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第2節 マラッカ海峡会議
 
 第2回のマラッカ海峡会議が、10月15日〜17日、マレーシアのペナンで開催され、11カ国から130名が参加しました。会議の主催者は、マレーシア・プトラ大学にあるマラッカ海峡研究開発センター(MASDEC)で、日本のJICAとIMOのPEMSEA(東アジア海域海洋汚染防止プログラム)が後援しています。
 第1回目マラッカ海峡会議は、1999年4月にマラッカで開催され、マラッカ海峡の経済的価値や環境管理維持にかかる主な問題が議論されましたが、今回開かれた第2回会議では、環境管理体制の構築のための課題と方策が議論されました。概要は以下のとおりです。
 
1. プログラム
 会議は、(1)環境管理に関する共通の認識の形成、(2)資源管理、(3)価値と利用の調和、(4)環境管理の技術、(5)生物工学、(6)沿岸海洋管理のための原則・政策、(7)地域協力の枠組みの7つのテーマに分けられ、講義形式で進められました。
 
2. テーマ毎の議事概要
(1)マレーシア海事研究所主任アーマド・ラミル氏による総括講義
 海上汚染の原因の85%は陸上からのものであり、船舶によるものは15%を占めるに過ぎないが、全ての海上廃棄物について早急に対処する必要があるとして、
●沿岸三国及び利用国間の協力を促進するための実用的な枠組みの構築を目指した新たな取り組み
●国際的な海事・環境条約を実施するための総合的な取り組み
●マラッカ海峡の海洋環境の現状に関する科学的調査及び政府間の協議等による考証の強化
を提案しました。
(2)環境管理に関する共通の認識の形成について
 政府と海運産業が共に参加する形の海峡の環境管理に焦点が置かれました。
 基調講演者であるロス博士(PEMSEA、IMO)は、経済についてはサイクルがあるが、海洋環境に関しては、景気の良し悪しに関わらず、政府は長期的な政策を押し進め、それを維持する必要があり、そのためには、関係団体が協力して、実用的な地域の枠組みを構築し、施行する必要があるとしました。
 インタータンコの代表は、今日タンカーを運航するには、増え続ける法律を遵守しなければならず、タンカーの99.99%が、事故を起こすことなく、無事に石油を目的地まで運搬しているが、一度事故が発生しただけで、それがメディアの関心を引き付け、これまで築いてきた評判を一気に下げることになってしまう。1994年以降、インタータンコは、「協力による事故防止プログラム」に乗り出したが、このプログラムでは、タンカー産業全体で「責任連鎖」を結んで、タンカー運航に関する安全・環境問題に集合的に対応していると述べました。
 インドネシア環境汚染管理局(BAPEDAL)の代表は、長期的な沿岸海洋環境管理問題への理解を深めるために、インドネシア政府が行っている国家全体または地方における様々な試みについて説明するとともに、環境問題に対処する場合、地方別の取り組みをすることが多いが、全体で取り組むのに比べ効率的ではないとしました。
 
(3)資源管理について
 海峡の自然財産を維持するための海洋資源管理について焦点が置かれました。
 海峡環境システムに対する阻害要因を割り出す際に、人間の健康状態、人間の活動、海洋環境システムの健全性の三角関係を考慮する必要があるとともに、陸上及び海上からの汚染、または過度の漁業等によってストレスを受けた海洋環境システムの健康状態に関する研究を早急に実施する必要があるとされました。
 
(4)マラッカ海峡の価値と利用の調和について
 価値と利用のバランスをとる必要があるものの、マラッカ海峡における利用側には、石油探査、石油精製、漁業、海産物、海運、港、沿岸観光事業、沿岸開発産業など、広範囲の産業が海上で活動していることから、バランスをとることは難しいとの意見が出されました。
 シンガポール大学の研究者からは、「汚染した者が支払う」という制度では、船主に責任が押し付けられる傾向があるが、例えば、港も利益を得ているのであり、適切な廃棄油処理施設を妥当な料金で提供しなければ、船舶は海上で不法に油を廃棄するようになるとの指摘がありました。
 
(5)環境管理の技術について
 現在、IMO・世銀・沿岸3カ国等が検討中のマリン・エレクトロニック・ハイウェイ(MEH)について、環境管理のための有効な手段ではあるが、資金調達をどう行うかという問題提起がありました。
 
