 1997年にアジアが経済危機に襲われて以来、インドネシア海域での海賊被害は47件から昨年は実際の被害及び被害未遂が119件に急増した。
 先日IMB主催海賊対策会議の開催中に海賊事件が発生したが、IMB海賊通報センターの情報をもとに、インドネシア海軍が海賊を検挙した。インドネシア当局が海賊を逮捕したのは初めてのことであり、問題の根源とされるインドネシアの努力をIMBのムクンダン局長は高く評価している。
 2日間にわたるIMB主催海賊対策会議では、東南アジア、特にマラッカ・シンガポール海峡における海賊事件の危機的状況に関するものが中心となった。
 マレーシアとインドネシアの間にまたがるマラッカ海峡では、98年に1件、99年に2件だった海賊被害が昨年(2000年)は75件に急増した。
 マレーシア当局は、海賊対策に懸命に取り組んでいる。
 マレーシア海上警察のムハマド・ムダ司令官は、海賊事件は全長600キロの海峡のインドネシア側で度々起こっていると述べ、「マレーシア海域の体制は万全である。パトロールも強化されており、これまでに2つの海賊グループを検挙している。海賊もマレーシア海上警察の存在にうんざりしている様子で、これからも監視を続けたい」としている。
 実際、マレーシア政府は海賊問題に真剣に取り組んでいる。昨年は20隻の巡視艇に4,000万米ドル、そして今年は10隻の巡視艇を2,600米ドルで新たに購入するなど多額の費用を注ぎ込んでいる。
 しかし、マラッカ海峡のインドネシア側ではほとんどパトロールは実施されておらず、インドネシアの軍人が不法行為に関与しているという問題まで浮上している。
 実際、マレーシア側のマラッカ海峡で船舶を襲撃した海賊は、簡単にインドネシア海域に逃走することができる。海賊を追跡していたマレーシアの巡視艇は、海賊船がインドネシア海域に入ってしまったら、追跡を断念しなければならない。
 海賊はこの限界を知っていて、それを巧みに利用している。
 シンガポール当局は、その領海が狭いこともあり、取り締まりは比較的容易である。
 シンガポール海峡での海賊被害が増加した時には、パトロールが強化され、99年には13件あった被害が昨年(2000年)には5件に減り、今年(2001年)はこれまで被害はない。
 シンガポールのペトロシップ社の会長アラン・チャン氏は、自身の所有する船舶ペトロ・レンジャー号が海賊に襲われた経験を持っており、各国の司法権の問題があるのならば、国連が率いる無国籍パトロールを実施すべきだと述べている。この無国籍パトロールは、船主、保険会社による財政支援、IMOからの指名による日本、マレーシア、インドネシア、シンガポールによる共同オペレーションにより実施可能とも言えるとしている。そしてそれは、地域間合意の枠組の中で実現できるだろうとしている。
 しかし、これまでIMOにはこのような提案は出されていない。
IMO側は、このような提案を行うには、加盟国が関連する委員会に提案を行う必要があるとしており、また一般的にIMO加盟国は、このような協力・調整は地域間の合意で達成できると合意していると述べた。
 一方、これまで三回の政府間会議が、主に日本財団の後援を受けて開催された。日本財団は、これまで効果のなかった2カ国間による取り組みに取って代わる地域協力の枠組の構築を目指している。
 1998年9月にテンユウ号がハイジャックされ、中国人乗組員13名、韓国人乗組員2名が行方不明になった(おそらく殺害された)ことから、日本の商業団体も海賊問題に注目している。
 日本財団の寺島紘士常務理事は、海賊問題が放置された場合、最近経済危機に襲われたアジア経済は再び危険に晒されるだろうと警告した。
 「90年代の中頃から全世界の海賊被害は増加を見せ始め、2000年には1年間に469件もの海賊事件が発生した。前年の99年に比べ、56%も増加している。南シナ海、マラッカ海峡、アンダマン海での海賊被害は増加する一方で、被害が減少する様子は見られない。もしこのような傾向が続くならば、アジアの海上運輸は大きな打撃を受けるだろう。海賊行為の蔓延は、アジアの経済成長を妨げている」と寺島氏は述べ、関係者一同が協力を目指した機能的で目的のある具体的な手段を取る段階に来たと付け加えた。
 IMBは寺島氏の意見に共感するものの、国家の安全問題やその他の問題を含めた司法権問題が解決される必要があるとしている。
 「商業団体は、政府間の協力を期待している。共有・共同パトロールが実現すれば、海賊がある国領海から別の国の領海へ逃走するといった状況にも対応できるようになる。近隣国同士が密接に支え合うようになった時に、共有・共同パトロールは実現する可能性が高い。我々はこれまで築き上げてきた状態を続行していかねばならない。海賊問題を即座に解決する手段はないかもしれないが、この取り組みを維持していかなければならない」とIMBのムクンダン局長は述べた。
 同局長は、共同パトロールを行ったり、海賊の追跡時には領海線を取り払ったりというようなことを実施する段階に来ていると述べた。
(2001年7月16日スター)
 
