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第5節 第4回国際海事局(IMB)海賊対策会合
 
1 開催日 2001年6月26〜27日
2 開催地 マレーシア・クアラルンプール
3 出席者 35カ国から海運産業、政府、法執行機関、海軍、そのほか6つの国際機関の代表等約165名が出席しました。
4 主催者 国際海事局、マレーシア海上警察、マレーシア海事研究所
5 協賛 日本財団
6 特記すべき事項
(1)マレーシアの海賊対策
 マレーシア海上治安調整センター(MECC: Maritime Enforcement Coordination Center)のノール・アズマン第一司令官は、マラッカ海峡の海賊被害を減少させるには、海賊の隠れ家を陸上から急襲するという攻撃的な行動に出る段階に入ったのではないかという意見を述べました。
 また、マレーシア海上警察司令官のムハマド・ムダ氏は、マレーシア政府は最近3千万リンギを費やし、20機の航空機と10隻の巡視艇を購入したこと、また昨年6月以降、海峡内の危険海域で毎日22時から5時まで海賊対策パトロールを実施していること、昨年には、マラッカ海峡で活動していた2つの組織犯罪シンジケートを検挙したこと等を説明し、マレーシア警察と警察航空隊は、領海内でのいかなる犯罪行為を取り締まる能力を有していることを力説しました。
 
(2)海賊対策モデル法
 バージニア大学法学部のサム・メネフィー教授は、CMI(Committee Maritime International)が海賊及び海上暴力に関する国内法モデルの作成に取り組んでいるとし、同モデルの長所として、内容が項目的に分類されていることから、その一部でも現存する国内法と自由に組み合わせて採用することができると説明しました。例えば、タイやフィリピンではすでに海賊の求刑に関する法律があることから、同モデルにある司法権や定義、海賊行為の報告等に関する法律を採用すれば包括的な海賊対策にかかる法体制が整備されることになるとしました。
 
(3)アロンドラ・レインボー号の裁判経過
 インド沿岸警備隊のバーマ氏は、1999年12月に発生したアロンドラ・レインボー号にかかる15名のインドネシア人海賊は、これまで4回ムンバイの法廷に姿を見せている、高名な弁護士を雇ったと言われているが、今年末までに判決が下されることが期待されているとしました。
 
(4)中国の対応
 中国インターポールのアン氏は、過去中国で発見されたハイジャック船Cheung Son号、Siam XianXai号、Marine Master号、Global Mars号の海賊逮捕について説明しました。しかし、どの事件についても証拠を集めるのに困難を極め、中には海外からの協力を必要とする事例もあったとしました。なお、Cheung Son号の海賊逮捕成功については、確かな証拠があったことから、外国人1名を含む海賊13名全員が死刑に処せられたと説明しました。
 
(5)ファントムシップ
 IMBのアビヤンカ氏は、暫定的一時的な船舶登録を許可している旗国があり、この制度が犯罪者に利用されていると述べました。罪のない荷主がこういった犯罪の犠牲になっており、船の特徴が変えられて積荷が輸送先に届いていない段階になって、騙されたことに気がつくとしました。そのような意味で、IMO・MSC74で提案されたIMOナンバーを船体の見える部分に永久に残るように記すという案が実現すれば、「ファントムシップ」を運航する犯罪者は大きな打撃を受けるだろうとしました。
 
(6)インドネシアにおける海賊対策
 会合主催者であるIMBからの促しもあり、事前プログラムには組み込まれていなかったインドネシア海軍によるプレゼンテーションが急遽行われました。
 インドネシア海軍によれば、西部方面軍を中心として海賊対策を積極的に実施していること、特にマラッカ・シンガポール海峡を中心とする海域における海賊対策について、バタム島にコマンドセンターを設置、その下部組織として、べラワン(スマトラ島メダン)、タンジョンピナン(ビンタン島)、パンカルバラム(バンカ島)、ナツナにサブ・コマンドセンターを設置する将来計画を有しているとしました。
 
(7)船舶位置追跡装置
 CLSアジアのPhillippe Courrouyan氏は、船舶位置追跡装置が自社船舶の運航管理にも用いることができること、Shiplocのセカンドババージョンが2001年7月から販売される予定で、1分30秒毎の位置がわかるようになること、月々の使用料金が250ドル程度であること等を説明しました。
 
(8)地域的取組の必要性
 日本財団の寺島紘士常務は、地域の海賊対策への取り組みに関するプレゼンテーションを行い、マラッカ・シンガポール海峡の海上治安を確保するためには、長期的な戦略を構築する必要があり、関係政府と海運産業関係者とともにこれを進めていく上で、日本財団がある一定の役割を担えるのではないかとしました。
 さらに、海賊対策ばかりでなく、航行船舶の官制、航行援助施設の設置とメンテナンス、油流出事故への対応や航路のパトロールなど、海洋秩序の安定を目的とする全体的総合的な枠組みが必要で、沿岸国と利用者が協力し合うことで、このような提案を具体化することができるのではないかとしました。
 
第6節 ICS等国際海運団体による海賊問題会合
 
 2002年2月4日シンガポールで、国際海運集会所(ICS)、バルチック国際海運同盟(BIMCO)、国際独立タンカー船主協会(INTERTANKO)及び国際乾貨物船主協会(INTERCARGO)の国際海運4団体主催の海賊問題に関する会合が開催され、沿岸3カ国の当局者との情報・意見交換を行いました。IMO、IMB、日海防シンガポール事務所も参加しました。
 主催側4団体によるラウンドテーブル的な会合は定期的に開催されており、前回(ないし前々回)の会合で海賊対策について本件のような会合を開くことが提案されたもので、海賊対策における民間機関の役割等について、4団体が沿岸3国政府機関と直接対話することが主目的であり、この会合がおそらく初めての機会であると思われます。
 