(6)沿岸海洋管理に関する原則、政策について
 マラッカ海峡の沿岸海洋管理に関する原則、政策、制度上の取り決めに焦点が置かれました。
 基調講演者であるマイルズ・米国ワシントン大学教授は、長期的な海洋政策を立案することは、沿岸各国の利害に関わることであるとした上で、海洋政策策定に当たっての問題点として、以下の事項を挙げました。
 
●陸上からの汚染
●油流出や油の不法投棄による海上での汚染
●マラッカ海峡の通航船舶を管理するための巨額の財政負担
●複数の利用による争いの最小化(油vs.魚、通航vs.環境、観光vs.珊瑚礁等)
 
(7)地域協力の枠組みの構築について
 マラッカ海峡の環境管理に関する地域協力の実用的な枠組みの確立に焦点が置かれました。基調講演者のイブラヒム・プトラ大学教授は、既存の枠組みとして、MASDEC、JICA、マラッカ海峡協議会等に言及しつつ、沿岸三国の政治的意志、実用的な枠組みを完全に実施するための地域協力が不足しているように思われると述べました。沿岸三国の間で管理政策や責任は大きく異なっているほか、マレーシアやインドネシアでは国内でも州や村でも異なるところがあることを指摘しました。
 マレーシア科学技術環境省の代表は、同省が集めた油流出データの68%は油の不法投棄によるものであることを明らかにしました。
 
3. 当事務所コメント
(1)出席者の間で、現状の利用パターンではマ・シ海峡のエコシステムは持続可能でないとの意見の共有が実現されましたが、沿岸三国政府からの出席は概して低調であり、マラッカ海峡の大きな受益者である漁業団体、観光業者からも出席者はなく、アカデミックな議論に留まっているとの印象を受けました。
(2)海運関係者は、講演で述べられた「マラッカ海峡の海洋汚染の大半は陸上から発生したもの」という意見を強調しましたが、この点について議論は深まりませんでした。
(3)ただし、論者の中には日本の貢献に言及したり、マラッカ海峡協議会による協力の方式を評価したりする者もいて、本件会議のようなイベントによりマ・シ海峡の環境問題が世界の海事関係者の注目を集めること及びその中での日本の貢献度が認知されることは有意義であると考えられます。
 
第3節 海上電子ハイウエー作業部会
 
 マラッカ海峡沿岸3カ国とIMOが、世界銀行の支援を得て推進するMarine Electronic Highway(海上電子ハイウエー、MEH)の作業部会が、1月21日〜24日の間当地で開催され、IMO、シンガポール海事港湾庁、マレーシア海事局、インドネシア環境省等の他、オブザーバーとして、日本財団寺島常務理事、沿岸3カ国の海運協会代表、インタータンコ代表、米国・カナダの電子海図関係者、日本海難防止協会シンガポール事務所等が参加しました。
 
 MEHについては、これまでのところ、(1)すべての構成要素(電子海図、DGPS、自動識別システム、VTS、潮汐、海流、気象等)を完全に実施すると3千万米ドル以上かかることが見込まれること、(2)その前段階として、2003年からの3年間に1千万米ドル程度をかけてデモンストレーション・システムを構築すること、(3)その内約5百万米ドルは世銀が負担するが、残りの1.5-2百万米ドルは海峡沿岸国、3-3.5百万米ドルは利用国政府、海運会社、機器メーカー等から調達することなど議論されてきました。
 
1 セッション毎の結果概要
 
(1)一般的コメントのセッションの主な発言
 
 IMOの関水氏は、IMOの役割について、マ・シ海峡におけるMEHの完全実施に至るまでの促進役であるとし、プロジェクトの推進のためには沿岸3カ国の決意が必要であるとしました。
 日本財団の寺島常務は、(1)MEHプロジェクトを検討するに当たっては、当初デモンストレーションの開始前から海運業界の理解と協力を得る必要があること、及び(2)マ・シ海峡の利用状況を把握し、誰が利用者か、誰が負担を共有すべきか等を議論する必要があることを指摘しました。
 それらから、MEHの便益が議論になり、海運業界にとってはリアルタイムの潮汐・海流データ、気象データが有益であるという意見が多く出され、副次的な便益として、船舶の積載能力の向上、交通監視や海上治安の強化も挙げられるという意見もありました。
 MEHの利用者については、MEHによって提供される情報・施設の利用者であり、マ・シ海峡の利用者と同一であるとは言えないものの、海運業界からは、旗国だけでなく、物資の輸入・輸出国、損保業界等も便益を受けるはずのものであり、受益者の範囲を詳細に議論すべきであるという意見が出ました。
 