幽霊船詐欺とハイジャック事件の結びつき
 過去数年間の複雑な海賊の活動は、より大きな国際犯罪シンジケートと結びついていると言われる。
 また、海賊の活動は、幽霊船詐欺と呼ばれる書類改ざん犯罪とも結びついている。
 IMB(国際海事局)によると、ハイジャック事件と幽霊船の間に緊密な関係がある。
 IMBのムクンダン局長は、以下のように述べている。
 「ハイジャックされた船舶の貨物が不法に降ろされた後、その船舶は幽霊船になる。その後、この船は偽造の証書を使って貨物の盗難に利用される。シンジケートは、これらの不法行為によって得た利益を様々な方法によりマネーロータリングしている。ハイジャック事件は、法秩序の乱れた国の領海内で発生することが多い。幽霊船はポートステートコントロールの緩い国で、貨物を降ろすことが多い」
 通常沖合業者(offshore company)は当局に勘定報告をする必要がないことから、シンジケートによるマネーロータリングに利用されてきた。
 また、ムクンダン局長は、東マレーシアに登録されている企業が幽霊船詐欺とハイジャックされた船からの貨物の引き降ろしに関与していたと公表した。
 日本財団の寺島紘士常務は、次のように述べた。
「経済のグローバライゼーションが進むなかで、犯罪組織はこれまでの薬物、武器、人身売買に加えて海賊行為にも手を出すようになったと述べた。
 かつての海賊といえば、沿岸の貧困な住民が生活苦から通航船で盗みを働くというものであったが、多くの乗組員が経験した海賊は残忍で、組織化されている。
 さらに、組織犯罪グループや国際シンジケートが関与しているということも大きな懸念材料である。このようなグループは世界的に犯罪を拡大していくことのできるネットワークを持っている。最近、東アジアにおける海賊対策は確実に強化されているところでもあり、少なくとも、麻薬密輸に関しては効果が出ている。しかし、まだ相当の努力が必要である。これらの国際シンジケートは、絶えず産業界や政策当局の抜け穴を狙っているのである。このような犯罪に対する最善の対策は、アジアの全ての国が協力関係を強化して、海賊に圧力をかけ続けることである」
 言い換えれば、現代の海賊は手当たり次第に通航船を襲撃したりしない。襲撃は計算の上で実行される。海賊は、合法を装うための船舶・乗組員の偽造証書を用意しているのである。
 幽霊船の運航に関する大規模な組織が、国際犯罪シンジケートの傘下にあると寺島氏は述べた。
 「ある船舶がハイジャックされた後、ペンキが塗られ、船名が変えられ、貨物は売却され、船を運航するための偽造登録証書、偽造海技免許証が用意される。幽霊船問題がこれ以上大きくなる前に、我々は越境犯罪対策や国際海事団体による対策を講じるなどして対応する必要がある」と寺島氏は述べた。
(2001年7月23日スター)
 
Selayang号ハイジャック事件 乗組員が関与か?
 第一調査の段階で、マレーシア海上警察は、タンカーSelayang号ハイジャック事件について、マラッカ海峡のスマトラ沖のひっそりとした海域にS号を航行させた乗組員に疑いを持っている。
 海上警察のムハマド・ムダ司令官によると、南航していたS号はジョホール州ポンティアンの向かいのカリムン島に向かっていたとのこと。
 S号が6月21日にポートディクソンのシェルを出航してからの足取りは、海上警察がカリマンタンのバリクパパンに派遣した職員によって明らかにされた。
 同司令官は以下のように述べている。
「どうしてS号がTSS(通航分離帯)を外れて航行していたのか、その理由をはっきりさせる必要がある。現在の時点では、まだ容疑は確認されていない。インドネシア警察の調査結果を待っているところである」
 「TSSは混雑しているとはいえ、航路を離れた海域よりは安全である。海賊の温床である輻輳した航路を航行する際には、いかなる場合もTSSを利用すべきである」
 「インドネシア人乗組員は、混雑した海域を避けて、自国の海域を航行する傾向にあるが、船主はこの点に注意を払うべきである」
 S号はハイジャックされた6日後の6月27日、インドネシア海軍によって拿捕された。その後事件は警察の担当になっているが、海賊がいつ処罰されるのか、そして船がいつ船主に戻されるのかは明らかにされていない。
 海賊は、S号の船名を二度にわたって変え(「Wang Yung」と 「San Ho」)、15名の乗組員を人質にしていた。
 最近の事例では、ポートクランに向かっていた貨物船が近隣国の法執行機関所属船に似た船舶から警告射撃を受け、200リンギットを取られるという事件が発生している。
(2001年7月30日スター)







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