1 参加者
 海運団体側は、ICSウェストファル・ラーセン会長、BIMCOエヴァラード会長、INTERTANKOカールソン会長、INTERCARGOツァオ会長他、沿岸3国側は、シンガポールの警察沿岸警備、海軍、海事港湾庁、海事研究所等、マレーシアの国家安全保障局、海上警察、海軍、海事執行調整センター、海事研究所等、インドネシアの海運総局沿岸警備局、海軍、在星大使館運輸アタッシェが参加し、この他にIMOミトロプーロス事務次長とIMBムクンダン局長が参加しました。
 
2 結果概要
(1)IMBによる海賊事件の現状説明
 2001年の海賊発生件数は前年に比べ減少したものの、ハイジャック事件は8件から16件に増加するとともに、新しい傾向として、人質事件等が発生した。IMBとしては、海賊年次レポートの中で、被襲撃船支配国表を新たに追加した。
(2)IMOによる海賊対策の現状説明
 (1992年以降のIMOによる海賊対策プロジェクトの概要説明の後)IMOは海賊対策に取り組んで来たが、目に見える効果を上げておらず、現在、フォローアップミッションを実施中である。対策を有効ならしめるためには、各国は、IMO回章622、623を尊重すべきである他、海賊事件多発海域の特定をすべきである。また、被襲撃船舶の支配国の海賊事件関係国への外交的接触を可能とすべきである。IMO以外にも、日本政府、日本財団の海賊対策への取組み、地域のイニシアティブ等があり、IMOも今後地域レベルで予定されている海賊対策会合(2月末フィリピン、3月インドネシア、日本)に参加していきたい。
(3)マレーシア海事研究所による研究発表
 同研究所は、独自の海賊事件統計や分析を行っており、それは、従来のIMB統計や海賊に関する定義と異なる。
 日本の巡視船派遣計画には反対であり、むしろ、日本は、この地域の警察力の増強を財政的に支援すべきである。
 
(4)討議
(沿岸国の取組みについて)
 始めに、ICSより、国際海運4団体は、沿岸3国と何らかの直接的協力関係を構築したいと希望している旨が述べられ、IMOからは、1999年のIMO海賊対策会合(シンガポール)において合意された地域協定が未だに実行されておらず、IMO事務局長から2度に渡りレターを発出したが、ロシア、インド、シンガポール以外の国からは全く反応がない等、取組みが余り進展していないことについての懸念が表明されました。
 これに対して、マレーシアからは、44隻の巡視船艇をマラッカ海峡に配置、4〜5箇所の海賊多発海域を特定し、巡視船艇を集中配置している等の取組みが紹介された後、今年のマラッカ海峡における海賊事件は、漁船が1隻襲撃されたのみで、商船への襲撃事件は今のところ報告されていないとの説明がありました。また、マレーシアは、マラッカ海峡の治安維持に莫大な経費を注ぎ込んでおり、ICS等の海運業界は一定の財政支援をすべきではないか、或いは、海運業界が沿岸国と協力したいと言うのであれば、まず国連海洋法条約第43条の具体的実行を検討、導入すべきではないかと問い返す局面もありました。
 シンガポールは、一国の管轄権に属する海賊事件と複数国の管轄権にまたがる海賊事件に分けて考えるべきで、問題とすべきは後者であるとし、沿岸国間で、必要に応じて連絡を行う体制は整えられているが、海賊情報の遅延や艦艇の事前配備の困難性があると指摘しました。
 インドネシアは、隣接国とは緊密な連携を実施しているが、海賊事件の多発には経済的、社会的問題が背景としてあると述べるに留まりました。
 
(日本の取組みについて)
 ICSより、日本の取組み、日本の地域へのイニシアティブは効果的か、との問いがなされ、IMOは、日本にとって、マラッカ海峡は重要な位置付けにあるため、日本がこの地域の海賊対策に取り組んでいるのであり、日本の取組みは歓迎されるべきである、また、昨年10月の日本での会合で提案された地域協定の策定は効果を上げるのではないか、と述べました。
 次いで、シンガポールからは、(おそらく日本の巡視船によるパトロールを指して)日本とは外交的に対話をしてきており、日本は当地の状況を既に理解しているとの反応がありました。
3 当事務所注
 本件会合は、国際海運団体とマラッカ海峡沿岸3カ国との海賊問題に関する初めての意見交換の機会であり、その意味で大きな意義がありますが、同時に、ヨーロッパに本拠地を置く海運4団体側の、海賊問題に対する沿岸3カ国や日本の取組みについての情報不足も明らかになりました。
 今回の会合では、海運団体側の協力し得る分野に関する問い合わせに対して、沿岸国が自国の警察力への資金援助を要望する等議論が初歩的な段階に留まっており、今後、海運団体と沿岸3カ国等との協力関係が発展していくか否かは、このような会合やワーキングレベルの会合が継続的に開かれていくかどうか等を見た上でないと一概には判断できません。
 他方、日本にとって留意すべき点は、(1)日本のこの分野でのイニシアティブがIMO、IMB以外の国際団体にほとんど知られていないこと、(2)沿岸3カ国も日本の取組みに対して一定の評価は与えているものの、日本の巡視船によるマ・シ海峡パトロール等については明らかに反対であること、(3)今後、アジア地域での海賊対策を検討していく際に、政府当局、国際機関のみならず、海運団体も招請したり、検討状況について周知したりしていく必要があると思われること等です。







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