(2)沿岸3カ国によるプレゼンテーション
 
 インドネシアは、財政的制約があるなら、デモンストレーション・プロジェクトの範囲をワン・ファザム・バンクからホースバーグまでではなく、ドゥマイからホースバーグまでに縮小することも可能であると述べました。
 マレーシアは、自分達としては海峡の安全に十分な設備を提供しており、MEHを立ち上げるためには、利用国の貢献を期待する旨述べました。
シンガポールは、MEHに対する支持を表明するとともに、自国領海内で利用可能な電子航行援助施設について説明しました。
 
(3)昨年9月の地域会合以来の進展
 
 MEHプロジェクトチームから、昨年10月ベラワン港とクラン港で実施した、電子海図とGPS、潮汐情報を船上のパソコン上で結びつけた実験の結果が紹介されましたが、マ・シ海峡全域に渡ってデータ収集設備を設置することの難しさも指摘されました。
 
(4)今後の進め方に関する討議
 
 資金調達方法について議論がなされましたが、世銀と沿岸国以外による負担分については掘り下げられませんでした。
 
(5)3つの分科会による検討・報告
 
 デモンストレーション・プロジェクトの技術的枠組み(WG1)、デモンストレーション・プロジェクトにおけるECDISとAIS(WG2)、MEH完全実施時のパートナーシップ(WG3)の3つのテーマについて分科会が設置され、それぞれの検討結果が報告されました。WG1では、プロジェクトの地理的範囲をどのように設定するかという問題が残り、WG2では、ECDISとAISの装着状況や現行EVDISではMEHが想定するリアルタイム情報を処理できない等の問題点が指摘されました。WG3では、海運業界から、コスト要因が詳細に洗い出されていないのではないかという懸念が表明され、IMOからは、沿岸3カ国が強い決意を表明する必要があるとの意見が出されました。
 
(6)アクションプランとプロジェクト・ブリーフの素案の検討
 
 IMOが、沿岸3カ国に対して、今回議論されたアクションプランとMEHの技術的諸元を承認するよう要請しましたが、プロジェクト・ブリーフの準備は今後の作業とされました。
 
2 今後の日程
3月 IMO・MEPC第47回会合(ロンドン)
PEMSEA運営委員会(ブサン)
4月 IMOがプロジェクト・ブリーフの最終案を沿岸3カ国に提示
5月 第2回MEHプロジェクト運営委員会(ジャカルタ)
IMO・MSC第75回会合(ロンドン)
6月 沿岸3カ国による正式承認
 
第4節 3国合同流出油訓練
 
 去る11月8日、インドネシア・バリ島にて、インドネシア、フィリピン、日本の3カ国による合同流出油防除訓練が実施されました。
 そもそも、フィリピンとインドネシアの流出油防除協力体制の歴史は古く、約13年前の1988年からほぼ2年に1度の割合で、「スラウエジ海油汚染防除ネットワーク」という計画に基づいて、両国合同の流出油防除訓練(MARPOL訓練)を実施してきた経緯があります。
 日本の海上保安庁は、1993年の訓練より参加招請を受け、OPRC条約に規定されている海洋汚染への対応に関する国際協力を推進するという観点から、1995年フィリピン・セブ島で実施された合同訓練から参加し、その後、1997年インドネシア・ウジュパンダン、及び1999年フィリピン・バタンガスで実施された訓練に巡視船艇、航空機を参加させています。
 訓練の主体は、インドネシアは海運総局沿岸警備局、フィリピンは沿岸警備隊となっており、これら組織から巡視船、航空機が参加しています。
 訓練の内容についてですが、訓練海域、日時が事前に指定されるだけで、訓練シナリオは事前に配布されず、訓練中に随時新たな想定が発生し、臨機応変に対応が要求されるという実践的なものでした。
 このような定期的な訓練は、参加国相互の技量向上や連携強化の点で有意義であるものと考えられ、今後とも継続する必要性があるものと考えられます。







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